質問主意書

第115回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一号

地方公共団体の休日条例制定権と地方自治法の休日規定との関係に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成元年八月九日

猪熊 重二   


       参議院議長 土屋 義彦 殿


   地方公共団体の休日条例制定権と地方自治法の休日規定との関係に関する質問主意書

 地方自治法の一部改正法(昭和六十三年法律第九十四号)により、同法に、地方公共団体の休日に関する規定である第四条の二が新設された。
 同条には、地方公共団体の休日は条例で定めるべきこと(第一項)及び休日として定めるものとする日が列挙して規定されている(第二項)。
 ところで、地方公共団体が条例によって休日を制定するに際し、制定する休日の範囲と同法列挙の休日との関係につき、法律上若干の疑義を生ずる。
 そこで、政府に対し、地方公共団体の休日条例制定権と地方自治法第四条の二第二項所定の休日との関係について、以下のとおり質問する。

第一点 政府の地方自治法第四条の二の解釈について

一 政府は、地方自治法第四条の二の執行に際し、地方公共団体が次の内容の条例を制定することと同条の規範的効力との関係につき、どのような法的見解を有しているか。

1 同条第二項に列挙している休日(以下「法定休日」という。)の中の一部のみを休日とする内容の条例。
2 法定休日を含め、かつ法定休日以外の日も休日とする内容の条例。

二 政府が右の二点につき、それぞれ消極の見解をとるのであれば、政府は、いかなる法的理由・根拠に基づいて消極的見解をとるのか。その詳細な理由を説明されたい。

第二点 政府の地方公共団体休日条例制定権に関する見解について

 平成元年六月二十日、衆議院農林水産委員会及び参議院内閣委員会によって、委員の質問に対し、政府説明員松本英昭自治省行政局行政課長は、大要次のごとき答弁をなしている。
 「地方公共団体が閉庁して執務を行わない日としての休日については、改正後の地方自治法に基づく条例で土曜閉庁による週休二日制の導入を行います際には、(同法第四条の二第二項に所定する休日以外の日である沖縄県民)慰霊の日を閉庁するわけには(法令上)いかなくなった、こういうことになっておる。」
 右答弁の存在を前提として、政府の地方公共団体の休日条例制定権の法的性質に関する見解につき、次のとおり質問する。

一 政府は、右の政府関係職員の委員会答弁内容の当否につき、現在、いかなる所見を有しているか。

二 (1) 地方公共団体が、その休日(行政機関としての業務を全面的に停止し、いわゆる閉庁とする日)を条例で制定することは、当該地方公共団体にとって、固有の本質的自治権能であると考えられるが、政府の見解はどうか。
  (2) 仮に、右につき消極的見解をとるのであれば、政府は、前記地方自治法改正以前において、実際に制定され運用されていた地方公共団体の休日条例につき、法的にいかなる見解を有するのか。

三 (1) 憲法上「地方公共団体は法律の範囲内で条例を制定することができる」とされている。しかし、ここにいう「法律」の内容は、地方公共団体の自治権(団体自治権・住民自治権)を全面的・包括的に否定するごときものであってはならず、憲法第八章に規定する地方自治の本旨に適合する範囲内のものでなければならないという規範的・内在的制約の下にあると考えられるが、政府の見解はどうか。
  (2) 仮に右につき積極的見解をとるのであれば、地方公共団体の休日条例制定権に関し、単に地方公共団体の条例制定権が「法律の範囲内」にあることのみを根拠として、「地方自治法第四条の二第二項に地方公共団体の定めるものとしての休日が列挙されているから、右列挙の日以外の日を休日として定めることは違法である」とする見解は法的に妥当性を欠くと考えられるが、政府の見解はどうか。

四 (1) 地方自治法第四条の二第二項に列挙してある休日は、法律上の限定列挙であるのか、あるいは単なる列示列挙であるのかは、法文上判明し難く、これをどのように解するかは、他の法的諸条件と総合的に検討判断さるべきことであると考えるが、政府の見解はどうか。
  (2) 仮に、政府がこれを他の諸条件を検討するまでもなく限定列挙であると解するのであれば、その法的根拠を明らかにされたい。

五 地方自治法第四条の二第一項「地方公共団体の休日は条例で定める」旨の条項は、本来、地方公共団体の休日が、(イ)当該地方公共団体の管理・運営にかかわる重要な事項であること、(ロ)住民にとっても休日の制定が重要な影響を持つものであること、(ハ)職員の労働条件に影響を及ぼす事項であること等の観点から、住民の意思を代表する当該地方議会の議決によって制定することが、憲法の要請である「地方自治の本旨」に合致するものであることの結果として規定されたものであると考えるが、政府の見解はどうか。

六 (1) 地方自治法第四条の二は、第一項において「地方公共団体の休日は条例で定める」旨を規定し、その第二項において休日を列挙しているが、この一項・二項を総合的に判断するならば、二項の列挙は例示的なものと解すべきであると考えられるが、政府の見解はどうか。
  (2) 仮に、政府が二項の休日列挙を限定列挙であると解するのであれば、かかる見解の下においては、第一項の存在する意義はなく、第二項を第一項とし、この項において、単に「地方公共団体の休日は、次に定める日とする」として休日を限定列挙すれば足りることとなると考えられるが、政府の第一項についての解釈を明らかにされたい。

七 (1) 今回の地方自治法の改正に至るまで、戦後四十年間にわたり、国法は地方公共団体の休日につき何らの規制をすることなく、地方公共団体の休日の制定については当該地方公共団体の自治にゆだねてきていた。
 例えば、沖縄県においては、昭和四十七年以降十七年間にわたり、沖縄休戦日である六月二十三日を「慰霊の日」として休日としてきており、広島市においては、昭和二十二年以降四十二年間にわたり、原爆被爆の日である八月六日を「平和記念日」として休日としてきている。
 この間、右両県市において、行政機関としての業務執行に何の支障もなく、かつ国との業務連絡等にも何の支障も生じてきていない。このことは、確定した歴史的事実である。
 地方公共団体の自治権に基づき形成されてきた右のごとき休日の慣行を最大限に尊重することが、地方自治の尊重を宣言する憲法の要請に適合するところと考えるが、政府の見解はどうか。
  (2) 仮に、政府が、今回の地方自治法改正により、右のごとき慣行が全面的に否定されるべきものであると考えるのであれば、かかる慣行を否定して休日を法定休日に限定しなければならない合憲法的・合理的根拠が何であるかを明らかにされたい。

八 (1) 今回の地方自治法改正による休日規定の新設は、世界的傾向であり、かつ我が国の労働界における最重要課題である「労働時間短縮」、「週休二日制実施」の目的実現のためであり、このことは政府の法案提案理由に明示されているところである。
 右の法改正目的からみるとき、地方公共団体の休日を法定休日にのみ限定し、その余の休日を認めないなどということは、右の立法目的に背反するものであると言わねばならない。
 「慰霊の日」、「平和記念日」、その他従前から休日を制定している地方公共団体が右条例を改正するに際し、これらの日を休日として規定することはもとより、休日条例未制定の地方公共団体が今後休日条例を制定するに際し、法定休日以外の日を休日として規定することも、今次の地法自治法改正の法目的に合致するものとして、大いに推進されるべきものと考えるが、政府の見解はどうか。
  (2) 仮に、政府が右につき消極的見解を有するのであれば、地方自治法改正の目的である労働時間短縮ということと消極的見解との関係につき明らかにされたい。

  右質問する。