質問主意書

第123回国会(常会)

質問主意書


質問第一五号

北洋漁業の存続と関連産業の救済対策促進等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成四年五月十八日

小笠原 貞子   
高崎 裕子   


       参議院議長 長田 裕二 殿


   北洋漁業の存続と関連産業の救済対策促進等に関する質問主意書

 日本の北洋漁業は、今存亡の危機に立たされている。
 北洋における公海での漁獲量の大半を担ったベーリング公海の底引き網漁業が大幅縮小に追い込まれ、今年からサケ・マス沖どりが全面禁止になり、その上来年以降はイカ流し網漁業が全面禁止になるなど、日本の北洋漁業はまさに没落寸前といっても過言ではない。このため、これらの漁業に大きく依存している北海道の漁業者及び関連業者への甚大な影響が危惧されている。
 日本共産党は、事態を重視して一月から二月にかけて釧路市、根室市、函館市の現地調査を行ったが、どこの漁業者からも異口同音に出されたのは「これまで政府の言うとおりに効果的漁法も研究し努力してきたのに、そのデータも出ないうちに突然禁止するとは一方的すぎる」「日本政府の姿勢はあまりにも場当たり的だ」など怒りに満ちたものであった。
 また、水産加工、造船、製網、燃油、運輸などの関連中小業者や労働者からは「今後の見通しがまったく立たない」など「倒産=失業」の不安が強く訴えられ、自治体関係者からは「サケ・マスもダメ、イカもダメということになれば、このままでは地域(経済)が沈没する」と悲痛な叫びが上がっていた。
 北海道はもちろんのこと、各関係自治体も対策本部を設置するなどして、独自の救済対策などを懸命に模索しているが、ことは「国際的な操業規制による北洋からの撤退」という政府の責任に属する問題から引き起こされている。
 事態打開のために、政府が直ちに必要な対策をとると同時に、漁業者及び関連業界の救済のための法制度上の整備を図る必要があると考える。
 解決の促進を求め以下質問する。

一、政府は、昨年の四か国協議(日本、米国、カナダ、ロシア)で、これまでの沖どり継続の方向を百八十度転換し、全面禁止を受け入れたが、これは北洋サケ・マス漁業を壊滅させるものであり、漁業者及び漁業関係者に与える影響は計り知れない。
 わが党は北太平洋のサケ・マス漁について、漁業資源保護政策を基本とした「海洋資源の全人類的な最適利用」を繰り返し主張してきた。公海の漁業に関して「海洋法条約」も、サケ・マス等のさく河性魚類について、「母川の所在する国」が「第一義的利益及び責任を有する」としながらも、母川国は「他の国の経済的混乱を最小にするために協力する」とハッキリと明記している。
 海洋資源状況の科学的な調査も行わずに、母川国が一方的に他国を漁場から追い出すようなサケ・マス沖どりの全面禁止を受け入れた政府の責任は重大である。
 根室市の場合、最大の基幹産業である公海での北洋サケ・マス漁業の相次ぐ後退と今年からの沖どり全面禁止により、一九七五年に四万五千人の人口が今後三万人を割るとの予測もされており、地域振興の抜本的対策が求められている。
 政府はその責任をどうとるつもりか。

二、政府は一九九一年十一月末、今までの態度を大きく転換し、公海流し網漁業の操業停止を受け入れると表明した。そして、十二月の国連総会で同趣旨の決議が採択された。これにより北海道、青森、宮城、富山などのイカ流し網漁船約四百五十隻の転・廃業、乗組員約八千人の失業が余儀なくされるばかりか、水産加工、漁網、造船、食品など関連産業への深刻な影響が懸念されている。
 日本政府は、昨年九月に国連に提出した文書で「流し網漁業は管理可能である」と明記し、「混獲は程度の差こそあれ、全ての漁業に存在することから、混獲をもって特定の漁業を否定することは全ての漁業を否定することを意味する」「問題は混獲の程度であり、これを被混獲生物の再生産力の範囲内に抑えることが必要である」と述べ、継続を主張していたが、今回、急に態度を変えた。
 道内のイカ流し網漁業関係者からは、新たな漁具、漁法の検討など業界を挙げた懸命な努力の最中に、政府が公海流し網漁業の操業停止を受け入れたことに対する強い不満の声が寄せられている。
 政府は、これらの声にどうこたえるつもりか。イカ流し網業者の経営の安定のためにどのような措置をとるつもりか。具体的に明らかにされたい。

三、公海での北洋サケ・マス沖どり全面禁止により、ロシア二百カイリ内での合弁事業対策が、重要な課題とならざるをえなくなっており、地元関係者からも強い要望となっている。しかし、この合弁事業は二十億円を超える赤字を抱えているといわれており、今後の事業の継続は極めて困難な状況にある。政府が国会で度々答弁している国としての支援策の強化をどう図るつもりか。また、サハリン州、カムチャツカ州での孵化場建設などを含む漁業資源増大等の支援対策をどうするつもりか。

四、水産庁は二月中旬から下旬にかけて釧路市、根室市、函館市などの現地を調査しているが、地域の実情及び漁業者や関連産業の状況をどのように認識されたか。
 また、国際的な操業規制により撤退を迫られている北洋漁業及び関連産業の窮状を打開するために、どのような対策を講じるつもりか。具体的に明らかにされたい。

五、サケ・マス沖どりの禁止、北洋底びき網漁業の縮小、加えてイカ流し網漁業の事実上の撤退による大幅な減船は、漁業関係者のみならずこれらを基幹産業とする地域経済に多大な影響を与えている。政府は減船する漁業者への十分な補償と、失業する乗組員の再就職の促進等について万全の救済措置を講ずるべきと考えるがどうか。

六、国際規制による漁業の撤退が行われるたびに問題になるのが、水産関連産業の救済対策である。廃業した漁業者への補償金がほとんど漁協に支払われ、関連中小業者への貸付け金が回収されないために倒産が後を絶たない状況が毎回繰り返されている。
 減船漁業者への交付金が関係債権者に公正に支払われるように、政府は十分な補償と必要な指導をすべきであると思うがどうか。

七、イカ流し網漁業にほぼ全面的に依存する函館地方の製網業者の実態は、特に深刻である。三十五社のほとんどは中小零細業者で、資金力に乏しく従業員の平均年齢も五十才以上と高齢のため、事業転換の見通しも立たず、このままでは倒産・失業は必至といわれている。政府は、これらの中小関連企業を救済するために、金融などでの特別な支援策を講ずるべきと考えるがどうか。

八、アカイカ流し網漁業の代替漁法として、表層トロール漁法による漁獲の可能性が報じられているがその見通しはどうか。また他の代替漁法の開発についても、関係業界の要望・意見を十分に取り入れ本格的に取り組むべきと思うがどうか。

九、イカ珍味の原料をアカイカからペルーイカヘ転換せざるをえない加工業者にとって、酸味の強いペルーイカからそれを除去する技術開発に要する費用の負担は非常に大きいものがある。政府は、製品化を促進するために、研究開発費の大幅な増額を図るべきであると考えるがどうか。

十、北海道の漁業関係者は、スケトウダラ等の原魚の確保、ビザ無し渡航の実現などロシアとの交流の強化、拡大を望んでいる。そのためには検疫所や税関の拡充・強化が強く求められている。特にここ数年ロシアとの貿易が活発になり、活きガニなどの輸入が急増していることなどから、現在千歳空港と小樽市の二か所にしか配置されていない食品衛生監視員を、当面道東地方に最低一名配置すること、及び根室市に検疫所出張所を新設することが必要と考えるがどうか。
 また、税関については、当面根室市、釧路市、稚内市、小樽市などの税関職員の増員、及びロシア語の堪能な職員の配置などが必要と考えるがどうか。

  右質問する。