質問主意書

第136回国会(常会)

質問主意書


質問第二号

住宅金融公庫貸付条件に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成八年二月二日

猪熊 重二   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   住宅金融公庫貸付条件に関する質問主意書

 住宅金融公庫は、「国民大衆が健康で文化的な生活を営むに足る住宅の建設及び購入(略)に必要な資金で、銀行その他一般の金融機関が融通することを困難とするものを融通することを目的」(住宅金融公庫法第一条)として昭和二五年に設立され、以来今日まで、国の住宅政策の重要な一環を担って来ている。
 ところで、住宅金融公庫(以下公庫という)から、右の住宅建設資金の融通を受ける国民の中には、当然に、自ら土地を所有し同地上に住宅を建設しようとする者と、他人の所有地を賃借し同賃借地上に住宅を建設しようとする者との両者が存する(平成六年度利用者報告によれば、土地所有者六〇%、借地人四〇%)。
 ところが、公庫は、借地人に資金を貸付ける際の条件として、第一に、「地主が借地に担保権を設定している場合には、この担保権を抹消すること」、第二に、「借地人に賃料不払の事実が発生した場合は、地主としての権利行使をする以前に、公庫に対し、その旨を通知すること」を承諾する旨の地主の承諾書を公庫に提出することを、融資申込借地人に対し義務づけている。
 しかし、地主・借地人という社会経済関係の下において、借地人が、自己が公庫融資を受ける便宜のために、地主に対し、(1)債務を弁済して借地上の担保権を抹消して欲しいとか、(2)地代未納の時は契約解消をする前に公庫に通知して欲しいなどとの要望・懇願をなし得る立場にないことは誰の目にも明らかである。それにもかかわらず、公庫が借地人に対し、右の第一および第二記載内容の承諾書の提出を貸付けの条件として強要することは、借地人に対し、実現不可能な不当な義務を強いるものであり、借地人に対する金融上の重大な不当差別といわなければならない。
 前述のとおり、融資を受けた者のうち、借地人は四割であるが、これらの借地人は、右の第一および第二記載内容の地主の承諾書提出という条件を充たした者であり、これに対し、右の要件を充足できず、結局、公庫からの融資を拒絶された借地人は相当数にのぼると予測される。
 私は、本質問に先立ち、前記二要件に関する諸問題につき、住宅金融公庫並びに建設省の各担当者の説明を求めたが、何れからも、何ら納得し得る回答が得られなかった。
 以上の事実を前提として、公庫を監督する建設大臣および大蔵大臣の属する内閣に対し、以下のとおり質問する。

一 前記二要件を内容とする地主の承諾書を融資条件とすることの必要性について

1 問題の所在

イ 公庫は、借地人に対する融資に際し、昭和二五年発足以来昭和五六年までの間、前記第一の担保権の事前抹消および同第二の地主の事前通知を内容とする地主の承諾書の提出を貸付けの条件としていなかった。
ロ しかるに、昭和五六年に至り、突如として右の承諾書の提出を、借地人に対する貸付けの条件として付加した。
ハ そのため、それ以降、借地人は、公庫からの融資につき不利な立場に立たされることとなった。

2 質問

イ 公庫発足以降昭和五六年までの間に、借地に担保権が設定されていたために、もしくは地主からの事前通知の承諾を得ていなかったために、公庫の貸付金回収につき、どのような不都合ないし回収不能が生じたのか、具体的数値をもって明示されたい。
ロ かりに、右のイが明らかでないとすれば、右事実以外で、昭和五六年、従前の貸付条件を変更するに至った格別の立法事実が何であるのか、説明されたい。
ハ 右の貸付条件変更の結果として、昭和五六年以降現在まで、従前に比し、借地人に対する貸付金の回収率がどのように向上したのか明らかにされたい。

二 地主の承諾書提出不能の借地人に対する融資について

1 問題の所在

イ 前述のとおり、公庫は「銀行その他一般の金融機関が融資することを困難とする」資金を融通するところにこそ、その存在の根本理由があるのである。それ故、公庫が、単に貸付金回収を図ることのみを至上命題として、申込人に対し、一般の金融機関並みの貸付条件を強要することは、住宅金融公庫法の本来の法の趣旨に相反するものであるといわなければならない。
ロ それ故、公庫は、かりに市中銀行並みに前記のごとき二要件を内容とする地主の承諾書の提出を求めようとするのであれば、当然、それによって貸付けを受けられなかった国民大衆の数を把握していなければならないはずであるし、さらに、右承諾書提出不能の融資申込借地人の救済についても、当然に施策を検討していなければならないはずである。
ハ しかるに、公庫が、前記二要件を内容とする地主の承諾書提出条件を充足し得なかったため融資を受けられなかった者の数値を全く把握しておらず、従って、また、そのような者に対する施策も全く検討していない状況にあるとすれば、おそるべき行政の怠慢というべきである。

2 質問

イ 昭和五六年以降現在に至るまでの間、前記二要件を内容とする地主の承諾書を提出し得なかったために、公庫から融資を受けられなかった融資申込者の数もしくは融資申込件数を明らかにされたい。
ロ 公庫が、右の数値を全く把握していないとすれば、政府として、公庫の右のような融資貸付業務の執行に対し、いかなる所見を持っているか説明されたい。
ハ 政府は、右のような事情の下に融資を受けられなかった借地人たる国民に対し、いかなる住宅金融施策が必要であると考えているか説明されたい。
ニ 特に、公庫の右のような貸付条件を、今後是正することに関し、いかなる方針であるか明らかにされたい。

三 前記二要件を内容とする地主の承諾書提出を融資条件とすることの法的根拠について

1 問題の所在

イ 住宅金融公庫法第一八条

 右法条は、「貸付けを受けるべき者の選定」に関する規定を設けているが、その選定の要件の中には、前記二要件に関する地主の承諾書については何ら規定されていない。右法条は、選定要件の一つとして、「申込者の元利金の償還の見込み」を規定している。
 しかし、この要件は、申込者の主観的事情において、すなわち、申込者の現在および将来の経済・生計状況の下において、元利金の償還の見込みの有無・程度を検討する旨のものであって、それ以上に、申込者以外の者(本件の場合にあてはめていえば、貸地人)の事情による元利金償還の有無・程度の見込みを検討すべきこととしているとすることはできない。何故なら、かりに、申込者以外の者の経済・生計事情をも考慮すべきこととするならば、申込者の勤務先の経営状況やその変動予測、申込者の家族の今後の経済・生計状況の変動等々、選定の際に検討すべき事項は無限に拡大せざるを得ず、かくしては、法そのものの立法趣旨を大きく逸脱することとなるからである。

ロ 業務方法書

 住宅金融公庫法第二四条は、公庫は、業務方法書を定め主務大臣の認可を受けるべきことを規定している。公庫は、右条項に基づき、「住宅金融公庫業務方法書」(昭和四〇年七月二六日住公規程第一九号)を定めている。しかし、右業務方法書においても、第三条「資金貸付けの要件」の規定中において、借地人に対する融資につき、前述のごとき二要件を内容とする地主の承諾書については何ら定められていない。たしかに、右第三条の中には、融資を受ける者の要件として「元利金の償還の見込みが確実である者」(三号)と規定されているが、この文言の趣旨は、右イに述べたところと同一であって、申込人以外の第三者である貸地人の事情を考慮することを予想した規定ではないというべきである。

2 質問

 公庫が、前記二要件を内容とする地主の承諾書の提出を、借地人に対する融資条件とすることを認めることのできる法的根拠が何であるかを、その理由をも含めて、明示されたい。

  右質問する。