質問主意書

第120回国会(常会)

質問主意書


質問第七号

国連安全保障理事会決議六七八に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成三年一月十八日

翫 正敏   


       参議院議長 土屋 義彦 殿


   国連安全保障理事会決議六七八に関する質問主意書

 国連安全保障理事会決議六七八は、マスコミ等において武力行使容認決議と称せられるなど、この決議に基づいてイラクに対する武力行使が認められたと世間では受け取られており、また日本政府もこの決議がイラクに対する武力行使を認めたものであるとの見解を取っている。
 しかしながら、同決議において武力行使を認めたとされる第二項は、「必要とされる総ての手段(all necessary means)」の使用を許可したとあるだけで、武力という言葉は一切使われていない。その他の項においても武力という言葉は使われていない。
 国連安全保障理事会が武力行使を認めた数少ない決議の中の一つである安全保障理事会決議一六一は、第二項において「適切な総ての手段(all appropriate measures)という言葉を使っているが、これには「武力の「使用(the use of force)を含むという但し書きが入っており、同項が武力行使を容認したものであることが明確にされている。
 決議六七八が、武力行使を容認しているかについては安全保障理事会理事国においても見解が分かれている。国連広報部発行プレスリリースSC/5237によれば、決議可決後の理事国代表の発言においても、カナダは必要とされる総ての手段の中に武力の使用が含まれる旨の発言をしているが、一方、マレーシアは武力使用のいかなる提案も、国連憲章第七章に従って、事前承認を受けるため、安全保障理事会に提出されなければならないとし、決議六七八の下において取られるイラクに対する実質的破壊につながるいかなる行動にも反対であることを表明している。
 しかしながら、米国を中心とする「多国籍軍」と称せられる湾岸地域に展開する各国軍隊は、決議六七八に基づくと称してイラクに対する武力行使を開始した。
 安全保障理事会決議六七八が果たしてイラクに対する武力行使を容認したものであるのか、政府の見解を明らかにするために、以下質問する。

一 決議六七八の解釈について

1 同決議の解釈(武力行使を認めるか否か等)を最終的に決定する国際的機関は存在するのか、あるいはその解釈は個々の国連加盟国に委ねられているのか。
2 最終的な解釈を決定する国際的機関が存在する場合

(1) その機関は、決議六七八がイラクに対する武力行使を容認するものだとの解釈を示したのか。
(2) 国連加盟諸国はその機関の解釈に拘束されるのか。
(3) その機関の解釈に拘束性がないにしても、日本政府はその解釈に自発的に従う意志があるのか。

3 決議の解釈が個々の国連加盟国に委ねられている場合

(1) 国連加盟国は、自国の解釈に従って同決議を履行すれば良いのか。
(2) 日本政府が、決議六七八がイラクに対する武力行使を容認していると解する根拠を明らかにされたい。

二 決議の解釈が個々の国連加盟国に委ねられており、かつ日本政府が決議六七八がイラクに対する武力行使を容認するものと解する場合に、以下質問する。

1 同決議に従ってある国がイラクに対して武力行使を行う場合、開戦宣言及び最後通牒を発しなければならないと日本政府は解するのか。
2 同決議に従って現在「多国籍軍」によるイラクに対する武力行使が行われているが、これに対して日本国を含む国連加盟諸国は戦時中立を主張できるのか。また日本政府は戦時中立を主張する意志があるのか。
3 日本政府は、国際法及び慣行で認められた交戦国の諸権利をイラク及び「多国籍軍」の双方に対して認めるのか。あるいはいずれか一方に対してのみ認めるのであれば、それはどちらの方か。
4 現在アメリカ合衆国が同決議に従ってイラクに対して武力行使を行っているが、日本もその「交戦地域」に含まれるのか。
5 同決議に基づく武力行使の対象は、クウェートを占領しているイラク軍に対してだけなのか。イラク本土もその対象に含まれるのか。
6 日本政府は、今後、イラクに対するあらゆる武力行使が同決議に基づくものであるのか否かをどのように区別するつもりなのか。
7 1から6において日本政府がそう解する根拠を明らかにされたい。

三 サウジアラビアに駐留する日本の医療先遣隊に関し政府は、戦地にある軍隊の傷者及び病者の状態の改善に関する一九四九年八月一二日のジュネーブ条約(第一ジュネーブ条約)第二七条に基づきイラクに対しその旨通告したのか、あるいは通告する意志があるのか。また通告する意志がないのであるなら、その理由を明らかにされたい。

  右質問する。