質問主意書

第140回国会(常会)

質問主意書


質問第一二号

徳島県吉野川第十堰改築計画事業等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成九年六月九日

竹村 泰子   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   徳島県吉野川第十堰改築計画事業等に関する質問主意書

 徳島県吉野川において、吉野川第十堰建設計画が進行中であるが、この計画については、事業の必要性をはじめ、環境に与える影響など数多くの疑問点がある。そのため、計画策定の根拠等につき、事実関係の究明が必要であると考える。そこで、以下質問する。

一、建設省の水位計算について

 建設省の水位計算は、短期間で何度も変わり、その合理性に疑義があると言わざるを得ない。

1 平成四年の建設省徳島工事事務所パンフレット「吉野川第十堰」によれば、「現第十堰は固定堰のため計画高水流量に対し、毎秒約三〇〇〇立方メートルの疎通能力が不足している」。そこで「堰地点の計画高水流量一九〇〇〇立方メートルを安全に流下させるため、固定堰である現第十堰を可動堰に改築して、疎通能力の増大をはかり、吉野川下流域の水害を防除します。」とあるが、現況流下能力を毎秒一六〇〇〇立方メートルとし、毎秒三〇〇〇立方メートルの疎通能力が不足しているという計算の根拠を記されたい。
2 平成七年三月には、市民団体の公開質問に対して、「現況流下能力は一七三〇〇立方メートル毎秒であり、計画高水流量に対し一七〇〇立方メートル毎秒不足している」と回答したと聞いているが、

(1) 事実か。
(2) 平成四年に作成されたパンフレットとの差はなぜ生じたか、理由と計算の根拠を記されたい。
(3) 毎秒一九〇〇〇立方メートルの計画洪水時における、河口から一四・二キロメートル地点の出発水位一二・三三メートルの算出根拠と計算過程を明らかにされたい。
(4) 過去の洪水結果から得られた粗度係数は〇・〇三五であるにもかかわらず、今回〇・〇三八という値を用いているが、その理由は何か。算出過程も含めて説明されたい。
(5) これまでの流量配分では、岩津と第十における流量については差がなかったが、現計画では岩津が毎秒一八〇〇〇トン、第十が毎秒一九〇〇〇トンと一〇〇〇トンも差がでている。その理由を説明されたい。

3 さらに、平成七年一一月の「第十堰改築事業に関する技術報告書」によれば、「斜め固定堰の流れを忠実に再現するのは限界がある。」「したがって斜め固定堰の影響をより適切に再現する必要がある」とされているが、

(1) なぜ、このような説明がこれまでなされなかったのか、理由を記されたい。
(2) 適切に再現するために、どのような方法を考えているか説明されたい。

4 以前に、「実施計画調査報告書」ならびに、「地下水等検討委員会報告書」が作られているが、その内容を簡潔に記されたい。

二、市民団体の水位計算について

 さる五月八日に、市民団体の吉野川シンポジウム実行委員会が、建設省資料をもとに独自の水位計算をしたところ、一九〇〇〇立方メートル毎秒の計画洪水における水位は、計画高水位を超えないと指摘しているとされているが、

1 この計算結果を受け取っているか。
2 この計算結果を建設省として解析しているか。していないとすれば、それはなぜか。
3 この計算結果についての解析結果について記されたい。解析が終了していないならば、いつ解析できるのか記されたい。

三、利水目的について

1 可動堰にすることによって新たに生まれる水量はいかほどか、どのように確保するのか。また、その開発可能水量の算出根拠を記されたい。
2 徳島市・鳴門市などが、新たに水道用水を必要とする量はどれくらいか。これに伴う建設費の負担額はいくらか。また、必要量の根拠である水需要予測について記されたい。

四、環境目的等について

1 可動堰によって生ずるダム湖の面積と容量ならびに浚渫計画を、根拠を示して明らかにされたい。また、堰下流への義務放流量につき記されたい。

2 農林水産省の行う農地防災事業について

第十堰の上流約九キロメートルの地点にある柿原堰から、毎秒最大一五・四三トン、第十堰から毎秒最大一二・一二トンを取水する、「吉野川下流域農地防災事業」が進行中である。これによって、吉野川本川から大量の取水がなされ、環境への影響が懸念されるところである。

(1) 当事業による取水によって、旧吉野川流入量、第十堰通過流量はどの程度減少するのか記されたい。
(2) 農地防災事業が完成した場合に河川環境に与える影響はどの程度であると考えるか。根拠と理由も併せて記されたい。

3 吉野川河口干潟は、ラムサール条約締結国会議のシギチドリネットワーク地に指定され、また、国際的にも特に重要な二十四湿地のひとつとして日本湿地目録に登録されている貴重な干潟である。ここを保存することは、吉野川の河川における生態系を保つ上で必要不可欠と考えるが、この点についての認識を記されたい。
4 吉野川河口干潟についての総合的な調査・検討を行っているか。いないとすればその理由を記されたい。また、していないとすれば、貴重な生態系につき早急に調査するべきであると考えるがいかがか。

五、代替案について

 第五回第十堰建設事業審議委員会に提出された建設省資料3「第十堰改築事業代替案について」(以下「資料」という)につき、住民が主張している現堰補修の代替案について質問する。

1 資料では、堤防補強の費用を一キロメートルで三六〇億円と見込んでいるが、この計算根拠を示されたい。
2 この付近の堤防は、完成以来一度も決壊しておらず、過去の洪水による深掘れについても十分な補強がなされており、深掘れ対策であれば通常の根固め工事で十分であると考える。

(1) どのような状況を想定して、堤防補強にケーソン基礎と擁壁が必要と判断したのか、明らかにされたい。
(2) ケーソンの直径、深さやコンクリート擁壁の大きさを決めた根拠となる構造計算につき、示されたい。

3 堤防補強の方法について、一キロメートル毎に、嵩上げの高さ、拡幅の幅を具体的に示されたい。
4 資料一四頁の治水対策案事業費集計表にある関連工事について、どの施設をどのように改築するのか、具体的に費用も含めて説明されたい。
5 同表の5にある堰改築費の内訳をそれぞれの案につき示されたい。また、内訳のうち一式となっている項目につき、具体的な内訳数量を記されたい。

六、吉野川第十堰建設事業審議委員会について

 発足から二年近くが経過した第十堰建設事業審議委員会について、

1 六度に及ぶ審議委員会で、具体的な論点につき、委員間の議論がなされたのか。議論となった点と、その論点について発言のあった委員の氏名と意見の内容につき記されたい。
2 公聴会での住民の意見が審議委員会の場で議論された事実はあるか。具体的に議論となった点と、その論点について発言のあった委員の氏名と意見の内容につき記されたい。また、公聴会の席上、各委員が公述人の意見を五段階評価していたということは事実か。その目的は何か。
3 公聴会に先立つ県民の公募意見について、同一筆跡のものがあったか。
4 公聴会に先立つ県民の公募意見につき、明らかに組織的応募と思われるものがあったか。

  右質問する。