質問主意書

第134回国会(臨時会)

質問主意書


質問第七号

戦後五十年の節目の年にあたっての日本国のエネルギー・原子力政策の抜本的転換に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成七年十二月十五日

田 英夫   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   戦後五十年の節目の年にあたっての日本国のエネルギー・原子力政策の抜本的転換に関する質問主意書

 戦後五十年の節目の年である一九九五年という年を、後に外国の歴史家の手で、一月十七日の兵庫県南部地震(阪神大震災)にはじまり、十二月八日の福井県敦賀市の高速増殖原型炉「もんじゅ」の事故に終わった、神が日本人に「最後の警告」をした、象徴的な年であったと記されるようなことがないように致したい。
 前者は死者だけでも五千名をこえる尊い犠牲をはらった戦後五十年間で最大の惨事であるが、それでも「午前五時四十六分」という発生時刻が幸いして、どれだけ多くの人命が救われたことであろうか。
後者は幸いにして、一名の犠牲者も出すに至らなかったが、事故の深刻さは決して前者に劣るものではない。
 「もんじゅ」の炉の中には千四百キログラムのプルトニウムが入っていると言われる。長崎型原爆はわずか八キログラムのプルトニウムで製造されたのである。
 私は日本国の国権の最高機関である国会に席を置く一員として、同僚議員の皆さんと村山内閣の全閣僚の皆さんに対し、国政に関与する私達の責任において、今こそ叡知を結集して、このかけがいのない日本列島を、私達の子孫から数千年、数万年後の、「未来の日本人」に対し、「汚染列島」の状態で引き継ぐことのないように、私達の世代が「まいた種」は、私達の世代の負担と責任において、きちんと刈り取って去ろうではないかと心から呼びかけたい。
 種々のエネルギーの中で、とりわけ電気は私達の日常生活にとって極めて貴重なものである。
 しかし、発電の方法が現在および将来の国民の生命と安全を犠牲にする可能性が高いものは絶対に採用してはならないのである。
 電気は大切ではあるが、現在および将来の国民の命の方がずっとずっと大切だからである。
 人類はすでに一九七九年三月二十八日のスリーマイル島原子力発電所二号炉の事故、一九八六年四月二十六日のチェルノブイリ原子力発電所四号炉の事故、同年九月二十九日のハンフォード核複合施設内のプルトニウム生産工場の事故、同年十二月九日のサリー原子力発電所二号炉の事故など、多数の大事故を経験している。
 耳かき一杯のプルトニウムがあれば数万人を殺せるという、恐るべき毒性をもったプルトニウムの放射能が半減するのには、二万四千年を要すると言われる。
 私達が、眼前の、現に日本列島に生を受けている私達の利便性だけの為に、しかも知恵を出せば十分解決の方法が存在するにもかかわらず、私達の後の世代の人々に対し、大きな「負債」を残すようなことがあってはならない。
 戦後五十年の節目の年にあたって、日本国の国政において第一の優先順位を与えるべきものは、現在および将来の国民の生命と安全であるとの観点から、以下の質問をする。

一、「もんじゅ」の事故の内容について

 一九九五年十二月八日、福井県敦賀市にある動力炉・核燃料開発事業団(動燃)の高速増殖原型炉「もんじゅ」で二次系冷却材のナトリウムが漏れた事故が発生した事実が報道された。敦賀市民、福井県民のみならず、プルトニウムの毒性を知っている国民は全国的に深刻な恐怖感を抱いている。事故原因の真相の究明は十分な時間をかけて、徹底的におこなうべきであるが、すでに明らかになっている事実については村山内閣の責任において、国会に対し、ただちに報告をすべき事案であると考えるので、以下の事項を明らかにされたい。

1 ナトリウムが漏れた事故の発生時刻は十二月八日の何時何分何秒頃と推定しているか。
2 原子炉は右事故発生後、なぜ、自動停止しなかったのか。
3 ナトリウム漏れを検知する目的の検知装置はいくつ設置されていたか。
4 右検知装置は事故発生後、何分何秒後頃に作動したか。
 かりに、全く作動しなかったとしたら、その原因は何か。
5 温度検出器は事故発生後、何分何秒後頃に異常を通報したか。
6 火災報知器は事故発生後、何分何秒後頃に作動したか。
7 動燃職員がナトリウム漏れ事故の発生を認識した時刻は何時何分何秒か。
8 「もんじゅ」には、兵庫県南部地震のように、初動から百分の五秒以内の短い時間内に人が立っていることが出来ない激震に見舞われる、強い直下型地震が発生した場合、原子炉を安全に緊急停止させる装置として何があるか。
 また、その装置は地震の初動から何秒後に地震を感知し、地震の初動から何秒後までに原子炉を停止する指令を出し、装置が正常に働いた場合、出力百パーセントで運転中の「もんじゅ」は右停止指令から何秒後に完全に停止するのか。
 それぞれ明らかにされたい。
9 動燃は右事故の発生を(1)周辺住民、(2)敦賀市、(3)福井県、(4)日本政府に対し、それぞれ何時何分に通知したか。
10 動燃は右事故発生後、何時何分何秒後に原子炉を完全に停止させたか。
11 動燃が事故発生直後に中央制御室の緊急炉心停止ボタンを押さなかった理由は何か。
 かりに、事故発生直後に右ボタンを押していた場合、原子炉は何時何分何秒頃に完全に停止したか。
12 右事故当時、原子炉の中にプルトニウムは何キログラム入っていたか。

二、「もんじゅ」の耐震設計と施工の実態について

 一九九五年十二月八日のナトリウム漏れは、地震によって発生したものではない。
 外部圧力を受けたわけでもない条件の下で、ナトリウムが流れる配管(直径約五十六センチメートル、肉厚約九ミリメートル)に開けた穴に、ステンレスの枝管(直径約一センチメートル、長さ約三十センチメートル)を差し込んだものを、その配管と枝管を溶接した部分から、ナトリウムが漏れたものである。
 しかも、報道によれば、「もんじゅ」の計測用枝管は数百カ所にのぼり、溶接箇所も当然、数百カ所以上にのぼるのである。
国民は兵庫県南部地震のような強い直下型地震が「もんじゅ」の近くで発生したとしたら、右数百カ所以上の溶接箇所はひとたまりもなく破断するのではないかと考えているので、以下の事項を明らかにされたい。

1 ナトリウムが内部を流れる配管など、配管の総数とその延べ延長距離を明らかにされたい。
2 温度計を入れた枝管など、枝管の総数と配管と枝管の溶接箇所の総数を明らかにされたい。
3 配管および枝管のうち、もっとも直径の大きい管の直径は何ミリか。また、その管の肉厚は何ミリか。
4 配管および枝管のうち、もっとも肉厚のうすい管の肉厚は何ミリか。またその管の直径は何ミリか。
5 右3および4の配管および枝管の耐震強度は水平方向の揺れに対して何ガルまで、垂直方向の揺れに対して何ガルまで安全になるように設計されているか。また右3および4の配管および枝管の材質は何か。それぞれ明らかにされたい。
6 右3および4以外の配管および枝管の耐震強度は水平方向、垂直方向、それぞれ最高何ガル、最低何ガルの揺れまで安全であるように設計されているか。
7 枝管と配管の溶接箇所の耐震強度は水平方向、垂直方向、それぞれ最高何ガル、最低何ガルの揺れまで安全であるように設計されているか。
8 (1)配管、(2)枝管、(3)配管と枝管の溶接箇所について、それぞれの設計責任者(職・氏名)、施工責任者(職・氏名)、工事完了後の検査責任者(職・氏名)を明らかにされたい。
9 十二月八日にナトリウムが漏出した温度検出用の枝管と配管の溶接作業は誰が施工し、誰が検査していたか。
10 兵庫県南部地震はマグニチュード七・二の地震であるが、同じ直下型地震で、右地震よりも大きな地震としては近年に限定しても一八九一年十月二十八日の濃尾地震(マグニチュード八・〇)、一九二七年三月七日の北丹後地震(マグニチュード七・三)、一九六四年六月十六日の新潟地震(マグニチュード七・五)などが認められる。「もんじゅ」がある白木には白木--丹生断層と呼ばれる、活断層の疑いがある断層がある。
 かりに、兵庫県南部地震の際、神戸の大阪ガスで実際に記録された八百三十三ガルの揺れが「もんじゅ」を襲った場合、私は「もんじゅ」の(1)配管、(2)枝管、(3)配管と枝管の溶接箇所で、「破断しない」ものはひとつもないと考えるが、村山内閣の見解を明らかにされたい。
 かりに、右のうち「破断しない」ものがあるとする場合、その根拠を明らかにされたい。

三、「もんじゅ」建設に要した費用と国民の利益のアンバランスについて

 国民の大多数の眼から見て、諸外国が高速増殖炉計画から一斉に撤退している中で、未熟な技術をもって、なぜ危険性の高い「もんじゅ」の建設を強行し、その目的が不明確な運転を開始してしまったのか、全く理解に苦しむところであるので、以下の事項を明らかにされたい。

1 「もんじゅ」は何を目的に運転しているのか。
2 その建設(用地費、装置費など一切を含む)には総額でいくらの費用が使われたのか。その金額の内、公的資金によるものについては原資別に金額を明らかにされたい。
3 一九九五年四月一日から二〇〇〇年三月三十一日に至る期間の運転の収支予算について毎年の総額および内訳の項目別に予算の金額を明らかにされたい。
 特に高レベル廃棄物の処理費について、何年後まで、どのような方法で、どれだけの費用をかける見積であるのかを明らかにされたい。
4 一九九五年四月一日現在の計画としては、「もんじゅ」は二〇〇〇年三月三十一日までの五年間に、何キロワットの発電を予定していたのか。それは一九九五年一月一日現在の売電単価によれば、いくらの金額に相当するのか。
5 万が一にも「もんじゅ」において何らかの原因によって原子炉が爆発する事故が発生した場合、政府はそれによる被害に関し、次の事項についてどのような数字を想定しているのか、想定している最高と最低の数値を明らかにされたい。かりに想定作業をしていないとすれば怠慢であるから、ただちに試算の上、明らかにされたい。

イ 被害がおよぶ地域の範囲は半径何キロメートルか。
ロ 一年以内の死者の数
ハ 五年以内の死者の数
ニ 白血病等のガンにかかる人の数
ホ 土地・建物など不動産の損害額
ヘ 農業、漁業、林業が受ける損害額
ト 鉱工業が受ける損害額
チ その他の産業が受ける損害額
リ 半径五百キロメートル以内の環境に残存するプルトニウム等有害物質の残存期間

四、原子力発電所の建設に使った直接費と廃棄物処理等の為の間接費について

 原子力発電所の建設のために使用した費用に、数万年の単位で管理をしなければならない高レベルの廃棄物の処理費等を加算するならば、原子力発電による電気のコストは経済の論理が許容する範囲を著しくこえるほど高いコストになると想定されるので、以下の事項を明らかにされたい。

1 最初の原子力発電所の建設計画を立てた時から、一九九五年三月三十一日までの期間、原子力発電所の建設費(用地費、研究開発費、装置費など運転に至るまでの一切の費用を含む)は、日本全体で各年いくらか、その内、公的資金によるものはいくらか、金額を明らかにされたい。
2 最初の原子力発電所が発電を開始した時から、一九九五年三月三十一日までの期間、原子力発電による電気の消費量は、日本全体で各年何キロワットか。
 その数字は右の期間の日本全体の電気消費量の何パーセントを占めるのか、各年別に明らかにされたい。
3 右の2の期間、原子力発電以外の発電の設備を百パーセント運転した場合の最大限の供給能力は各年何キロワットか。また水力、火力、その他発電の種類別の内訳の数値を明らかにされたい。
4 右の2の期間、各原子力発電所からの排出廃棄物の量およびその処理に要した金額を高レベル、低レベルに分けて、各年別に明らかにされたい。
 また右の処理に要した金額の内、公的資金によるものについて、その金額を各年別に明らかにされたい。
5 右の4の計算において政府は電力会社等に対し高レベル廃棄物の処理費を排出時から何年後までの管理義務を前提に積算されているのかを明らかにされたい。

五、原子力発電所の耐震設計と施工の実態について

 国民の多くは全国各地で運転中の原子力発電所の安全性に対し、兵庫県南部地震以降、深刻な不安を抱いているので、以下の事項を明らかにされたい。

1 日本と並んで原発大国と言われるフランスとの比較において、日本における地震発生の件数・規模との間に著しい差異が存在すると言われるが、一九六〇年代の十年間と最近の十年間に分けて、有感、無感の別を明らかにして、毎年の日本とフランスの地震発生件数を明らかにされたい。
またマグニチュード五・〇以上の規模の地震についてはカッコ書きの形で明らかにされたい。
2 現在運転中の原子炉を有する全ての原子力発電所に関し、その原子炉の型により(1)沸騰水型原子炉と(2)加圧水型原子炉に分けて、(1)に属する原子炉については、「浄化装置」「給水ポンプ」「再循環ポンプ」「圧力抑制プール」および「蒸気の配管」が、(2)に属する原子炉については「浄化装置」「吸水ポンプ」「蒸気発生器」および「蒸気の配管」が、それぞれ、地震の水平方向の揺れ、垂直方向の揺れに対し、各何ガルまで安全であるとして耐震設計がなされているのか。右設計者(職・氏名)、施工者(職・氏名)、工事完了後の検査者(職・氏名)を含めて、一覧表にして明らかにされたい。
3 日本最大の活断層と言われる「中央構造線」との関係で心配されている(1)伊方原子力発電所、「東海大地震」の予測との関係で心配されている(2)浜岡原子力発電所、「関東大震災」および経年によるいわゆる金属疲労との関係で心配されている(3)東海原子力発電所の三発電所について、それぞれの配管、枝管、および「溶接箇所」の各総数および配管と枝管の溶接箇所が水平方向の揺れ、垂直方向の揺れに対し、各何ガルまで安全として設計されているのか(部位によって耐震強度の数値が異なる場合、最高何ガル、最低何ガルまで安全であるのか)を明らかにし、右設計者(職・氏名)、施工者(職・氏名)、工事完了後の検査者(職・氏名)を明らかにされたい。
4 右3の(1)(2)(3)の原子力発電所を、兵庫県南部地震の際に記録された八百三十三ガルの揺れが襲った場合、(1)(2)(3)の原子炉が百パーセントの出力で運転中だったと仮定して、各被害の想定を明らかにされたい。
5 万が一にも右3の(1)(2)(3)の原子力発電所において何らかの原因によって原子炉が爆発する事故が発生した場合、政府はそれによる被害に関し、次の事項についてどのような数字を想定しているのか、想定している最高と最低の数値を明らかにされたい。かりに想定作業をしていないとすれば怠慢であるから、ただちに試算の上、明らかにされたい。

イ 被害がおよぶ地域の範囲は半径何キロメートルか。
ロ 一年以内の死者の数
ハ 五年以内の死者の数
ニ 白血病等のガンにかかる人の数
ホ 土地・建物など不動産の損害額
ヘ 農業、漁業、林業が受ける損害額
ト 鉱工業が受ける損害額
チ その他の産業が受ける損害額
リ 半径五百キロメートル以内の環境に残存するプルトニウム等有害物質の残存期間

六、原子力発電所がなくても国民の理解が得られれば、安全に電気を確保出来る事実について

 私は政府がこの国の主権者である国民に対し、電気に関する中立的で公正な情報を提供するならば、国民は現在および未来の日本列島の環境に対し、取り返しのつかない放射能汚染によって回復困難な損害を与えるおそれの大きい原子力発電を全部中止して、より安全な方法による発電の方法を選択するものと考える。その為には有害無益な原発関連の公的資金支出を停止し、企業や個人に対して自家発電施設建設資金を大胆に補助し、自家発電による供給量が全国の電気消費量の三分の一以上になるように、あらゆる政策努力を傾注しなければならない。すでに、電力会社から買えば一キロワット当たり二十円程度の電気が、自家発電をすれば一キロワット当たり六円程度で手に入ると言われる。発電機能が多元化することは、それ自体さまざまな災害対策としても有効である。
 かりに過渡期において、一時的な電力不足が生じることがあったとしても、中長期的なプランがきちんと示されている場合、賢明な国民は政府を支持してくれることは、過去のオイルショックの際の学習効果からも明らかであると考えるので、以下の事項を明らかにされたい。

1 アラブ産油国が「石油戦略」を発動した結果、原油価格が大幅な値上げとなり、日本が二度にわたる、いわゆるオイルショックを経験したことはまだ記憶に新しいところであるが、オイルショック直後に原油の高値が確定した時点を境として、それぞれ前後各一年の全国の電気消費量を月別に合計各二カ年分を明らかにされたい。
2 最初に原子力発電所を計画した時から、一九九五年三月三十一日までの期間内に、原子力発電関連で支出した官民の全ての資金(用地費、建設費、廃棄物処理費、原発推進の為の公報、広告費その他一切のものを含む)を、かりに全額一九九五年三月三十一日現在価格で、太陽熱発電に投資したと仮定した場合、最大限で年間何キロワットの発電が出来るか。試算の根拠を示して明らかにされたい。
3 右2の金額をかりに全額、一九九五年三月三十一日現在価格で火力発電に投資したと仮定した場合、最大限で年間何キロワットの発電ができるか。試算の根拠を示して明らかにされたい。

  右質問する。