質問主意書

第140回国会(常会)

質問主意書


質問第八号

脳死判定基準等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成九年五月十三日

竹 村 泰 子   


       参議院議長 斎 藤 十 朗 殿


   脳死判定基準等に関する質問主意書

一、厚生省脳死判定基準(竹内基準)に関して問う。

1、厚生省脳死判定基準の前提条件について
厚生省脳死判定基準の「前提条件」として記載されている「(2)原疾患が確実に診断されており、それに対し現在行いうるすべての適切な治療をもってしても、回復の可能性が全くないと判断される症例」について伺いたい。

(1) 右前提条件は現在も全く変わりのない重要な前提条件であるのか。
(2) 脳死直前患者について、日本大学医学部救急医学科教授林成之氏によって、「脳低温療法」により多数の患者が救命されている事は周知の事実であるが、脳死判定を行う患者の対象として、右「脳低温療法」の適用のある患者については同治療法を必須とした後ででなければ脳死判定をしてはならないと考えるが厚生省はどのように判断するのか。
(3) 厚生省は全国の大学病院、救命救急センター、救急指定病院に対し、「脳低温療法」もしくは、名称の如何を問わず、右療法と同等の効果をもたらす医療を推進すべく指導を行う方針を有しているのか否か。
(4) 前記「前提条件」に関係して、脳死直前患者(切迫脳死といわれる)について、厚生省基準による脳死判定で脳死確定(第二回の判定による)以前に救命治療を中止する医療実態を容認されているのか否か。
(5) 脳死確定以前の患者について救命治療を中止し終末医療に移行させるとともに臓器保存のための処置を行う医療実態を容認されているのか否か。
(6) 脳死確定以前もしくは心臓死以前に、臓器移植のための準備行為として、例えば、腎臓に灌流液を流すためのカテーテル挿入手術を行うことなどを容認されているのか否か。
(7) 日本移植学会作業部会編「臓器提供マニュアル」(一九九七年度版)一二頁「臓器提供の望ましいドナーの状態とその維持」の項において、治療方針変更の時期に関して「脳死判定が終了した時点で完全に切り替え」とあるが、前後の文脈及び医療実態に基づけば、脳死判定確定前の「脳死状態」(切迫脳死を含む)で、既に治療方針を徐々に臓器保存の方法に切り替えて、脳死判定後に「完全」に切り替える趣旨と読めるが、もし、そうであれば厚生省は右マニュアルの方針を容認するのか否か。
 また、治療の切替えについて「家族の承諾」が書かれていないが、右承諾を厚生省は不要と考えているのか否か。

2、「全脳の不可逆的機能喪失」について

 「脳低温療法」を開発した日大医学部林成之教授の衆議院厚生委員会での意見陳述において、同治療法について「危篤状態の細胞に対して、脳の低体温管理によりまして細胞の中に発生するあらゆる病態をとめている間に、神経細胞が回復してくる・・・・」治療法を説明し、これまでの脳死は「細胞レベルまで含んでいない概念でとらえられてきた」が「医学の進歩とともに脳死も細胞レベルの点まで含めて考える時代」に入った事を陳述している。
 したがって、「機能喪失」を脳死概念にすると細胞レベルで回復可能な状態を回復不可能と判断してしまう危険性があり、「器質死」の要件を入れる判定基準が必要となっている。
 しかるに、現在の脳死の定義は「全脳の不可逆的機能喪失」となっている。この基準をもって「脳死者」とした場合、「脳低温療法」の施行により助けられる患者をも見殺しにする危険性があると考えられる。それゆえ、脳死判定の前提としては脳低体温療法を義務づける必要があると考えるが、厚生省の見解を明らかにされたい。

3、無呼吸テストについて

 従前から無呼吸テストが死に追いやる危険性があることが指摘されていたが、前記林教授の意見陳述でも明確に「無呼吸テストによって脳蘇生の可能性を断ち切っているのではないか」と指摘され、他の方法にかえるべきことを提言されている。
 「脳死」をもって「人の死」と考える立場に立ったとしても、「脳死」であるか否かを検査する方法としての「無呼吸テスト」は助かる可能性のある患者を死に追いやる危険性を有していると考えられる。無呼吸を確認する他の方法にかえる方針を厚生省はもっているのか。

二、医療実態について問う。

1、大阪大学医学部附属病院特殊救急部の処置について

 一九九〇年八月二九日入院同年九月四日死亡(但し、心臓死は九月五日)の男性患者(一九四九年一〇月二七日生)の治療に関し、同大学の脳死判定基準により九月四日に脳死が確定する以前の九月一日午前二時に救命治療を打ち切り、同時に、救命治療に逆行する臓器保存術(大量の輸液と抗利尿ホルモンピトレッシン及び昇圧剤の投与)を家族に無断で施行したことについて伺いたい。

(1) 厚生省は右事実を確認したのか否か。    
(2) 右事実を確認済であればそのうえで、確認されていないのであれば調査確認のうえで、

(イ) 右処置を厚生省は容認されているのか否かについて、前記脳死判定基準の「前提条件」との関係で根拠を明示して回答されたい。
(ロ) 大阪大学医学部当局は右処置を正当として是認しているのか否か、調査のうえ回答されたい。
(ハ) 右大学当局は今後も、脳死判定確定前から救命治療を打ち切り臓器保存術を家族に無断で施行する方針なのか否か、調査のうえ回答されたい。

2、学校法人関西医科大学附属病院救急センターの処置について

 一九九三年一〇月二五日入院同年一一月二日死亡の女性患者(一九六四年九月一一日生)の治療に関し、一〇月二八日瞳孔散大により救命治療は打ち切り終末医療に移行するとともに、一〇月三一日家族の「死亡後の腎臓提供の承諾」によって、死亡を早めるため、昇圧剤投与を中止したうえ、同投薬の中止によって計算予測される死亡時刻に移植チームを待機させたほか、承諾もされていない血管摘出チームも待機させ、生存中の患者の大腿部を切開して移植準備のためのカテーテルを挿入したことについて伺いたい。

(1) 厚生省は右事実を確認したのか否か。
(2) 右事実を確認済であればそのうえで、未確認であれば調査確認のうえで、

(イ) 右処置を厚生省は容認されるのか否かについて、前記脳死判定基準の「前提条件」との関係で根拠を明示して回答されたい。
(ロ) 関西医科大学当局は右処置を正当として是認しているのか否か、調査のうえ回答されたい。
(ハ) 右大学当局は今後も脳死判定確定前から救命治療を打ち切り臓器移植の目的のために臓器保存の処置をして移植準備のための手術を行う方針なのか否かを調査のうえ回答されたい。

  右質問する。