質問主意書

第140回国会(常会)

質問主意書


質問第七号

遺伝子組換え食品の表示等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成九年四月二十八日

荒木 清寛   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   遺伝子組換え食品の表示等に関する質問主意書

 厚生大臣は食品衛生調査会の答申を得た上で平成八年九月二日、「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」に適合していることの確認申請のあった除草剤耐性、あるいは害虫抵抗性の大豆・ナタネ・ジャガイモ・トウモロコシの四作物七品種の遺伝子組換え食品について、申請各社に対し確認通知を発出した。また、農林水産大臣は農業資材審議会飼料部会の答申を得た上で同年九月二六日、「組換え体利用飼料の安全性評価指針」に適合していることの確認申請のあった大豆・ナタネ・トウモロコシの三作物六品種の組換え体利用の油粕飼料について、申請各社に対し確認通知を発出した。
 なお、これらに続いて目下、トウモロコシ・ナタネ・ジャガイモ・天ぷら油やサラダ油等に利用される綿実油の四作物一二品種の遺伝子組換え食品について確認申請が出されており、食品衛生調査会のバイオテクノロジー特別部会が本年三月一三日に四作物八品種と酵素一品種について安全性評価が行われていると判断する旨の部会報告を行っている。
 ところで、私は第一三九回国会の「質問第三号」として平成八年一二月一七日に『遺伝子組換え食品に関する質問主意書』を提出し、「安全性を証明するデータは第三者機関によるものではない等、その安全性に強い不安を抱く消費者も少なくない。さらに、遺伝子組換え食品か否かは外見上区別がつかないため、消費者は、店頭に並んだ食品を判別する方法はない。消費者の選択権を確保する観点から、表示の義務付けが強く求められている。」とした上で、流通実態の把握、安全性の科学的根拠、自然環境への影響、表示義務付け制度の導入について政府の見解を求めた。そして、本年一月二四日に答弁書の送付を受けた。
 その答弁内容は、大要、「既存の食品と同程度の安全性が確保されている」「遺伝子組換え技術が危険だという科学的根拠がない」「表示制度の導入は適切でない」などとして、流通実態の把握すら考えていないというものであった。
 国会法第七十五条第二項の規定によれば、内閣は質問主意書を受け取った日から七日以内の答弁が義務付けられているのに対し、本件答弁書は、十分日時を費やして作成されたにも拘らず、現状を糊塗することに終始しており、到底、納得できない。また、本件質問主意書提出後、遺伝子組換え食品、なかんずくその表示を巡る動きは国内外で活発化している。そこで前回の答弁内容を念頭に置きつつ、表示義務付け制度の導入の問題を中心課題に据え、ここに改めて再度質問する。

一 遺伝子組換え食品及び組換え体利用飼料の輸入実績について

1 昨年九月に厚生大臣及び農林水産大臣が安全性確認通知を発出してからの遺伝子組換え食品及び組換え体利用飼料の輸入実績は、それぞれどうなっているか。何がどれだけ輸入されているのかの情報開示が全くなされていない。既に消費者は気づかないうちに、遺伝子組換え食品を原材料に使用した豆腐・味噌・醤油・ビール・菓子等を飲食しているのではないか。
2 消費者団体は、「二%の品目のために他の遺伝子組換えをしていない原材料まで灰色にする必要はない」と言っている。食品・飼料の輸入実績に占める遺伝子組換え食品・飼料の比率はどうなっているか、作物ごとに明らかにされたい。

二 遺伝子組換え食品及び組換え体利用飼料の今後の安全性確認について

1 本年三月一三日に食品衛生調査会のバイオテクノロジー特別部会から報告がなされた四作物八品種と酵素一品種についての食品衛生調査会における取扱い、確認通知の目途について伺いたい。
2 遺伝子組換え食品の第三回目の安全性確認申請の受付時期をどう予定しているか。また、安全性確認申請がどの程度あると見ているか。また、国内企業の動きについてどう把握しているか。
3 組換え体利用飼料の今後の安全性確認の予定についても伺いたい。

三 遺伝子組換え食品を巡る海外の動きについて

1 政府の「安全性に問題はない、表示を義務付ける必要はない」という姿勢とは対照的に諸外国においては輸入禁止の措置や表示制度の導入への動きが顕著になっている。ルクセンブルグは本年二月から遺伝子組換えトウモロコシの輸入を禁止している。オーストリアは本年二月に遺伝子組換えトウモロコシを三カ月間輸入を禁止し、さらに、国会で立法化について審議する運びとなっている。フランスのシラク大統領は「フランスでは表示規定が徹底するまでは遺伝子組換え食品を販売させない」と発言している。スイスは遺伝子組換え大豆の販売延期を決定しており、オーストラリア、ニュージーランドは遺伝子組換え食品を禁止し、例外的に認めたものは微量であっても必ず表示を義務付けるという規制指針案を発表している。米国最大の有機農産物認定機関であるオーガニック農作物改良協会も遺伝子組換え作物の使用禁止を認定原則に加える方向であることを明らかにしている。ノルウェーはあらゆる遺伝子組換え食品に表示を義務付けており、オランダ・スイス・オーストリア・ニュージーランドが表示の法制化を進めている。また、欧州議会がラベル表示に関する新規則を議決している。それにヨーロッパ二十カ国の食品卸・小売り業者の連合組織であるユーロコマース、ノルウェーの大豆輸入業者連合、スウェーデン食品業界、イギリスの生協卸売り協会CWS、オーストリア最大の量販店であるコープスイスを含むスイス小売り業者三十社連合などの多くの企業が遺伝子組換え食品の原料への不使用、あるいは表示を約束している。ボイコット運動も盛んで、国際ボイコットキャンペーンの呼び掛けにより、四月二一日から二六日までを「遺伝子組換え世界行動ウィーク」とし、世界中で抗議行動を展開した。政府はこうした遺伝子組換え食品を巡る世界の動きをどこまで把握しているか。また、こうした動きをどのように認識し、我が国の施策に反映させようと考えているか。
2 これらの動き以外で把握していることがあったら明らかにされたい。

四 国内の表示義務付け制度の導入等を求める動きについて

1 東京都議会・名古屋市議会など多くの地方議会から、地方自治法第九十九条第二項の規定に基づく、遺伝子組換え食品に関する意見書が提出されているが、現在、その議会数はどの位に上っているか。また、その意見書は概ねどのような内容になっているか。
2 日本消費者連盟などの消費者団体から表示義務付け制度の導入等を求める要望書が相当数提出されているのではないかと思料するが、どの位の団体から提出されているか。また、その要望書は概ねどのような内容になっているか。
3 政府はこうした動きをどのように認識し、どう対処する考えか。

五 遺伝子組換え食品への表示義務付け制度の導入に対する橋本政権の閣僚の認識について

1 現在採られている「表示義務なし」の措置は、国民の選択の自由を奪った形となっている。「自分が何を食べているか」「親が子供に何を食べさせているか」「お客に何を提供しているか」それを知っていたいというのは当たり前の権利であり、企業責任として表示させるのも当たり前の義務であると思料する。ところで、本年二月二四日の衆議院予算委員会で、厚生大臣が「遺伝子組換え食品が世界的に認められ多くの国民、日本国民にも食せられるというような状況になったならば、ぜひとも表示はしてもらいたいなと思っております。」と答弁し、農林水産大臣も「組換え食品を食べるときに消費者が選択権を持つべきだという御指摘は、私もそうだと思うのです。」と答弁している。遺伝子組換え食品が食卓に上りつつある現在こそ、多くの国民に食せられる状況であり、消費者が選択権を持つべき時期ではないかと思料するがどうか。
2 表示義務化を求める声が大きなウネリとなっている。「海外では表示義務化が進んでいるのに、どうして日本だけが放置されているのか」といった怨嗟の声が起こっており、かつ、拡がっている。政治不信に拍車を掛け兼ねない。この際、橋本内閣としての統一見解を改めて示していただきたい。

六 遺伝子組換え食品表示検討会の在り方について

1 本年三月一三日に農林水産省の事務次官が記者会見において、遺伝子組換え食品の表示に関する研究会を省内に設置することを明らかにし、近く食品表示問題懇談会の中に遺伝子組換え食品表示検討会を発足させる予定と聞いている。これはこれで評価はするが、表示義務化の問題は一省のみの問題ではなく、農林水産省の食品流通局長の私的諮問機関といった形で対処するようなことではない。国民の安全と健康、さらに消費者の選択権を保障するという観点から政府が一体となって取り組むべき課題であり、そうした体制を整えるべきではなかったか。
2 検討会の委員数は何人か。その人選はどのような考え方に基づいて行われるのか。
3 検討会のスケジュールはどうなっているか。既に組換え食品が食卓に上っていることでもあるので、遅くとも一年以内に結論を出すようにすべきであると思料するがどうか。

七 遺伝子組換え食品の表示義務付け制度の導入の具体的方策について

1 新開発食品について食品衛生法第四条の二は「一般に飲食に供されることがなかつた物」と規定している。除草剤耐性、あるいは害虫抵抗性の遺伝子組換え食品は、自然には存在しない紛れもない新開発食品であり、なおかつ、消費者の安全性への不安が解消されていない食品である。政府の見解は「安全性評価指針に基づき、既存のものと同等と見なし得ることが確認されている」というものであるが、到底、消費者を納得させ得るに足りるものではない。遺伝子組換え食品が新開発食品に該当しないとするならば、政府はどのような食品がこれに該当すると考えているのか具体的に示されたい。
2 遺伝子組換え食品の安全性を危惧する多くの消費者に真に応えるため、食品衛生法の条文追加の改正を行い、遺伝子組換え食品について表示基準を設定するようにすべきではないか。
3 消費者の安全志向を考慮し、消費者の適正な選択に資するよう、平成四年一〇月一日に「有機農産物等に係る青果物等特別表示ガイドライン」が定められ、次いで昨年一二月に有機農産物と特別栽培農産物の区分の明確化を図り、その名称を「有機農産物及び特別農産物の表示ガイドライン」に変更した。この例に倣って、遺伝子組換え食品についても、早急に特別表示ガイドラインを定め、その旨を表示させるようにすべきではないか。

八 食品衛生調査会の在り方について

1 食品衛生調査会常任委員会の昨年の四作物七品種を確認した際の議事要旨を読んだが、消費者団体からの要望について、「消費者団体から提出された要望に沿って事務局が説明したものである。」とあるだけである。これで十分に安全性について審査したと言えるのか。
2 食品衛生調査会の委員は四〇名であり、同調査会の常任委員会の委員は一九名であるが、このうち消費者代表は、それぞれたったの二名である。もっと消費者団体を代表する委員を増やすとともに、環境保護団体の代表も委員に加えるべきではないかと思料するがどうか。また、バイオテクノロジー特別部会のメンバーにも消費者代表を加えるべきではないか。

九 コーデックス委員会への対応について

1 FAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)を上部機関とする「コーデックス食品規格計画」を執行するための機関であるFAO/WHO合同食品規格委員会(コーデックス委員会)の第二五回食品表示部会が本年四月一五日から一八日にかけてカナダのオタワで開催されたが、今回の会議で遺伝子組換え食品の国際規格の表示制度づくりについて、どのような議論が行われ、どのような決定がなされたのか。
2 その議論ないし決定に対し、我が国は、今後どのように対処していく考えか。
3 この会議における我が国の政府代表団の構成はどうであったか。
4 政府代表団にテクニカルアドバイザーとして四人が随行したようであるが、それは誰か。また、どのような考えに基づいて選任したのか。
5 テクニカルアドバイザーは現地において、どのような役割を果たしたのか。
6 コーデックス委員会には、加盟国の政府代表団に随行する形での多国籍企業からのオブザーバー参加、さらに、NGOからのオブザーバー参加も認められているようであるが、我が国からのこれらの参加状況はどうであったか。また、現地での活動状況はどうであったか。
7 諸外国の多国籍企業・NGOからのオブザーバーの参加状況、活動状況についても報告されたい。
8 前回の第二四回会議では、遺伝子組換え食品の表示について、ガイドラインを検討したらどうかとの意見が大勢を占めたと聞くが、今回の会議の開催前に事務局から送付されてきたディスカッションペーパーでは、そのガイドラインの素案は示されていたのか。
9 政府代表団は、今回の会議で遺伝子組換え食品の表示の在り方について、どのような意見を述べたのか。国際規格の表示義務付け制度づくりに積極的な役割を果たしたのかどうか。また、消費者団体から表示義務付け制度の導入を求める声が強いことや、地方議会からの意見書の提出が相当数に上っているといった状況なども報告したのか。

  右質問する。