質問主意書

第132回国会(常会)

質問主意書


質問第一四号

国民医療に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成七年四月二十日

紀平 悌子   


       参議院議長 原 文兵衛 殿


   国民医療に関する質問主意書

 わが国は戦後一貫して低医療費政策をとってきた。一九六一年に国民皆保険を達成し、国民の誰もが、いつでも、どこででも、安い費用で医療を受けられるようになると、わが国の医療の主体となっている民間医療機関の努力と相まって、国民の平均寿命が世界一となるなど、国民医療の向上には見るべきものがあった。
 国民皆保険下での医療内容を規制する診療報酬も、先進諸外国に比べれば著しく安いものの、一九七〇年代までは物価、人件費に準じて引き上げられ、医療の進歩や国民のニーズに応じた医療がある程度可能であった。一九七〇年代の一〇年間の上昇率は、それぞれ賃金二四九・四%、消費者物価一三六・六%、診療報酬八一・九%となっている(二木立著『現代日本医療の実証分析』 一九九〇年)。しかし、一九八一年に診療報酬改定の方針が改められ、その後の引上げ率が極端に抑制され、一九八〇年代の一〇年間の上昇率は、それぞれ人件費三六・五%、消費者物価二二・四%であるが、診療報酬はわずか三・一 %(二木立著『九〇年代の医療と診療報酬』 一九九二年)にすぎなかったため、国民医療は大きな影響を受け、看護婦不足を招いた。さらに寝たきり老人の増加など、深刻な社会問題も生じた。そこで私は、国民医療を守る立場から、一九九二年八月から一九九三年一一月にかけ、四回にわたって国民医療に関して質問主意書を提出してきた。
 しかし、「経済大国から生活大国へ」をうたった宮澤内閣からも、「硬直した予算配分を変える」と意気ごんだ細川連立内閣からも、国民医療を守る上から納得のいく回答を頂くことが出来なかった。
 現内閣は社会党党首である村山氏を総理とし、「人にやさしい政治」をモットーとされており、国民医療には特に関心の深いことと思われる。内閣の政治姿勢を伺うため、ここに再び質問主意書を提出するものである。質問はまず診療報酬改定、その他医療関連事項につき、以下、疑問の点を質すこととする。

一 社会保険診療報酬改定について

1 診療報酬の改定は医業経営の補填を一つの目的にしているが、一九八一年の医療費改定から、医療費の自然増(人口増、高齢化、医療の高度化など)が医療機関の所得の増にはつながらないのが現状である。政府は医療費の自然増がどれくらいの所得の増に反映するかを勘案した上で、医療従事者の所得が国民所得の伸びと同等に伸びるように、診療報酬の改定を行うべきではないか。(岡光序治厚生省老人保健福祉部長(当時)が「医療費の要素の中には、人口増とか人口の高齢化の影響分が二%弱あるわけで、(中略)その部分を別枠にカウントするということがあっていい」旨『社会保険旬報』九四年二月一一日号一七頁で述べている。)
2 政府は一九八四年前後より毎年の国民医療費の伸びを国民所得の伸びの範囲内にとどめることを政策目標にしているが、これは必然的に医療従事者の所得の伸びを国民所得の伸び以下に抑える結果を招くものである。如何なる理由によりこのような政策を掲げることにしたのか。
3 各種技術料の点数配分を変え、診療報酬を全体として一%上げる改定を行っても、医療機関により所得の上がらない場合もありうる。一点単価を一〇円から一%上げれば全ての医療機関が確実に一%の所得増になり、医業経営の補填という目的に沿うようになる。医療費改定に際し、単価を上げる考えはないか。

二 付添い、介護について

1 昨年一〇月の改定により、原則として病院付添婦は平成八年三月三一日までになくしていく方針が明らかにされたが、朝日新聞の報道によれば、従来、付添婦はいないとされた基準看護病院でも、二四時間介護の付添婦を置かなくては患者の介護が出来ないところが多数あったとのことである。今回の改定で、新看護、基準看護病院に看護補助者を置くことが出来るようになったが、八時間勤務であるから、二四時間の患者管理は困難であるといわれている。もともと病院付添婦は看護婦等の不足を補うために生じた制度であるので、病院看護の水準が、患者管理が完全に出来るほどに充実するまで、付添婦制度を存続させるべきではないか。
2 体位変換などが出来ず、二四時間監視が必要な患者に、特別看護、特別介護制度が導入されたが、担当者は原則として八時間勤務であり、二四時間患者の世話をすることが出来ない。二人ないしは三人の担当者が交代して、二四時間の特別看護、特別介護が出来るようにすべきではないか。
 また、特別看護、特別介護は、通常の看護体制ではカバー出来ない患者を対象にしているのであるから、全ての入院施設に導入を認めるべきではないか。
3 看護補助料が設定されたが、例えば入院患者一〇〇人に対し七人の看護補助者がいる場合、看護補助料は五〇点で、看護補助者一人当たり七一四〇円となるが、看護補助者が三四人になると、看護補助料は一三〇点で、看護補助者一人当たり三八二〇円にしかならない。このように手厚い介護を行おうとする施設に低い点数を設定するのは、医療内容を低下させるものである。よい医療を行う施設には高い点数を与える等、それに報いる措置をとるべきと考えるが、どうか。
4 有床診療所には看護補助者を置くことは認められていないが、有床診療所の看護婦等は、入院患者の看護と同時に外来患者の診察介助も行うことを前提に看護料を安く設定されており、入院患者に専念できない状態にある。病院以上に有床診療所には看護補助者が必要なので、看護補助者を認めるべきと考えるが、どうか。

三 入院時食事療養について

1 従来の入院給食が入院時食事療養となって療養の給付から外され、原則として患者は六〇〇円(平成八年度から八〇〇円)を負担することになったが、入院患者の食事は医療の一環として重要であり、療養の給付から外すべきでないと思うが、どうか。G7諸国で入院患者の食事を医療費から除外し、患者負担にしている例があるか。
2 医療保険や老人保健で入院している患者に特別食を提供した場合、入院時食事療養(I)(一九〇〇円)と特別食加算(三五〇円)から標準負担額(原則六〇〇円)を控除して、医療保険や老人保健から給付されることになっている。
 しかし、労働者災害補償保険法、公害健康被害補償法、自動車損害賠償保障法などの他法による入院患者において、医療保険あるいは老人保健の特別食加算(三五〇円)が算定された場合、標準負担額(原則六〇〇円)の徴収を医療機関に義務付けているが、これは不合理である。このように他法で入院している場合、標準負担額を含んだ入院時食事療養(I)に相当する額が給付されているわけであるから、医療機関における標準負担額の徴収は不要とし、無条件で医療保険あるいは老人保健で特別食加算を給付すべきと考えるが、どうか。
3 昨年一〇月からの入院給食への一部自己負担の実施を前にして、厚生省は、自治体による入院給食患者負担の助成をしないよう、各都道府県宛に担当課長名の通知、厚生事務次官依命通知などを再三にわたって出している。患者負担への助成は、自治体の裁量権の範囲内に属すると考えるが、どうか。
 また、全国の三〇近い都府県では、乳幼児、重度心身障害者、母子家庭などの患者に対して、なんらかの助成措置を行っている。今後このような自治体に対して、予算面などでの削減措置をとる考えはあるかどうか伺いたい。

四 診療情報提供料について

1 入院中の患者を他の医療機関に、診察ないし検査のため、必要な情報を添えて紹介することは、医療機関の連携によってより適切な医療を行う上から、望ましい処置であると思われるが、現在この際の診療情報提供料は認められていない。外来患者と同様に算定を認めるべきと考えるが、どうか。
2 有床診療所は施設基準も職員の基準も定められ、病院と同様に入院施設として認められたが、入院患者の退院に際し、診療の経過について紹介先医療機関に情報提供を行ってもその情報提供料は外来患者の紹介と同じである。有床診療所にも診療情報提供料(C)またはそれに準じた点数を認めるべきと考えるが、どうか。

五 指導管理料について

1 対象疾患に同じ指導を行っても、病院では特定疾患療養指導料の点数が低いか、あるいは全く認められないのは不合理である。医療機関の種別による点数の格差をなくすべきと考えるが、どうか。
2 現在、てんかんに対する療養上の指導は、てんかん指導料として小児科など特定の診療科を標榜する専任の医師が指導した場合にその算定が認められている。しかし、てんかんは従来、特定の診療科に限らず多くの開業医が治療に携わっている疾患であり、特定疾患療養指導料の対象疾患に加えることの方が適切と考えるが、どうか。
 また、難病に対する療養上の指導は、難病外来指導管理料として診療報酬上評価されているが、その評価は、月二回算定できる特定疾患療養指導料と同じにすべきと考えるが、どうか。

六 診療所老人医療管理料について

1 これは診療所にショートステイ機能をもたせるために設けられた点数であるとのことであるが、ショートステイには、老人以外でも障害者など在宅医療を行っている患者で、短期間利用する場合がある。この点数の名称を「診療所ショートステイ」と変更し、老人以外の患者も対象としてよいと考えるが、どうか。
2 複数の病室を対象病室とした場合、そのいずれの病室も空いている場合は一般患者を収容することが認められているが、一つの病室に対象患者が収容されている場合は、他の病室は空いていても一般患者を収容することが出来ないとされている。これは効率的ではない。病室が空いていれば一般患者の利用を認めるべきと考えるが、どうか。

七 薬剤の長期処方について

 現在、海外旅行と年末年始・ゴールデンウィークに限って、三〇日間までの薬剤処方が認められているが、夏期休暇による帰郷や、寒冷地の降雪時期、国内の長期出張等薬剤の長期処方が求められる場合は多い。この件に関してはケースにより柔軟に長期処方を認めるべきであると考えるが、どうか。

八 時間外、休日診療について

1 現在、時間外診療は通常午前八時以前と午後六時以降しか認められていないため、診療標榜時間を午前九時から午後五時までとしている医療機関では、診療の開始前一時間と、終了後一時間は、緊急を要する患者の診療を行っても時間外加算がつけられないことになっている。診療時間外であるから、その対応には苦慮することが多く、職員に診療介助をさせれば時間外手当を支給しなければならない。診療時間外の緊急診療には全て時間外加算を認めるべきと考えるが、どうか。
2 休日に医療機関にいて緊急の診療を行った場合は休日加算が認められるが、休日に緊急の往診に行った場合は休日加算は認められていない。休日に働く以上加算を認めるべきと考えるが、どうか。

九 中央社会保険医療協議会(中医協)の審議について

診療報酬の決定は国民医療を左右する重要事項であり、国民注視のもとに行われるべきものと思われる。現在中医協は総会のみが短時間形式的に公開されるが、その時間内で膨大な内容を検討するのは不可能である。中医協の審議を初めの段階から公開する考えはないか。

十 国民健康保険(国保)について

1 国民健康保険法等の改正が国会で成立した。負担の公平をはかるとのことであるが、所得に関係なく払わねばならない応益割の割合が増えると所得の低い世帯の国保保険料等の負担が増えることとなる。
国は、その対策として国保保険料の軽減制度の拡大で救済するとしているが、その試算根拠と軽減の対象となる所得層およびその世帯数を、改正前との比較でお示し願いたい。
2 現在、老人医療拠出金の算定の基礎となっている老人加入率の上限二〇%を超える国民健康保険者が全体の四割になったため、同上限規定の引上げを図るということであるが、この引上げは政府管掌健康保険、健康保険組合など他の健康保険の拠出金増をもたらし、ひいてはこれらの社会保険料の引上げにつながりかねず、単に国保だけの問題では済まない内容を含んでいる。この平均老人加入率による拠出金算定方法は、保険者によっては多大な負担を強いることになり不合理な点がある。そもそもの誤りは、一九八四年に国保の国庫負担率を四五%から三八・五%に削減したことにある。この算定方法を見直し、国庫負担をもとに戻す考えはないか。

十一 消費税について

現行消費税法は、社会保険医療を非課税としている。しかし医療機関が使用した医薬品、医療材料および諸経費に対して課税されている消費税を、最終消費者である患者から徴収することが出来ず、医療機関の負担になっている点が大きな問題である。消費税導入時に医療材料で〇・一一%、医薬品で〇・六五%、併せて〇・七六%が上乗せしてあるというが、薬価算定方法が変わり、なおかつ薬価が引き下げられた現在、薬価に消費税分が含まれているという実感すらなくなっている。日本医師会の「第一八回医療経済実態調査」(一九九二年一一月実施)に基づいて算出してみると、一年間で医療法人の病院(平均一二一床)では、一二〇〇万円以上、無床診療所でさえ一〇〇万円以上、消費税を負担していることになっている(『月刊保団連』九四年九月号)。消費税が医療機関の経営悪化の大きな要因となってきている今、医療にも自動車輸出等で行われている戻し税方式の『ゼロ税率』を適用すべきと考えるが、どうか。

十二 医業税制について

1 診療報酬の租税特別措置(租税特別措置法第二六条)は、診療報酬を据え置く代わりに税制面で配慮するとして成立した歴史的経緯がある。現在でも開業医の三分の一はこの規定を利用している。医療経営の安定上からも存続させるべきと考えるが、どうか。
2 医療は、医療法のもとに公共性と非営利性が要求されている。その原則を守る上でも社会保険診療報酬に対する事業税非課税措置を堅持すべきと考えるが、どうか。

  右質問する。