質問主意書

第142回国会(常会)

質問主意書


質問第一八号

徳島県吉野川第十堰改築計画等に関する再質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十年五月二十八日

竹村 泰子   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   徳島県吉野川第十堰改築計画等に関する再質問主意書

 徳島県吉野川第十堰改築計画に関しては、平成十年二月四日に「徳島県吉野川第十堰改築計画等に関する質問主意書」を提出し、政府から平成十年三月三十一日付で、内閣参質一四二第二号の答弁書(以下「答弁書第二号」という。)が寄せられたところである。その答弁内容については、未だ不明確な点も含まれており、事実関係のさらなる解明を行う必要があると考える。したがって、再度以下の質問をする。

一 吉野川における洪水について

1 答弁書第二号によれば、一般に洪水時に河川の水位が上昇するに従って堤防が決壊する危険性は高くなることから、第十堰による水位上昇も吉野川の堤防決壊の一因として考えられる、とされている。

(1) このような一般論が、明治二十一年七月の洪水に適用できるとする根拠は何か。
(2) 明治二十一年七月の洪水が、堤防決壊の第一の原因であると考えるのか。考えるとすればその理由を示されたい。

2 答弁書第二号によれば、「現在の吉野川における河道の状況等を基に、第十堰を改築する必要があると判断した」とあるが、明治二十一年七月の洪水は、改築の根拠足り得ないという認識でよいか。根拠足りうると考える場合にはその理由を示されたい。

二 粗度係数について

1 答弁書第二号によれば、吉野川に計画高水流量が生起したものとした場合の計算上の値については、想定する同川の河道の状況によっても異なるとされているが、「第十堰改築事業に関する技術報告書」(以下「技術報告書」という。)において想定されている吉野川の河道の状況を図面等を用いて詳細に示されたい。
2 答弁書第二号によれば、「別途算出した高水敷の粗度係数の値等」を「代入することにより吉野川の複数の流下断面について低水路の粗度係数を算出し」たとされている。

(1) 複数の流下断面をどのように設定したのかを、図面を用いて示すとともに、それぞれの粗度係数を示されたい。
(2) 低水路及び高水敷の粗度係数の算出にあたっては、粗度係数の逆算法を用いたのか。用いた場合には、その逆算法が痕跡不定流逆算法によるものか痕跡不等流逆算法によるものかを、用いなかった場合には、算出方法を明らかにされたい。
(3) 技術報告書作成の際に、改訂新版建設省河川砂防技術基準(案)同解説(以下「河川砂防技術基準」という。)調査編にある、実測洪水データに基づく計算精度の検証や河道状態との関係での吟味はどのように行われたのか、検証過程及び結果を詳細に示されたい。
(4) 河川砂防技術基準調査編によれば、平均流速公式レベル三においては、「樹木群内の流速が外に比べ十分小さく樹木群内を死水域として扱うことができると仮定したうえで、流れの計算を樹木群領域を除いた流水断面について行う」こととされている。このような仮定が吉野川でも成り立つということを検証したか。検証を行った場合にはその結果を、行わなかった場合にはその理由を示されたい。
(5) 答弁書第二号によれば、粗度係数が含みうる誤差や不確実性は、上流区間の複数地点における水位の値がそれぞれ同じ地点における痕跡水位の値をおおむね下回ることとならないような安全側の値となるように決定することにより考慮しているとされている。ところで、河川砂防技術基準計画編によれば、超過洪水に対する配慮とは、「まず超過洪水の生起とそれによる被害の態様を予測することであり、関係する地域社会に対してこの洪水防御計画で対処し得る洪水の限界とその対処の方法を明らかにすることにより超過洪水の生起に際しての適切な対応を予め求めること」であるとされており、水位の値を安全側に設定するというだけでは、超過洪水の適切な予測とは言えないと考えるがいかがか。
(6) 河川砂防技術基準調査編によれば、痕跡水位を用いた粗度係数逆算の手順は、「粗度係数を仮定して水位計算を行い、得られた計算水位ピークを洪水後に観測された痕跡水位縦断と比較する。両者が必要な精度で一致するまで粗度係数を変えて水位計算を行う」とされている。技術報告書における粗度係数設定にあたって、どのように粗度係数を変えて水位計算を行ったのか示されたい。
 また、吉野川における「必要な精度」とは何かを、理由も含めて具体的に示されたい。

3 答弁書第二号によれば、「粗度係数の観測」が行われた河川の区間における河道状況と、吉野川の河道状況との間で、特に考慮すべき差異は存しないと考えられる、とされているが、「特に考慮すべき差異」とは何かを具体的に示されたい。

三 水位計算について

1 答弁書第二号によれば、「建設省の実績再現計算は、第十堰に関し一定の条件を設定した上で水理学上の基礎的な理論式によって一義的に算出される吉野川の河口から十四・二キロメートルの地点における水位の値を所与」としている。

(1) 「水理学上の基本的な理論式」とは何か、詳細に示されたい。
(2) 「一義的に算出される」というのはなぜか、その理由を示されたい。
(3) 「水理学上の基礎的な理論式によって一義的に算出される」とあるが、算出の前提となる、建設省の水位計算における「第十堰の上流側及び下流側の堰が共に十四・二キロメートル地点において流下方向に対して直角に存在するものと仮定して、同地点での流下断面については高水敷と第十堰とを区分せずに一体の河床部分として扱っており、吉野川に計画高水流量が生起しているものとした場合における流水の幅及び当該河床部分の平均的な高さの値は、それぞれ約六百十八メートル及び阿波工事基準面を基準とした高さ五・八七メートル」という仮定は、一義的なものなのか。一義的であると考える場合にはその理由と根拠を、考えない場合には、その前提が一義的でないにもかかわらず算出が一義的であると結論づける理由を示されたい。

2 答弁書第二号の別表第三から第六によれば、建設省が行った主要実績洪水に関する水位の計算によって得られた値は、吉野川の河口から十六キロメートル地点において、少なくとも左岸で〇・九メートル、右岸で〇・六メートル実際の痕跡水位を超えている。このような差は、「計算の性質上結果的に生じ得る」としているが、このような差をできる限り小さくし、計算結果を実際の自然現象にできる限り近づけることが「基本的に望ましいこと」だとも認めているところである。

(1) 河川砂防技術基準調査編に、流出モデルの適合性を客観的に判断する方式の一つとして、誤差評価値を最小にする方式が記述されているが、この式に建設省の行った水位計算の計算流出量を代入した場合における誤差の値がどの程度になるか示されたい。
 また、誤差評価値を最小にする流出モデルについても併せて示されたい。
(2) 痕跡水位と再現計算水位の値の差は「計算の性質上結果的に生じ得る」としても、これをなるべく少なくすることは可能であると考えるが、吉野川の場合、実際の自然現象に近づけるため、どのような努力をしたのか具体的かつ詳細に示されたい。

3 答弁書第二号によれば、「河口より十六キロメートルの地点においては計画高水位を四十二センチメートル超過する」ことを「絶対的なものとして取り扱っているわけではない」としているが、技術報告書においては計画高水位を超過することが、「治水上大きな問題である」とし、改築の根拠として位置づけている。

(1) 建設省の主要実績洪水に関する水位の計算によって得られた値は、吉野川の河口から十六キロメートル地点において、少なくとも左岸で〇・九メートル、右岸で〇・六メートル実際の痕跡水位を超えているにもかかわらず、計画高水流量が生起した場合の水位の値が、同地点において「計画高水位を四十二センチメートル超過」し、「治水上大きな問題である」と結論づけることの意味は何か。
(2) 「絶対的なものとして取り扱っているわけではない」ということは、改築の根拠とはならないということか。なると考える場合にはその理由を詳細に示されたい。

4 答弁書第二号によれば、技術報告書を作成した後に行った模型実験の結果等も併せて考慮すれば、建設省の水位計算は妥当であるとされている。

(1) 「模型実験の結果」以外に、どのようなものが考慮されたのか、具体的に示されたい。また、「同程度」と予測することが妥当であると判断した客観的な根拠を示されたい。
(2) 模型実験の信頼性の根拠とされている、航空写真の実体視から水位を求める手法は、河川砂防技術基準において何らかの形で位置づけられているのか。

5 答弁書第二号によれば、「計算結果を実際の自然現象にできる限り近づけることは基本的には望ましいことであると考えているが、計画高水流量の生起といった実際に観測された自然現象の範囲を超える仮想の現象を取り扱うに当たっては、その適用範囲に関する十分な検証がされた手法によるべき」とされている。

(1)  仮想の現象とはいえ、実際の河川に生起する可能性のある事象を取り扱うのであって、その結果が河川のあり方に影響を及ぼすことは事実である。十分な検証がされた手法により計算を行う場合であっても、その前提条件となる計算上の堰の形状や流水の幅等について、十分に検証を行うべきであると考えるがどうか。そのように考えない場合にはその理由を示されたい。
(2)  適用範囲に関する十分な検証がされた手法によって仮想の現象を取り扱ったとしても、実際に観測された自然現象が十分に再現できない計算方法では、十分な精度があるとは言えないのではないか。言えると考える場合にはその根拠を示されたい。

6 答弁書第二号によれば、「第十堰のような堰の上流における水位の値は理論上堰の形状に応じて算出されることは明らか」であるとされている。

(1) 「理論上」とは、どのような理論なのか、具体的に示されたい。
(2) 「堰の形状」は計算を行う前提として絶対的な値で決まるのか。また、「堰の形状」を数値化する際に何ら問題は生じないのか。生じないとすればその理由を示されたい。

7 答弁書第二号では、市民団体の実績再現計算におけるエネルギー水頭の値が適切なものとは考えられないとしているが、その理由を具体的数値や数式を用いて説明されたい。また、建設省が考える「適切なエネルギー水頭」の数値とそれが適切であると考える理由及び「適切なエネルギー水頭」とは絶対的な値であって、他にはあり得ない数値であると考える場合には、その理由も併せて示されたい。
8 水位計算資料に明記されている第十堰に関する計算上の条件、水理学上の基礎的な理論式等を基に、建設省が算出したエネルギー水頭の値につき、具体的に計算上の条件及び水理学上の理論式等を示して説明されたい。
9 答弁書第二号によれば、「流水の流下方向に対して斜めに設置されている堰を越流する流水の幅の値は、当該堰が当該流下方向に対して直角に存在するものと仮定した場合の仮想の堰を越流する流水の幅の値以上のものとなる」とされている。

(1) このように認めながらも、実際の吉野川における建設省の水位計算においては、「吉野川の流水の幅を、一次元不等流計算でいう流水の流下方向に対して直角の方向に測った幅」である六百十八メートルとしているのはなぜか。また、それにより誤差が生ずる危険性はないのか。ないと考える場合にはその理由を示されたい。
(2) 建設省においても、水理模型実験や過去の様々な洪水において、第十堰付近では流水の向きが変えられていることを認めていると考えるがどうか。

10 答弁書第二号によれば、建設省の水位計算は、上流側の堰を考慮しており、市民団体の水位計算より適切であるとのことだが、堰による流水の幅の増加を考慮していない点についてはどのように考えているのか。

四 計画降雨等について

1 答弁書第二号によれば、「降雨の状況等の治水計画に係る状況に大きな変化がないにもかかわらず計画降雨量等の値から定められる基本高水等について頻繁に小規模な見直しを行うことは必ずしも適切であるとは限らない」とされている。

(1) 大きな変化とは何か、具体的に示されたい。
(2) 頻繁とはどの程度の頻度をいうのか、具体的に示されたい。また、吉野川の場合、昭和五十七年に定められた工事実施基本計画を平成十年に見直すことが、「頻繁」に当たるのか。

2 答弁書第二号によれば、「現在までの新しい試料を加えても当該計画降雨量の値は大きく変化しないと考えられる」とされている。

(1) 吉野川第十堰建設事業審議委員会において、建設省は、新しい試料を加えても当該計画降雨量の値は変わらないと答えたとされているが事実か。事実とすれば、計画降雨量とそれに基づく基本高水流量、計画高水流量を新たに計算したということか。新たに計算した場合には、その計画降雨量の検討方法及び結果について、計画降雨量を検討する際の日雨量等をはじめとするデータの具体的内容を示して説明されたい。また新たに計算していない場合には、どのような判断をもとに計画降雨量は変わらないと答えたのか、具体的な数値や計算式をもとに判断根拠を示されたい。
(2) 技術報告書によれば、「計画降雨を算定するために用いた雨量観測所は、百十一観測所、降雨は五百二十降雨であった」とされているが、現在までの試料を加えた場合、計画降雨を算定するために用いる雨量観測所及び降雨の数を示されたい。

3 答弁書第二号によれば、「河川整備基本方針」の作成時期、作成に当たって用いる計算手法等については、現時点では未定である」とされているが、平成十年二月十六日付の「第九回審議委員会での質問へのお答え」によれば、「吉野川水系の河川整備基本方針については、現在策定作業に着手した段階であるとしている。現在どのような作業を行っており、今後どのような作業が必要なのか具体的に示されたい。

五 模型実験等について

1 水位測定について垂直航空写真の実体視による手法は一般的なのか。一般的だと考える場合には、現在までにどの程度の実績があるのか示されたい。また、実際に工事実施基本計画を策定する際の基礎資料として、実体視手法を用いて水位の算定がなされた事例があるのかについても併せて示されたい。
2 答弁書第二号にある「実体視手法」における「流水が堤防に接している地点は、どの程度の誤差をもって測定が可能なのか。また、当該測量は、河川砂防技術基準調査編にある空中写真測量の記述に基づいて行われたものか。
3 実体視手法を用いて得られた比高の値が航空写真を撮影する高度等に応じて含むとされている誤差の程度につき説明されたい。
4 答弁書第二号では、痕跡水位と洪水時の水位の最大値の真値との誤差を明らかにすることは困難な性格のものであるとしているが、両者の関係についての研究はなされていないのか。
5 「吉野川第十堰水理模型実験 第十堰をもっとよく知っていただくために」に掲載されていない昭和四十九年洪水中の十五・六キロメートルから上流の実体視手法を用いた水位を〇・二キロメートルごとに明らかにされたい。また、十五・四キロメートル地点の水位が、右岸しか掲載されていない理由と、当該地点における左岸の水位を明らかにされたい。

六 利水目的について

1 答弁書第二号によれば、「吉野川に新設されることが計画されている第十取水口からの取水並びに一部残される旧吉野川及び今切川からの取水が困難になる事態が発生する可能性もある」とされている。

(1) 新設される第十取水口、一部残される旧吉野川及び今切川からの取水量は、何月に最大どの程度になると予測しているのかそれぞれ明らかにされたい。
(2) 第十堰がどの程度損壊すれば、そのような事態が発生するのか、具体的に説明されたい。

2 答弁書第二号によれば、大正十二年初夏に生じたとされる第十堰の損壊の原因に人為的なものが含まれるか否かについては、現時点で確認することは困難であり、また現時点で当時の旧吉野川の河床の状況を正確に把握することができないことから、当時の旧吉野川の河床の高さが取水障害に関係しているか否かを確認することは困難であるとされている。

(1) 堰の損壊及び取水障害の原因が特定できない事例を「第十堰建設事業に関する質問へのお答え」(建設省四国地方建設局作成)に記載した理由を示されたい。
(2) 吉野川下流部の流路が現在の形に固定されたとされる昭和二年以降で、現在の第十堰が直接の原因となって取水障害が生じた例があるのか、簡潔に示されたい。

3 答弁書第二号によれば、農業用水については、取水量の全体は把握できていないとのことである。

(1) 旧吉野川及び今切川における農業用水の許可水利権量を示されたい。
(2) 農業用水についての取水量の全体を把握しないまま、国営総合農地防災事業「吉野川下流域」地区事業を行っている理由を示されたい。

七 環境保全等について

1 答弁書第二号によれば、平成三年度及び平成四年度に実施した現地調査でハクセンシオマネキの生息が確認されていないのは、それぞれの調査の手法及び時期によるとされているが、現地調査の手法及び時期についてその内容を詳細に記されたい。また、当該現地調査を行った者の氏名及びその者に調査を依頼した理由を詳細に示されたい。
2 徳島県自然保護協会が指摘するまで、ルイスハンミョウの生息が確認できていなかったことは事実か。また、平成五年度の文献調査までその生息が確認できなかった理由を示されたい。
3 シマヘナタリが第五回環境調査委員会資料に記載されていることは事実か。また、「貴重種」であることが記述されていないことも事実か。記述がなされていない場合はその理由を示されたい。
4 イボウミニナについて調査で存在が確認されていながら、それが貴重種であると認識できなかったのは、この種についての専門知識を有しない者が調査を行ったとの疑問を抱かざるを得ない。当該調査を行った者の氏名及びその者に調査を依頼した理由を示されたい。また、徳島工事事務所が資料を有していなかったために、貴重種であることを見落としていたことについては、建設省としてその監督に問題はなかったのか。ないと考える場合にはその理由を示されたい。
5 答弁書第二号によれば、「徳島工事事務所は、吉野川の河口部から柿原堰までの区間において生息する生物等に関する現地調査を平成二年度から実施するとともに、学識経験者等から構成される第十堰環境調査委員会を平成四年から設置して、当該現地調査の結果の検討、吉野川第十堰建設事業によってもたらされる周辺環境への影響に関する調査等を実施してきた」とされている。

(1) 吉野川第十堰改築に係る河川環境調査の内容を、河川砂防技術基準調査編に基づき、各調査項目・段階ごとに示すとともに、現地調査を行った者の氏名、とりまとめられた調査結果の報告書名とその内容を示し、その結果を受けてどのような判断に至ったかを具体的に説明されたい。
(2) 「生物等に関する現地調査」を行ったとされているが、調査を行った年月日と調査を行った者の氏名、調査範囲、調査内容、調査に関する報告書名とその内容につきそれぞれ示されたい。また、調査を行う際に事前に現地調査計画を作成した場合にはその内容を、しなかった場合にはその理由を示されたい。
(3) 「学識経験者等から構成される第十堰環境調査委員会」が設置されているとのことであるが、構成員の氏名と任命された理由、当該委員会が開催された年月日、趣旨、議論の内容、提出された資料名をそれぞれ示されたい。
(4) 「周辺環境への影響に関する調査等を実施してきた」とされているが、調査を行った年月日、調査目的、調査範囲、調査を行った者の氏名、調査結果報告書名とその内容をそれぞれ明らかにされたい。

6 答弁書第二号にある仔アユの降下及び量に関する政府の見解について、その理由の根拠となる第一回環境調査委員会の資料に示された仔アユの降下に関するデータ等を示して説明されたい。また、政府は第十堰の改築にかかわらず、第十堰から仔アユが降下することはほとんどないという認識をもっていると考えられるがどうか。
7 答弁書第二号によれば、アユの遡上状況については当該改築によって改善されるとしているが、そのように考える理由を、現第十堰がアユの遡上に与える影響も含めて詳細に示されたい。
8 平成十年三月二十七日の財団法人日本自然保護協会から建設大臣に宛てた、「吉野川第十堰可動堰化及びダム事業審議委員会に対する意見書」(以下「意見書」という。)の添付資料には、建設省及び環境調査委員会の見解と最新の科学的知見の差異についての記載がなされている。

(1) 「最新の科学的知見」について、政府の見解を各項目ごとに示されたい。「最新の科学的知見」が事実ではないと考える場合には、反証となる資料や数値等を示し説明されたい。
(2) 一般的に、建設済の可動堰である河口堰は環境に対して大きな影響を与えていると考えるが、改築後の吉野川河口堰については今までの可動堰とは異なり影響が小さいと考える理由は何か、具体的に示されたい。

9 生活協同組合ふれあいコープ徳島、阿波みずすましの会及び吉野川シンポジウム実行委員会が「今切川の水質・底質、およびそれから予想される第十堰改築後の吉野川の環境変化について(第一次報告)」をまとめているが、本報告の内容を承知しているか。
 その中では、今切川河口の藻類の発生原因として底泥からの燐供給の可能性等が指摘されているが、本報告中の数々の指摘に対する政府の見解を、根拠となる数値を示して具体的に説明されたい。特に、吉野川の栄養塩濃度は低いにもかかわらず、旧吉野川や今切川の河口堰付近では夏場に大量の藻類が発生する原因をどのように考えているのか、具体的に示されたい。

八 異常深掘れについて

1 答弁書第二号にある、「流下方向に対して斜めに設置されている堰付近における洪水時の流水及び土砂の挙動に関する特性」とは何か、具体的に示されたい。
2 答弁書第二号によれば、堰下流の深掘れの大きな原因は斜め堰であるとしているが、河床洗掘は昔から指摘されているはずである。堰下流の深掘れについて、過去にどのような指摘がなされているか、その文献名を含めて示されたい。
3 昭和五十一年に徳島工事事務所副所長から国府町佐野塚地区代表に「砂利採取について」が提出されているとのことだが、提出されるに至った経緯を詳細に示されたい。
4 堰下流右岸の深掘れ対策及び堤防補強につき、これまで行われてきた工事の実施年、費用、工事区間、実施理由及び各工事の内容につき詳細に説明されたい。特に、昭和五十一年から五十二年にかけて行われた深掘れ対策工事の具体的な内容を二百メートルピッチの横断図を示した上で詳細に説明されたい。
5 昭和五十一年の工事以降現在までの河床洗掘の経年変化につき、横断図や数値をもって具体的に説明されたい。

九 代替案等について

1 答弁書第二号によれば、根固めブロック等を投入する対策は、洗掘の進行を完全に抑止する効果までを期待できるとは必ずしも言えないとされているが、進行を完全に抑止できる効果が期待できる場合につき、具体的に示されたい。また、吉野川第十堰直下の深掘れは、なぜそのような場合に該当しないのかも併せて示されたい。
2 答弁書第二号によれば、昭和五十一年の河床洗掘は一回の洪水で大規模な洗掘が生じたとされているが、当該箇所でそれ以前に堤防の決壊に至るような大規模な洗掘が生じたことがあればその具体的な内容を、ない場合には、なぜ昭和五十一年の場合のみそのような洗掘が生じたのか、データをもとに説明されたい。
3 答弁書第二号によれば、「昭和五十八年度に根固めブロックを追加的に投入したにもかかわらず当該箇所でその後再び河床の洗掘が進行していることが確認されていること等」により、「根固めブロック等の投入のみによっては堤防の決壊に至るような河床の洗掘が生じる可能性を除去することは困難である」としている。

(1) 「確認されていること等」の「等」には、どのような事項が含まれるのか具体的に示されたい。
(2) 洗掘防止には様々な方法があるにもかかわらず、昭和五十八年の工事をもってそのような結論を得た理由を、当該工事内容を具体的に示した上で、科学的根拠をもって説明されたい。
(3) 「堤防の決壊に至るような河床の洗掘が生じる可能性」が、吉野川第十堰の直下においてどの程度考えられるのか、具体的に説明されたい。

4 吉野川第十堰改築事業については、昭和六十三年度から平成二年度まで実施計画調査が行われているが、特定多目的ダム法の施行についての河川局長通達(建河発五七六)に基づく基本計画の原案は策定されているのか。策定されているのであれば、策定年月日とその内容を、策定されていない場合にはその理由を示されたい。

5 堤防嵩上げ補強について

(1) 「第十堰改築事業代替案について(資料三)」(以下「資料三」という。)によれば、現位置固定堰改築案では、堤防拡幅に必要な面積は平均幅七メートルに延長である十キロメートルを乗じた七へクタールとなると考えるがどうか。なぜ用地取得の面積が十二ヘクタールになるのか計算過程や数値を示して詳しく説明されたい。
(2) 現位置固定堰改築案では過去の実績等から堤防嵩上げ補強に約二十年を要するとあるが、過去の実績等とはどの河川のどのような工事におけるものか具体的に示されたい。また、複雑で大規模な高速道路建設工事が着手から供用開始まで約十年でできていることを考慮すると、予算や人員が整えば、堤防嵩上げ補強についても十年以内にできると考えるが、二十年も要する理由を高速道路の建設や他の公共事業の例と比較して説明されたい。
(3) 堤防補強は、堤防上に供用されている県道の付け替えや拡幅にあわせて行えば非常に効率的であり、社会的影響は軽減されるものと考えるがどうか。また、現在道路工事が行われている右岸の六条大橋から防災ステーション付近は、洪水時において漏水などが発生するとされており、道路工事と同時に漏水対策や堤防補強を行えば経費などの節減を図ることができるものと考える。堤防補強を道路工事にあわせて行わない場合にはその理由を示されたい。
(4) 資料三によれば、関連工事として樋門や排水機場の改築が必要としているが、具体的な施設名、当該施設の河口からの距離及び改築費用をそれぞれ示されたい。また、改築が必要な理由を、その地点の堤防補強の前後の地形と施設の関係を図面に示し、詳細に説明されたい。
(5) 現位置固定堰改築案に限っては、平成九年七月十一日付の内閣参質一四〇第一二号の答弁書によれば、堤防嵩上げは一地点で六センチメートルのみとほとんど生じないので、樋管などに対する加重の増加はなく、拡幅幅がわずかであることから樋門などの改築の必要はないと考えられるがどうか。また、同様に排水機場の増設も必要とされているが、どの地点の排水機場において何トンの能力のポンプ等を増設するのか、その計算根拠を示して詳細に説明されたい。
(6) 資料三によれば、現況堤防の安定解析結果、計画高水位をあげた場合に堤内側安全率が一・一六から一・一九とされているが、安定計算に用いた計算式及び土質定数透水係数等を示されたい。
(7) 対策工の検討において、現位置固定堰改築案では法勾配を四割に緩傾斜化すると堤内法面安全率が一・二一になっているが、この安定計算は六十六ページに示されている検討断面図の堤防法先部分(小段より下部)のみの勾配を四割としたのか、それとも堤天から下の全体の法面を四割勾配としたのか。また、これらの計算に用いた全ての計算式及び定数を示されたい。
(8) 安定計算の外水条件に昭和五十一年波形を用いているが、技術報告書によると、昭和五十一年洪水における「岩津上流域平均二日間雨量は約五百八十ミリメートルに達しており、水文統計学見地から見ると異常値と検出された」とされている。このことから、昭和五十一年洪水波形を用いることさえ慎重であるべきにもかかわらず、さらにこの異常な洪水波形を増嵩したことは、二重に過大な外水条件を与えていると考えるがどうか。こうした過大な外水条件を与えた理由を、他の河川での採用事例や河川砂防技術基準など建設省が採用している基準と比較した上で説明されたい。

十 老朽化及び堰損壊の原因について

1 昭和三十年代から昭和五十年頃にかけて急激に河床が低下した原因は、無秩序な砂利採取にあると考えられる。吉野川全体及び吉野川第十堰より下流における砂利採取の実績を年度別にそれぞれ示されたい。
2 吉野川第十堰左岸部等のうち、徳島県が管理している時代に行った補修部分について、堰損壊につながるような堰下流端の川底からの浮き上がり、いわゆる根切れ及びこれに続く内部の空洞化が生じていると言われている。

(1) 根切れ状態が事実である場合には、いつから放置されているのか明らかにされたい。
(2) 根固めブロックとの間に生じている隙間と併せて、捨て石などによる埋め戻し等の応急的な処置が行われないのはなぜか。
(3) このような根切れと河床低下との関係についてどのように考えるのか。

3 昭和四十年以降に建設省が補修を行った部分につき、図を使って説明するとともに、当該部分で重大な損壊が生じていないか、明らかにされたい。また、当該部分の面積が、下堰全体の面積に対して占める割合を示されたい。
4 昭和五十七年の補修以降、大きな補修工事が行われていないのは、砂利採取が適切に管理され、急激な河床低下がなくなったことが主な原因であると考えるがどうか。
5 建設省の管理になって以降、堰の補修や復旧、補強に使われた費用とその内訳を年度別に示されたい。

十一 堰の撤去による河床低下等の問題について

 建設省は、「第十堰撤去に伴う河床変動について」において、第十堰の撤去に起因する河床変動は、昭和三十年度とほぼ同様の安定的な河床勾配に移行するまでの比較的短期間に発生する現象であるとしているが、大熊孝新潟大学教授は第十堰審議委員会において、「学術的裏付けのない、単なる希望的観測にすぎないと考える」と指摘した上で、堰を撤去すると「日本の多くの川の事例を考えると、河床低下は避けられず、いずれかなり上流に及ぶものと考えておいた方が安全である。その場合第十堰を撤去したとしても、その後に床固めなど何らかの構造物が必要である」との重大な指摘をしている。

1 建設省の予測の根拠となった、河床変動計算に関する計算式及びその式に代入した数値につき示されたい。
2 河床勾配は、掃流砂量が非常に多かった昭和三十年頃とその後の砂利採取によって川に砂利すなわち掃流砂量が少なくなった現在とでは異なった数値になるはずである。また、昭和三十年度の河床勾配の想定において、堰によって生じた落差を含んだ河床勾配を想定していることは、河床勾配を大きくとりすぎて不適当ではないか。昭和三十年度の堰によって生じた落差も含んだ急な河床勾配で安定するという建設省のシミュレーション結果は、計算条件の設定や計算結果そのものに大きな誤差があると考えがどうか。
3 堰を撤去すると、高瀬橋(河口より十七キロメートル)付近より上流に生じているような明瞭な澪筋が連続して形成され、これに沿って局所洗掘が進行するものと考えられる。また、堰の撤去による河床低下は、堰を撤去することによって発達する澪筋に集中して起きることが多くの事例より予想されることから、現在水衝部となっている箇所ではより大きな河床低下が起きると考えられ、堰の上流部数キロメートルにわたって堤防などの根固め補強が必要になると考えるがどうか。
4 堰を撤去すると、川の蛇行の影響により、堰上流で形成された澪筋が堰付近では右岸堰取り付け部に向かい、現在生じている堰直下流の洗掘箇所をより大きく洗掘すると予想され、ここでもより大きな澪筋形成による洗掘が起きると考えるがどうか。
5 建設省は堰を撤去すると堰の右岸上流部の異常な局所洗掘がなくなると説明しているが、異常な局所洗掘とは、模型実験や第十堰下流の河床等高線図から読みとると、河口から十四・四キロメートルから十四・六キロメートルの間にポットホール状に生じた他の部分より著しく深くなっている洗掘部分であると考えられる。したがって、堰の撤去により、このようなポットホール状の洗掘はなくなるが、同時に、より発達する澪筋形成によるより大きな洗掘に収斂されることになると考えるがどうか。
6 堰の撤去によって生じる河床低下や新たな澪筋形成から起きると考えられる、より危険な局所洗掘に対して、可動堰への改築ではどのような対策を予定しているのか示されたい。

  右質問する。