質問主意書

第120回国会(常会)

質問主意書


質問第一九号

HIV対策に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成三年二月二十八日

下村 泰   


       参議院議長 土屋 義彦 殿


   HIV対策に関する質問主意書

 我が国のHIV(ヒト免疫不全ウィルス)対策は、世界各国に比べ、予防、治療、感染者救援の面で残念ながら立ち遅れている。アメリカ合衆国において被害が発表されて十一年、日本人の患者が確認されて五年有余、この間政府は、昭和六十二年、後天性免疫不全症候群の予防に関する法律(エイズ予防法)を作り、その形を整えたものの、実効性に見るべきものがない現状である。
 このような状況の中でHIV病発病者(以下発病者と略す。)、感染者の救援組織から九項目にわたる国会請願が提出されており、これらの事態を踏まえて、特に緊急な対策を必要とする問題について以下質問する。

一 血友病の治療との関連から私立病院、私立医大病院が血友病患者のHIV治療に当たって来ているが、これらの病院においては医師の定年退職に当たって後継者が得られない事例や、経営上の問題からHIV治療の縮小の方向を打ち出している病院があるなど、新しく性行為感染などによる発病者を迎え入れることが難しい状態にある。又、昨年は感染者が地方からも報告されているが、現状では大都市圏でさえも、発病者・感染者が安心して治療を受けられる医療機関が少ない。政府は少なくとも国公立病院を窓口とし、発病者・感染者を受け入れられる体制を作るべきではないか。

二 発病者・感染者の歯科治療に関しては、受け入れる医療機関が極端に限られている。政府は形式的に受入機関を列挙するだけでなく、本当に治療可能な現場を作り、発病者・感染者の切実な要望にこたえるべきだと思うが、対応を伺いたい。

三 血液製剤によりHIV感染した血友病患者に対し、国は現在、死亡者と極めて重篤な発病者のみしか救済していないため、多くのHIV患者が放置され極めて深刻な事態が広がっている。救済の対象となる発症基準(以下発症基準と略す。)が極端に厳しいため、特別手当の支給期間が一年を満たずに発病者が死亡していく事例がほとんどである。政府は、特別手当の発症基準を薬害救済制度並みに緩和し、AZTが保険適用されるT4リンパ球が五百を割った時点から特別手当を適用するようにできないか。

四 私立の医療機関では発病者を受け入れる場合、差額ベッド料を徴収する事が多いが、特別手当が差額ベッド料に満たないことが少なくない。政府は差額ベッド料の徴収を完全にやめさせるか、それができない場合、差額ベッド料を患者に負担させない方法を採れないか。

五 薬害救済制度の判定委員会を、より一層民主的にするため、患者会の代表を判定委員会に加える事はできないか。

六 政府は感染者が通院しながら差別なく安心して働けるよう、一般企業を指導すべきではないか。

七 発病者・感染者の救援や、予防の知識を広めるに当たって、国や地方自治体が全力を尽くすことは必要であるが、発病者・感染者の精神的な悩みやセイフセックスについての指導などの面では限界もあり、世界各国とも民間ボランティア団体の活動を積極的に援助し成果を上げている。我が国においても、そのような団体によって相談活動や、具体的な介護活動にも取り組みが始められている。政府もまずこれらの団体を認知し、当面、エイズ予防財団を通じるなどして、これらの団体に財政的な援助をすべきではないか。

八 HIV感染者に対する入国管理法の上陸拒否条項の削除について、WHO(世界保健機構)のエイズ国際学会の日本開催に当たって、多くの理事が拒否条項の削除を求めている。拒否条項を持っている国は現在、世界で十二カ国だけであり、我が国ではエイズ予防法施行に当たって感染者の入国拒否条項が加えられたが、現在までこの条項を適用した事例もないと聞いている。特に必要もない条項のために、国際的な協力が損なわれるのは何としても理解し難い。政府は同条項を削除すべきではないか。

  右質問する。