質問主意書

第142回国会(常会)

答弁書


第百四十二回国会答弁書第三〇号

内閣参質一四二第三〇号

  平成十年八月二十八日

内閣総理大臣 小渕 恵三   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿

参議院議員加藤修一君提出福祉部門への投入に伴う経済効果等と建設効果に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員加藤修一君提出福祉部門への投入に伴う経済効果等と建設効果に関する質問に対する答弁書

一の1の(1)の(イ)について

 総務庁の「家計調査報告」における家計の消費支出をみると、家計支出における食料品等の非耐久財の割合が低下し、自動車等の耐久財の割合が横ばいで推移する一方、教育、医療、通信等のサービスの割合が高まっている。このことは、御指摘の経済のサービス化が進んでいることを示しているものと考える。
 御指摘の公共事業による社会資本整備の経済効果には、総需要に与える効果と社会資本の提供がもたらす事業効果がある。このうち、総需要に与える効果は、いわゆるバブル経済の後遺症の影響等によって低下している可能性もあるが、経済企画庁において世界経済モデルにより計測した公共投資乗数によると、経済のサービス化が進展する中においても大きな変化はないことから、公共事業による社会資本整備は経済の安定化を図る上で、依然として一つの有効な手段であると考えている。
 社会資本には、生産能力や効率を高めるためのインフラを提供する機能や、安全を確保する機能、生活の質を高める機能が存在する。社会資本整備に本来期待される効果はこのような機能から生じる事業効果であることから、公共事業による社会資本整備については、御指摘の経済のサービス化等の経済社会の変化に対応し、二十一世紀を見据えて、豊かで活力のある経済社会の構築に向けて、真に必要となる分野への重点的な配分が重要であると考える。

一の1の(1)の(ロ)及び(2)の(ロ)について

 政府においては、公共事業について、事業の効率性及びその実施過程の透明性の一層の向上を図るとともに、事業の重点化を図ることが重要であると考えている。
 このため、これまでも、事業の効率性及びその実施過程の透明性の一層の向上を図る観点から、

1 関係省庁の事務次官による「公共事業の実施に関する連絡会議」の開催等省庁間の連携を密にすることにより事業間の調整を図ること
2 平成九年四月に、全閣僚により構成する「公共工事コスト縮減対策関係閣僚会議」において決定した「公共工事コスト縮減対策に関する行動指針」等に基づき、平成九年度から平成十一年度までの三年間の取組により少なくとも十パーセント以上のコスト縮減を目指すこと
3 「財政構造改革の推進について」(平成九年六月三日閣議決定)等に基づき、事業の採択に当たり、公共事業の実施によって生じる効果を定量的に評価する費用対効果分析手法を活用すること
4 平成十年三月二十七日に公共事業に関係する六省庁の閣僚が内閣総理大臣に報告したとおり、事業実施段階において、事業採択から五年間経過後で未着工の事業、十年間経過後で継続中の事業等を対象に再評価を行い、必要に応じその見直し等を行う公共事業の再評価システムを導入すること等の取組を行っているところであり、今後ともこれらの取組を一層進めてまいりたい。
 また、平成十年度予算においては、事業の重点化を図る観点から、物流効率化による経済構造改革を推進するための特別枠等を設定するとともに、事業の徹底した見直しを行い、過去に例のない規模で事業の中止、休止等を行っているところである。
 お尋ねの公共部門の無駄の試算については、政府としてはそのような試算を行っていない。
 なお、「日本の公共事業の単価(コスト)は、国際比較で三割」割高という御指摘については、建設省が平成六年に実施した調査によると、平成五年における我が国の公共土木工事の建設コストは、為替レートを平成五年の平均である一米ドル約百十一円として計算すると、アメリカに比べ三割程度高くなるが、これは、我が国の物価水準が、同年の東京都区部とニューヨーク市の一般の物価を比較した経済企画庁の
調査によれば平均四割程度高いこと等に起因したものであると考えられる。また、「国内の民間事業に比べても二割以上、割高」という御指摘については、公共建築物には、単価の安い倉庫や木造建築物等が少ないこと、耐震性能の確保や高齢者、障害者等への特段の対応を要する施設が多いこと等から、民間建築物に比べ単価が高くなる傾向があり、このような単価の民間事業との比較のみをもって、公共工事が割高であるかどうかを判断することは適当でないと考えられる。

一の1の(2)の(イ)について

 政府としては、公共事業の効率性及びその実施過程の透明性の一層の向上を図ることが重要と考えている。
 このため、公共事業全体に新たな再評価システムを導入することとし、昨年十二月の「物流効率化による経済構造改革特別枠」に関する関係閣僚会合における内閣総理大臣の指示を受けて、北海道開発庁、沖縄開発庁、国土庁、農林水産省、運輸省及び建設省の六省庁において検討を行い、各省庁において公共事業の再評価実施要領を策定し、平成十年度から導入することとしたところである。
 この再評価システムでは、事業実施段階において、事業採択から五年間経過後で未着工の事業、十年間経過後で継続中の事業等を対象に再評価を行い、その結果に基づき必要な見直しを行うほか、継続が適当と認められない場合は休止又は中止とすることとしている。
 また、事業採択段階においても、基本的に全事業において費用対効果分析を活用することとしたところである。
 この公共事業の再評価に当たっては、事業者である行政機関等が、地域の意見や学識経験者等の第三者の意見を聴取した上で評価することが基本である。御指摘の参議院行政監視委員会等への報告については、求めがあれば評価結果の報告を行うことになる。また、御指摘の行政監察のシステムの改革については、この再評価システムはいわゆる「時のアセスメント」に相当するものと考える。

一の1の(2)の(ハ)について

 御指摘の行政改革によって年間三兆円の歳出を削減できるとの試算については承知していない。政府としては、累次の閣議決定等に基づき、特殊法人等の整理合理化や規制緩和を始めとする行政改革を着実に実施しているところであり、これにより財政的な面でも一定の効果が出てくるものと考えられるが、この歳出削減効果を全体として定量的に示すことは困難である。
 なお、特殊法人等に対する出資金や補助金の交付は、その特殊法人等が政策的役割を果たすために実施する事業の遂行に必要な場合に行うものであり、御指摘のように様々な規制の維持のために行うものではないが、今後とも、交付の対象となる事業等の見直しを行うことにより、削減、合理化を図ることとしている。

一の1の(2)の(ニ)について

 御指摘の多くの行政の無駄を避けることによって年間十兆円程度の財源が確保されるとの試算については承知していない。行政改革の取組事項は広範多岐にわたり、国家公務員の定員削減、補助金等の整理合理化等歳出削減にも資する事項がある一方、規制緩和、地方分権、行政情報公開等直接には歳出削減と結び付かないものもあるため、行政改革の結果としての歳出削減効果を示すことは困難である。なお、行政改革と密接に関連する財政構造改革においては、平成十七年度までに、一会計年度における国及び地方公共団体の財政赤字の対国内総生産比を三パーセント以下とすること等を当面の目標としている。

二の1の(1)について

 御指摘のイギリスの経済活力の低下については、千九百七十年代において、同国が高水準のインフレーションと失業が併存して生産性が伸び悩むスタグフレーションに陥ったことを指すと考えるが、この原因については、昭和五十六年度の年次世界経済報告において、社会保障給付の拡大等による財政赤字の拡大だけではなく、石油危機による価格体系の変化や労働供給の増大等による供給面での構造変化があったこと、このような状況の中で雇用、賃金の調整が進まなかったこと等により、政府部門及び民間部門が適切に対応できなかったこと等を指摘したところである。

二の1の(2)の(イ)について

 公的部門により社会資本整備を行うに際しては、社会経済情勢に照らして真に必要な分野に限定して投資を行うことが必要であり、御指摘のように、特定の分野を「新社会資本」と定義付けて、社会資本整備において一定の位置付けを与えることは適当ではないと考える。

二の1の(2)の(ロ)について

 御指摘の予算の重点化等については、今回の総合経済対策(平成十年四月二十四日経済対策閣僚会議決定)においては、二十一世紀を見据えて、豊かで活力のある経済社会の構築に向けて、真に必要となる社会資本を整備するとの考え方に立って、将来世代が整備してくれて良かったと感謝してもらえるような分野に重点を置いている。具体的には、(イ)環境・新エネルギー、(ロ)情報通信高度化・科学技術振興、(ハ)福祉・医療・教育、(ニ)物流効率化、(ホ)緊急防災、(ヘ)中心市街地活性化等民間投資誘発の分野について重点的に事業を実施することとしているところである。

二の2について

 平成十二年度から実施される介護保険制度の運営が健全かつ円滑に行われるようにするためには、介護サービスの供給体制の整備を進めることが重要である。
 平成六年十二月に大蔵大臣、厚生大臣及び自治大臣の合意により策定された新・高齢者保健福祉推進十か年戦略(新ゴールドプラン)は、全国の地方公共団体が老人福祉法(昭和三十八年法律第百三十三号)及び老人保健法(昭和五十七年法律第八十号)の規定に基づいて作成した老人保健福祉計画を集大成したものであり、政府としては、この新ゴールドプランについて、平成十一年度末における目標の達成を目指しており、平成十年度補正予算に事業の前倒しを盛り込む等所要の措置を講じている。
 また、御指摘の平成十二年度以降の介護サービスの供給体制の整備に関しては、全国の市町村及び都道府県が、介護保険法(平成九年法律第百二十三号)の規定に基づき、地域における将来の介護サービスの必要量を見込んだ上で、市町村介護保険事業計画及び都道府県介護保険事業支援計画を作成することとされており、政府としては、市町村及び都道府県の取組に対し、所要の支援措置を講じていきたいと考えている。

三の1について

 政府においては、御指摘の福祉部門への投入の経済効果について試算はしていないが、一般に、福祉等の社会保障制度の充実は、国民の購買力の向上、新たな産業や労働需要の創出、新たな付加価値の創出等経済の発展に積極的な役割を果たす面もあると認識している。しかしながら、投資の経済効果について御指摘の生産波及効果及び粗付加価値誘発額によって比較すること、並びに御指摘の社会保障への投入が中央に集中しないという性質を持つとすることが妥当であるかどうかについては、一概には答弁できない。

三の2の(1)の(イ)について

 福祉等の社会保障制度の役割が増大している現在、その社会に与える影響や経済効果等を十分に研究していくことは重要であると考えており、御指摘の産業連関表を利用した経済分析を用いた手法もそのための一つの方法であると認識している。

三の2の(1)の(ロ)について

 福祉等の社会保障制度の充実の経済的な側面における効果としては、国民の購買力の向上、新たな産業や労働需要の創出等経済の発展に積極的な役割を果たす面もあると認識している。

三の2の(1)の(ハ)について

 御指摘の福祉制度の充実等については、少子高齢化が進行する中、高齢者介護や子育て支援等国民の新たな需要に適切にこたえていく一方、経済の発展や社会の活力を損なわないよう、給付と負担の均衡を図るとともに、制度の効率化や合理化を進めていくことが必要であると考えている。

三の2の(2)について

 公共投資(国民経済計算上の公的固定資本形成をいう。)は、それ自体が需要となるとともに波及効果を通じて経済に好影響を与えるものである。一方、社会保障のための政府支出は、安定した購買力を国民に付与したり、新たな産業や労働需要を創出することにより、経済の発展に寄与し、景気に対して一定の効果を持つという積極的な役割を果たす面もあると認識している。また、介護サービスの供給体制を整備することにより、労働力供給を増加させる可能性もあると認識している。

三の2の(3)について

 福祉等の社会保障制度の充実は、新たな産業や労働需要を創出する面もあるが、どの程度地方への定住につながるかは一概には明らかでないと考えている。また、御指摘の地域住民の欲求充足、地方の役割分担の拡充等については、政府としては、保健、福祉サービス等の行政サービスの提供について、地域の実情に応じて地方公共団体が自主的に実施できるよう、国庫補助負担金を整理合理化し、地方一般財源の充実、確保を行う等地方分権を積極的に推進していくこととしている。

三の3の(1)について

 政府においては、御指摘の福祉部門への投入の経済効果について試算はしていないが、福祉等の社会保障制度の充実は、国民の購買力の向上、新たな産業や労働需要の創出等経済の発展に積極的な役割を果たす面もあると認識している。しかしながら、少子高齢化の進行に伴い、経済の発展や社会の活力を損なわないよう給付と負担の均衡を図るとともに、制度の効率化や合理化を進めていくことが必要であると考えている。産業連関表を利用した経済分析では、一定の需要に対する生産誘発の大きさが計測されるが、「二次波及」以降の分析方法は分析者ごとにまちまちであるため、例えば次のような前提条件の置き方によって結果が異なってくるものであり、御指摘の結論が妥当であるかどうかについては、一概には答弁できない。

1 前段階の波及によってもたらされた雇用者所得のうち、消費に向ける割合(消費性向)をどうとらえるか。
2 道路、橋等の社会資本の整備によって新たに誘発される経済効果をどうとらえるか。

三の3の(2)の(イ)について

 御指摘の答弁における社会保障制度が経済成長に寄与する面としては、公的年金等の持続的な所得保障による消費支出の安定、医療及び福祉分野での雇用の創出、介護や育児支援による就業阻害要因の除去等が挙げられる。他方で、社会保障給付費の増大に伴う社会保障に係る国民の負担の増大による労働意欲の減退、国際競争力の低下、貯蓄率の低下等により経済の発展や社会の活力を損ないかねない面もあると認識している。

三の3の(2)の(ロ)について

 社会保障制度については、少子高齢化の進行に伴う負担の増大が見込まれる中、高齢者介護や子育て支援等国民の新たな需要に適切にこたえていく一方、経済の発展や社会の活力を損なわないよう、給付と負担の均衡を図るとともに、利用者の選択範囲の拡大や民間事業者によるサービス提供の促進等を含めて、制度の効率化や合理化を進めていくことが必要である。
 御指摘の制度の効率化の手続等については、次のように社会保障の各分野において取組を進めているところである。すなわち、年金制度においては、平成十一年の次期財政再計算において給付と負担の効率化等制度全般にわたる見直しを行うこととしており、現在、年金審議会で審議を行っているところである。医療保険制度においては、診療報酬体系や薬価基準制度等の見直しについて平成十二年度を目途として可能な限り速やかに実施できるよう、医療保険福祉審議会において議論を進めているところである。高齢者介護制度においては、平成九年の介護保険法の成立を受け、平成十二年度から円滑に制度を実施できるよう、介護サービス基盤の整備等に取り組んでいるところである。

三の3の(2)の(ハ)について

 御指摘の答弁においては、御指摘の国民負担の増大の程度について、国民所得の額に対する租税、社会保障負担並びに国及び地方公共団体の財政赤字の額の割合が、五十パーセントを上回ることを想定しているところである。

三の3の(2)の(ニ)について

 御指摘の福祉部門への投入の効果は、御指摘の雇用創出効果、粗付加価値効果等に限られておらず多様であり、その費用対効果を客観的な尺度により示すことは難しいが、社会保障制度の効率化及び合理化については、社会保障に対する需要への適切な対応と制度間の重複の排除という観点に立ち、制度横断的な再編成等による全体の効率化及び合理化を進めているところである。

四の1及び2について

 政府においては、中央省庁等改革基本法(平成十年法律第百三号)第二十九条等を踏まえ、今後、政策評価機能の充実強化を図るための措置を講ずることとしている。この措置を講ずるに当たっては、評価の客観性を確保するため、評価指標の体系化や評価の数値化、計量化等合理的な評価手法を開発していくことが重要であると考える。このため、中央省庁等改革推進本部を中心に総務庁を始めとした各省庁において、評価指標の作成及び政策数値目標の設定並びに評価に関する情報の公開等について、御指摘の点も含め、検討を進めていく考えである。

四の3について

 政府が産業連関表を作成するに当たっては、総務庁長官が公示する日本標準産業分類を基礎として設定した各部門について、既存の各種統計調査、決算報告等を用いて各部門の生産額を推計している。これらの各部門の他部門との関係については、既存の調査の結果及び一定の業種について実施する調査の結果に基づいて推計しているところである。また、五年ごとの産業連関表の作成に当たっては、その都度産業構造の動向等を勘案して部門の設定及び各部門に属する業種について見直しを行っており、今後とも所要の見直しを図ってまいりたい。
 御指摘の福祉部門への投入の費用対効果の分析方法の整備については、福祉部門への投入の効果が御指摘の雇用創出効果、粗付加価値効果等に限られておらず多様であり、その費用対効果を客観的な尺度により示すことは難しいことから困難であると考えるが、社会保障が社会に与える影響や経済効果を十分に研究していくことは重要であると認識している。

五の1及び2について

 御指摘の道路投資評価について、現在、建設省においては、費用便益分析の結果等の指標を用いる方法により行っている。このうち、費用便益分析では、事業の効果を、事業実施によって影響を受ける消費行動に関して消費者の受ける便益を推定することによって算定する消費者余剰計測法を用いており、事業に必要な費用と、道路整備による走行時間短縮等の道路利用者の受ける便益の比較を行っている。
 また、御指摘のアメリカ、フランス、イギリス及びドイツにおいても、同様に費用便益分析を活用した方法により、道路投資評価を行っていると認識している。

五の3について

 道路事業の効率性及びその実施過程の透明性の一層の向上を図るため、平成九年度から、新規事業の採択において、費用便益分析の結果等の指標を用いる評価方法を導入したところである。平成十年度からは、平成十年三月に建設省が所管する公共事業全般を対象として策定した「建設省所管公共事業の再評価実施要領及び新規事業採択時評価実施要領」に基づき、引き続き新規事業の採択に当たって評価を行うとともに、事業採択から五年間経過後で未着工の事業、十年間経過後で継続中の事業等の再評価を行うこととしている。
 また、これらの道路投資評価の具体的な方法として、建設省道路局及び同省都市局において、平成八年十二月に、道路事業における評価指標及び費用便益分析マニュアルを策定しており、継続的に見直しを行っているところである。