質問主意書

第122回国会(臨時会)

質問主意書


質問第七号

消防業務並びに消防職員の労働条件改善に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成三年十二月十日

小笠原 貞子   
高崎 裕子   


       参議院議長 長田 裕二 殿


   消防業務並びに消防職員の労働条件改善に関する質問主意書

 国民の生命と安全・身体及び財産を守る消防防災業務は極めて重要な役割を担っている。消防業務の遂行に当たり消防施設の整備の拡充や消防職員の労働条件の改善等を図ることは消防機能の強化の上で特別重視すべき課題である。そのためには、消防財政の強化と補助制度の見直し改善が求められている。そこで、以下具体的に質問する。

一、「消防力の基準」について

1 消防力整備の基本となる「消防力の基準」(昭和三十六年八月一日消防庁告示第二号)は「火災の予防、警戒及び鎮圧並びに救急業務等を行なうために必要な最少限度の施設及び人員について定めるもの」である。
 八七年四月一日と九〇年四月一日の消防力の基準に対する整備状況--各施設・職員の充足率--を述べよ。
2 消防力の基準は最小限度の基準を目的としているのにもかかわらず、充足率が化学消防ポンプ車は六〇・二%、はしご車六二・一%など整備水準が遅れていることは、消防力の機能の低下を裏付けるものであり、早急に充足率を満たすことが求められている。しかも、重大なことは、八七年と比較し、消防ポンプ車、救急自動車は充足率が後退していることである。消防施設整備の拡充のため、どの様な具体的計画を持っているか明らかにされたい。また、北海道の消防力の整備状況は、消防ポンプ自動車、はしご自動車、化学消防車の充足率が全国の充足率より十数%下回っており、整備促進のため国の援助と指導強化を図るべきであるがいかがか。
3 現有車両を有効に操作する人員の充足率は七一%と消防力の基準を満たし得ない状況がかなり長く続いている。そればかりか、八七年四月の七四・八%と比べ、七一%と後退しており、しかも、これはあくまでも「現有車両に対する消防職員」の充足率であり、「基準車両に対する消防職員」の充足率でみた場合、さらに低い数値となり、消防能力を低下させる深刻な問題と言わなければならない。同時に、人員不足すなわち、乗る者がいないため消防車両等の施設整備を逆に遅らせる大きな要因となっているのである。
 職員の充足こそ消防力基準達成のかなめとなるものであるが、人員の充足率達成に向け、どのような具体的措置をとろうとしているのか明確にしていただきたい。

二、救急業務対策について

1 救急業務対策は救急車の出動回数二六五万六九三四回、搬送人員二五九万三七五三名に及んでいることからみて、ますます重要な使命を課されている。ところが、救急自動車の乗車定員の基準は三人であるにもかかわらず、二名のまま救急業務を行っている実態であることを調査で確認している。これでは適切な応急措置もできないことになる。速やかに人員確保を図るため、指導を強めるべきであると考えるがどうか。
2 救命率の向上に向け、救急隊員の応急措置の範囲拡大は長年の懸案事項であった。
 今年度から、応急措置等の基準を二段階に分けて拡大することになり、特に高度な応急措置を行うため、救急救命士の制度が創設されたことは大きな前進である。同時に、これらを実行するに当たって、解決しなければならない課題も山積している。拡大された応急措置に対応できる救急隊員をいかに確実かつ敏速に確保できるかが問われている。

(1) 応急措置の拡大の第一段階と言われる、軽易の応急措置はすべての救急隊員を対象に、いつまでに教育訓練を終了する計画かまず明らかにされたい。
(2) 高度の応急措置を行う救命士の育成について、どのような計画を持っているか明らかにされたい。
(3) これらの教育訓練を行うに当たって、様々な条件整備を図らなければならない。とりわけ、救命士育成の場合、今年度全国一カ所六十人規模の教育訓練となっている。その他に政令都市の東京・横浜・名古屋・大阪だけが独自に数十人規模で教育訓練を行っているだけである。つまり、他の道府県は一~二人の育成にすぎないことになる。
 例えば、政令指定都市の札幌では、救急隊は二十三隊あり、二十四時間体制の中で一隊に四人の救命士が必要といわれているが、今年は一名の教育訓練参加で来年は二名の予定としている。このテンポでは何十年もかかることになる。大都市でこういう状況であり、地方においては一層困難なことは明らかである。全国で行う教育訓練の規模を拡大することと、北海道が設置している消防学校で教育訓練が可能になることなど、すべての都道府県で独自に教育訓練ができる条件整備づくりのため、国の具体的財政援助等と指導が緊急に求められているが、具体的対応策を明示されたい。
(4) 救急隊員がこうした一連の教育訓練を受講する場合、時には通常の業務を兼務しながら訓練を受けたり、養成期間中、代替要員の配置がされないなど、隊員の負担が過重になることの問題も解決されなければならない。こうしたことも含めての財政措置等の国の対策についての考えをお聞きしたい。

3 高度な応急措置が充分可能になるような救急資器材、最新通信機材など高規格の救急自動車の導入は人命救助上重要な課題である。現状はどこまで配置されているか、また、その促進のため今後の対策計画について、具体的に示されたい。

三、消防関係補助金の拡充について

1 消防が果たす重要な役割にかんがみ、消防施設等の充実は特別重要な課題であり、そのための消防関係の補助金の拡充が求められている。にもかかわらず、十年前の八一年度の補助金二百五億円をピークに八九年度百三十七億円と激減している。
 こうしたことから、各自治体からは補助に当たり「車種が決まり単価が低い、そのうえ補助率も低い」との切実な声が寄せられている。また、消防庁自身も「消防自動車の実際の単価が補助単価を上回っている事例が多い」ことを認めている。
 自治体に超過負担が出ないよう補助の単価アップを図っていくべきである。どのように努力されるか答弁願いたい。
2 同時に、夜間に使用する照明車など消防施設の近代化等の推進を図るためにも、補助対象になってない車両等の制限見直しを行うべきである。また、消防署の待機所、宿舎等の施設も補助対象となっていないため、ほとんど自治体の持ち出しとなっている。緊急時の通信網の充実のため消防多重無線設備を補助金の対象にすべきである。さらにこうした消防施設等にかかわる補助の対象を広げていく必要がある。具体的にお答え願いたい。
3 防災まちづくり事業について対象事業の拡大を図ること、並びに災害弱者緊急通報システムは今年度一杯の事業であるが、災害弱者対策に重要な役割を果たしており、来年度以降も防災まちづくり事業の対象とすべきである。見解を伺いたい。

四、消防団について

 消防団は全国に約三千七百あり、全国のほとんどすべての市町村に設けられている。団員も九十九万二千人に及んでいる。消防団の活躍ぶりは雲仙噴火火災において全国の国民に知られたように、地域社会の中で重要な役割を担っている。しかし、消防団員はかつて二百万人もいたのに年々減少傾向が続いている。市町村が行う消防団活性化事業の補助の拡充と団員報酬、出勤手当、公務災害補償、退職報償金等の充実に努めることが求められている。どのように処遇改善を図るのか、具体的対策を示されたい。

五、消防職員の「労働条件」について

1 消防職員は自らの危険を省りみず、生命と財産を守るため崇高な使命を持ち、過酷な業務に専念している。その重い業務内容を担っているにもかかわらず、消防職員の勤務条件は極めて過重で、前近代的状況に置かれたままとなっている。勤務体系は二部制をとり、隔日に二十四時間拘束体制となっている。こうした勤務条件を改善していくため、少なくとも三部制の導入を推進する必要があると思われる。現在、三部制を導入している団体はどこか明らかにされたい。
2 消防庁は参院地方行政委員会で日本共産党の諫山博議員の“三部制を目指すべきではないか”との質問に「今後の目標として十分考えていかなければならない。御指摘のとおり」(平成元年三月二十九日)と前向きな姿勢を示し、とりわけ政令指定都市においては「消防に関する職務の実態から見て、より早期に三部制に移行するということが望ましい立場にある」と述べている。具体的にどのような指導をし、どんな計画で移行していこうとしているのか明らかにされたい。特に政令指定都市の場合「より早期に」ということからして、移行に向けて着手に入っているのかどうか伺いたい。
3 三部制の導入に当たって重要なことは、自治体任せではなく国がそれに応じた財政措置をきちっと確立しなければならないということである。現在、地方交付税の措置は二部制が前提となっており、三部制に移行することによる人員増のため、新たな財源対策を講じなければ早期に三部制の実現は困難と言わなければならない。三部制移行促進のため、必要な財源対策をとるべきであるが見解を示されたい。
4 消防職員の勤務時間は業務の特殊性があるとはいえ、一般公務員労働者と同様に、労働時間の短縮、休日増を進めて行くべきことは当然のことである。現在、一般公務員は既に週四十二時間で、来年四月の早い時期には完全週休二日制となり、週四十時間となる。一方、消防職員は労働基準法の経過措置で現在週四十六時間となっているが、来年四月から四十四時間に移行となる。消防と同様の経過措置をとっている警察の場合、今年度から交替制勤務の週四十時間制の試行が実施されている。そして勤務に支障のないような期間を選定し順次実施するとしている。消防職員についてはこうした試行が行われているのか、もし行われていないなら今後行う考えはないのかお聞きしたい。また、週四十時間制に向けての考え方を明らかにされたい。
5 こうした勤務時間の短縮に向けて、消防職員の場合、留意しなければならない問題がある。すなわち、消防職員の勤務時間は一当務当たり十六時間が標準となっている。ところが、現在一当務当たり十四時間あるいは十三時間台になっているところもある。大事なことは一当務当たりの時間を“短縮”することによって逆に休日が減ったり、休日が取れない状況になることがあってはならないのであり、勤務を要しない休日が増えることを前提にしなければ本来の時短の意義を持たないことになる。
 つまり、休日を確実に増加させる前提で勤務時間の短縮を行うべきであると思うが、どのように考え、どのように指導されているか明確にされたい。
 また、こうした勤務時間の短縮を図るには新しい人員の増員が条件となっている。そのための財政措置についてどのように計画されているか示していただきたい。
6 消防職員の献身的かつ過酷な勤務体系にかんがみ、特殊勤務手当など諸手当並びに給料の改善を図るべきであると考えるがどうか。また、そのための財政措置について具体的に来年度以降の改善点を示されたい。
7 消防職員の年令は「今後ますます高齢化していくことが予想され、今後の消防活動の適切な水準を確保していくために検討すべき課題が生じている」(九一年度消防白書)と言われている。こうしたことから、消防装備の軽量化等の対策は重要である。現在、軽量化、省力化、安全対策推進検討委員会で検討されているが、どのような検討がなされ、具体的にどのように指導、実施されているかお聞きしたい。

六、消防職員の団結権について

1 消防職員に団結権を保障することは、焦眉の課題である。国際的にもILO締約国で団結権を認めていないのはガボンとスーダンと日本だけであり、しかも、日本政府はILOから約二十年近くにわたって団結権を保障することを勧告され続けている。日本共産党は消防職員はもとより、公務員労働者の労働基本権を保障すべきとの立場をとっている。消防職員の団結権についても国会で再三にわたって消防職員の団結権の保障を求めてきた。しかし、政府は「消防は警察から分離されたが、任務、権限の性質、内容には基本的に変わりはない」こと、「警察と同様、厳正な規律と統制のとれた迅速果敢な部隊活動が常に要求される」などを理由にILO第八七号条約(結社の自由及び団結権の擁護に関する条約)の「警察」に「消防」が含まれると不当に解釈し、警察職員と同じように団結権に制限を加えることを正当化している。しかし、戦前まで、消防は警察の一部門ではあったが、戦後、消防組織法が制定され、警察とは法的にも制度的にも、完全に分離され、自治体消防として新たな出発をしたのである。つまり、消防職員の任務と警察職員の任務は完全に区別され、同一性も類似性もないのである。しかも、政府が一九六五年に批准したILO第八七号条約は軍隊と警察については国内法令によって例外的に扱うことができるとし、軍隊と警察以外の労働者に団結権を保障すべきことを決めている。だから、一九七三年以降ILOは日本の消防職員に対し団結権を与えることを一貫して指摘してきた。新しくは今年三月のILO条約勧告適用専門家委員会から「消防職員の行う職務は本条約第九条に基づき団結権から除外することを正当化するような性質のものではなく、軍隊と警察以外のいかなる種類の労働者の団結権をも否認することは条約と適合しない」と厳しく指摘されている。この指摘にこたえ、速やかに団結権を保障すべきである。同時に同委員会は日本政府に対して「状況のあらゆる進展特に国内において消防職員の団結権の問題を解決するための最近の協議の結果予定される措置に関する情報を提供するよう要請する」としているが、いつ、どのような「情報」を提供したのか具体的に明らかにされたい。
 また、この問題を現状のまま放置してよいと考えているのかお聞かせ願いたい。
2 政府は消防職員の団結権の問題について、ILO、国会等においてしばしば検討を約束してきた。昨年六月、日本共産党の諫山議員の質問主意書に対し、「公務員問題連絡会議において、意見聴取の締めくくりとして、代表的な労働団体から意見の聴取を始めたところである。現段階では結論を得る時期を明示できないが、引き続き検討してまいりたい。」と述べたが、現時点の検討状況と、いつ頃までに結論を出す予定か明らかにされたい。

  右質問する