質問主意書

第121回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一二号

日本の戦争犯罪についての軍事裁判に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成三年十月一日

吉岡 吉典   


       参議院議長 土屋 義彦 殿


   日本の戦争犯罪についての軍事裁判に関する質問主意書

 ことしは日本が太平洋戦争を開始してからちょうど五十周年の年である。戦争への反省にたってその教訓を今日に生かし、また後世に伝えるためにも、太平洋戦争は世界と日本にとって、何であったかを事実に基づいてあらゆる側面から明らかにすることが必要である。
 憲法で「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し」た日本として、太平洋戦争で戦争責任を問われ、国際軍事裁判で裁かれた戦争犯罪と戦争犯罪人の全容を明らかにしておくことも重要であると考える。そこで、戦争犯罪人の問題に関して次の諸点について質問する。

一、軍事裁判の状況

1 日本の戦争犯罪に関して行われた極東国際軍事裁判所並びに日本国内及び国外の他の連合国戦争犯罪法廷の裁判はどこで行われたか、裁判を行った国、法廷ごとに示されたい。
2 それぞれの裁判ごとに起訴された者の数及び裁判結果を明らかにされたい。
3 A、B、Cの各級裁判はどう区分されるか、その定義は何か。
4 平和条約発効時に服役中の戦犯はどことどこにどれだけいたか。
5 平和条約前の一九四九年に実施された宣誓出所制度とはいかなるものか。これによる出所状況はどうだったか。

二、平和条約第十一条と減刑、赦免について

 サンフランシスコ平和条約第十一条は次のように規定している。
 第十一条 日本国は、極東国際軍事裁判所並びに日本国内及び国外の他の連合国戦争犯罪法廷の裁判を受諾し、且つ、日本国で拘禁されている日本国民にこれらの法廷が課した刑を執行するものとする。これらの拘禁されているものを赦免し、減刑し、及び仮出獄させる権限は、各事件について刑を課した一又は二以上の政府の決定及び日本国の勧告に基く場合の外、行使することができない。極東国際軍事裁判所が刑を宣告した者については、この権限は、裁判所に代表者を出した政府の過半数の決定及び日本国の勧告に基く場合の外、行使することができない。

1 東京裁判で有罪となったA級戦犯の第十一条に基づく減刑、赦免の状況及びそれはどのような法的根拠と手続きによって行われたか。また減刑、赦免の一番早い者についてその時期を明らかにされたい。
2 東京裁判所で有罪となったが減刑、赦免されたものについて、個々人ごとに、

(1) 刑を課した「政府の決定」によるものか、「日本国の勧告に基く場合」か。
(2) 日本政府の勧告に基づく場合、これを受け入れた「過半数」の国はどこか、その国名
(3) 減免、赦免の理由。
 をそれぞれ明らかにされたい。

3 B、C級戦犯有罪者の減刑、赦免はどのように行われたか。
4 「赦免」とはどういうことか。赦免によって軍事裁判の判決の効力自体が消滅するのか、それとも残るのか。
5 平和条約第十一条では拘禁されている「日本国民」の刑の執行となっているが、「平和条約第十一条による刑の執行及び赦免等に関する法律」では「刑を科せられた者」となっている。これは同じものか、それとも違うのか。「刑を科せられた者」には「日本国民」でない者も含むのか。
6 A、B、C級戦犯のすべてが釈放されたのはいつか、以下について明らかにされたい。

(1)日本人戦犯については、A級およびB、C級戦犯のそれぞれについて。
(2)朝鮮人、台湾人戦犯について。

三、公民権回復後の法的根拠と手続き

 東京裁判で有罪判決を受けながらのちに法務大臣、外務大臣など閣僚になったものがある。有罪判決をうけたものの選挙権、被選挙権などの公民権はどのようにして回復されたか。その法的根拠及び手続きはどのようなものだったか。

四、朝鮮人、台湾人BC級戦犯問題

 軍事裁判では「日本人」として戦争犯罪で有罪の判決を受けたものの中には、日本に強制的に徴用された朝鮮人、台湾人もいる。この朝鮮人、台湾人戦犯について次の点を明らかにされたい。

1 日本政府の見解によれば、これらの朝鮮人、台湾人ともサンフランシスコ平和条約後は日本国籍を離れている。サンフランシスコ平和条約発効時の巣鴨刑務所在所者の裁判国ごとの国籍別内訳。
2 戦争犯罪を問われた朝鮮人、台湾人の数及び有罪となったもの、さらに処刑されたものの数。できれば法廷ごとに。
3 これらの朝鮮人、台湾人の刑の執行は、どこの国がどのように行ったのか。
4 朝鮮人、台湾人戦犯で減刑、赦免を受けたものがあるか。

(1)あるとすればその実情。
(2)その法的根拠。
(3)どこの国の政府により、どのような手続きによって行われたのか。
(4)日本政府は、朝鮮人、台湾人BC級戦犯についての減刑、赦免の勧告を行ったのか。

  右質問する。