質問主意書

第134回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第二号

内閣参質一三四第二号

  平成七年十二月一日

内閣総理大臣 村山 富市   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿

参議院議員吉川春子君外三名提出従軍慰安婦の個人補償と資料公開に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員吉川春子君外三名提出従軍慰安婦の個人補償と資料公開に関する質問に対する答弁書

一の1について

 第四回世界女性会議において採択された行動綱領においては、第IV章「重大問題領域の戦略目標及び行動」のE「女性と武力紛争」において、現代の武力紛争下における女性に対する暴力について論じられている。政府としては、本行動綱領における提案は、同第II章「世界的枠組み」の第十一項にあるとおり冷戦終結後の内戦や地域紛争において今まさに女性の人権が侵害されている事態にかんがみ、これらの女性を救済するとともに、このような事態の再発を防止しようとするものであって、いわゆる従軍慰安婦問題を念頭においたものではないと理解している。

一の2について

 世界女性会議において、NGOが非常に重要な役割を果たしてきたという点は、我が国を含め各国の共通した認識である。
 また、我が国としても、野坂日本政府首席代表の同会議における演説の中でも強調されたとおり、政府とNGOのパートナーシップを重要視しており、代表団中にこれまでで最多の四人のNGO代表を加えたことを始めとして、事前のNGOとの意見交換、会議中のNGOとの常設の意見交換会など各方面のNGOからの意見を拝聴することに可能な限りの努力を行ってきたところである。
 なお、御指摘の報告会における発言は、政府間会合における行動綱領の審議過程において、いわゆる従軍慰安婦問題に関する発言を行った国はなかったという趣旨でなされたものである。

一の3について

 政府としては、本行動綱領における提案は、同第II章「世界的枠組み」の第十一項にあるとおり冷戦終結後の内戦や地域紛争において今まさに女性の人権が侵害されている事態にかんがみ、これらの女性を救済するとともに、このような事態の再発を防止しようとするものであって、御指摘の箇所も、いわゆる従軍慰安婦を念頭に置いたものではないと理解している。

二の1について

 いわゆる従軍慰安婦問題について政府が行った調査では、これまで発見された資料に慰安婦の総数を示すものはなく、また、これを推認させるに足りる資料もないので、慰安婦総数を確定するのは困難である。しかし、長期に、かつ、広範な地域にわたって慰安所が設置されていたことから、数多くの慰安婦が存在したものと認められる。
 また、慰安所についても同様に、その数を確定するに足りる資料は発見されていない。

二の2について

 政府は、「女性のためのアジア平和国民基金」が所期の目的を達成できるよう最大限の協力を行っているところであり、同基金の意義について元従軍慰安婦の方々や関係者の方々の御理解を得られるよう、引き続き努力してまいりたい。

二の3について

 「女性のためのアジア平和国民基金」は、元従軍慰安婦の方々へ国民的な償いを表すための事業等を行うことにしており、現在、同基金でその具体的内容、実施時期及び対象等について検討中であると承知している。
 なお、平成七年十一月十日までに同基金に寄せられた寄附金の合計額は約六千三百五十四万円であると承知している。

二の4について

 政府として御指摘のような調査団の派遣その他の調査を行っているとの事実はない。
 なお、「女性のためのアジア平和国民基金」においては、元従軍慰安婦の方々や関係者の方々との対話を行うためのチームを関係する国又は地域に派遣することを検討していると承知している。

二の5について

 政府は、「女性のためのアジア平和国民基金」が所期の目的を達成できるよう最大限の協力を行っているほか、同基金がその事業を実施する折、改めて、元従軍慰安婦の方々に、国としての率直な反省とお詫びの気持ちを表明する予定である。

二の6について

 平成六年十二月二十二日の参議院議員吉川春子君提出元従軍慰安婦への個人補償等に関する質問に対する答弁書の「二について」において、政府は「いわゆる従軍慰安婦の問題を含め先の大戦に係る賠償並びに財産及び請求権の問題については、我が国としては、サン・フランシスコ平和条約、二国間の平和条約及びその他の関連する条約等に従って誠実に対応してきたところであり、政府として元従軍慰安婦に対して個人補償を行うことは考えていない」と答弁しており、同答弁書においては、「決着済み」との表現は用いていない。

二の7について

 政府によるこれまでの調査の結果、いわゆる従軍慰安婦の出身地として確認できた国又は地域であって、かつ、我が国との間で日本国との平和条約(昭和二十七年条約第五号。以下「サン・フランシスコ平和条約」という。)第四条(a)の定める「特別取極」の締結が予定されていたが、これがなされていない地域としては北朝鮮及び台湾があるが、我が国と北朝鮮との間の財産及び請求権の問題については、日朝国交正常化交渉において協議していくこととなる。また、我が国と台湾との間の財産及び請求権の問題については、我が国と台湾の施政当局との間の特別取極による処理が実現に至らない状況で日中国交正常化が実現した結果、台湾の施政当局との間でかかる処理を行うことができなくなった。

二の8について

 いわゆる従軍慰安婦の問題を含め先の大戦に係る賠償並びに財産及び請求権の問題については、我が国としては、サン・フランシスコ平和条約、二国間の平和条約及びその他の関連する条約等に従って誠実に対応してきたところであり、政府として元慰安婦に対して個人補償を行うことは考えていない。

二の9について

 「醜業ヲ行ハシムル為ノ婦女売買禁止ニ関スル国際条約」(大正十四年条約第十八号)は、明治四十三年五月四日にパリで作成され、我が国は大正十四年十月二十一日に締結したものであるが、本条約上の義務の履行については、締結時より我が国の刑法(明治四十年法律第四十五号)により担保されていたものである。

二の10について

 いわゆる従軍慰安婦の問題を含め先の大戦に係る賠償並びに財産及び請求権の問題については、我が国としては、サン・フランシスコ平和条約、二国間の平和条約及びその他の関連する条約等に従って誠実に対応してきたところである。
 他方、この問題については、我が国として歴史を直視し、正しくこれを後世に伝えるとともに、関係諸国等との相互理解の一層の増進に努めることが、我が国のお詫びと反省の気持ちを表すことになると考えており、このような気持ちを踏まえて、平和友好交流計画を発足させた。
 さらに、呼びかけ人の方々の呼びかけにより、「女性のためのアジア平和国民基金」が発足し、同基金は、国民と政府の協力のもとに、元従軍慰安婦の方々に国民的な償いを表す事業や、女性の名誉と尊厳に係る事業等を行うことにしていると承知している。
 我が国としては、以上の取組により、いわゆる従軍慰安婦の問題に対応することとしており、本件問題の解決につき、常設仲裁裁判所の仲裁裁判に委ねるようなことは考えていない。

三の1について

 いわゆる従軍慰安婦問題の調査については、政府としては、これまで、平成四年七月と平成五年八月の二度にわたり、その結果を公表した。
 特に、平成五年八月の調査結果発表に当たっては、調査対象を米国国立公文書館等国外にも広げるなど広範囲にわたり関係資料の調査を行った。また、元軍人や元慰安所経営者等関係者の人たちからも幅広く聞き取り調査を行うとともに、韓国において元従軍慰安婦の方々から当時の事情を聴取した。さらに、台湾、フィリピンについてもそれぞれの関係団体が行った事情聴取の記録を渉猟した。
 このように、平成五年八月の調査結果発表は、政府として全力を挙げて誠実に調査した結果を全体的に取りまとめたものであり、一つの区切りをなすものであるが、事柄の性質上、その後も新しい資料が発見される可能性はあり、引き続き十分な関心を払ってきている。

三の2について

 いわゆる従軍慰安婦問題については、政府としては、これまで警察庁も含め関係省庁において誠実に調査を行い、平成四年七月と平成五年八月の二度にわたり、その調査結果を公表した。
 警察庁においては、内閣官房からいわゆる従軍慰安婦に関係すると思われる資料の有無について調査を求められたことを受け、関係資料について誠実に調査したが、該当する資料はなかった。
 平成五年八月の調査結果発表は、政府として全力を挙げて誠実に調査した結果を全体的に取りまとめたものであり、ひとつの区切りをなすものであるが、事柄の性質上、その後も新しい資料が発見される可能性はあり、引き続き十分な関心を払ってきている。

三の3について

 いわゆる従軍慰安婦問題については、政府としては、これまで警察庁、外務省も含め関係省庁において誠実に調査を行った。
 警察庁においては、平成三年十二月、内閣官房からいわゆる従軍慰安婦に関係すると思われる資料の有無について調査を求められたことを受け、警察庁本庁、各附属機関、各地方機関及び全国の都道府県警察において関係資料について誠実に調査したが、該当する資料はなかった。その後も、鋭意調査を続けてきたところであるが、発見に至っていない。
 平成五年八月の調査結果発表は、政府として全力を挙げて誠実に調査した結果を全体的に取りまとめたものであり、ひとつの区切りをなすものであるが、事柄の性質上、その後も新しい資料が発見される可能性はあり、引き続き十分な関心を払ってきている。

三の4について

 防衛研究所が保存している戦史に関する資料については、プライバシーに配慮した上で原則として公開しているところである。

三の5について

 本問題に関しこれまでに発見された公文書等については、関係する省庁等においてそれぞれの方法で保存し、プライバシーに配慮した上で原則として公開しているほか、内閣官房において、これらの写しを一括して整理し、プライバシーに配慮した上で、一般に公開している。
 したがって、御指摘のような担当者を改めて配置することは考えていない。