質問主意書

第141回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一四号

エンドクリン問題等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成九年十二月十二日

加藤 修一   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   エンドクリン問題等に関する質問主意書

 昨今、化学物質に囲まれる生活のなかで、エンドクリン問題(環境ホルモン問題)が注目されはじめている。これは環境中において生態の発育や生殖機能の重要な役割を果たすホルモン系のバランスを乱し、間接的に生殖の異常、乳ガンなどを引き起こす内分泌撹乱化学物質により、人体や環境が汚染されていく危険を指摘したものである。
 米国政府は、環境保護庁のホームページに「我々は全ての疑問に対する答えが出るまで化学物質の対策をとるのを待つことはしない」と表現しているように、リスクに対して積極的に対応を講じていこうとの姿勢を打ち出している。
 一方、わが国政府の対応をみていると、国際的な研究結果を待って対策を講じるといった、いかにも主体性に欠ける対応が見える。わが国の「すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努め」(憲法第二十五条)る責任のある政府、なかんずく「国民の保健」、「児童及び母性の福祉の増進」等に関する「国の行政事務及び事業を一体的に遂行する責任を負う」(厚生省設置法)厚生省としては、自らの責任を積極的に果たすべく、エンドクリン問題の対策についてイニシアティブを持って取り組む必要がある。その意味からも、政府はエンドクリン問題に対し、予算編成も含めた積極的な対応を速やかに講じ、現世代の安心と将来世代の健康を確保すべく全力を尽くさねばならない。
 こうした観点から以下質問する。

一、エンドクリン問題に対する政府の取り組みについて

1、平成九年六月十七日に提出した「ゴミ焼却処分に伴うダイオキシン類の発生防止対策等に関する質問主意書」に対する答弁の中で、労働省、農水省においてはエンドクリン問題に対して予算措置を行っていないとされているが、農水省は農薬によるエンドクリン問題、労働省は化学物質の生産工程における労働環境中のエンドクリン問題などが指摘されており、何ら対応策を講じていないというのは行政の怠慢以外の何ものでもない。上記二省及びその他関連省庁は、予算も含めて早急な対策を講じ、省庁間での連絡を密にしていく必要があると思われるがいかがか。
2、アジェンダ21の化学物質安全対策関係部分(第十九章「有害かつ危険な製品の不法な国際取り引きの防止を含む有害化学物質の環境上適正な管理」)において、有害物質の安全対策を講じるために六つのプログラムが組まれている。この行動計画を推進していくために、政府はこれまでにどれだけの予算を付け、どのようなプロジェクトを実行してきたか。わが国としては化学物質の安全性に関する政府間フォーラム(IFCS)などの場で情報交換を行っているようだが、あわせて予算の細目とプロジェクト名、内容を個別に提示されたし。
3、十二月三日から五日までOECDのコーディネーターズ・ミーティングが開催され、鳥類の生殖毒性試験ガイドラインに関して協議がなされたと聞いている。ついては、この会議の正式な名称、会議の枠組み、これまでの経緯、議題及び決定事項、会議へ参加した担当官の所属部局名を示されたい。また、その協議において日本政府に求められた対応を示し、それを受けて今後どのような対応をとるのか、政府の見解を示されたし。

二、日本化学工業協会による「外因性物質のホルモン様作用調査研究」について

1、通産省は九十六年度の予算において、日本化学工業協会に対しエンドクリン問題に関する調査研究を委託し、本年、同協会より報告書が提出された。その要旨の概要によるとエンドクリン問題の原因物質と疑われている十一の物質のうち、有機スズ化合物及びダイオキシン類を除いて、「この調査研究では特に問題視すべきものはなく、したがっていわゆる『内分泌撹乱作用をもつ』化学物質に対し、わが国環境下で緊急に対処すべき問題はない」といっているが、通産省はこの報告書に対して、どのように認識しているか。

三、プラスチック容器からの化学物質の溶出について

1、ホルモン様化学物質と疑われている物質の代表的なものとしてプラスチック可塑剤があげられ、電子レンジにかけたときに変質し疑惑物質が溶融する可能性が指摘されている。翻って昨今、コンビニエンスストアのお弁当に代表されるように、国民の食生活の大きな部分を「プラスチック容器に入れられた食品を電子レンジで加熱して食べる」というパターンが占めている。一般に広がっているこうした食生活のあり方そのものが安全性を疑われている今日、プラスチック容器からの化学物質の溶出に関して「今後、国際的な動向あるいはさまざまな研究結果等も踏まえまして、必要があれば食品衛生上の対策について規格基準を含めまして検討してまいる」(本年六月三日 参議院厚生委員会)という政府の姿勢は、リスクマネージメントの視点がなさすぎるといえる。国民の健康に重大な影響があった場合にはどのように責任をとるのかを明らかにするとともに、早急な対応を求める。政府の見解を示されたし。
2、食品保存用ラップやプラスチック容器の業界団体が自主的に行っている溶出検査項目には、油ものを電子レンジにかけるといった使用法の検査項目がない。国民生活における安全を確保するためにも、今後そのような検査項目を増やすよう政府が指導すべきだと思われるがいかがか。
3、フタル酸エステルやビスフェノールなどプラスチックの可塑剤や、ノニルフェノールやスチルベストロールなど合成洗剤の材料に対して、安全性が確認されるまで使用禁止あるいは規制などの措置をとるべきであると思われるが、政府の見解如何。
4、食品保存用ラップに「油性の強い食品を直接包んで電子レンジに入れないで下さい」との表示があるが、小さすぎて消費者の目にとまりにくく、現実にはこのような使用法を制止する用をなしていない。そのような使用法が安全でないことを周知徹底するためには、それと分かるように示すのが当然である。せめて容器の側面積の三分の一の大きさで表示するなど、高齢者にも分かりやすい表示にするべきである。政府の早急な対応を求める。食品衛生法に基づく器具・容器・包装の規格基準を所管する厚生省の見解如何。

四、人体への影響のデータ蓄積

 エンドクリン問題に関しては幅の広い科学的研究の蓄積が必要であり、と同時に緊急を要する問題でもあることから、研究テーマに重複が出ないようにするために海外の研究機関も含めて協力体制を構築する必要がある。しかしその反面、各国国民の身体的特徴、生活環境、食生活の習慣などが異なるため、それぞれの国においてデータを蓄積することも必要である。とりわけ人体への影響に関する疫学的調査は、比較対象となる基礎データを蓄積することから必要と思われるが、この観点から質問する。

1、ホルモン様化学物質による人の健康への影響に関して、「現段階において政府の把握している情報では、性ホルモン様の化学物質といわれている物質とヒトの健康影響との因果関係については国際的にも解明されておらず、そのような状況下でヒトを対象にした個々具体的な研究を進めることは必ずしも的確な研究にならない可能性があると考える」(以上要旨、本年六月三日 参議院厚生委員会)との答弁が見られる。
 この答弁では、因果関係が解明されていない段階では、個々具体的な研究は的確なものとならない可能性があるとされているが、基礎データの収集は各国の研究結果を待たずとも可能であると思われる。例えば、新生児のカルテには性器の異常に関して記載する義務があり、生後一カ月、三カ月、半年、と検診の際にみられる異常はこれまでにも記録されてきている。このような事例を統計的に整備しているところとして「日本母性保護産婦人科医会」、「神奈川県立こども医療センター」、「日赤産院」、鳥取県などがあると聞いている。
 厚生省としては、このように既にデータを収集している機関に依頼し、完全なものではなくともデータを入手、保有し、エンドクリン問題に対する対応の参考とすべきである。厚生省の見解を伺いたい。
2、さらに今後、まずは地域を限定するかたちで医師会等に協力を求め、新生児や乳幼児の性器の異常を統計データとして収集することに取り組むべきである。カルテに記載してある性器の異常に関する内容、件数等を報告する義務を課すなど、厚生省の今後の取り組み如何によってデータの蓄積状況は大きく改善すると思われる。政府、厚生省の姿勢を示されたし。あわせて、精子数、死亡者の精巣等のデータ採取を早急に調査項目に入れるよう、重ねて要求し、政府の対応についても明らかにされたし。

五、その他のエンドクリン問題

1、農薬の中にはホルモン様作用が疑われている化学物質が多い。しかし日本の毒性検査は人間の健康影響を中心にみるため、食用の作物以外では厳しい検査が行われていないのが実態である。欧米では野生生物が生存できる環境を維持することを目指して農薬使用基準が決められている。水俣病などの例をみても、野生動物にまず現れる現象を見落とすと、結局人間への対応も手遅れとなる。今後、野生生物の健康影響を対象として毒性検査を行うよう、農薬の使用基準を変えていくことが必要と思われるが、政府の対応如何。
2、避妊用ピル解禁による女性の健康被害や、河川水の女性ホルモン汚染に関する恐れはないのか。これまでに関連すると思われる調査結果や報告を示し、それに対する政府の見解を述べられたし。

六、マイアミ環境サミットでの宣言について

 本年五月、米国マイアミで行われた先進八ヶ国環境サミットにおいて「内分泌撹乱化学物質による子供の健康へのさしせまった脅威」については、「内分泌撹乱化学物質の主要な発生源や環境中の運命が特定された場合はリスク管理や環境汚染の予防戦略を協力的に進め、知識が得られた場合は公衆に情報を伝え続けることを誓う」とされた。これに関して質問する。

1、化学物質製造業界等の自主的な研究において、ホルモン様化学物質の人体へ与える影響などに関する重大な研究結果を意図的に隠蔽した場合、研究機関、業界及び監督官庁の責任はどのようなものと考えるか。宣言の趣旨を踏まえた上で、監督官庁としての通産省の見解、及び当宣言の採択に加わった環境庁の見解を示されたし。また、そのような故意の情報隠蔽により人的被害が拡大したときの業界及び指導官庁の責任はどのようなものか。研究結果に関する虚偽の情報が流されたときの指導官庁の責任はどのようなものか。それぞれ見解を示されたし。
2、今後、エンドクリン問題に関しては、得られた知識が完全なものでなくとも国民生活に与える影響の大きさを考えると情報開示の必要がある場合も出てくると思われる。このように、情報の正確さと情報の早さとを二者択一する判断を迫られる際には、「国民の生命と健康的な生活を守る」ことを基準にすることを確認したい。政府の見解を示されたし。
3、この先進八ヶ国環境サミットにおいて採択された宣言は、法的拘束力をもたない宣言のかたちとなっているが、環境庁としては国際的な場において宣言されたことを誠意を持って実行するために、具体的にはどのように施策に考慮していくのか。環境庁の姿勢を示されたし。同時にこの宣言は「各々の大臣の権限の範囲内において」実施されるものとなっているが、関連する分野は多岐にわたり、ひとり環境庁のみが考慮すれば良しとされるものではない。先進八ヶ国環境サミットという場において宣言されたことを、政府全体として誠意を持って国内政策に反映すべきと思われる。今後、この宣言をどのように受けとめ、具体的にはどのようなかたちで政策に反映していくのか。政府の見解を述べられたし。

  右質問する。