質問主意書

第125回国会(臨時会)

質問主意書


質問第三号

平成四年四月の診療報酬改定に関する再質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成四年十一月二十七日

紀平 悌子   


       参議院議長 原 文兵衛 殿


   平成四年四月の診療報酬改定に関する再質問主意書

 わが国は一九六一年に、国民に健康で文化的な生活を保障する憲法第二五条等の要請に基づき、国民全員が健康保険に加入する国民皆保険制度を完成、国民であれば誰でも、いつどこででも安い負担で医療を受けられるようになった。
 また、わが国の医療は従来より民間主体で行われてきたが、一九六二年の医療法改正では公的医療機関の新設や病床の増設を制限して、その方針は一層明確になった。それを裏付けるように、わが国の私的医療機関は、プライマリーケアを始め一部の高次医療まで広範囲に国民医療を分担実践し、一九九一年五月診療分で外来診療件数は八二・二%、入院では六〇・三%を受け持ち、しかもその医療水準は外国の開業医と比較して高く、一九八三年以降は、平均寿命を世界一に保つなど国民医療への私的医療機関の貢献は誠に大きいものと評価することができる。
 すなわち、わが国では国民医療を維持発展させる上で私的医療機関が十分に機能を発揮することが不可欠の条件といえまう。
 しかしながら戦後のわが国の診療報酬は先進諸外国と比べて安く、私的医療機関の経営は時として困難を極め、一九五四年にはこれを補うため租税特別措置法の一部を改正する法律により税制を改正、診療報酬の必要経費を七二%とする「社会保険診療報酬の特例」が認められたが、これには診療報酬を引き上げるまでとの附帯決議がついていた。だが一九七九年この租税特例措置が変更されてもそれに対応する診療報酬の引上げはなく、私的医療機関を大きく圧迫するに至った。
 加えて一九八〇年以降の診療報酬の顕著な抑制は看護婦不足、開業医の後継者難、医療機関の倒産廃業、老人家庭のかかりつけ医師の不在、国民皆保険の崩壊、医療内容の低下など、良質な国民医療制度に重大な影響を及ぼす結果となった。
 このような時期に、政府は「経済大国から生活大国へ」移行する方針を打ち出し、それを受け生活大国五か年計画も策定されるなど時宜を得た政策ではあったが、本年四月の診療報酬改定にも当然その方針が反映され抜本的改正が施されるものと期待されたところ、結果は国民医療の改善にはほど遠かった。
 そこで私は、今後の医療供給体制を危惧し、先の国会で診療報酬改定に関する質問主意書を提出したのであるが、それに対する政府の答弁書には未だ納得し難い点があり、以下再度質問を行うものである。

一 さきの答弁書で、「平成四年四月の診療報酬改定は、物価及び賃金の動向、医療経営の実態、看護問題等医療を取り巻く諸状況の動向を総合的に勘案」したということであるが、一九八〇年からの十年間で産業全般で人件費が三六・五%、消費者物価は二二・四%上がっている現実に照らして診療報酬は二・六五%しか上がっておらず、実質二・五%の引上げは過少ではないのか。

二 ここで平成三年六月の中央社会保険医療協議会による医療経済実態調査では、平成元年の調査と比較してほとんどの医療機関で経営の悪化がみられた。厚生省においては医療機関の医業費用の増加分から収入増加分を差し引いた部分を診療報酬の引上げによりカバーしていくのが基本方針であるという理解が一般的であるが、それに従えば四月改定で一〇%程度の引上げをすべきではなかったか。

三 さらに今回四月改定で老人保健施設療養費は定額であることを配慮の上で人件費、物件費の動向、週休二日制への移行を手当てした上で薬価引下げ分を差し引いて一一・二%引き上げられているが、この数値は右施設のみならずいわゆる出来高払いの一般医療機関にも妥当する数字ではないか、また厚生省は出来高払いの医療機関は低い引上げ率の下どのような対応を経営上なすべきと考えているのか。

四 加えて日本の医療費を先進諸外国と比較したとき、例えばOECD諸国の医療費のGDP比の比較では日本は一八番目(「Statistical Abstract of the Uniticd States」一九九〇年版)であり、虫垂炎の手術料は先進国の五分の一ないし十分の一(AIU発行「世界の医療事情」一九九一年版による)であるが、こうした諸外国との比較の上からも医療費を引き上げるべきではないか。

五 また、先の答弁書中看護婦等の養成にかかる部分について、平成四年度の厚生省の看護婦等確保対策費は一一%増の八二一億円となっているがその大部分が国立の病院・療養所へ回され民間への補助は少ないといわれる。ここで政府は民間・公立・国立の看護婦等養成所に対してそれぞれ年間予算の何%程度を補助しているのか、また新設大学病院での養成機関の増設、あるいはそれ以外の新規の養成機関の設立を今後早急に行う計画はあるか。

六 特定疾患療養指導料に関して、前回答弁書で「地域のかかりつけ医師のプライマリーケア機能の評価を加味」する旨の表現があったが、これはいかなることを意味するか、詳しい説明を求める。

七 また特定疾患療養指導は、成人病に限らずまた疾患の今後の増減に関係なく、疾病の療養上、運動・栄養等に関する継続的な日常生活上の指導が必要な疾患に対しすべて行われるべきであり、また指導に対する適切な評価が図られるべきと考えるが、どうか。

八 以下の疾患に継続的な療養指導が特に必要でないとされた理由についてそれぞれ説明を求める。

(1) 慢性腎炎
(2) アレルギー性鼻炎
(3) アトピー性皮膚炎
(4) 心筋梗塞
(5) 慢性関節リウマチ

九 診療所の場合、初診時基本診療料は二〇八点であり、一方、特定疾患療養指導料は初診の日及びその後一か月以内に行った場合三四〇点となるはずだが現行制度では初診時基本診療料以外は加算されない。初診日から一か月以内に二回目の特定疾患療養指導を行った場合も一七〇点が加算されないということは妥当ではないのではないか、また両者の関係はどういうことか、説明を求める。

十 さきの答弁書で、十種類以上の薬剤を投与されている患者は珍しくないが、今の時点では薬剤使用制限の撤廃等規制緩和は考えておられないとのことである。では、外来患者に対する多剤投与の場合の適正な薬剤投与とはどのようなことをいうのか、また「医学的検討を踏まえ」とはどのような検討を行ったのか、それぞれ具体的な説明を求める。

十一 また、さきの答弁書では、有床診療所の入院機能に対する評価が医療の実態より低いように感じられる内容の答弁であった。そこで、まず有床診療所の看護要員に関して、病院では今回の診療報酬改定で「その他三種看護」は患者五名につき看護要員一人未満であるところ、国の調査では現在有床診療所は平均どれだけの看護要員を抱えているか。

十二 有床診療所が、病院の「その他三種看護」の基準以上の看護要員を抱えている場合、少なくとも病院の「その他三種」並の看護料は認めてよいのではないか。

十三 現在有床診療所は、法的に「診療上やむを得ない事情がある場合」に限って四八時間を超えて患者を収容することが認められているところであるが、全国の有床診療所では病床規模別の平均在院日数ほどのくらいか。またそのうち医療法第一三条の期限を超えて入院させていた診療所は最近の例で一年間にどのくらいあったのか。

十四 前述したように、現在有床診療所は、診療上の必要から恒常的に一定程度以上の期間同一の患者を入院させているのが実情である。その実情を踏まえるならば、有床診療所に対する基準給食及び基準寝具設備を認めるべきではないか。

  右質問する。