質問主意書

第141回国会(臨時会)

質問主意書


質問第三号

徳島県吉野川第十堰改築計画等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成九年十月二十三日

竹村 泰子   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   徳島県吉野川第十堰改築計画等に関する質問主意書

 徳島県吉野川第十堰改築計画に関しては、平成九年六月九日に「徳島県吉野川第十堰改築計画事業等に関する質問主意書」を提出し、政府から平成九年七月十一日付で、内閣参質一四〇第一二号の答弁書(以下「答弁書第一二号」という。)が寄せられたところである。その答弁内容につき不明瞭な点もあり、事実関係のさらなる解明を求めるために、再度以下の質問をする。

一、吉野川における洪水について

1 過去、吉野川において、第十堰が直接の原因となって川が氾濫した例があるか。ある場合には、いつそれが起こり、その際の氾濫の規模や降水量、河川の流量、被害状況がどの程度であったかにつきそれぞれ示されたい。また、氾濫の原因が第十堰であると判断した理由についても併せて示されたい。

二、粗度係数について

1 答弁書第一二号によれば、粗度係数の当該数値は「高水敷が大きく冠水するような洪水を対象とした計算を行うに当たっては適用できないと判断したものである。このため、当該数値と計画高水位、高水敷の植生の状況等から別途求めた高水敷における粗度係数とを加重平均して算出した数値である御指摘の「〇・〇三八」を、河川全体の粗度係数として用いることとしたものである。」とある。
 しかし、高水敷が冠水するのは、過去の洪水の場合も同じである。具体的に過去の洪水時の冠水深と、計画高水の場合の冠水深がいくらになるのか、一キロメートル毎に示されたい。また、「洪水流量の大部分が低水路を流下した」としているが、過去の洪水での低水路を流下した流量と高水敷を流下した流量、計画高水での低水路を流下する流量と高水敷を流下する流量を示されたい。
2 「第十堰改築事業に関する技術報告書」(以下「報告書」という。)によれば、実績の洪水から求められる粗度係数は、〇~十キロメートル地点では〇・〇二〇~〇・〇三〇、十~二十四キロメートル地点では〇・三〇~〇・〇三五であるにもかかわらず、「低水路を代表する再現粗度係数は、検討結果を包括する値を採用」し、低水路の粗度係数を〇~十キロメートル地点では〇・〇三〇、十~二十四キロメートル地点では〇・〇三五としているが、なぜ包括する値を採用したのか、その理由を示されたい。
3 粗度係数については、「建設省河川砂防技術基準(案)調査編」によれば、「河川の粗度係数は、低水流量、高水流量に対してできるだけ多数の観測資料によって検討しなければならない」とされている。高水敷の粗度係数を求める際に、どのような観測資料を用いて検討したのか示されたい。
4 加重平均して粗度係数が〇・〇三八となった計算の過程及び根拠を示されたい。

三、市民団体の水位計算について

 答弁書第一二号には、「徳島工事事務所は、実行委員会が平成九年五月に作成した「水位計算の結果について」(以下「水位計算資料」という。)を受け取って」おり、「水位計算資料を分析し、同資料について、「計算結果は、誤った結論を得ていると判断せざるを得ない」とする見解を平成九年六月十三日に実行委員会に対して説明している」と記されている。

1 水位計算資料によれば、「建設省の水位計算結果を過去の洪水痕跡と比較すると過去の四洪水全てにおいて、十六キロメートル地点で約一メートルの誤差が生じている」とされているが、事実か。
2 水位計算の結果を分析し、誤った結論を得ていると判断した理由は何か。水位計算資料に沿って詳細に述べられたい。また、市民団体に対し、誤った結論を得ていると判断した理由の一つとして、「エネルギーの連続性が確保されていない」ことを挙げているが、これは建設省の計算したエネルギー水頭と、市民団体の計算したエネルギー水頭の違いであって、「エネルギーの連続性が確保されていない」と結論づけることはできないと考えるがどうか。
3 建設省の水位計算は、単に十四・二キロメートル地点に高さ約五・八メートルの堰を作った場合の計算であって、実際の斜め堰の影響については考慮できているのか。
4 十六キロメートル地点において約一 メートルの誤差が生じている水位計算により、「十六キロメートルの地点においては計画高水位を四十二センチメートル超過する」との結論を得ることは妥当なのか。妥当と考える場合はその根拠を示されたい。

四、報告書について

1 報告書によれば、「治水計画の計画規模は、吉野川流域の人口・資産の集積状況から判断し、基準地点岩津より下流については百五十分の一、上流については百分の一 」としたとしているが、「建設省河川砂防技術基準(案)計画編」によれば、「それぞれの河川の重要度に応じて、上下流、本支川でバランスが保持され、かつ全国的に均衡が保たれることが望ましい」とされているが、なぜ、岩津から下流については、百五十分の一の超過確率を採用したのか、具体的に百五十分の一を採用している河川の例をあげて示されたい。
2 岩津地点の上下流で計画高水流量が異なることになるが、上流地点の百分の一の場合の計画高水流量がどの程度になるのか示されたい。仮に、百五十分の一規模の洪水が発生した場合、岩津より上流では堤防を越水したり、破堤する恐れはないのか。
3 報告書によれば、基本高水流量の算定に当たっては、計画対象十洪水を計画降雨量まで引き伸し、基準地点岩津で計算ピーク流量が最大となる昭和四十九年型の洪水パターンの計算流量二万四千立方メートル毎秒を基本高水のピーク流量としたとある。しかし、「建設省河川砂防技術基準(案)計画編」によれば、ピーク流量が最大となる値を採用する必要はなく、「カバー率は、ほぼ同一の条件の河川においては全国的にバランスがとれていることが望ましい」とされ、「一級水系の主要区間を対象とする計画においては、この値が六十~八十パーセント程度となった例が多い」とされている。なぜ、岩津のピーク流量が最大となる値を採用したのか、その理由を示されたい。また、超過確率百五十分の一を採用している河川のカバー率も併せて示されたい。
4 報告書によれば、計画降雨量を決定するに当たり、大正二年から昭和五十一年までの六十四年間の資料により、超過確率百五十分の一の降雨量を計算しているが、より精度を高めるために、その後の二十年間の資料も追加し、八十四年間のデータにより、超過確率百五十分の一の降雨量を計算した場合には、どのような計算結果になるのか示されたい。

五、斜め固定堰に関する評価について

1 答弁書第一二号によれば、斜め固定堰に関する評価については、「既に縮尺八十分の一の模型を用いた水理実験を行っている」とされているが、斜め固定堰に関する複雑な水の流れについては、どのような実験結果から、どのような評価が行われたのか、詳細に示されたい。
2 水理実験は川底が流水によって変化するいわゆる移動床実験であった。このため、実験を開始すると、時間の経過や流量の変化によって、地形や粗度係数が異なってくることになる。したがって、実験は相当の誤差が生ずることになると考えるが、そのような誤差についてどのように考えるのか。
 この誤差について論じるためには、流量を段階的に増やしていって、流量と水位の関係を明らかにする必要があると考えるが、そのような実験は行っているのか。行っているとすれば、その実験結果につき示されたい。行っていないのであれば、その理由を示されたい。
3 報告書によれば、「斜め固定堰の影響をより適切に再現するために、今後さらに詳細に検討していくこととしている」としているが、水理実験以外にどのような検討がなされているのか、示されたい。
4 水位計算資料によれば、「実際の洪水痕跡を用いて数値解析を行うほうが模型実験の結果より精度が高いと考える。またこうした数値解析によるのは、一般的な河川改修工事で行われている既に確立された方法でもある」としているが、この点については、どのように考えるのか。

六、利水目的、環境保全等について

1 新聞報道によれば、建設省は吉野川第十堰計画で、利水目的を撤回したとされているが、事実か。
2 答弁書第一二号によれば、吉野川河口干潟は、「吉野川全体の生態系を保全する上で必要不可欠なものとまでは言えない」とあるが、平成九年九月八日に環境庁より発表された「シギ・チドリ類渡来湿地目録の作成等について」によれば、「シギ・チドリ類の重要な渡来地域は我が国でも限られた地域(十三地域)であることがわかった」とされており、この中に吉野川河口が含まれている。シギ・チドリの保護という観点で、吉野川河口干潟の重要性をどのように考えているのか示されたい。
3 吉野川河口干潟は、生物の宝庫であると称されているが、どのような生物の存在を確認しているのか。魚介類、底生生物、植物、野鳥に分けて示されたい。
4 可動堰建設後の第十堰環境調査報告書(水質編)の水質予測の前提となる吉野川の流量はいくらに設定しているのか、旧吉野川の上流側、下流側それぞれについて示されたい。また、その流量の設定根拠についても併せて示されたい。
5 第十堰の湛水面積および貯留量について示されたい。また、旧吉野川分流地点の上下流での湛水面積及び貯留量を可動堰建設前と後の値についても併せて示されたい。
6 吉野川第十堰改築につき、これまでに調査費は計上しているか。しているとすれば、その額を年度別に示されたい。また、調査の内容と、その調査費の支出の内訳はどのようになっているのか詳細に示されたい。

七、代替案について

1 現位置固定堰改築案の場合、ケーソン等による堤防補強が必要としているが、川の深掘れ対策でそのような工事が行われた事例があれば、具体的に示されたい。
2 右岸の深掘れ対策が、なぜ通常行われている根固めブロック等の投入ではできないのか、具体的に説明されたい。
3 ケーソン及びコンクリート擁壁の設計計算書を示されたい。
4 過去の洪水において、ケーソン及びコンクリート擁壁が必要とされる状態まで洗掘されたことがあるのか。もしあるとすれば、いつの洪水か。また、洗掘を受けた範囲についても示されたい。
5 現位置固定堰改築案について、樋門の改築に約百七十億円必要としているが、具体的な施設名(位置)及び改築が必要な理由を横断図面等により説明されたい。また、護床工に約百二十七億円必要としているが、護床工の数量及び必要とする根拠を具体的に示されたい。さらに、その他の約二百五十九億円の内訳についても詳細に示されたい。

  右質問する。