質問主意書

第142回国会(常会)

質問主意書


質問第二四号

地球温暖化対策等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十年六月十二日

加藤 修一   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   地球温暖化対策等に関する質問主意書

一、地球温暖化防止京都会議と政府の地球温暖化防止対策の関係について

 京都議定書の日本の目標値六%削減について、政府はエネルギー起源の二酸化炭素排出は〇%(一九九〇年安定化)で十分として、その前提のもとに省エネ法改正も行われた。吸収源や排出量取引に依存して〇%で十分とする枠組みは極めて問題であると思われるので、以下質問する。

1、地球温暖化対策推進大綱について

(1) このような枠組みの中、地球温暖化対策推進本部は六月中旬に地球温暖化対策推進大綱(仮)を策定する予定という。「大綱」とは、どのようなプロセスで策定され、いかなる法的位置付けを持つものか。また決定後はどのような拘束力を持つのか。このようなもので対策の枠組みを決めてしまうことは国権の最高機関たる国会の軽視ではないか。地球温暖化対策は数値目標を明確にした基本方針を国会で審議し議決を経て決めるべきと考えるがどうか。
(2) 実施後の成果の評価は、誰がどのように行うのか明確にされたい。また、結果については定期的に全面公開を行い、国民の議論を踏まえ、当初予定の全体的な達成を目指すべきであると考えるがどうか。

2、吸収源について

(1) 京都議定書の通りなら一九九〇年比〇・三の減少量にしかならないことは当初から政府も認めている。にもかかわらず、二〇一〇年の「日本全体の森林等による純吸収量」を三・七%とし、「今後の国際交渉において、必要な追加的吸収分が確保されるよう努める」としている。このような政府の姿勢は実質的な議定書改定をもくろむものではないのか。COP3議長国としてこのようなことは参加各国の信義に反するとは考えないのか。またCOP3前に、吸収源は不確実性が高いので計算に含めるべきではないとしていた政府の姿勢からすると一八〇度の転換であり、日本の国際的信用に関わるとは考えないのか。その経緯は如何なる事由によるのか。具体的に説明されたい。
(2) 「今後の国際交渉において、必要な追加的吸収分が確保されるよう努める」というが、京都議定書における〇・三%削減から後退した姿勢である。「必要な追加的吸収分」とは何か、新たに何を取り入れるのか、具体的に説明されたい。「日本全体の森林等による純吸収量」とは森林全部か。「森林等」の「等」とは何か、「土壌」も含まれるのか。「純吸収量」とは何か。すべて具体的に説明されたい。
(3) 日本政府の「〇・三%」及び「三・七%」の算出方法を説明されたい。また、その算出方法はIPCCガイドラインに適合しているのか。していない項目があるとすれば、その差はどれくらいで、なぜ適合しない基準を採用しようとしているのか、詳細に説明されたい。
(4) 日本で三・四%拡大するためには、附属書Ⅰ締約国全体でどの程度吸収量が拡大すると見込んでいるのか。
(5) 気候行動ネットワーク(CAN)は、ネット方式を適用するといわゆる「抜け穴」が一九九〇年総排出量比八%になるとしている。吸収源による「抜け穴」がこのように拡大すると、先進国全体で平均五・二%削減するとしている京都議定書は事実上崩壊するのではないか。
(6) 木材貿易(特に日本の場合輸入)を二酸化炭素の排出・吸収の計算に考慮するべきではないか。考慮する場合どのような算定方法が良いと政府は考えるか。また、木材貿易と排出・吸収の考え方に関するIPCCの検討状況をどう見ているか。

3、「革新的技術開発」、「国民各界各層の更なる努力」について「革新的技術開発」、「国民各界各層の更なる努力」という全く具体性のない二つの方策で二%削減を想定するというのは無責任と考えるがどうか。この二つの方策で二%削減することについて根拠を示されたい。また、この二つの方策について、現在検討されている中身はあるのか。中身があるのならばそれを具体的に説明するとともに、この部分で二%削減を達成できなかった場合に代替手段で達成できる担保を示せ。

二、「エネルギーの使用の合理化に関する法律」について

1、一層の意見反映や公開について現在は通産省令で対象機器や基準値などすべてを決定し、市民参加や国会審議の対象にもなっていない。参議院経済・産業委員会附帯決議では「国民の意見を幅広く聴取しつつ、その合意形成に努める」、「学識経験者等の意見を幅広く聴取し、公平性かつ透明性を確保する」などとして、意見反映や公開を促している。今後の省エネ法の運用全般において、意見反映や公開について新たに検討している点があれば説明されたい。
2、工場に係る措置等について

(1) 工場の計画や報告について

(イ) 今回の改正で、大規模工場(第一種事業者)は「中期的計画」の提出が新設されたが公表規定がない。計画及びその進捗状況などについて公表規定を盛り込むべきではないか。
(ロ) 第一種事業者は報告義務や中期計画提出が義務付けられているが、第二種事業者は中小とはいえ記録だけで報告義務すらない。報告の義務化を検討してはどうか。
(ハ) 今国会の答弁で、堀内通産大臣は計画や報告について一部公表を検討する旨の発言をした。具体的にどのような検討が行われているのか。

(2) 工場の「エネルギー原単位一%向上」規定の強化について

(イ) 工場のエネルギー消費の合理化についてはどのような客観基準をもって規制を行うのか。唯一の客観的基準と言える「エネルギー原単位一%向上」が努力目標というのでは、何も指標がないのと同じで、勧告や罰則の適用が一度もないのも当然ではないか。
(ロ) この規定は単なる努力目標であり、各工場は「一%向上」できなかった理由を通産省に届け出るだけで済む。当規定を義務化し、達成できなかった企業名・工場名は自動的に公表するとともに、進捗状況及びその理由を公表すべきではないか。
(ハ) 今国会における答弁等によれば、工場措置の「判断基準」(「原単位一 %向上」などを規定している通産省告示(平成五年七月二九日第三八八号・平成九年二月二六日第八四号一部改正))について、今改正に合わせて強化を図るとしているが、いつまでに行うのか。学識者等に議論してもらうというが、どの審議会等で議論するのか。また、議論は当然公開で行い、配布資料・議事録の全面公開もすべきであると考えるが如何か。

(3) 工場に係る措置の情報の環境庁への提供

 COP3を受けた温暖化防止に関連する改正であり、これらの提出あるいは報告された情報(一%向上が達成されなかった理由を含む)を通産省から環境庁に提供することを規定に盛り込むべきではないか。また、これらの情報を都道府県知事にも提供してはどうか。

(4) 目標を達成した企業等に対する奨励策

 優良企業名の公表など、企業にインセンティブを与える優遇策を盛り込んではどうか。

3、機械器具に係る措置について

(1) 対象機器の拡大とトップランナー方式の採用について

[1] 対象機器の設定が怒意的で、通産省の裁量にまかされている。例えば、これまで貨物車の大半を占めるディーゼルトラック、家庭で最大の電力消費機器である冷蔵庫が除外されていた(今改正で加わった)。法第一八条は対象とする機器に三つの条件、即ち「(イ)」我が国において大量に使用され「(ロ)」その使用に際し相当量のエネルギーを消費する「(ハ)」当該性能の向上を図ることが特に必要なもの、を挙げている。この三条件の基準を、各項毎に数値を含め客観的・具体的に説明されたい。
[2] 左記の機器はなぜ対象でないのか。三条件に照らし具体的に理由を述べられたい。また左記のうち今後対象とする予定のものがあれば列挙されたい。
○そもそも適用除外の機器・・白熱灯、ファクス、電気暖房機器、電気調理機器
○適用除外規定のある機器・・二輪車、大型バス、カラーコピー、ファクス一体式コピー、カーエアコン、マルチ式エアコン、吸収式エアコン、高性能(大演算容量)コンピュータ
[3] 適用除外品の見直しはこれまでなされているのか。コンピュータなど性能の向上の著しい機器について、高性能機種を適用除外にしてその見直しを行わない場合、じきに商品の大半が適用除外になってしまうのではないか。対象機器(政令で規定)を広げ、適用除外規定(政省令)は原則廃止すべきと考えるがどうか。
[4] トップランナー値は具体的にはどのように決定するのか、計算方法等も含め詳細に説明されたい。またトップランナー計算のための分類はどのように行うのか、各対象機器毎に詳細に説明されたい。
[5] 冷蔵庫についてはどのような指標を考えているのか、指標の根拠も含めて示されたい。また、既存の対象機器及び冷蔵庫について、どのような目標値を考えているのか。さらに、それがトップランナーと考えた根拠は何か。
[6] 通産省が今改正の当初から挙げていた追加3品目(冷蔵庫・ディーゼル乗用車・ディーゼル貨物車)には、適用除外があるのか。ある場合は、対象と除外理由を示されたい。また、除外機種がエネルギー消費全体に占める割合はいくらか。
[7] 対象機器の効率に関し、全製造業者・輸入業者に対し、商品毎の効率(告示に定められた指標による)及び販売台数を報告させるものと思うが、この報告を義務化してはどうか。また報告されたものは公表すべきではないか。
[8] 参議院経済・産業委員会では「特定機器におけるエネルギー消費効率の目標基準を設定するに当たっては、可能な限り具体的に明示するとともに、学識経験者等の意見を幅広く聴取し、公平性かつ透明性を確保すること」と決議しているが、その実現のために具体的に何を検討するのか説明されたい。トップランナーの指標・基準値の選定には、国民意見を広く聴取し、その結果を反映させて開かれた議論のもとに決定する必要があるが、どのような道筋を考えているのか。中央環境審議・会と合同の委員会を設置して国民ヒアリングを活用していく考えはないか。
[9] 工場などでもボイラー等汎用的に使われる機器が有り、これらは民生機器同様、省エネ基準を定めてトップランナー方式で規制することができるのではないか。

(2) トップランナーの目標の時期について

 今国会における答弁等によれば、今回の法改正は一九九九年春施行でリードタイムが五~七年であるとされており、二〇〇四年~二〇〇六年頃が新基準達成の目標時期ということになる。我が国に求められている二酸化炭素排出削減を考慮すると、これでは遅いと考えるがどうか。リードタイムは品目毎に異なるとしているが、対象全機器のリードタイムを全て挙げられたい。また、メーカーも五年程度を技術開発の区切りとしており、その後も五年以内で見直すべきと考えるがどうか。

(3) 表示について

 参議院経済・産業委員会では「一般消費者が特定機器を購入するに当たっての、エネルギー消費効率の高い機械器具の選択に資するため、適切な表示等を実施するよう指導すること」を決議している。民生機器について、エネルギー効率の表示が一目でわかるように規定し、また価格差があっても数年で元がとれることを記載させてはどうか。こうした記載は、家庭用品品質表示法と矛盾するものではなく、省エネ法対象機器にはカタログの仕様等に記載するだけでなく、目立つ場所に表示させるよう、政令等で基準を定めてはどうか。

4、大規模業務施設(オフィスビル・大規模小売店等)の対象への追加について現在業務用施設については、個別の機器や建築時の建造物への基準だけしかなく、運用・使用・稼働時のエネルギー使用を合理化する規定がない。そのため大規模業務施設(オフィスビル・大規模小売店等)は使用時に大量のエネルギーを消費するにもかかわらず、エネルギー使用を合理化する仕組みがない。工場に係る措置のエネルギー管理指定工場・事業場に、大規模業務施設(オフィスビル・大規模小売店等)は入らないのか。入らないとすれば、一定規模以上の大規模業務施設(オフィスビル・大規模小売店等)について、エネルギー収支の記録・報告規定を盛り込むようにすべきと考えるがどうか。
5、法改正過程における省庁間の覚書本年四月二八日、政府は衆議院での質問に応じて九七年分の省庁間の覚書を大部分開示した。今改正の過程においても、運輸省(自動車のトップランナー等)・建設省(建築物基準等)・環境庁(環境関連等)などの省庁と通産省・資源エネルギー庁の間に覚書が従前通り交わされたはずである。今改正に関する覚書について、省庁毎に全ての覚書を挙げ、各々詳細に説明されたい。

6、法律運用への環境庁の参加

(1) COP3を受けた温暖化防止に関連する改正であることから、基準策定や運用において環境庁と協議を行うことを規定に盛り込むべきではないか。また基本方針の策定及び工場、建築物、機器に関する製造業者等の判断の基準等の策定などの事項について主務大臣に環境庁長官を加えるべきではないか。
(2) 勧告に従わない事業者に罰則を課するかどうかの判断は、事業官庁及びその審議会だけでなく、環境庁長官及び中央環境審議会を加えるべきではないか。
(3) 今国会の衆議院環境委員会で、法改正後通産省の行う基準等の策定においては実質的に環境庁も入るという答弁があったが、それについて詳細に説明されたい。またこれについては前述の覚書があるのか、同じく詳細に説明されたい。

7、法の見直しについて法律全体について

 「経済的社会的環境の変化に応じて検討する」としているが、変化と認識する場合の基準を明確にすべきである。また五年以内で定期的に見直す規定にすべきではないか。

三、「長期エネルギー需給見通し」改定について

1、総合エネルギー調査会需給部会が「長期エネルギー需給見通し」の見直し・改定の作業を行い、六月十一日に中間報告が出された。「長期エネルギー需給見通し」は日本のエネルギー需給を規定し、日本のエネルギー政策において大きな位置を占めるものだが、通産省の一審議会によって実質的に決められてしまい、市民の意見反映はもちろん、国会での審議すらない。このような仕組みは国権の最高機関たる国会の軽視ではないか。エネルギー政策の基本は国会で審議し議決を経て決めるべきと考えるがどうか。また策定過程におけるエネルギー問題等に取り組む環境NGO等の参加を検討すべきではないか。総合エネルギー調査会需給部会は過半数が業界代表(エネルギー供給産業・エネルギー多消費産業等)によって占められており、環境の専門家や市民団体代表はほとんどいない。これでは公平な議論ができないのではないか。
2、「長期エネルギー需給見通し」の試算(シミュレーションモデル)は一部の前提以外公開されていない。どのように試算をしているのか、前提・計算方法等全てのデータを明らかにして説明されたい。新たな「長期エネルギー需給見通し」では、試算の前提に過大なものが多いため、当然エネルギー需給も過大になりがちである。特に経済成長率を平成七年の「構造改革のための経済社会計画」に基づいて二〇〇〇年まで三%(二〇〇一年以降二%)としているのは、余りに現実とかけ離れていないか。成長率を現実に近いものにすれば見通しも変わるはずである。現実的な成長率の設定にして試算をやり直すべきではないか。また、鉄鋼やセメントの生産量見通しも過剰でないか。さらにマクロモデルでは産業構造の転換が入りにくいが、素材系業種の減少などの構造変化はどの程度見込まれているのか。
3、新たな「長期エネルギー需給見通し」では、原子力発電の二〇一〇年での発電電力量を四八〇〇億キロワット時とし、それに必要な設備容量を確保するためには一六~二〇基の大型原発の追加が必要としている。このような大量の原発増設が本当に可能か、新規立地と既設の原発用地に増設が予定される地点の全てについて稼働までの見通しを詳細に説明されたい。また二〇一〇年過ぎから既存原発の廃炉が続出し、一時的に設備容量を確保できたとしてもすぐに減少すると思われるが、二〇一〇年以降の見通しについても説明されたい。また、稼働率を上げることにより原発数を減少させるとしているが、稼働率を上げることによる原発の安全性について十分担保があるのか。さらに、プルサーマルになった場合についても同様のことが生じるものと考えられるがどうか。
4、新たな「長期エネルギー需給見通し」では、一次エネルギー総供給の伸びを一 一・七%(二〇一〇年/一九九〇年)としながら、二次エネルギーの電力の伸びを四三・二%(同)としている。転換・送電などでロスが大きく効率の悪い電力は抑制し(例えば電気の冷暖房など)、より効率の良いエネルギーの使用・エネルギー構造への移行を促す政策を取るべきではないか。
5、新エネルギーについて

(1) 新エネルギーが全エネルギーに占める割合は現在一・一 %であり、政府は二〇一〇年には三%を想定しているが、地球温暖化対策を確実に推進するには、さらに新エネルギーの開発導入を推進し、一〇%を目指すべきではないか。
(2) 太陽光発電導入基盤整備事業の補助金は、一九九四年度から一九九六年度までは補助率が二分の一、九七年度からは三分の一とされている。通産省の予想ほど太陽光発電システムの価格が低下していない上に、補助金の算出方法によると、実質的に四分の一程度の補助金しか支給されない。補助率を引き上げるべきでないか。
 また申し込み受理年月日から起算して二カ月以内の工事着工を定めた規定は、申請が一斉に受理されると、太陽光発電事業者と設置事業者の出荷や工事が一時期に集中する可能性がある。住宅団地、個人住宅ともに工事完了期間の規定があり、さらに申請者が実際に補助金を受け取れるのは、設置工事終了後数カ月後であり、それまでの間申請者が全額を肩代わりすることになり、それだけの経済力が求められる。以上のように、太陽光発電の普及を後押しするには、あまりに条件が多すぎるのではないか。もっと補助金を受けやすい簡便なシステムにし、飛躍的な普及を促進すべきであるがどうか。加えて太陽光発電の普及促進には、設備取得額の全額税額控除を導入すべきではないか。

6、エネルギー安全保障というが、天然ガスは買い手市場であるにもかかわらず、わが国はパイプラインの整備などのインフラ整備が後手に回っており、天燃ガスの活用が遅れているのではないか。今後の方針を問う。
7、石炭について廃棄処分場は逼迫しており、今後は石炭灰の処理が不可能になる恐れがある。政府の石炭灰処理の見通しを示されたい。
8、IPP(独立系発電事業者)は「安かろう悪かろう」ではないか。電気事業者について、独立事業者を含めどのように料金低減と環境保全とを同時達成するのか。応分の環境費用を負担した上での競争政策とすべきではないか。
9、運輸部門のエネルギー伸び率が大きいことから、この部門の省エネの取り組みも重要である。物流コストの削減を図る上で、全国の運送業者が共通して利用できるGPS(グローバル・ポジショニング・システム=人工衛星が発する電波を観測して位置を決定する汎地球測位システム)バーコードといったものを考えられないか。詳細な緯度・経度に基づくバーコードを発行し、GPSを活用しやすいものにする、すなわち配送先住所のGPSを発行し、複数の物流業者の介在を前提にした最適中継経路を導き出すものである。このようなGPS適用による合理的な配送システム等の構築を考え、運輸部門の省エネ効果を求めるべきであると思うがどうか。

  右質問する。