質問主意書

第123回国会(常会)

質問主意書


質問第一四号

行政不服審査法等による記録の「閲覧」に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成四年五月十八日

諫山 博   


       参議院議長 長田 裕二 殿


   行政不服審査法等による記録の「閲覧」に関する質問主意書

 大牟田市大字今山一四八四-一、弁護士永尾広久は大牟田税務署長の一九八八年三月十日付所得税更正処分に対して、国税通則法に基づき、福岡国税不服審判所に審査請求を申し立てた。永尾広久は一九八九年十月四日に福岡国税不服審判所に赴き、大牟田税務署の更正処分に関する一切の資料の閲覧と謄写を認めるように申し入れた。これに対し福岡国税不服審判所の審判官は、「異議申立調査書」七十一枚を閲覧してよいと答えた。審査請求人(永尾広久)は記録の閲覧だけでなく、コピー機又は写真機による謄写を認めてもらいたいと強く要求した。しかし審判官は「閲覧はよいが謄写は認めない。どうしても写しがいるのであれば手書きをしてもらいたい」といって、コピー機等による謄写を認めようとはしなかった。審査請求人はやむをえず、コピー機、写真機等による謄写をあきらめ、二日間にわたり延べ五人でB四版用紙七十一枚を手書きして記録を写しとった。国税庁の説明によると、国税通則法は、記録の閲覧を認めているだけで、謄写に関する規定はないので、全国で同様の方法がとられており、コピー機の使用による謄写は認めていないということであった。わが国の行政では、このような時代ばなれのやり方がまかり通っているのである。
 書類の閲覧は認めるが、コピー機や写真機による謄写は認めないという方法は、わが国の行政では広く行われていることである。例えば、行政不服審査法第三十三条第二項は、「書類その他の物件の閲覧」を規定している。総務庁の説明によると、「謄写を禁止しているわけではないので、機器の使用を認めるかどうかは行政庁の裁量による」ということであった。しかし、各行政庁の実際の取扱いをみると、不服申立人はコピー機の使用をほとんど認められておらず、書類等を手書きで写さざるをえないのである。政治資金規正法第二十一条第二項は収支報告書等について、「閲覧を請求することができる」と規定し、謄写を認める条文にはなっていない。そのため、目の前にコピー機があるのにその使用が認められず、苦労しながら報告書類を筆写しているのが実情である。
 書類、記録の閲覧に関する規定をもつ法律は、私の調査によれば、行政不服審査法、国税通則法、政治資金規正法を含めて、合計七十九に及んでいるが、その大部分について、右と同様の取扱いがなされている。そのため、国民がいかに無用な不便、不利益を被っているかを政府は知るべきである。
 しかし、法律の「閲覧」という条文を弾力的に運用し、機器による謄写を認めている例がないわけではない。刑事確定訴訟記録法第四条に、記録の閲覧に関する規定がある。条文では「保管記録を閲覧させなければならない」となっているが、謄写が禁止されたものではないため、保管検察官の許可を受ければ、記録の全部又は一部をコピー機などを使用して謄写してよいように運用されている。「注釈刑事確定訴訟記録法」(押切謙徳・古江頼隆・皆川正文共著、「ぎょうせい」刊)によれば、謄写の方法として、「器械を用いての転写」、「写真撮影」を認めるとしており、音読による録音も謄写と同様の取扱いをすべきものとされている。法務省刑事局の説明によると、再審の申立や学術研究のために必要な記録の「閲覧」には、その弾力的運用によって、一般に機器を用いての謄写を認めているそうである。
 行政処分に対する不服申立、審査請求、行政訴訟などは全国的に激増しており、不服申立手続きの迅速、簡素化は、国民の強い要求である。行政不服審査法第一条は、行政不服審査に「簡易迅速な手続による国民の権利利益の救済」をうたっている。その理念にもかかわらず、「記録の閲覧はよいが、コピー機や写真機で写しをとることは認めない」という行政庁の態度は、現在のオートメ化時代の流れに逆行するばかりでなく、行政不服申立の権利行使を著しく困難にするものである。また、政治資金規正法による収支報告書等のコピー機による謄写禁止は、国民の知る権利に対する重大な侵害である。よって、次の点について質問する。

一、閲覧は許すが、コピー機等による謄写は認めないとする合理的理由はあるのか。あればそれを示せ。

二、行政不服審査法、国税通則法、政治資金規正法その他書類等の「閲覧」を認めている法律の条文は、事務の機械化が進んだ現状にふさわしく、コピー機、写真機による記録謄写を可能とするように弾力的に運用すべきであると思うが、どうか。

三、書類の閲覧だけを認めるという法律は、コピー機が普及していない時代の遺物であり、コピー機が便利な事務機として普及している現在では実情に合わない。現行法の弾力的運用によって機器による記録謄写が認められないのであれば、記録の閲覧のほかに、機器を使用しての謄写も可能となるように、行政不服審査法、国税通則法、政治資金規正法その他同様の規定をもつ法律の関係条文を改正すべきであると思うが、どうか。

  右質問する。