質問主意書

第127回国会(特別会)

質問主意書


質問第一号

大韓航空機事件の真相究明に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成五年八月十日

田 英夫   


       参議院議長 原 文兵衛 殿


   大韓航空機事件の真相究明に関する質問主意書

 一九八三年(昭和五八年)九月一日、大韓航空〇〇七便が大幅な空路逸脱をした結果、カムチャッカ及びサハリンにおいて旧ソ連の領空を侵犯し、乗客・乗員二六九名の生命が犠牲になった事件に関し、我が国の国会は衆参両院において、それぞれ本会議における全会一致の決議をもって、政府に対し、事件の全貌を明らかにすることを要求している。
 昨年七月二日、三日の両日、旧ソ連の各国で多数の人々に講読されている新聞「イズベスチヤ」の紙上に、大韓航空〇〇七便の機体から、旧ソ連側が秘かに回収していた、いわゆるブラックボックス(フライト・レコーダーとボイス・レコーダー)の内容を公開し、その原テープをICAO(国際民間航空機関)に引き渡すことをエリツィン・ロシア共和国大統領に要請する「意見広告」が掲載され、国際的に大きな反響をよび、ロシア共和国政府は本年一月八日、右原テープをICAOに引き渡した。
 私は、右「イズベスチヤ」紙上に「意見広告」を掲載した「日本の市民たち」の一員として、右原テープのICAOへの引渡しに際し、これを機にICAOがこの事件の真相究明を求める国際世論に応えて、公正な調査活動をおこなうことを要望する諸活動をおこない、その後の経過を注目してきたところである。
 しかるに、去る六月一四日、ICAO理事会が承認したとされる「報告書」は、事件直後の一九八三年(昭和五八年)一二月にICAOが発表し、大多数の専門家から批判された、「最終報告書」とほとんど変わらない、説得力のないものである。せっかくICAOが大韓航空〇〇七便の原テープを入手しながら、遺族をはじめとする国際世論の期待を裏切る「作文」で、真相究明の作業を中途半端なものに終わらせるようなことは絶対に許されない。本年九月一日には、事件発生後、満一〇年を迎える区切りの時期に当たり、非自民党新内閣の真相究明のための合理性のある基本姿勢を期待して、次の疑問点について、質問する。

一 政府は去る六月一四日にICAO理事会が承認決議をしたとされる今回の報告(英文)に関し、私が要請した日本語訳文の作成を拒んでいるが、国会に対し、正確な日本語訳文を事件一〇周年に当たる来る九月一日までに提出する考えはないか(仮にその考えがない場合にはその理由を明らかにされたい。)。
二 今回の報告書はロシア共和国政府がICAOに引き渡したフライト・レコーダーとボイス・レコーダーの原テープの解析作業によって、明らかになった研究結果に基づいて作成されたものと判断されるので、この点に関して質問する。

1 ICAOが右報告書作成のために、組織した調査委員会(もしくは「チーム」)の名称及び構成メンバーの氏名、国籍、略歴を明らかにされたい。
2 右調査委員会(もしくは「チーム」)が作成した「ワーキング・ペーパー」「議事録」等の文書番号と作成年月日を明らかにされたい。
3 政府は右報告書作成のための原テープ解析作業もしくはその後の作業にどのように関与したのかを明らかにされたい。
4 ICAOは右報告書において左記に記すフライト・レコーダーのパラメーターの記録を一切公表していないのであるが、このうち、大韓航空〇〇七便のフライト・レコーダーからは確認することができなかった記録はどれであるのかを明らかにされたい。

(1)補助翼の位置、(2)昇降舵の位置、(3)方向舵の位置、(4)フラップ・ハンドルの位置、(5)フラップの位置、(6)前縁フラップの位置、(7)スポイラーの位置、(8)スピード・ブレーキ・ハンドルの位置、(9)油圧圧力、(10)着陸装置レバーの位置、(11)スクワット・スイッチの位置、(12)電波高度計による高度、(13)ILSとVORの選択した周波数、(14)マーカー(アウター、ミドル、インナー)、(15)フライト・ディレクターのモード、(16)航法モード・スイッチ、(17)速度・モード・スイッチ、(18)高度モード・スイッチ、(19)オートスロットルの使用、(20)スティック・シェイカー、(21)ナセル温度、(22)火災警報、(23)客室与圧警報、(24)推力レバー角度、(25)逆推力、(26)イベント・マーカー

5 政府が公表した「昭和五八年九月一日大韓航空機を要撃したソ連機の交信記録」(一九八三年九月七日公表)のうち、大韓航空〇〇七便が「方向を変えた」とか「減速している」とかの左記の記録に対応する時間帯については今回の「報告書」の内容と明らかに矛盾するので、フライト・レコーダーの秒単位の関連パラメーターの記録を明らかにされたい。

(1)時刻〇三時〇九分〇〇秒発(八〇五)そうだ、目標は方向を変えた。
(2)時刻〇三時二二分〇二秒発(八〇五)目標は減速している。
(3)時刻〇三時二二分二九秒発(八〇五)いや違う、減速している。

6 政府が公表した「自衛隊のレーダーデータによる大韓航空機の高度及び速度等」(一九八五年二月二八日公表)において、大韓航空〇〇七便に高度及び速度の変更が認められている、一九八三年九月一日午前三時一二分から、同二九分に至る時間帯については、今回の「報告書」の内容と明らかに矛盾するので、フライト・レコーダーの秒単位の関連パラメーターの記録を明らかにされたい。

三 今後、政府は現在ICAOが原テープを所有するフライト・レコーダーやボイス・レコーダーの複製テープを国会に提出することにより、今回のICAOの報告書に対する、遺族や研究者らの不満を解消するために努力する考えはないか(仮にその考えがない場合にはその理由を明らかにされたい。)。

  右質問する。