質問主意書

第126回国会(常会)

質問主意書


質問第一一号

病弱・肢体虚弱児教育に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成五年六月十一日

林 紀子   


       参議院議長 原 文兵衛 殿


   病弱・肢体虚弱児教育に関する質問主意書

 「国連・障害者の一〇年」が終了し、今後の政府の対応が国民的に注目されている。また、発達過程にある闘病中の小児に対する教育の機会均等を保障するため、病院内学級の設置を求める要望も高まっている。
 病弱・肢体虚弱児と父母の多様な教育要求にこたえ、すべての病弱児に、その病状と発達に見合ったゆきとどいた教育を行うことによって、病気を克服し、基礎的な知識や技術、判断力を身に付けさせることは、国民教育の重要な課題である。それは憲法、教育基本法における「教育を受ける権利」「教育の機会均等」を保障する教育の具体化でもある。
 一九七九年度から養護学校教育が義務化され、さらに就学指導体制の整備充実や障害児学級等の定数もある程度改善されてきたとはいえ、いまだ病弱・肢体虚弱児の発達を保障するための教育条件の整備は不十分であり、多くの改善すべき問題点が残されている。
 この三月、政府は、今後一〇年間にわたる新しい施策として「障害者対策に関する新長期計画」(以下「新長期計画」という。)を発表し、「教育・育成施策の推進に当たっては、心身障害児の成長のあらゆる段階において、一人一人の障害の特性等に応じた多様な教育・育成の展開を図ることにより、最も適切な教育・育成の場を確保するという基本的な視点に立ち、そのために必要な諸条件の整備に努める」と明記した。また、厚生省の「これからの母子医療に関する検討会最終報告の概要」では、「長期にわたる入院、療養生活を続ける子どもへの対策は、学習体験を基にした成長過程という重要な時期にある子どもたちへの対応としては、必ずしも十分なものとはなっていない」とし「入院児対策の推進」をうたっている。
 こうした政府の方針に関連して、以下質問する。

一、病院内学級の位置付けについて

 病弱・肢体虚弱児に対する教育の機会均等を保障する病院内学級の役割と現状をどう認識しているか。

二、病院内学級の設置基準について

 学校教育法施行令における「六月以上の医療又は生活規則を必要とする程度のもの」及び「教育上特別な取扱いを要する児童・生徒の教育措置について」(昭和五三年、文部省初等教育局長通達)における「病院などにおいて療養中の者は、特殊学級を設けて教育することは差し支えない」との規定にもかかわらず、病弱・身体虚弱学級の設置が極めて不十分であることから、療養六カ月未満の児童・生徒の教育が見放される事態にあるといわれる。そこで、以下質問する。

(1) 療養六カ月未満の児童・生徒の実態を把握しているか。また、文部省及び厚生省の所管にある病院の小児科における平均入院期間は何日か。
(2) 病気療養児の疾病構造の変化、医療技術や薬学等の進歩により、入院期間が短期化、断続化しているといわれている。政府はすべての病弱・肢体虚弱児の教育の機会均等を完全に保障するため、抜本的な対策をとる必要があると思うが、見解を伺いたい。

三、国立大学病院における病院内学級の体制整備について

(1) 文部省及び厚生省の所管にある国立病院及び国立療養所において、小児病床を持つ病院がそれぞれいくつあり、その中で、教育を制度的に保障している病院内学級又は訪問教育を実施している病院及び療養所はいくつあるか。
(2) 国は本来、病弱・肢体虚弱児の教育の機会均等を保障し推進するため、国立病院及び国立療養所において、積極的に病院内学級を設置すべきである。
 一九八二年、第九六回国会、参議院文教委員会における病院内学級にかかわる審議で、小川平二文部大臣(当時)は「文部省として努力しなければならない余地が相当大幅に残っておると考えざるを得ませんので、いずれにいたしましても事態を十分検討いたしまして善処したい」と述べ、ほぼ一〇年後の第一二二回国会、参議院予算委員会における鳩山邦夫文部大臣(当時)の答弁でも「お子さんの教育の機会が保障されないということは文部行政の基本に反することでございますので、全力をつくしていきたい」と述べている。しかし、文部省、厚生省の所管にある国立病院及び国立療養所において、病院内学級の設置数は、ここ一〇年間で微増にとどまっているのが実態である。とりわけ文部省には、入院児に対する教育的保障を積極的に推進する本来的な責任があるわけで、すべての国立大学病院において、病院内学級を日常的に設置できる体制を整える必要があると考えるが、見解を伺いたい。

四、病弱・身体虚弱児の後期中等教育について

 病弱養護学校の中学部に学んでいる児童生徒は、養護学校内に、高等部が設置されていないために、病状の再発・悪化の不安を抱きながら地元の高校に通学するなどしており、休学や中途退学も多く出ている状況にある。学校を欠席する児童・生徒に対して、義務教育を保障する体制を充実させるとともに、病弱児養護学校の高等部の設置についても、希望する者であれば、受け入れられるように高等部を作るように指導すべきだと思うが、実態は各県に一校あればいいほうで、高等部を設置していない都県さえ多く残されている。また、学校教育法第七五条は「小学校、中学校及び高等学校には、特殊学級を置くことができる」となっているにもかかわらず、高等学校に特殊学校を設置している学校は、全国的にひとつもない。そこで、以下質問をする。

(1) 病弱・身体虚弱児における後期中等教育の現状をどう認識しているか。
(2) 国立大学病院において、都道府県から養護学校の高等部及び特殊学級を設置する旨の申請があれば、積極的に設置する意思はあるか。

五、就学手続の弾力的運用について

 入院している児童・生徒にとって、友人関係は病気に立ち向かう力になり、それを支える学校教育や教師の役割が重要になっている。また回復後、居住地域に戻った時のために、地元の学校との連携も重要になっている。しかし、学籍を移すことによって支障が多く生まれていることから、二重学籍を求める要望が高まっている。
 文部省は今年度から、小中学校の特殊教育の新しい形態として「通級による指導」を実施している。また、政府の「新長期計画」では、「通常の学級に在籍する軽度心身障害児に対する通級による指導について、その制度面の整備充実を図る」と述べているが、行政区を越えた病院に入院している児童生徒に対しても通級による指導を行う等、就学手続を弾力的に運用する必要があると考えるが、見解を伺いたい。

六、病院内学級の啓発活動について

 政府は児童・生徒が有する教育を受ける権利を保障するため、病気入院中の児童・生徒に対して、病院内学級や訪問教育の存在を知らせ、もれなく教育の場が保障されるよう啓発、宣伝する責任があるが、方針を伺いたい。

  右質問する。