質問主意書

第143回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一一号

「外国軍駐屯地における慰安施設設置に関する内務省警保局長通牒」の保管等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十年十月十六日

吉川 春子   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   「外国軍駐屯地における慰安施設設置に関する内務省警保局長通牒」の保管等に関する質問主意書

 政府は第二次世界大戦に敗北した直後、米進駐軍のための性的慰安施設の「開設」を全国の警察に指示した。
 即ち、昭和二十年八月十八日付「外国軍駐屯地における慰安施設設置に関する内務省警保局長通牒」と昭和二十年九月四日付「米兵の不法行為対策資料に関する件」(内務省保安課長から警視庁特高部長、大阪治安部長宛〔国立公文書館保存〕)が発せられ、これにもとづいて各都道府県警察は、全国的に数万人規模の女性を集めて、各地に性的慰安施設を開設した。
 「従軍慰安婦」は主として外国人女性であったが、今度は日本人女性を対象としたものだった。これらはいずれも女性への暴力であり、女性の人権を侵害する許しがたいものである。
 私はこの問題を九六年十一月、決算委員会で取り上げた。当時の梶山官房長官は、女性に対する暴力一般については「女性に対する暴力、それは確かに女性の人権そのものに対する侵害である」「人権擁護上も看過できないと認識している」と答弁した。
 しかし政府は、「慰安婦」集めについては「各県の警察史の中にそのような記述があることは承知しているが、警察庁としては何らの関与も行っていない」(山本博一警察庁官房総務審議官)、「いままでそういう記述や話を伺う機会がなかった」(梶山官房長官)と答弁している。しかも政府は右の「内務省警保局長通牒」をいまだに提出していない。情報公開制度の創設は今や大きな世論であるが、公文書等の保存はその前提である。
 以下、女性の人権にかかわる重要問題について明らかにし、国民の知る権利を守るためにも、重ねて質問する。

一、旧内務省の公文書等の保管と公開について

1 政府は一九九六年十一月二十六日の参議院決算委員会で私の質問に対し、昭和二十年八月十八日付「外国軍駐屯地における慰安施設設置に関する内務省警保局長通牒」について、「鋭意探しておるところでございますが、発見には至っておりません。」と答弁した。その後、改めて警察庁に調査を求めたが、今日にいたるまで同文書は提出されていない。それは何故か。故意に廃棄したのか、それとも紛失したのか。
2 自治大学校発行の「戦後自治史」には、旧内務省警保局の所掌事務は、旧内務省廃止の際に臨時に設置された機関である内事局を通じて、国家公安委員会、警察庁、消防庁等に移管されたと記されている。しかし、警察庁は、一九九一年四月一日の参議院予算委員会において、「内務省時代の資料を一切引き継いでおりません」と答弁している。
 所掌事務が引き継がれながら、公文書等が一切引き継がれていないのは何故か。
3 内事局の解体の際、連合軍総司令部民政局のマーカム少佐は「内事局の廃止をはっきりと規定し、かつ、内事局の職務および処置を明らかにしなければならない。」「庶務課および会計課が廃止されたことを明らかにし、かつ、記録が移された場所を示すべきである。かつ、これらの二課の職員は、記録と一緒に移動してはならない。」と明確な指示を出している。

(1) この指示にもとづく措置はその通りに実行されたのか。
(2) 旧内務省警保局の公文書等は現在どこに保管されているのか。もしないとすれば、いつ、どのように処分されたのか。
(3) 政府は、当然引き継がれるべき、旧内務省の公文書等が引き継がれていない責任をどう認識しているのか。

4 自治省のビル建て直しのための引っ越し準備の際に、膨大な旧内務省関係の資料があることが判明した(九四年十一月六日)が、この中には、歴史的に貴重な資料が含まれている可能性は大きいと思われる。吉川春子、西山登紀子、須藤美也子、阿部幸代の四名の参議院議員は、九五年十一月十三日の質問主意書において、警察関係等の資料について早急な調査と整理、公開を求めたが、その時点では明確な回答が得られなかった。引き続き以下の点について質問する。

(1) 発見された資料はどのようなものであったのか。
(2) 発見された資料は分類、整理の上、国民に公開すべきではないか。

二、公文書の保管と公開の制度について

 歴史的事実を正しく次代に引き継ぐためにも公文書等を適切に管理し保存することの重要性は、今日においても同様である。防衛庁装備品の調達をめぐる背任事件で、防衛庁による組織ぐるみの証拠隠滅工作が行われた疑いが濃厚となってきているが、このような行為を断じて許してはならない。以下、現在の公文書等の取り扱いについて質問する。

1 公文書館法第三条は、「国及び地方公共団体は、歴史資料として重要な公文書等の保存及び利用に関し、適切な措置を講ずる責務を有する。」と規定している。国の行政にかかわる公文書等は、国の責任において適切に管理、保存すべきと考えるが、政府の見解を問う。
2 国の行政にかかわる公文書等の管理と保存について、総括的に責任を持つのは誰か。また、公文書等の保存、廃棄、公開などについて具体的には誰が決めているのか。
3 公文書の保存、廃棄、公開の判断は、恣意的な判断を排除するため、文書発行の当該行政庁ではなく、国立公文書館等、国の専門的な機関で専門家によって行うべきではないか。
4 本来保管するべき公文書を、故意または過失で、破棄または紛失等をした場合にどのような責任が問われるのか。

  右質問する。