質問主意書

第120回国会(常会)

質問主意書


質問第三〇号

新中期防衛力整備計画(新中期防)に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成三年五月八日

上田 耕一郎   


       参議院議長 土屋 義彦 殿


   新中期防衛力整備計画(新中期防)に関する質問主意書

 四月三十日に行われた日米防衛首脳会談でチェイニー米国防長官は「米国製装備(兵器)の直接購入に意を用いてくれるとありがたい」と述べ、日本が米国製兵器の購入を拡大するよう求めた。
 これに対して池田防衛庁長官は「双方納得する方向でやる必要がある」と答えたということである。報道によると今アメリカで大きな問題になっているのは、日本が新中期防衛力整備計画(新中期防)で初めて購入を決定した早期警戒管制機(AWACS)の機体となる米ボーイング社のボーイング七〇七型機の生産ラインが受注減でストップしており、「同社では生産を再開するには、採算を考えると、少なくとも十四機の受注が必要」(四月二十四日「読売新聞」)だということである。防衛庁は新中期防でAWACS四機の購入を決めている。日米防衛首脳会談における米国防長官の日本への要求と、それに対する防衛庁長官の発言は、AWACSの機体となるボーイング七〇七型機の追加購入や、新中期防で検討課題となっている空中給油機としてボーイング七〇七型機を使うことに踏み切る、という危惧を抱かざるを得ない。
 また、政府は今国会で、湾岸戦争の多国籍軍支援のための財源の一環として新中期防から千一億六千七百万円分の自衛隊装備を削減した。ところが、防衛庁は来年度概算要求で、その削減した装備の一部を復活させようとしているということである。もしその事が事実であるならば極めて重大な事態である。
 そこで、アメリカの要求とそれに対する防衛庁の対応などに関連して新中期防について以下質問する。

一 今回の日米防衛首脳会談の際、ボーイング社のボーイング七〇七型機の生産ラインの停止問題について何か話し合われたか。

二 サウジアラビアがAWACS用と給油機用のボーイング七〇七型機を合わせて十一機購入する計画であったが、米議会の親イスラエル系議員の反対で、米政府はサウジアラビアへの売却を断念したため、報道によれば「米議会では『日本が購入機数を増やすべきだ』との決議案が提出されるなど、複雑な政治問題に発展している」(四月二十四日「読売新聞」)ということである。既に、昨年米側は日本に対して十二機のAWACSを導入するよう求めてきたと報道(十二月五日「毎日新聞」)されているが、日米防衛首脳会談ではボーイング七〇七型機の追加購入の話は一切なかったのか。

三 政府は、九十五年度までの中期防で予定している四機のAWACS用のボーイング七〇七型機を、さらに追加して購入する計画を立てるということはないと明言できるのか。

四 AWACSの価格は一機約三百億円と言われているが、防衛庁は一機の価格をおおよそどのくらいと見積もっているか。ボーイング社の事情とも関連してAWACSの価格が米軍のこれまでの購入価格と比較して大幅に引き上げられるということはないか。

五 日米防衛首脳会談で、自衛隊のF一五戦闘機用の空中給油機にボーイング七〇七型機を採用する話し合いはなかったのか。新中期防では空中給油機の導入を検討するようになっているが、この空中給油機にボーイング七〇七型機を採用する可能性はあるのか。

六 政府は、湾岸戦争の多国籍軍支援の九十億ドルの財源確保のために、九十一年度の防衛庁当初予算案の装備から千一億六千七百万円分(契約ベース)の装備を削減した。これについて海部首相、池田防衛庁長官は「千億円の削減は、結果として新中期防(総額二十二兆七千五百億円)の削減措置に反映される」と繰り返し答弁していた。ところが報道によると防衛庁は、来年度概算要求の中に、新中期防からカットしたはずの練習艦(三百三十億円)、パトリオット(二百五億円)、九〇式戦車(二両二十三億円)の復活を盛り込む方針を固めたということである。国会に削減する装備名の一覧表まで提出して明らかにされた、千一億六千七百万円分の装備は、新中期防の中からカットされたものではないのか。削減されたはずのそのような装備を購入しようなどということは国会と国民を欺くものではないか。

七 予算修正で削減された千一億六千七百万円に該当する装備が、九十二年度以降制限なしに購入できるものであるならば、九十一年度当初予算の中から削減された装備は九十一年度限りのもので、新中期防の中からはカットされていないということになり、新中期防の総額は当初計画の二十二兆七千五百億円から千一億六千七百万円を削減したものではなく、九十一年度歳出分の十億円を削減したものでしかないということになるのではないか。

八 もし政府が、新中期防から実際に千一億六千七百万円削減するというならば、何をいくら削減するのか、改めて削減する装備名とその金額の内訳を具体的に明示していただきたい。

九 仮に新中期防期間中に千一億六千七百万円を削減するようになったとしても、当初の新中期防に盛り込まれた装備はそのまま購入し、その支払いは新中期防後の歳出に回す後年度負担という手法を使って、結局新中期防では実質的に装備の削減は行われないということにならないか。

十 新中期防で大量の最新兵器を購入するようになるが、そのことによって「防衛計画の大綱」を超えるものがでてくるのではないか。例えば、昭和五十二年度版防衛白書(七十八ページ)では「航空自衛隊の作戦用航空機の総数は、約四百三十機とされた。その内訳は、前述の要撃戦闘機部隊十個飛行隊を維持するために必要な要撃戦闘機約二百五十機」と述べていた。ところが、新中期防で作戦用航空機は四百二十二機プラス予備機十六機で合計四百三十八機になり、限度数四百三十機を八機オーバーする。この予備機は「防衛計画の大綱」で何機まで認めているのか。

十一 予備機を無制限に増強するならば、「防衛計画の大綱」の作戦用航空機約四百三十機という枠は実質的に取り払われたと同様のものになってしまうのではないか。

十二 五十二年度版防衛白書で示された要撃戦闘機の約二百五十機という枠についてであるが、新中期防の完成時にはF一五戦闘機は二百四機、F4EJ戦闘機は八十五機とその予備機が十一機となり、要撃戦闘機の合計は二百八十九機プラス予備機十一機となる。防衛白書の説明の中で「防衛計画の大綱」では約二百五十機とされた要撃戦闘機の枠を三十九機プラス予備機十一機の合計五十機もオーバーすることになる。
 防衛庁は、要撃戦闘機についても昭和五十二年度版防衛白書で説明した内容を実質的に変え、「防衛計画の大綱」の枠を取り払って増強しようとしているのではないか。

十三 防衛庁は、新中期防でAWACSを新規に購入したり、空中給油機やOTHレーダーの導入を検討することにしている。このような兵器の購入がなぜ必要なのか。また、どのように運用するのか。AWACSで得た情報は米軍に提供されるようなことがあるのかどうか明らかにしていただきたい。

十四 米側は、米国製の兵器購入を求めているが、新中期防は、装備の購入に加えて「思いやり予算」の大幅な増額、自衛隊施設の強化などで二十二兆七千五百億円になっており、日本の軍事費はNATO方式で計算すれば引き続き世界第三位になっている。
 政府は、アメリカの米国製兵器購入要求を拒否し、防衛庁でさえも防衛白書から「ソ連の脅威」を削除せざるを得ない状況になっている今こそ、新中期防を中止し、軍事費を福祉、教育費など国民のための予算に回すべきではないか。

  右質問する。