質問主意書

第140回国会(常会)

答弁書


答弁書第八号

内閣参質一四〇第八号

  平成九年六月十七日

内閣総理大臣 橋 本 龍 太 郎   


       参議院議長 斎 藤 十 朗 殿

参議院議員竹村泰子君提出脳死判定基準等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員竹村泰子君提出脳死判定基準等に関する質問に対する答弁書

一の1の(1)について

 御指摘の厚生省脳死に関する研究班(竹内一夫班長)が昭和六十一年一月に厚生省に報告した昭和六十年度研究報告(以下「脳死研究班報告」という。)において示した脳死判定基準及び脳死判定の手順(以下「竹内基準」という。)については、内閣総理大臣の諮問機関である臨時脳死及び臓器移植調査会(以下「脳死臨調」という。)が平成四年一月二十二日に行った答申及び厚生省が設置した「臓器提供手続に関するワーキング・グループ」が平成六年一月に行った報告において、その時点における医学水準から見る限り、妥当なものとされているところであり、現在の医学水準に照らし合わせても妥当であると考えている。

 一の1の(2)及び(3)について

 御指摘の脳低温療法は、重症の脳卒中、頭部外傷等の脳障害の患者を救命する新しい治療法の一つとして、今後期待できるものと考えているが、救急患者を含め、個々の患者に対しどのような治療法が適応するかについては、主治医が患者の症状に応じて判断すべきものであり、特定の治療法について、脳死判定の前提条件としてその実施を必須とすること、医療機関の医師に対して一律にその実施を指導することは適当でないと考えている。

一の1の(4)及び(5)について

 竹内基準においては、脳障害の原因が確実に診断されており、それに対し現在行い得るすべての適切な治療手段をもってしても、回復の可能性が全くないと判断される症例を脳死判定の対象とすることとしており、脳死判定を開始する段階では、呼吸管理、血圧管理など生命維持に必要な治療は継続されるが、いわゆる救命治療(患者を回復させるための積極的な治療をいう。)は、一般に行われないものと理解している。
 また、脳死と判定される前の患者に対する個々の処置の内容及び臓器の保存のための処置については、詳細を承知していないが、脳死と判定される前に臓器保存のための処置が行われることは不適切であると考えている。

一の1の(6)について

 腎臓移植を行う場合、心停止により血流が途絶すると腎臓の細胞の壊死が急速に進行して、移植後の生着率に大きく影響することから、腎臓提供者の心臓死後できるだけ速やかに灌流液を流すため、脳死と判定された後にカテーテルを挿入する措置を行うことは医療現場において一般に行われていると承知している。この処置は、カテーテルの挿入自体は検査等を目的として一般の患者に対しても行われているように患者の身体への侵襲性が極めて軽微であり、腎臓移植を医学的に適正に実施する上で必要と認められる処置であると考えているが、この処置を脳死と判定される前に行うことは不適切であると考えている。

一の1の(7)について

 厚生省としては、脳死と判定される前の患者に、移植のために臓器を保存することを目的とした処置が行われることは不適切であると考えている。
 御指摘の日本移植学会作業部会編「臓器提供マニュアル」(案)(一九九七年度版)は、本年二月八日に日本移植学会が検討の途中の段階で案として公表したものであり、その後、同年四月十二日に取りまとめられた「日本移植学会臓器移植ネットワーク行動指針」には、御指摘の「脳死判定が終了した時点で完全に切り替え」との記述はないものと承知している。
 また、御指摘の治療の切替えに当たっては、家族に対してその内容についての説明がなされ、承諾が得られていることが必要であると考えている。

一の2について

 脳死を「脳幹を含む全脳の不可逆的な機能停止」とする考え方は、脳死研究班報告において明らかにされ、平成四年一月二十二日の脳死臨調の答申においても御指摘の「器質死」の考え方ではなく、この考え方が用いられたところであり、現在の医学水準に照らし合わせても妥当であると考えている。諸外国においても、全脳又は脳幹の不可逆的機能喪失をもって脳死とされているものと承知している。
 また、救急患者を含め、個々の患者に対しどのような治療法が適応するかについては、主治医が患者の症状に応じて判断すべきものであり、特定の治療法について、脳死判定の前提条件としてその実施を義務付けることは適当でないと考えている。
 なお、竹内基準に基づいて脳死と判定された患者に脳低温療法を実施しても回復する可能性はないと承知しており、本年四月八日の衆議院厚生委員会における日本大学医学部林成之教授の意見陳述においても、同趣旨のことが述べられていると承知している。

一の3について

 脳死研究班報告においては、竹内基準に従って脳死判定を行う場合の無呼吸テストは原則として最後に行われるべきであると述べられており、また、当該報告を作成した研究班の構成員が作成した「厚生省「脳死に関する研究班」脳死判定基準の補遺」においては、実際の手順としては、他の条件が満たされた後の判定の最終段階における検査であること、万一検査中に生命徴候の危険な変化が見られた場合には検査が中断されること及び竹内基準に述べられている注意事項を守り手順どおり行えば安全かつ確実であることが述べられており、御指摘のように無呼吸テストが助かる可能性のある患者を死に追いやる危険性はないと考えている。

二の1について

 御指摘の大阪大学医学部附属病院特殊救急部の処置については、厚生省において文部省を通じて同附属病院に確認したところ、御指摘の九月一日午前二時に施行した大量の輸液と抗利尿ホルモンピトレッシン及び昇圧剤の投与は、専ら当該患者の大量利尿によるショックという緊急事態からの離脱、すなわち救命のために行われた処置であり、御指摘の「救命治療を打ち切り」、「救命治療に逆行する臓器保存術を家族に無断で施行した」という点については事実とは異なり、同附属病院は当該処置は正当と是認しているという趣旨の回答があったところである。また、同附属病院においては、脳死と判定される前から救命治療を打ち切り、臓器保存術を家族に無断で施行する方針はないとの回答があったところである。
 医師の行う個別具体的な医療の内容について、明らかに法令に違反する疑いがない限り、厚生省がその適否を判断することは適当でないと考えるが、一般論としては、竹内基準の前提条件にもその考え方が盛り込まれているとおり、脳死判定を開始するまでに、患者に対して救命のために適切な治療が行われることは当然のことと考えている。また、患者が脳死と判定された後における臓器保存のための処置は、家族の承諾が得られた上で行われることが必要であると考えている。

二の2について

 御指摘の学校法人関西医科大学附属病院救急センターの処置については、厚生省において文部省を通じて同センターに確認したところ、御指摘の事実関係については、一部事実とは異なっており、同センターが当該患者に対して行った処置は、救命のために必要な治療及び死体腎移植のための一般的なものであり、患者の死亡時期を早めることを意図したものではないという趣旨の回答があったところである。また、同センターにおいては、脳死と判定される前から救命治療を打ち切り、臓器移植の目的のために臓器保存の処置をして移植準備のための手術を行う方針はないとの回答があったところである。
 厚生省としては、医師の行う個別具体的な医療の内容について、明らかに法令に違反する疑いがない限り、その適否を判断することは適当でないと考えるが、一般論としては、竹内基準の前提条件にもその考え方が盛り込まれているとおり、脳死判定を開始するまでに、患者に対して救命のために適切な治療が行われることは当然のことと考えている。腎臓移植チーム及び血管摘出チームが待機することは、腎臓移植及び血管摘出を行う際には一般に行われており、特に法令上問題があるとは言えないと考えている。血管の摘出に当たっては、家族に対し説明がなされ、承諾が得られていることが必要と考えており、カテーテルを挿入することについては、一の1の(6)についてで述べたとおりである。