質問主意書

第140回国会(常会)

答弁書


答弁書第三号

内閣参質一四〇第三号

  平成九年五月三十日

内閣総理大臣 橋本 龍太郎   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿

参議院議員山口哲夫君提出浜岡原子力発電所の耐震性に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員山口哲夫君提出浜岡原子力発電所の耐震性に関する質問に対する答弁書

一について

 A破砕帯については、「浜岡原子力地点基礎岩盤の地質に就て」のみで判断しているのではなく、浜岡原子力発電所敷地のボーリング調査及び試掘坑調査を行い、地盤及び地質の専門家の意見も踏まえて総合的に評価した結果、安全上支障となるものではないと判断したものである。

二について

 原子力発電所の耐震設計において考慮すべき大規模な地震を引き起こす活断層は、繰り返し活動するものである。このような活断層であれば、一般に、周辺に断層が認められたり、その活動の結果が地表付近の地形又は地質構造に影響を与え、それが何らかの痕跡として認められる。したがって、原子力発電所の立地の際には、詳細な文献の調査及び現地調査に基づく慎重な検討により、原子力発電所の安全性に対する活断層の影響は適切に評価することができる。
 浜岡原子力発電所においては、詳細に文献を調査した上で空中写真判読によるリニアメント調査、ボーリング調査及び試掘坑調査等を行ったが、活断層を示唆する痕跡が何ら認められないことから、その敷地直下には、原子力発電所の安全性に影響を与えるような内陸型の活断層はないものと認識している。
 その上で、浜岡原子力発電所についても、「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」(昭和五十六年七月二十日原子力安全委員会決定。以下「耐震設計審査指針」という。)に基づき、マグニチュード六・五の直下地震を考慮した耐震設計を行って万全を期している。

三について

 原子力発電所の基礎岩盤の安定性は、その岩盤が硬岩であるか軟岩であるかによって決まるのではなく、岩盤の極限支持力、岩盤のせん断抵抗力及び岩盤の沈下量を基に判断されるものである。浜岡原子力発電所の基礎岩盤は、原子炉格納容器等の主要構造物を支持する岩盤として十分な安定性があると認められる。
 浜岡原子力発電所三号炉における岩盤は、新第三紀に堆積した岩盤であり、その極限支持力は約二百三十キログラム毎平方センチメートルであるのに対し、耐震設計審査指針が基準として定める静的地震力を作用させた場合の最大接地圧は約十一キログラム毎平方センチメートルである。岩盤のせん断抵抗力は約三十四万トンであるのに対し、当該場合の原子炉建屋基礎底面に作用する地震力は約十八万トンである。また、当該場合の岩盤の沈下量は、建物及び機器に有意な影響を及ぼすものではない。

四について

 浜岡原子力発電所においては、法令に基づき約一年に一回原子炉を止め定期的な検査を行うなど、設備の品質・機能の確認を行うとともに、必要に応じ予防保全対策を実施することにより、供用期間中における設備の健全性を維持している。
 現行指針策定前に設置許可を受けた浜岡原子力発電所一、二号炉の耐震安全性については、「指針策定前の原子力発電所の耐震安全性」(平成七年九月資源エネルギー庁原子力発電安全企画審査課、原子力発電安全管理課)の報告書にあるとおり、浜岡原子力発電所三、四号炉と同じ設計用基準地震動S1、S2を用いて評価を行っても耐震安全性が確保されていることを確認している。
 なお、原子力発電所の重要な建物・構築物は岩盤に直接支持される構造になっているので、その耐震設計は、当該原子力発電所を立地しようとする地点の岩盤上において考えられる最大の地震動を想定し、それに耐え得るように行っている。したがって、別の地点の地表において観測された八百三十三ガルのデータをもって原子力発電所の安全性を評価することは適切ではない。

五について

 耐震設計審査指針においては、設計用最強地震又は設計用限界地震による水平地震力と、基準地震動S1又はS2の最大加速度振幅の二分の一の値を鉛直震度として求めた鉛直地震力が、同時に不利な方向の組合せで作用するものとして原子力発電所の耐震設計を行うべきこととしている。
 この鉛直地震力の考え方の妥当性については、「平成七年兵庫県南部地震を踏まえた原子力施設耐震安全検討会報告書」(平成七年十月原子力安全委員会)でも確認されている。すなわち、上下動と水平動の両方向の地震動が作用する場合、一般に上下方向と水平方向の地震動の最大加速度の生起時刻及び施設の上下方向と水平方向の振動特性の差等により両方向の最大応答の発生時刻は異なるため、時刻歴波形が得られている二十三地点の観測記録を対象として水平方向の最大加速度の発生時刻における水平方向に対する上下方向の加速度振幅の比を分析した結果、平均値は〇・一程度、最大値は〇・三程度となり、二分の一を大きく下回ることとなったと報告されている。
 また、同報告書では、「原子炉施設はその構造から全体的に見て上下方向には特に剛性の高い構造となっており原子炉施設の耐震安全性に与える影響が小さいとみなすことができる。」とされており、耐震設計審査指針に基づく地震力に耐え得るよう設計されている浜岡原子力発電所の耐震安全性は確保されている。

六について

 金井式は岩盤上(基盤)における地震動の最大速度、震源距離及びマグニチュードの関係を表す経験式である。一方、地震の震度は、地表における地震の揺れを表すものである。
 岩盤における地震動は、一般に、岩盤と地表との間の地層を通過して、地表上に到達するまでの間に増幅される特性を有する。このため、岩盤における地震動を金井式によって算定した数値の大小関係と、地層を通過することにより増幅作用を受けた地表における震度の大小関係について比較することは適当ではなく、それをもって金井式の妥当性を否定する根拠とすることはできない。
 金井式は、地震工学の分野において一般にその妥当性が十分認められており、今日においてもなお広く使用されている経験式である。浜岡原子力発電所は、岩盤に直接支持される設計になっているため、岩盤上における地震動を算定する計算式として金井式を用いることは適切である。

七について

 NUREG-一一五〇では、アメリカのマークIタイププラントの例としてピーチボトム2号機について地震に対する解析を行っているものであり、その結果を直ちに他のプラントに当てはめることは適当ではない。
 なお、同文献には、格納容器について、「地震解析はすべての原因(直接的な格納容器破損又は炉心損傷の影響による破損)からの早期格納容器破損の条件付き確率が〇・九であることを示している」との記載がある。これは、地震により炉心損傷が起きるとした場合(この確率自体は、七・五二×十のマイナス五乗毎年である。)に、格納容器が早期に破損する確率が〇・九ということを意味するものであって、「格納容器が火災や地震で破損する確率が〇・九」ということを意味するものではない。
 浜岡原子力発電所については、格納容器等の安全上重要な設備は想定東海地震(マグニチュード八・〇)を上回るマグニチュード八・四の設計用最強地震、さらにはマグニチュード八・五の設計用限界地震により耐震設計を行っており、東海地震により安全上の問題が生じるものではない。

八について

 浜岡原子力発電所においては、過去に敷地に影響を及ぼしたと考えられる津波に関し、地震の大きさ、震源の場所に関する文献調査結果等を基に津波の断層モデルを設定し、文献調査及び事業者の調査結果に基づく海底地形をモデル化するとともに、地形等を勘案した適切な境界条件を設定した上でシミュレーションを行い、津波の高さを評価している。したがって、浜岡原子力発電所の敷地における津波に対する安全性は十分確保されている。

九について

 原子力発電所の安全上重要な設備は、その地域で想定される最大の地震に対しても機能が維持できるように設計されており、同時多発的事故が起きることを耐震設計上考慮する必要はない。
 なお、浜岡原子力発電所における制御棒の緊急挿入は、蓄圧された水圧を利用して行われることになっており、平常時においては、この水圧は電源により保持された弁によって遮断されている。したがって、制御棒駆動に関連する電源が万一何らかの理由で失われた場合にはその弁が自動的に開いて制御棒が挿入され、原子炉が停止するフェールセーフの設計になっている。