質問主意書

第131回国会(臨時会)

質問主意書


質問第七号

柏崎刈羽原子力発電所の地盤に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成六年十一月一日

稲村 稔夫   


       参議院議長 原 文兵衛 殿


   柏崎刈羽原子力発電所の地盤に関する質問主意書

 平成六年一月二十七日、資源エネルギー庁原子力安全企画審査課は、「東京電力(株)柏崎刈羽原子力発電所付近の西山丘陵地域の断層について」と題する報告書(以下「報告書」という。)を発表して、「寺尾断層は、設置許可の判断に影響を与えるものではない」との見解を下した。
 報告書は、東京電力(株)柏崎刈羽原子力発電所の敷地及び敷地周辺には第四紀後期の構造運動に伴う褶曲や断層運動はないと判断した理由に、敷地や寺尾の安田層が水平であること、椎谷のH段丘面(高位段丘面)に高度変化がないこと、並びに寺尾付近の安田層及び番神砂層の分布状況に構造運動に伴う褶曲活動を示唆する高度変化がないことの三点を挙げているが、その判断の根拠となる事実認定に誤認があると思われるので、以下質問する。

一 安田層が水平に堆積しているとの判断について

1 「寺尾周辺露頭及び断面位置図」(報告書図一二(同二一頁))には、a-a′、b-b′の断面位置が記載されている。また、「寺尾周辺地質断面図(a-a′断面)」(同図一三(一)(同二二頁))にはa-a′断面の地形断面と地質断面が、「寺尾周辺地質断面図(b-b′断面)」(同図一三(二)(同二三頁))にはb-b′断面の地形断面と地質断面が記載されている。
 しかし、「寺尾周辺露頭及び断面位置図」のa-a′断面の実際の地形断面と、「寺尾周辺地質断面図(a-a′断面)」にa-a′断面として示された地形断面とは、大きく異なる。b-b′断面の地形断面についても、同様に、「寺尾周辺露頭及び断面位置図」と「寺尾周辺地質断面図(b-b′断面)」とでは大きく異なる。
 したがって、報告書に示されている地形断面図が正確でないといわざるを得ないが、地形断面図が正確でなくても安田層が水平に堆積しているとの判断ができるのか。判断できるとするなら、その理由は何か。

2 「敷地内安田層地質断面図」について

(1) 「敷地内安田層地質断面図」(報告書図四(同一二頁))は、七本のボーリング柱状図をもとに作成されているが、敷地内で多数実施したボーリングのうち七本のみを抽出して断面図を作成した理由は何か。
 また、他のボーリングからは抽出した七本と異なる事実が認められるが、この七本を抽出したのは恣意的ではないか。
(2) 安田層中の火山灰の存在とその標高がいくつかの断面図に記載され、敷地や寺尾の安田層が水平であることの判断根拠として用いられているにもかかわらず、「敷地内安田層地質断面図」には火山灰が記載されていない。例えば、「寺尾周辺地質断面図(a-a′断面)」及び「寺尾周辺地質断面図(b-b′断面)」には、凡例にも示されているように、安田層中の火山灰が記載されているが、「敷地内安田層地質断面図」の七本のボーリング柱状図には、火山灰の記載はない。
 七本のボーリングからは火山灰は確認されたのか、又は未確認なのか。

3 安田層中の火山灰について

 報告書は、安田層中の火山灰が水平に堆積していることを構造運動がない理由の一つとしている(報告書図一三(一)、同図一三(二))。
 火山灰を比較の基準として用いる際にはその火山灰が同一であると証明しなくてはならず、比較の基準として用いた火山灰が異質のものなら、火山灰層が水平に堆積しているとは証明できない。安田層中には数枚の火山灰層が確認できるが、政府及び東京電力は、火山灰の同定(同一のものであることの証明)をどのように行ったのか。また、比較の基準として用いた安田層中の火山灰が同一であるとの判断根拠は何か。

二 高位段丘の認定について

 報告書は、「椎谷付近の段丘分布図」(報告書図五(同一三頁))で椎谷の高位段丘に高度変化がないことから構造運動に伴う褶曲活動はないとしている(同三頁)。東京電力は、柏崎平野とその周辺にH段丘面(高位段丘面)が存在すると主張しており、東京電力が平成六年八月十六日に提示した図面によると、高位段丘の位置は、(1)西山町浜忠、(2)同坂田・妙法寺、(3)柏崎市椎谷、(4)同平井、(5)同田尻工業団地及び(6)同赤坂山一帯であるとされている。ところが、東京電力の主張するH段丘面(高位段丘面)のいくつかは、実際には中位段丘を形成する安田層が堆積している。また、「椎谷付近の段丘分布図」(報告書図五(同一三頁))で椎谷の高位段丘とされた位置には、中位段丘を形成する安田層が堆積している。」これは構造運動の存在を示すと思われるが、政府は、東京電力のいうH段丘面(高位段丘面)は実際には中位段丘を形成する安田層が堆積していることをどのように説明するのか。また、何を根拠にしてH段丘面(高位段丘面)を認定したのか。

三 寺尾断層について

 変位量が、安田層中の腐食質シルト・亜炭層では一二〇センチメートル、椎谷層中の泥岩層では九〇センチメートルであるとする東京電力の主張に基づき、報告書は、寺尾断層について構造運動による断層ではなく、地滑りによる断層と判断している。

1 泥岩の層厚の変化が大きいことが「東京電力(株)によるAトレンチ(第一トレンチ)南側壁スケッチ図」(報告書図八(一六頁))から判断できる。断層の左右の椎谷層について泥岩の上下の層の層厚と順序を東京電力の主張に基づいて並べてみると、明らかに層の層厚と順序が違っている。層の層厚や順序が違っても泥岩(1)を基準層とすることができるのか。できるとするなら、その理由は何か。
2 安田層の堆積直前の旧地形面は椎谷層の上限面であり、かつ連続している。よって椎谷層の上限を変位測定基準面とすべきであったと考えられるが、この椎谷層の上限面で判断しなかった理由は何か。
3 報告書は椎谷層の変位量を九〇センチメートルと主張するが、安田層の堆積直前の旧地形面を変位測定基準面とすると安田層堆積直前での変位量は一二〇~一六〇センチメートルとなる。このように安田層中の腐食質シルト・亜炭層の変位より椎谷層上限面の変位が大きいと判断される場合でも寺尾断層を地滑りによる断層と主張できるのか。できるとすれば、その根拠は何か。

四 各原子炉の直下に見られる断層について

 原子炉の設置は、政府が各社の申請書に基づいて許可しているものであり、その内容については政府が責任を持つべきものである。柏崎刈羽原子力発電所の各原子炉の設置許可申請書には、発電所の支持地盤に第三紀西山層とともに上部の安田層を切る断層が存在することが記載されている。

1 各原子炉の直下断層と上部層との関係についてどのように調査し、判断したのか。また、調査手法、調査結果、判断根拠及び判断根拠として必要な詳細な添付図を公表しない理由は何か。
2 いくつかの原子炉、特に二及び五号炉と三及び四号炉の申請書において、断層の調査については、他の原子炉の申請書での調査結果を引用するなどして具体的調査を行っていないと思われるが、調査をしなくても判断できる理由は何か。
3 報告書では、寺尾断層について変位量が累積していないので地滑りと判断しているが、一方、一号炉の申請書では、α、β両断層について変位量が累積していないにもかかわらず、構造性の断層であると判断している。これらの判断結果が異なる理由は何か。
4 三号炉北東部にある断層については、どのように調査し、安田層堆積前の地滑りによる断層であると判断したのか。また、調査手法、調査結果、判断根拠及び判断根拠として必要な詳細な添付図を公表しない理由は何か。

五 報告書の事実認識が現地の実態と異なるとすれば、現地の断層について再調査し、万全を期する必要があると考えるが、政府はどのように考えるか。もし必要がないとするなら、その理由は何か。

  右質問する。