質問主意書

第132回国会(常会)

答弁書


答弁書第一四号

内閣参質一三二第一四号

  平成七年五月二十三日

内閣総理大臣 村山 富市   


       参議院議長 原 文兵衛 殿

参議院議員紀平悌子君提出国民医療に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員紀平悌子君提出国民医療に関する質問に対する答弁書

一の1について

 診療報酬改定に当たっては、医療経済実態調査により医業経営の実態を把握し、物価及び賃金の動向など医療を取り巻く諸状況を総合的に勘案するとともに、中央社会保険医療協議会(以下「中医協」という。)の審議を踏まえ、人件費を始め必要な経費が確保されるよう努めてきたところである。

一の2について

 人口の高齢化や医療技術の高度化等に伴い、医療費の増加が避けられない中で国民の負担が過大なものとならないよう、医療費の伸びを社会経済の実勢に見合ったものとすることが必要であるという考え方に基づき、国民医療費の伸びを国民所得の伸びの範囲内に抑えることを目標として、診療報酬の合理化や診療報酬明細書の審査の充実等医療費の適正化対策に取り組んでいるところである。

一の3について

 診療報酬改定においては、保険医療機関の経営の安定を図るとともに、医療機関の種別ごとの機能や疾病構造の変化、医療技術の高度化に伴う医療に対する需要に応じた適切な評価が行われる必要があることから、一律に一点の単価を改定することは考えていない。

二の1について

 保険医療機関の従業者以外の者が提供する看護(以下「付添看護」という。)については、患者に重い経済的負担を生じさせているとともに、保険医療機関の従業者との連携の下に当該保険医療機関において患者の病状に応じ一貫した看護サービスを計画的に提供することが困難であることから、看護サービスの質の確保という面で問題があるため、従来からその解消を図ることが重要な課題となっていた。このため、平成六年に健康保険法(大正十一年法律第七十号)等の改正を行い、原則として平成七年度末までに付添看護を解消することとするとともに、診療報酬において、看護婦及び准看護婦と看護補助者についてそれぞれ別個に新看護料と看護補助料を設定し、付添看護解消計画を策定した場合の加算を創設するなど、保険医療機関において患者の病状に応じた適切な看護サービスを提供するために必要な看護要員の確保を図るための支援措置を講じ、付添看護の解消が円滑に進むよう努めているところである。

二の2について

 特別看護料及び特別介護料は、付添看護の解消に取り組む保険医療機関及び一定の水準以下の看護体制の保険医療機関について、付添看護の解消途上である等の理由により、その看護体制を補完する必要がある場合に算定されるものである。これにより、保険医療機関の責任により個々の患者の病状に応じて適切な看護サービスを提供する体制を確保することができるものと考えている。
 なお、長時間の特別看護又は特別介護が行われた場合には一定の点数が加算されることとしている。
 また、付添看護の解消途上である等の理由によりその看護体制を補完する必要がある場合以外には、特別看護料及び特別介護料の算定を認めることは考えていない。

二の3について

 看護補助料は、看護補助者の賃金の実態、従来の基準看護における看護料との均衡等を勘案して設定しており、従前の基準看護より看護補助者の評価の充実を図っているところである。なお、診療報酬の改定に当たっては、全体として、看護補助者の人件費を含む医業経営に要する費用が賄われるよう勘案しているところである。

二の4について

 診療所の看護料については、看護婦の数によって看護補助者を含む看護体制全体を評価しているものであり、診療所において必要な看護要員が確保されるよう配慮しているところである。なお、平成六年四月及び同年十月の診療報酬改定において、大幅な引上げを行ったところである。

三の1について

 入院時の食事については、入院医療に不可欠なものであることから、引き続き保険給付の対象としつつ、患者ニーズの多様化に対応したサービスの質の向上や入院中の患者と在宅等で療養している患者との負担の公平化という観点から、療養の給付という現行の保険給付の仕組みを改め、入院時食事療養費の支給制度を創設するとともに、平均的な家計における食費を勘案した一定額を患者が支払うこととしたものである。
 なお、制度の基本的な枠組みが各国で異なるため、単純な比較はできないが、例えばフランスにおいても、定率の患者自己負担以外に食事代等に対応するといわれる定額負担が設けられている等各国において様々な取扱いが行われているものと承知している。

三の2について

 労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号。以下「労災法」という。)等の適用傷病により入院中の患者が、当該傷病とは別の傷病について治療を受けた際、当該治療については、労災法等が適用されないため、医療保険制度又は老人保健制度(以下「医療保険制度等」という。)による給付が行われることとなり、医療保険制度等に基づく患者の自己負担が生じるものである。したがって、無条件で特別食加算部分を給付することは困難である。

三の3について

 入院時の食事については、入院中の患者と在宅等で療養している患者との負担の公平化を図るため、低所得者には負担の減額措置を講ずるなどの配慮をしつつ、患者が平均的な家計における食費を勘案した一定額を負担することとしたものである。また、医療保険制度は、被保険者が保険料を負担するとともに、患者の受診時に法令で定められた一定の負担を行うという方式により運営されているものである。こうしたことから、法令で定められた入院時の食事に係る患者の負担について、地方公共団体が公費財源により助成を行うことは、全国一律に運営をしている医療保険制度において求められる公平で適正な運営という観点から適切でないと考え、厚生事務次官名の依命通知等により地方公共団体の理解及び協力を求めているところであるが、地方公共団体が地域の実情に応じて助成を行うこと自体は違法ではない。
 また、法令で定められた入院時の食事に係る患者の負担について助成措置が講じられている地方公共団体に係る国民健康保険の国庫負担については、当該助成措置により医療費の増大が見られるか等の状況を見ながら、国庫負担の公平な配分という観点から調整措置を講ずる必要があるか否か検討してまいりたい。

四の1について

 入院患者については、従来から、現に入院している保険医療機関において必要な医療を提供すべきであるとしており、入院中の患者が他の保険医療機関において受診することを前提とした診療情報提供料の算定は認めていない。

四の2について

 御指摘の診療情報提供料(C)は、病院と診療所等の機能分担を前提とし、病院と診療所等の連携を促進して、病院に入院している患者の退院後の継続的な療養の確保や社会復帰の促進を図る観点から、病院である保険医療機関が入院している患者の退院に際し、診療所等に対して入院期間中の診療状況を示す文書を添えて患者の紹介を行うことについて、他の診療情報提供料より高い評価を行うものであり、診療所間の情報提供について一般の診療情報提供料より高い評価をすることは考えていない。

五の1について

 特定疾患療養指導料は、プライマリ・ケア機能を担う地域のかかりつけ医師が行う計画的な療養上の指導を評価するものであることから、その算定に当たって保険医療機関の規模にかかわらず一律に評価することは考えていない。

五の2について

 てんかん指導料については、てんかんが専門的医療を必要とする疾病であるため、てんかんの治療について専門性が高い医師による指導等を評価するものであり、診療科にかかわらず算定することは考えていない。
 また、特定疾患療養指導料は、成人病等の慢性疾患の患者に対して、計画的に投薬や生活指導を中心とした療養上の指導を行う必要があることから、一月に二回算定できることとしているのに対し、難病外来指導管理料は、継続的な医学的管理を評価するものであることから、一月に一回算定することとしているものである。

六の1について

 診療所老人医療管理料は、病状が比較的安定している老人患者について、その病状に着目して、短期間の入院について定額払いにより算定されるものとして設定されたものである。なお、治療の必要な障害者等が短期間入院する必要が生じた場合は、一般の出来高払により入院料等が算定されるものであり、必要な対応が図られているものと考えている。

六の2について

 診療所老人医療管理料は、必要な看護職員及び介護職員の配置等の施設基準を満たした専用の病床を確保し、当該すべての病床において一体的に適切な看護サービスを提供することにより、寝たきりの状態にある患者又はこれに準ずる状態にある患者にふさわしい医療を提供するため設定されたものであり、当該病床の数については、診療所があらかじめ都道府県知事に届け出ることとされている。
 したがって、当該病床において一般患者に医療を提供することは、地域における医療の確保等の観点から、診療所老人医療管理料を算定する患者の利用がない場合に限って、例外的に認められるものであり、当該患者と一般患者とが同時に利用することは認められないものである。

七について

 現在、一回に三十日分の投与が認められているのは、海外への渡航、年末及び連休等により保険医療機関における受診が困難な場合に限られており、御指摘の夏期休暇により帰郷等の場合については、保険医療機関における受診が可能であるため、このような取扱いを認めることは考えていない。なお、病状の安定した疾病について投与される安全性の高い医薬品については、必要に応じ、三十日又は九十日の長期処方を認めているところである。

八の1について

 保険医療機関が表示する診療時間以外の時間における診療について行われる加算は、一般の保険医療機関が診療の求めに応ずる体制を採っていない時間帯において、緊急に診療を行ったことを評価するものであり、午前八時から午後六時までの間における診療について個々の保険医療機関の表示する診療時間によって加算の対象となる時間帯を設定することは考えていない。

八の2について

 往診料については、診療時間であるか否かにかかわらず患者の求めに応じて対応すること及び往診時間を要すること等を勘案して評価の充実を図っているものであることから、休日加算の算定を認めることは考えていない。なお、往診料と同時に算定される初診料及び再診料については、休日加算の算定が認められている。

九について

 中医協の審議事項は、支払側と診療側の間で利害が対立することも少なくないことから、自由な審議を保障するため、中医協が自ら定める議事規則にのっとり、総会を除き非公開の取扱いとされているところである。

十の1について

 今般の国民健康保険制度の改正においては、被保険者均等割総額及び世帯別平等割総額の合算額の保険料又は国民健康保険税(以下「保険料等」という。)の賦課総額に対する割合(以下「応益割合」という。)が四十五パーセント以上五十五パーセント未満の市町村における保険料等の軽減割合を高めることにより、低所得者層の負担が増大しないように配慮しつつ、中間所得者層の負担の軽減を図ることがその趣旨の一つである。保険料等の水準については、医療費の高低の状況や保険料等の算定方法等によって市町村ごとに異なる上、同一市町村内であっても所得や世帯の人数に応じて世帯ごとに異なることから、制度改正の前後における保険料等の負担の増減や軽減の対象となる世帯数を比較してお示しすることは困難である。一例として応益割合が三十五パーセントである市町村が応益割合を四十五パーセントに引き上げた場合の保険料等の水準を、平均的な保険料等の賦課の状況を勘案して仮に計算すると、軽減割合が六割から七割に引き上げられる、総所得金額等が三十三万円以下の世帯については、改正前は一世帯当たりの保険料等の額が約二万六千円であるのに対し改正後は約二万五千円となる。また、軽減割合が四割から五割に引き上げられる、総所得金額等が三十三万円を超え八十万円以下の世帯のうち、総所得金額等が六十万円の世帯では、改正前は約六万千円であるのに対し改正後は約六万円となる。新たに軽減割合が二割の軽減制度の対象となる、総所得金額等が八十万円を超え百三十五万円以下の世帯のうち、総所得金額等が百十万円の世帯では、改正前は約十二万七千円であるのに対し改正後は約十一万九千円となる。

十の2について

 現行の老人保健制度においては、老人医療費の公平な負担を図るという観点から、老人医療費拠出金を、基本的には各保険者の実際の老人加入率にかかわらず各保険者の老人加入率が全国平均の老人加入率と同じであるとみなして算定するものとされており、老人加入率が全国平均の老人加入率より低い保険者にとっては、現行制度による調整を行わなかったと仮定した場合と比較して、老人医療に係る費用負担が多くなることは事実であるが、このような老人医療費拠出金制度の趣旨にかんがみれば、費用負担が多くなる保険者が存在することをもって制度が不合理であるとはいえない。
 なお、先に成立した国民健康保険法等の一部を改正する法律(平成七年法律第五十三号)附則第四条において、同法施行後三年以内を目途として、医療費拠出金の算定方法に関する検討を行い、その結果に基づいて所要の措置を講ずる旨が規定されたところである。
 国民健康保険制度については、高齢者や低所得者など保険料負担能力の低い加入者が多く、その財政基盤がぜい弱であること等から、保険給付費の五十パーセントという他制度に比べ高率の国庫負担を行っているところであるが、同制度の社会保険としての性格にかんがみ、その主たる財源は保険料によって賄われるべきであることから、国庫負担率を保険給付費の五十パーセント以上に引き上げることは考えていない。

十一について

 消費税の仕入税額控除は、課税の累積を排除する観点から設けられているものであり、課税売上げに対応する仕入れに係る消費税額を控除の対象としている。したがって、社会保険医療サービスなどの非課税売上げに対応する仕入れに係る消費税額分については、売上価格の引上げによって転嫁を図るというのが基本的な考え方であり、このような仕組みは、諸外国の付加価値税においても同様である。
 このような考え方から、平成元年四月から消費税の導入等に伴う仕入価格上昇分を勘案して、社会保険診療報酬等の改定が行われているところである。
 なお、消費税にいわゆるゼロ税率を設定することについては、税制調査会の「税制改革についての答申」(平成六年六月)において、「広く消費に負担を求めるという消費税の趣旨に反すること、課税ベースを著しく浸食すること、納税コスト・微税コストを膨大にすること、事業者や消費者の間に新たな不公平感を惹起すること等から、その採用は認め難い。」とされているところである。

十二の1について

 社会保険診療報酬課税の特例制度については、税負担の公平の観点から、これまでの整理合理化の状況等を踏まえ、引き続きその在り方について検討を進める必要があると考えている。

十二の2について

 事業税における社会保険診療報酬に係る課税の特例措置については、税負担の公平の観点から、税制調査会の累次の答申の趣旨等を踏まえ、引き続きその在り方について検討を進める必要があると考えている。