質問主意書

第136回国会(常会)

質問主意書


質問第四号

ホタテの輸入規制等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成八年五月十四日

須藤 美也子   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   ホタテの輸入規制等に関する質問主意書

 わが国の漁業は、輸入水産物の急増によって大きな打撃をうけている。政府が主催した昨年十二月の漁業国際会議でも、将来の世界的な水産物不足への危惧が示された。もし輸入により国内生産者魚価が低落し、生産者に営漁の意欲を失わせる今日の事態がつづくならば、国民への水産物供給に重大な支障がでてくると考えることは決して杞憂ではない。また、漁業の衰退は、漁村集落をさびれさせ、地域経済の疲弊につながるものである。漁業をまもることは、漁業者の問題にとどまらず、国民的課題であることはいうまでもない。その立場から、水産物輸入によって影響をうけている魚種のひとつ、ホタテの生産と漁民経営をまもるために、輸入規制等について以下の質問を行うものである。

一、ホタテの輸入規制について

(1) ホタテは、漁業関係者の努力によって、全国で四十数万トンの生産をあげ、必要量を十分に満たす水準に到った。しかし、この二~三年の間で中国からの輸入が急増し、過剰傾向を一段とつよめている。
 すなわち、近海魚貝類の中の一魚種として輸入割当(IQ)制限となっているホタテは、金額で九二年まで二〇~三〇万ドル程度であったが、九三年には四倍の一〇二万ドルにはねあがり、ひきつづきふえている。しかし、これはほんの一部であり、ボイル等の加工をしたホタテ調整品は輸入割当の範疇に入らず、自由に輸入されている。この量は、昨年は一万九〇〇トン、金額で四七億円余となっており、一昨年の二倍近いといわれている。この量は原貝換算で、青森県の生産量の七万トン余に匹敵するものである。
 こうしたホタテ輸入の急増の実態を政府はどう把握しているか。最近の五年間におけるIQ品とそれ以外の調整品にわけて、それぞれの年における輸入量を明らかにされたい。
(2) 国産ホタテは中国産と比べて品質的には優れているというが、それでも半額以下で流通している中国産は生産者・関係者の大きな脅威になっている。生産されたホタテは、漁協から加工業者にひきとられ、のちに水産会社、食品問屋、商社へと流通するケースが多い。しかし、これらの水産会社・商社は中国からホタテを大量に輸入しており、そのため国内加工業者への注文が減り、加工業者は在庫を相当かかえ、したがって生産者価格は低落せざるをえない。
 青森県の主産地・平内町では、成貝単価は数年前はキロ当たり二〇〇円台であったが、一昨年平均一八〇円、昨年同一四六円と低落し、そして今年の四月の入札では一〇八円に下がっている。昨年同時期が一八〇~一九〇円であったことを考えると、このままでは今年平均一〇〇円を切るのではないかという悲観的な予想がされている。ホタテ養殖漁家の所得は年々低下傾向にあるが、ほとんどの漁家の昨年の所得は、前年より二~四割減少したとのことである。そのため「このままなら後継者はでてこない」と不安がひろがっている。国内ホタテ産業への打撃は、今後さらに深刻になる恐れが大きい。
 政府は、以上のような中国産ホタテによる国内の生産者及び加工業者への影響をどのように認識し、これに対しどう対応すべきものと考えているか。
(3) 政府は、輸入が増加していることと、その結果、国内産業に重大な被害が生じているか、生じる恐れがある、その二つが一般セーフガード(緊急輸入制限)発動の基本要件であると答弁している(三月一日衆議院予算委員会第五分科会など)。セーフガードを発動した場合、いわれるところの他の品目の関税を上げるなどの補償措置は、同協定では努力規定にすぎず、八〇年代以降、実際に発動した外国でも補償措置をとっていない。また、協定前文で必要性を認める国内産業の調整措置も、四年間の発動期間後、さらに延長する場合の必要要件として定めているものであり、その措置を行っている証明がなければ延長ができないというものである。
 青森県議会は三月、国にセーフガード発動をはたらきかけてほしいとの県漁連、むつ湾漁業振興会提出の陳情を採択したところである。輸入急増と重大な影響がでていることをみれば、調査を行い、中国産ホタテ(調整品を含む)へのセーフガードの発動を検討すべきではないか。
(4) 沿岸漁業等振興法では「水産物の輸入によつてこれと競争関係にある水産物を生産する沿岸漁業等に重大な損害を与え又は与えるおそれがある場合において必要があるときは、輸入の調整等によつて、経営の安定を図ること」(第三条第一項第六号)とある。生又は冷凍のホタテは輸入割当制度になっているが、ボイルなど簡単な加工をほどこした調整品は全く制限なく輸入され、国産ホタテに打撃を与えている。秩序ある輸入で国内産業をまもる輸入割当制度の趣旨からしても、ホタテは調整品も含めた割当制度の対象品目にすべきではないか、見解を問う。

二、ホタテの価格安定の対策について

(1) 国内生産に加え、輸入の増加で過剰傾向、生産者価格低下、水揚げ額を上げるため生産量増加、いっそうの価格低下、という悪循環をたつことが必要である。適正な輸入の規制とともに、消費量や海の生産許容量にみあった、国内生産の調整が不可欠である。生産者団体も一定の努力を行っているが、いくつかの生産県にわたるので国の援助が求められる。今般、浮魚類で政府は漁獲可能量を設定し、資源の保全・管理にのりだそうとしているが、それにとどまらず、こうした定着性の貝類に対しても漁場の保全の見地から積極的に調整を行うべきである。政府としてどのような努力、ないし方策をとるつもりか。
(2) (1)をすすめつつ、生産者価格の補償制度が求められる。青森県のホタテ生産者は、成貝でキロ当たり最低一五〇~一六〇円はどうしても必要であると言っている。価格安定のために価格補償制度を検討すべきである。水産庁はプロジェクトチームで魚価対策を検討しているとのことだが、ホタテの価格補償のためにはどのような対策を考えているか。

三、輸入ホタテの原産地表示と安全検査について

(1) 中国産ホタテ貝は、わが国のホタテと貝の種類は別もので、品質も大きく異なるが、同じホタテと称して売られている。であればなおさら、末端店頭での原産地表示を徹底して、消費者がよくわかるようにして選択できるようにすることが大切である。現在、水産物表示ガイドラインが定められ、その普及事業も行われているが、中国産ホタテの原産地表示の実施状況はどのような状況になっているのか。また、その徹底化についてどういう方針をもっているのか。
(2) 国産のホタテは貝毒の検査を徹底し、安全を確認し、安全シールを貼って出荷している。ところが中国産は、この検査が厳格に行われているのか、明確な情報がない。ひとたび輸入品で事故がおきるならば、国産にも大きな影響をうけることは当然である。中国産ホタテの貝毒検査はどのように行われているのか、政府は実情を把握しているのか。

  右質問する。