質問主意書

第114回国会(常会)

答弁書


答弁書第一九号

内閣参質一一四第一九号

  平成元年六月十六日

内閣総理大臣 宇野 宗佑   


       参議院議長 土屋 義彦 殿

参議院議員喜屋武眞榮君提出沖縄近海における米国の水爆水没事故に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員喜屋武眞榮君提出沖縄近海における米国の水爆水没事故に関する質問に対する答弁書

一、二、三、四及び十について

 政府は、現在まで、米国から御指摘の事故の概要及び当該核兵器の安全性について、次の説明を受けている。

(1) 千九百六十五年十二月五日に、沖縄本島の北東約二百海里、南西諸島の直近の陸地の東方約八十海里の公海上(北緯二十七度三十五・二分、東経百三十一度十九・三分)で、米空母タイコンデロガから一個の核兵器を搭載したA-4航空機が海中に滑り落ち、パイロット及び核兵器とともに水深一万六千フィート以上の海底に沈んだ。
(2) 当該兵器システムは、本件事故の状況下で、安全装置を解除するようには設計されていないため、本件事故時には、核爆発あるいは高性能爆薬の爆発は起こり得なかった。
(3) 当該核装置は、一万六千フィートの海底に至る前に、構造的な破損が起こり、核物質及び高性能爆薬の成分は海水にさらされたため、核爆発あるいは高性能爆薬の爆発は、現在の環境下においても、また、将来の環境下においても、決して起こり得るものではない。
(4) 核物質は、溶解・沈殿したことで環境への影響はない。また、本件事故当時、事故現場においてはいかなる汚染も測定されなかった。
 政府としては、このような米国の説明について、関係省庁間で緊密な連絡をとりつつ、然るべく検討しているところであるが、右説明は、それとして重みのあるものと認識している。

五について

 米空母タイコンデロガが、本件事故発生後に横須賀に寄港したかについては、米国に照会中である。
 いずれにせよ、日米安保条約上、艦船によるものを含め、核兵器の持込みが行われる場合は、すべて、事前協議の対象となり、また、核持込みについての事前協議が行われた場合、政府としては、常にこれを拒否する所存であるので、非核三原則を堅持するとの我が国としての立場は、十分確保されると考える。
 核兵器の持込みについて、米国が事前協議を行うことは、日米安保条約及びその関連取極に基づく条約上の義務であり、米国政府は、累次にわたり、米国政府としては、日米安保条約及びその関連取極に基づく我が国に対する義務を誠実に履行してきており、今後とも引き続き履行する旨確認しているところである。
 この点は、本件事故に関する米国防省の対外説明においても、「米国は、核兵器に関する日本国民の特別な感情を承知しており、日米安保条約及び関連取極の下での義務を誠実に遵守してきており、今後も引き続き遵守する」旨述べられている。政府としては、核持込みの事前協議が行われなかった以上、米国による核持込みがなかったことについては、何らの疑いも有していない。

六、七及び八について

 千九百六十五年当時、米国政府から我が国政府への本件事故に関する特段の通報はなかった。
 また、政府としては、千九百八十一年に公表された米国防省及びエネルギー省の報告書において、「千九百六十五年十二月五日、太平洋海上」で起きた事故として、「一個の核兵器を搭載したA-4航空機が米航空母艦の昇降機から滑り、海中に落ちた。当該機のパイロット、航空機及び兵器を失った。この事故は陸地から五百海里以上離れていたところで起こった。」旨が記載されていることは承知していたが、それ以上の具体的内容については当時何ら承知しておらず、具体的水域も不明であったこともあり、その時点で何らかの措置をとることはしなかったところである。
 また、米国政府は、事故が環境に悪影響を及ぼしたと信ずるに足りる理由がある場合には、これを公表することを定めた規定が当時も存在し、現在も存在するが、本件事故は、そのような事例に該当しなかったとしている。

九について

 米国政府は、パイロット、航空機及び核兵器は、直ちに水没し、回収されなかったとしており、また、水深一万六千フィートの深さでは、当時これらを回収する能力は有していなかったとしている。
 本件事故の対応策は、第一義的には、米国政府が行うべきものと考えるが、具体的に回収を行うべきか否かについては、回収能力の有無、安全性の現状等を踏まえて検討されるべきものであると考える。一、二、三、四及び十についてにおいて述べた状況の下で、当該兵器を回収することは、困難であるとは思われるが、今後、更に、米国から入手し得る事実関係等を見極めた上で、適切な対応について、慎重に検討すべきものと考える。