質問主意書

第123回国会(常会)

質問主意書


質問第一〇号

過誤納固定資産税返還に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成四年三月九日

猪熊 重二   


       参議院議長 長田 裕二 殿


   過誤納固定資産税返還に関する質問主意書

 市町村の賦課徴収する固定資産税に関し、課税当局の課税標準把握が不完全であるため、多くの市町村において、過大な同税の徴収が行われ、その返還に関し、課税当局と納税者との間に紛争が多発している。
 私は、この件に関し、本院予算委員会(平成二年五月二九日)及び本院決算委員会(同年一二月五日)において、自治大臣の所見をただし、これに対し同大臣は「過誤納金を納税者に返還する方法を早急に検討し、全国自治体に指導していく」旨を答弁している。
 以上の経緯の下に、私は、右過誤納固定資産税の返還に関するその後の経過及び現状に関し、以下のとおり質問する。

一 過誤納金の存否及びその返還の状況について

1 政府は、全国自治体における(1)固定資産税過誤納の有無、(2)件数、(3)過誤納総金額等につき、現状をどのように把握しているか。
2 政府は、過誤納があった全国の自治体のうち、(1)過誤納金を返還した自治体の有無、(2)返還の法律上の根拠ないし理由、(3)件数、(4)返還総金額をどのように把握しているか。

二 政府の自治体に対する指導について

1 政府は、前記決算委員会の日以降今日までの間に、全国自治体に対し、「過誤納金返還に関する一般的指導」をなしたか。
 なした場合は、その時期及び内容並びに指導の結果を明らかにされたい。
2 政府は、右の期間、特定の自治体に対し、右の指導をなしたか。
 なした場合は、右1と同一内容につき明らかにされたい。
3 政府は、現在まで、右の指導を何らなしていないとすれば、その理由及び今後の方針につき明らかにされたい。

三 過誤納金の返還並びに損害賠償について

1 浦和地方裁判所は、平成四年二月二四日判決(平成二年ワ第一七〇号事件)において、被告市の市長のした賦課処分を違法とし、被告市に対し、国家賠償法に基づく賠償金の支払を命じているが、政府は、右判決の存在及び判決理由を了知しているか。
2 右判決において裁判所は、以下の四点につき、以下のとおり判示している。

(1) 市長の過失について

 「地方税法第三八四条第一項本文が、市町村長は、住宅用地の所有者に対して、当該市町村の条例の定めるところに従い、土地の所在及び面積等、固定資産税の賦課に関し必要な事項を申告させることができるとしたのは、納税義務者に対して右申告義務を課することにより課税当局において減税特例の要件に該当する事実の把握を容易にしようとしただけのものであって、右申告がないからといって、減税特例を適用しないとすることが許されるものでない。
 「被告の市長が右固定資産税の賦課決定をしたことには過失があり、これが租税法規に違反してされた点で違法性を有するものであることは多言を要しない。」

(2) 国家賠償と賦課処分の効力

 「租税の賦課処分が違法であることを理由とする国家賠償請求は租税の賦課処分の効力を問うのとは別に、違法な租税の賦課処分によって被った損害の回復を図ろうとするものであって、両者はその制度の趣旨・目的を異にし、租税の賦課処分に関することだからといって、その要件を具備する限り国家賠償請求が許されないと解すべき理由はない。」

(3) 損害の発生について

 「原告らは、被告の市長がした固定資産税の賦課決定により法定の納税義務の限度を超えた納税をし、その超過部分に相当する損害を被ったわけであるから、被告は原告らに対しこれを賠償すべきである。」

(4) 損害賠償請求権の時効と地方自治法第二三六条について

 「原告らの右損害賠償請求権は地方自治法第二三六条により時効消滅したと主張するが、国家賠償法第四条には、国又は公共団体の損害賠償の責任については、民法の規定による旨の定めがあり、右損害賠償請求権については地方自治法第二三六条の規定は適用されないから、被告の主張は失当である。」
 私は、右の判示は誠に相当と考えるが、政府は右の判決に摘示されている法律の解釈適用を考慮した上で、以下の四点につき政府の法律上の所見を明らかにされたい。

ア 地方税法第三八四条第一項本文による納税者の法定事項に関する申告がない場合においても、課税標準の正確な把握は課税当局の責務であることに変わりはなく、従って、不当な課税標準の決定をした場合、課税当局に過失がある。
イ 固定資産税過誤納問題に関し、納税者は、賦課処分の効力を争う方法(不当利得返還請求に代表される)をとるか、もしくは、違法な賦課処分によって被った損害の賠償を求める方法(国家賠償請求に代表される)をとるかの選択の自由を有する。
ウ 過誤納固定資産税は、納付の時点において、超過分(過誤納分)が損害であるから、納税者は、課税当局に対し、直ちに賠償請求をなし得る。
エ 国家賠償法上の請求権に関する時効は、民法の時効規定の適用を受けるのであって、地方自治法第二三六条の時効規定は適用なく無関係である。

3 右判示内容は、政府の従前からの過誤納金返還に関する行政指導と明らかに異なる取扱いというべきであり、たとえ異種の国家機関であるからといって、異なる二種の取扱いをこのまま放置することは、「法の支配」の混乱であり、国民を混乱せしめるものであるから、政府としては右所見を充分に考慮した対応を早急に表明すべきであると思料する。政府は、右判決に対する所見表明とは別に、今後全国自治体に対し、

(1) 過誤納金は、原則として国家賠償請求の対象となること。
(2) 従って、地方自治体は、地方自治法第二三六条・地方税法第一八条の三と関係なく、損害賠償金として納税者に返還すべきものであること。

の行政指導をなすべきであると思うが、政府はかかる指導をなす意思を有するか。

  右質問する。