質問主意書

第140回国会(常会)

答弁書


答弁書第一二号

内閣参質一四〇第一二号

  平成九年七月十一日

内閣総理大臣 橋本 龍太郎   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿

参議院議員竹村泰子君提出徳島県吉野川第十堰改築計画事業等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員竹村泰子君提出徳島県吉野川第十堰改築計画事業等に関する質問に対する答弁書

一の1について

 御指摘の「毎秒一六〇〇〇立方メートル」の数値は、現在の第十堰(以下「現第十堰」という。)の高さを一定のものと仮定し、更に同堰が吉野川の河口から十四・二キロメートルの地点(以下「十四・二キロメートル地点」という。)において流下方向に対して直角に存在するものと仮定した上で、十四・二キロメートル地点から十メートル上流の地点において、その水位が十四・二キロメートル地点の計画高水位とおおむね一致する場合における流量を不等流計算の手法を用いて求めたものである。

一の2の(1)について

 建設省四国地方建設局徳島工事事務所(以下「徳島工事事務所」という。)が、吉野川シンポジウム実行委員会(以下「実行委員会」という。)に対して御指摘の趣旨を説明している。

一の2の(2)について

 御指摘の「毎秒一七三〇〇立方メートル」の数値は、昭和六十二年に行った測量の結果を基に現第十堰の高さを一定のものと仮定し、更に同堰が十四・二キロメートル地点において流下方向に対して直角に存在するものと仮定した上で、吉野川の河口から十六キロメートルの地点(流下方向に対して斜めに設置されている同堰が流下方向に対して直角に存在するものと仮定しても水位の計算上影響がないと考えられる地点)において、その水位が同地点の計画高水位とおおむね一致する場合における流量を不等流計算の手法を用いて求めたものである。
 御指摘の「平成四年に作成されたパンフレットとの差」は、不等流計算において前提とした現第十堰の高さの相違及び計画高水位とおおむね一致する水位を算出した地点の相違によって生じたものである。

一の2の(3)について

 御指摘の「一二・三三メートル」の数値は、現第十堰の高さ及び位置について一の2の(2)についてにおけるものと同様に仮定した上で、吉野川に毎秒一万九千立方メートルの流量が生起しているものとして、十四・二キロメートル地点の水位を同地点において算出される水理学上の限界水深(四・五八メートル)等から算出し、当該水位(十・四五メートル)等を前提に同地点から十メートル上流の地点の水位を不等流計算の手法を用いて求めたものである。

一の2の(4)について

 御指摘の「〇・〇三五」の数値は、吉野川において過去に生起した複数の洪水の観測結果から得られた粗度係数の値であるが、当該数値は、洪水流量の大部分が低水路を流下した事例におけるものであって、水位が計画高水位程度となり高水敷が大きく冠水するような洪水を対象とした計算を行うに当たっては適用できないと判断したものである。このため、当該数値と計画高水位、高水敷の植生の状況等から別途求めた高水敷における粗度係数とを加重平均して算出した数値である御指摘の「〇・〇三八」を、河川全体の粗度係数として用いることとしたものである。
 なお、いずれの粗度係数も、吉野川の河口からの距離が十キロメートルから二十四キロメートルまでの区間について算出したものである。

一の2の(5)について

 御指摘の差は、岩津地点から下流の区間において吉野川に流入する河川からの流入水量等を新たに計算の条件に含めたことによって生じたものである。

一の3の(1)について

 御指摘の記述は、平成七年十一月に建設省四国地方建設局が作成した「第十堰改築事業に関する技術報告書」において現第十堰を改築する必要性の根拠となるデータ等を詳細に公表するに当たって、補足的な説明として行ったものにすぎない。

一の3の(2)について

 現第十堰が流下方向に対して斜めに設置されていることによって洪水時に生じる水の複雑な流れを把握するために、既に縮尺八十分の一の模型を用いた水理実験を行っている。

一の4について

 御指摘の「実施計画調査報告書」については、その存在が確認できない。
 また、徳島工事事務所からの委託により財団法人国土開発技術研究センターが設置した吉野川第十堰地下水等検討委員会が平成二年五月に作成した「吉野川第十堰地下水等検討委員会報告書」は、同委員会が行った現第十堰に代わる新たな可動堰(以下「新第十堰」という。)を設置する位置に関する河川工学的な検討及び新第十堰の設置が地下水に及ぼす影響に関する検討の結果をまとめたものである。

二の1について

 徳島工事事務所は、実行委員会が平成九年五月に作成した「水位計算の結果について」(以下「水位計算資料」という。)を受け取っている。

二の2及び3について

 徳島工事事務所は、水位計算資料を分析し、同資料について、「計算結果は、誤った結論を得ていると判断せざるを得ない」とする見解を平成九年六月十三日に実行委員会に対して説明している。

三について

 吉野川第十堰建設事業は、治水上の必要性から、現第十堰を撤去し、これに代わる新第十堰をその下流側に設置するものであるが、これに伴い堰によって貯留される水量が増加することから、当該増加する水量を利用して水資源開発を行うことが結果的に可能となるものである。
 また、現時点において吉野川第十堰建設事業に係る特定多目的ダム法(昭和三十二年法律第三十五号)第四条第一項に規定する基本計画は未作成であることから、当該基本計画において定められるべき事項である取水量、ダム使用権の設定予定者、建設に要する費用の負担等については未定である。

四の1について

 平成四年度に測量した吉野川の河道形状を前提とした上で、新第十堰の位置を吉野川の河口から十三キロメートルの地点と、新第十堰によって生じる貯水池の常時満水位を阿波工事基準面(東京湾平均海面マイナス○・八三三三メートル)を基準とした高さ五・一メートルとし、かつ、現第十堰の撤去に併せて同堰の上流に堆積している土砂等を約六十六万立方メートル掘削することとした場合における当該貯水池の湛水面積及び貯留量は、それぞれ約百九十八ヘクタール及び約七百三十万立方メートルであると見込んでいる。
 また、通常時における新第十堰から下流への放流量は、現第十堰から流下している流量程度とすることとしている。

四の2の(1)について

 国営吉野川下流域土地改良事業(以下「本件土地改良事業」という。)は、吉野川下流左岸の地域において都市化及び混住化の進展に伴う農業用水の水質の悪化が営農上の制約となっていることから、旧吉野川及び今切川からの取水を吉野川からの取水に変更する等によって同地域に供給される農業用水の水質を改善し、農業経営の安定化及び近代化を図ることを目的として実施しているものである。
 本件土地改良事業に係る土地改良法(昭和二十四年法律第百九十五号)第八十七条第一項に規定する土地改良事業計画においては、柿原取水口を改築し、同取水口からの農業用水の取水を現在の最大毎秒五・五〇立方メートルから最大毎秒十五・四三立方メートルへ九・九三立方メートル増量することを可能にするとともに、第十取水口を新設し、同取水口から最大毎秒十二・一二立方メートルの取水を可能にすることにより、現在行われている旧吉野川及び今切川からの取水の大部分を吉野川からの取水に切り替えることとしている。これによって、吉野川からの取水量は六月一日から六月七日までの代掻きの期間において最大で毎秒二十二・〇五立方メートル、年平均では毎秒八・三七立方メートルそれぞれ増加し、吉野川から旧吉野川への流入量はこれと同量が減少することとなる。
 また、柿原取水口及び第十取水口からの取水量の増加分と、吉野川から旧吉野川への流入量の減少分とが等しくなることから、第十取水口の更に下流に位置する現第十堰から流下する流量は、本件土地改良事業の実施によっては変化しない。

四の2の(2)について

 本件土地改良事業の実施に伴う水利使用については、同事業を所管する農林水産省と同事業に係る水利使用の許可を所管する建設省との間で現在予備的な協議を行っているところであり、河川環境に与える影響についても、今後両省間の協議において十分検討することとしている。

四の3について

 吉野川河口干潟は、国際的な非政府機関であるウェットランズ・インターナショナル・アジア太平洋評議会が、シギ・チドリ類の渡り鳥の生息地間の情報交換を目的として、関係国の合意の下に平成八年三月に構築した「東アジア・オーストラリア地域におけるシギ・チドリ類に関する湿地ネットワーク」を構成する湿地であるが、同ネットワークは特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約(昭和五十五年条約第二十八号。いわゆるラムサール条約)に基づくものではなく、また同干潟は同条約における登録湿地ではないことから、国としては同干潟に関し同条約に基づく保全の義務を負うものではない。なお、御指摘の「日本湿地目録」は、我が国の非政府機関が独自に作成したものである。
 また、吉野川河口干潟は、四国地域では数少ない渡り鳥の渡来地となっているが、約二百キロメートルに及ぶ吉野川全体の最下流部に位置していることから、吉野川全体の生態系を保全する上で必要不可欠なものとまでは言えないと考えている。

四の4について

 徳島工事事務所においては、吉野川河口干潟を含む吉野川の一定の区間において生息する生物等に関する現地調査を実施するとともに、学識経験者等から構成される第十堰環境調査委員会を設置して、当該現地調査の結果の検討、吉野川第十堰建設事業によってもたらされる周辺環境への影響に関する調査等を実施してきたところである。

五の1について

 建設省四国地方建設局が平成八年十二月に作成した「第十堰改築事業代替案について」(以下「代替案検討資料」という。)の十四ぺージに記載されている「3.堤防強化」の事業費三百六十億円は、コンクリートを用いる擁壁工、ケーソンを用いる基礎工、これらと併せて行う掘削工等に要する費用について積算を行った結果得られた事業費の概算である。

五の2の(1)について

 現第十堰が吉野川の右岸に接する部分の直下流の一定の区間における堤防の基盤部分が、当該区間における現況の河床の深さの最大値程度まで流水によって洗掘される状況を想定したものである。

五の2の(2)について

 ケーソン及びコンクリート擁壁の設計は、それぞれ「道路橋示方書・同解説円下部構造編」(社団法人日本道路協会)及び「建設省河川砂防技術基準(案)設計編[I]」(建設省河川局監修)に基づいて行ったものである。

五の3について

 代替案検討資料の十四ページに記載されている「(イ)現位置固定堰改築案」、「(ロ)堤防補強案(現況断面)」及び「堤防補強案(堆砂考慮)」において想定している堤防の嵩上げの高さ及び拡幅の幅は、それぞれ別表第一から第三までのとおりである。

五の4について

 御指摘の関連工事のうち、代替案検討資料の十四ページに記載されている「(イ)現位置固定堰改築案」、「(ロ)堤防補強案(現況断面)」、「堤防補強案(堆砂考慮)」、「(ハ)引堤案(現況断面)」及び「引堤案(堆砂考慮)」の各案において必要となる施設の改築について、その方法及び当該改築に要すると見込まれる費用は、それぞれ別表第四から第八までのとおりである。

五の5について

 代替案検討資料の十四ページに記載されている各案ごとの「5.堰改築」の工種ごとに要すると見込まれる費用は別表第九から第十五までのとおりであり、これらの工種のうちその単位が「式」となっているものの内訳については、別表第十六から第二十二までのとおりである。

六の1について

 既に公表されている吉野川第十堰建設事業審議委員会(以下「審議委員会」という。)の第一回から第五回までの委員会の議事要録によれば、審議委員会の各委員は、委員会の運営方法、吉野川の治水計画、現第十堰が原因で生じていると考えられる治水等への影響、新第十堰の建設に対する代替案、新第十堰が原因で生じることが懸念される周辺環境等への影響等に関し発言している。
 また、審議委員会においては、その議事要録の作成に当たって、発言した委員の氏名を特定しないこととしている。
 なお、第六回委員会の議事要録は、未だ作成されていない。

六の2について

 既に公表されている第五回委員会の議事要録によれば、審議委員会の各委員は、現第十堰が原因で生じていると考えられる治水等への影響、新第十堰の建設に対する代替案、新第十堰が原因で生じることが懸念される周辺環境等への影響等に関し、平成八年十月六日に開催された吉野川第十堰建設事業審議委員会公聴会(以下「公聴会」という。)における公述人の意見も踏まえて発言をしていると考えられる。
 また、審議委員会においては、その議事要録の作成に当たって、発言した委員の氏名を特定しないこととしている。
 審議委員会の委員は、公聴会において配布された同委員会の委員長が作成したアンケートに回答しているが、その趣旨等については、第五回委員会の議事要録によれば、「今後の参考にするため、各委員は、公述人の公述内容をどのように受け止めているかを、アンケートに回答して貰いました。まず、回答を容易にするため、その内容について、非常によく分かった、大体分かった、まあまあであった、分かりにくかった、分からなかったという欄を設け、その何れかにマル印をつけて貰いました。つぎに、公述内容の感想を述べて貰いました。賛成意見と反対意見の公述内容の全体像を知るため、各委員の回答を数値化し、統計処理をしました。その結果、賛成意見、反対意見の間には、全体として、平均の意味で有意差はなく、各委員の受け止め方は、公平に行われていると思いました。」とされているところである。
 なお、第六回委員会の議事要録は、未だ作成されていない。

六の3及び4について

 公聴会に際して住民から吉野川第十堰建設事業に対する意見を記載した書面が提出されたが、それらの中に同一筆跡のものがあったか否か及び組織的応募と思われるものがあったか否かについては、審議委員会において必要に応じて判断されるものと考えている。

別表第一 「(イ)現位置固定堰改築案」

別表第二 「(ロ)堤防補強案(現況断面)」

別表第三~別表第六 1/4

別表第三~別表第六 2/4

別表第三~別表第六 3/4

別表第三~別表第六 4/4

別表第七 「(ハ)引堤案(現況断面)」

別表第八 「引堤案(堆砂考慮)」

別表第九 「(イ)現位置固定堰改築案」

別表第十 「(ロ)堤防補強案(現況断面)」

別表第十一 「堤防補強案(堆砂考慮)」

別表第十二 「(ハ)引堤案(現況断面)」

別表第十三 「引提案(堆砂考慮)」

別表第十四 「(ニ)可動堰案」

別表第十五~別表第十七 1/2

別表第十五~別表第十七 2/2

別表第十八~別表第二十二 1/4

別表第十八~別表第二十二 2/4

別表第十八~別表第二十二 3/4

別表第十八~別表第二十二 4/4