質問主意書

第141回国会(臨時会)

質問主意書


質問第二号

PCBの処理対策等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成九年十月十六日

荒木 清寛   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   PCBの処理対策等に関する質問主意書

 PCB(ポリ塩化ビフェニル)がもたらす人体への影響について、世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)が「発ガン性あり」と評価を下し、昭和四十三年に発生したPCBを原因とするカネミ油症事件では眼油増加・爪や口腔粘膜の色素沈着・塩素ニキビ・爪の変形・眼瞼や関節の睡脹・中性脂肪の異常高値などが挙げられている。
 かつてPCBは、安全性・脂容性・蓄熱性・難燃性・絶縁性などを合わせ持った物性があることから、トランス(変圧器)やコンデンサー(蓄電池)などの絶縁油、熱交換器の熱媒体、感圧複写紙などに広範に使用された。
 しかし、前述のカネミ油症事件で死者五十一名を含む一万三千人以上の被害者を出し、その毒性が問題となり、また、PCBによる地球規模での環境汚染の実態が明らかになるに至って、大きな社会問題となった。こうしたことから、昭和四十八年四月に選別保管管理が義務づけられた。続いて同年十月に「化学物質の製造及び審査に関する法律(化審法)」が制定され、PCBは第一種特定化学物質の第一号に指定され原則的に生産・輸入及び新たな使用が禁止された。さらに、同五十一年三月には高温焼却を内容とする処理基準も設定されている。
 PCBの生産・新規使用禁止から二十四年以上が経過し、廃PCBの具体的な処理基準が設けられてからも二十一年が経過している。この間、熱媒体などに利用したものから回収された約五千五百トンのPCBを高温焼却処理した以外、処理・処分は進んでおらず、各事業所・官公署等において保管され続けている。
 廃PCBの保管の継続はリスクが低下されることはなく、むしろ容器の劣化、地震や火災などの事故、保管責任者の変遷などによりリスクが増大する可能性が高く、廃PCBの早期処理対策の確立が強く求められている。
 こうした観点から、以下質問する。

一 PCBの生産・使用などの状況について

1 昭和二十五年頃から輸入が開始され、二十九年から四十七年に生産されたが、その間の生産量・輸入量・国内消費量及び輸出量はどうであったか。
2 国内消費量のうち、現在も使用中の量がどのくらいあるのか。用途別に伺いたい。
3 PCB各種廃棄物の主要製品の標準的な含有割合はそれぞれどうなっているか。

二 廃PCB等の保管状況について

1 廃PCB等の各種廃棄物の保管量及び保管事業所・官公署等の箇所数はそれぞれどうなっているか、主要製品別に伺いたい。
2 厚生省が平成四年度に都道府県・保健所設置市を通じて実施した「PCB廃棄物保管状況調査」の調査対象の事業所・官公署等には、財団法人電気絶縁物処理協会の「PCB使用電気機器保有台帳」への登録の対象外になっている大量保管者(JR各社・日本電信電話株式会社・電力会社・防衛庁)及び電気事業法で定める自家用電気工作物設置者で受電電圧が六百ボルト以下の事業所・官公署等も含まれているのかどうか。
3 大量保管者であるJR各社・日本電信電話株式会社・電力会社・防衛庁のそれぞれの保管量を明らかにされたい。
4 厚生省の「PCB廃棄物保管状況調査」では、PCB使用機器(トランス及びコンデンサー)の七%にあたる六千四百七十四台が、また、PCB入り感圧複写紙の四%にあたる三十四トンが、それぞれ不明・紛失していたことが明らかになっているが、不明・紛失の機器などについて追跡調査を指示したか。指示したとすれば、その結果を明らかにされたい。
5 その後もPCB廃棄物の不明・紛失が後を絶たないといわれているが、保管している事業所・官公署等に対し適正な保管管理についてどのように指導しているか。また、大量保管者に対する指導の実施状況についても説明されたい。

三 高温焼却処理について

1 昭和六十二年十一月から平成元年十二月にかけて鐘淵化学工業株式会社高砂工業所で保管していた約五千五百トンの回収廃PCBを高温焼却処理した際、ダイオキシン類などの有害物質の排出の有無はどうであったか。
2 回収廃PCBを処理した実績のある鐘淵化学工業株式会社高砂工業所の焼却施設においても、その後の処理が行われていないのは何故か。
3 PCB使用電気機器の処理の推進を図るため、昭和四十八年八月に財団法人電気絶縁物処理協会を設立し、処理施設の具体化を目指して同年から六十年にかけて茨城県・福島県など全国三十九か所で立地の働きかけを行ったが、そのいずれもが失敗に終わっている。地元住民あるいは地方自治体の同意が得られなかった要因についてどう分析しているか。

四 情報の管理と公開について

1 財団法人電気絶縁物処理協会が「PCB使用電気機器保有台帳」を保有しているが、これは大量保管者以外の電気機器に限られている。大量保管者の保管分も含め一括して登録・集計を行うようにすべきではないか。
2 PCBを使用中の電気機器についても登録・集計を行うようにすべきではないか。
3 登録事項の更新を継続的に行うようにすべきではないか。
4 「化学物質の安全性に関する政府間フォーラム」(IFCS)の第二回会合が本年二月十日から十四日にかけてカナダのオタワで開催された際、多くの講演者から住民の理解を得てPCB含有物の処理・処分を行うためには情報の公開が不可欠であり、情報の公開により感情的な反対の減少、処理施設立地への協調の推進が図られるなどのメリットがあるとの報告がなされたと聞いている。各事業所・官公署等の廃PCBの保管実態を公表するようにすべきではないかと思料するがどうか。

五 廃PCBの無害化処理について

1 廃PCB等の無害化処理技術については、化学反応で分解する「脱塩素化法」、酸化分解する「超臨界水酸化法」、紫外線と微生物を使って分解・処理する「微生物分解法」などが実用段階に達したといわれているが、生活環境審議会廃棄物部会の廃棄物処理基準等専門委員会では、これまでに、どこの、どのような技術について評価を行ったのか。
2 無害化処理に要するコストは、概ねどのくらいか。処理方法別に明らかにされたい。
3 無害化処理の基準を「廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令」で規定することになると思うが、施行令の一部改正及び施行の時期についてどう予定しているか。本年度中に可能か。
4 無害化処理施設の設置主体、施設の規模についてどう考えているか。また、大量保管者が設置する無害化処理施設で他の事業所・官公署等のものも処理することができるのかどうか。
5 財団法人電気絶縁物処理協会は処理施設の立地についてことごとく失敗したが、無害化処理施設の立地についてどのような見通しを持っているのか。
6 廃棄物の処理にあっては、発生源の近くでその処理・処分を実施すべきであるという「近接原則」があるが、可動式の無害化処理施設も開発されているのかどうか。

六 輸出先の諸外国に対する対応について

1 PCB及びPCB含有物の輸出先は何か国に及んでいるか。
2 輸出先の諸外国に対し、無害化処理などの技術移転等の援助を行うべきではないかと思料するがどうか。

  右質問する。