質問主意書

第120回国会(常会)

質問主意書


質問第一五号

廃棄物問題の抜本的解決と環境保全に適合したリサイクル法の整備に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成三年二月十四日

竹村 泰子   


       参議院議長 土屋 義彦 殿


   廃棄物問題の抜本的解決と環境保全に適合したリサイクル法の整備に関する質問主意書

 廃棄物問題は現在、大量生産・大量消費型社会の文明病として、我が国においても、危機的状況を呈している。
 従来、資源に乏しい我が国にとって、天然の原材料を極力節約しながら生産活動や消費生活を営むべきことは自明の理であり、同時に、狭隘な国土においては、廃棄物の最終処分用地の確保が難しくなる一方であるから、廃棄物の発生量を極力抑制することも重要であると言われてきた。
 これら一次資源の消費抑制や廃棄物の減量化は、今やさらに一層大事な問題として、すなわち人類の生存と社会経済活動の基盤である地球環境を保全し、持続可能な発展を確かなものとするために、自治体レベルにとどまらず、国の最重要政策課題として、位置づけられるべきである。
 よって、以下質問する。

一 リサイクルの大切さは、かねてより各方面から訴えられてきたにもかかわらず、政府の取組はこれまで誠に消極的であったと言わざるを得ない。ところが、最近の新聞報道等によれば、通産省、厚生省及び環境庁はそれぞれリサイクルの法制度化が必要であると判断し、法案を検討中であると伝えられている。これらの省庁は、なぜ、法制度化が必要と判断したのか、その理由を三省庁ごとに明らかにされたい。

二 通産省、建設省等は、省資源の観点から、事業者に対し、使用済みの製品や工程からの副産物を再利用させることを義務づけることを内容とした「再生資源の利用の促進に関する法律案」(仮称)を立案中であると報じられているが、省資源の観点だけに立ったリサイクルについては、環境保全の観点から以下の点で疑問があるので説明されたい。

(一) リサイクルが省資源の観点のみから進められると、環境保全の枠を逸脱することがあり得る。例えば、建設廃材や鉄鋼スラグなどを再生資源と称して、地盤改良剤として埋め立てに利用されるおそれが多分にある。廃棄物として勝手に埋め立てに用いられれば、不法投棄である。
 また、有害物質を含有した汚泥を土壌改良剤などと称して、一般環境中に撒き散らされるおそれも否定できない。このような事態を防ぐため、立案中の法案では、どのような歯止め措置を考えているのか、その内容を明らかにされたい。
なお、この種の歯止め措置が立案中の法案には用意されていないならば、たとえ大気汚染防止法等の他の環境法制による別途の規制を歯止め措置に予定しているとしても、環境保全上問題の残るリサイクルを奨励するものとのそしりを免れないであろう。万が一、歯止め措置を用意しない場合は、その理由を明らかにされたい。
(二) リサイクルが省資源の観点のみから進められると、環境保全上効果の少ないリサイクルを奨励してしまうおそれがある。例えば、高炉スラグは路盤材として再利用するよりも、通常のセメントの代替品として再利用する方が温室効果ガスである二酸化炭素の排出抑制には効果的であるが、省資源の観点からだけでは、通常のセメントの方が安価なため、あえて高炉スラグのセメント転用を促進することはできないであろう。環境保全上有利なリサイクルを進めるために、本法案にはどのような措置が用意されているのか。
 なお、本法案に、通産大臣等の事業所管大臣が環境保全を含め、種々の事情を考慮に入れて具体的な再利用方法を基準として定めるような仕組みを用意しているならば、通産省等はその設置法等において広く環境保全の任務、権限を与えられていないにもかかわらず、どのような根拠で環境保全上の効果を裁量し得るのかを併せて明らかにされたい。

三 「再生資源の利用の促進に関する法律案」(仮称)については、環境保全上の効果の有無は別として、単に省資源の観点からだけでもその効果が疑わしい点がある。
 新聞報道等によれば、本法案は、「エネルギーの使用の合理化に関する法律」(いわゆる「省エネ法」)のように、事業者が講ずべき対策の技術的な基準を事業者の実情に詳しい事業所管官庁が作成することになっている。具体的な基準の内容は政令以下に譲っているが、これでは、基準の厳しさの程度は所管大臣の言わば「お手盛り」であり、肝腎な時に尻抜けとなれば、実効性が確保できまい。
 事実、同様の委任立法である「省エネ法」の場合には、つい最近までの石油価格低迷期にはエネルギー消費原単位が悪化していた状態にあったのである。
本法案では、「省エネ法」の轍を踏まずに、実効ある厳しい基準を設定するために、どのような仕組みを設けているのか。

四 厚生省は、廃棄物の適正処理の観点から、廃棄物の再生利用の拡大を通じて、その減量化を進めることを目的の一つとして、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」の改正案を検討中であると報じられている。しかし、廃棄物の減量化の観点だけからのリサイクルでは、環境保全の観点から次のような点で不十分と考えられるので、説明されたい。

(一) 例えば、焼却による最終処分量の減量化の方法と、事業者や住民を巻き込んだ形でリサイクルのルートを作り再資源化を図る方法とを比較した場合、前者の方が温室効果ガスである二酸化炭素の排出抑制効果が劣っているが実現は容易である。このような場合、専ら廃棄物の減量化だけを考えていると、前者の方法が安易に選ばれて、結果として地球的規模の環境保全が進まないおそれがある。
 費用が高くても環境保全上好ましい方法は、必ずしも即効的な廃棄物減量効果に結びつかない場合があるが、このような場合に、廃棄物処理を担当する厚生大臣は、環境保全上効果の高い方法を奨励することができないのではないか。
(二) 清掃事業は、地方公共団体の固有事務とされていることから、個々の公共団体のおかれた事情、例えば、最終処分用地の賦存状況などによってその進め方が異なることはやむを得ないものである。しかし、リサイクルを通じた二酸化炭素の排出抑制などの地球的規模の環境保全は、廃棄物最終処分場の容量の大小などにかかわらず、着実に進めるべき性質のものであろう。
 「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」の改正案では、いかなる根拠と仕組みをもって、地方公共団体に対し、全国的あるいは地球的に意義のある環境保全への寄与を求めるつもりか。

五 「再生資源の利用の促進に関する法律案」(仮称)及び「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」の改正案によって、通産大臣等の事業所管大臣が事業者の講じるリサイクルを監督し、また、これに並行して廃棄物処理を所管する厚生大臣が廃棄物のリサイクルを監督する仕組みが設けられたとしても、果たしてそれだけで、社会全体としてみた場合に、リサイクルを円滑かつ効果的に進めることは難しいのではないかと思われる。
 いわゆる静脈産業の育成を含めて、より大きな社会的仕組みと環境教育の充実が必要であると考えるが、具体的に、どのような措置をもって、リサイクル社会の構築を促進し、循環型の社会を作っていくつもりか。

六 事業者の行うリサイクルに関する法制度と、廃棄物処理にかかわる限りでのリサイクルを行う法制度との二つの法制度が並立する仕組みとなった場合、これらの法制度は必ずしも環境保全を主目的とするものではなく、さらに、所管の官庁が環境を専門とするものではないことから、環境保全上必要なリサイクル措置が十分に行われる保証はないと言わなければならない。
 廃棄物問題は優れて環境問題である。今般の法整備において、国家行政組織上環境保全を主たる任務とする環境庁の役割が過少なものにとどまるとすれば、それは環境保全上不十分なものとして、到底国民の理解が得られないであろう。
 環境の保全を預かる環境庁が、これら両制度に大局的見地から十二分に関与し、環境保全の実を挙げる必要があると考えるが、政府は、環境庁に具体的にどのような役割を担わせるつもりか。

  右質問する。