質問主意書

第114回国会(常会)

質問主意書


質問第一六号

婦人の働く権利を守るための「育児休業」の制度化と「公的保育の拡大」等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成元年五月二十三日

佐藤 昭夫   


       参議院議長 土屋 義彦 殿


   婦人の働く権利を守るための「育児休業」の制度化と「公的保育の拡大」等に関する質問主意書

 今日、婦人労働者は千六百七十万人(千九百八十八年)となり、全労働人口の三十六・五%を占めるとともに、そのうち既婚者の占める割合は七割を超えた。
 「女子差別撤廃条約」やILO百五十六号条約は、「家族責任を負う労働者が、仕事と家庭の両立が可能になるよう社会的条件を整備することは、政府の責任であり、男女平等実現のために不可欠である」とうたっている。我が国では、「男女平等の実現」と「仕事と家庭生活の両立」を明らかにした「男女雇用機会均等法」が施行されて四年目になる。しかし、婦人労働者の労働条件や地位は依然として低く、母性保護の急速な後退や長時間労働を助長している変形労働時間制、国庫補助カット等による保育所、学童保育所や高齢者の福祉・医療の後退、負担増などによって、婦人労働者は「仕事と家庭生活の両立」が困難となり、働き続ける上で育児や老親看護が深刻な問題となっている。
 このことは、労働省が婦人少年協会に委託して行った女子労働者の「母性健康管理に関する研究会報告書」(千九百八十八年三月)でも、約八割が「出産後も勤務を続ける」と答え、国、事業主などに対して最も望んでいることとして、「産後の休業期間の延長」、「育児休業制度」、「乳幼児保育施設の増設」を挙げていることからも明らかといえる。
 そこで、以下、質問する。

一 現行の育児休業法は、特定の職種(教員、看護婦、保母)のしかも公務員のみを対象にした「特定職種育児休業法」であり、圧倒的多数の他職種の公務員や民間の労働者はその対象とされず、育児休業制度を実施するとすれば、個々の自治体、企業の努力に任されている。その結果、育児休業制度を実施している事業所は、制度発足以来十四年たった現在でも、現行育児休業法の対象事業所も含めて、全事業所(従業員三十人以上)のわずか十四・六%(千九百八十六年調べ)にとどまっており、労働省が実施している育児休業奨励金の支給などによる育児休業普及促進対策は、遅々として進んでいない。
 育児休業(休暇)制度については、国の制度化がなかなか進まない中で、自治体独自の「育児休業(休暇)」が様々な形態で実施されている。しかし、制約も多く、とりわけ学校職場では、育児休業法が適用されない職員に対しても「教員と同じく育児休業を」という要望は極めて強い。そこで、

(一) 満一歳未満の子供を育てるための育児休業を、全産業・全職種で希望するすべての男女労働者の自主選択により保障すべきだと考えるが、どうか。
 また、休業中においては、代替要員を配置するとともに、身分・地位等の保障及び労働者の負担なしで育児手当を支給し、休暇後の現職復帰を保障することなどを内容とした育児休業(休暇)を法制化すべきだと考えるが、どうか。
(二) 学校職場においては、現行育児休業法の適用範囲を拡大し、現在適用されていない学校看護婦、事務・栄養・現業職員、司書等に、早急に同法を適用すべきだと考えるが、どうか。
(三) 婦人労働者が第二子の出産で育児休業をとる場合、第一子は「休業期間中は、原則として保育所への入所措置の対象にはならない」ことから、保育所に預けられないことがある。政府は、厚生省通達「育児休業における措置児の取扱いについて」(千九百七十六年三月)において、市町村に対する指導を行っているが、育児休業後、職場復帰した場合には、保育所への入所措置が保障されるよう、指導を更に徹底すべきだと考えるが、どうか。

二 働く女性の増加、特に既婚婦人の職場進出が進む中、育児休業制度を導入している事業所はわずか十四%余りにすぎず、その期間も短いため、それだけ保育所及び学童保育の果たす役割は一層大きなものとなっている。
 しかし、政府は今国会に「国の補助金等の整理及び合理化並びに臨時特例等に関する法律案」を提出して成立させ、保育所への措置費国庫負担率を削減された五割のまま(国庫補助率のカット措置導入以前の千九百八十四年度までは八割)で恒久化したことは、地方自治体への負担転嫁、ひいては保育料の値上げ、保育所の統廃合、保育者の配置基準引下げなどにつながるものとして、断じて許せるものではない。また、働く婦人から要望の強い乳児保育は約三万六千人、延長保育は八十九市町村四百十一箇所、夜間保育に至ってはわずか二十七箇所で実施されているにすぎない。
 一方、学童保育は、全国七百二十七市区町村におよそ六千百箇所(千九百八十八年十一月現在、全国学童保育連絡協議会調べ)、前年に比べ百五十五箇所増加するなど、働く婦人の増加に伴ってその必要性も高まっている。そこで、

(一) 政府は、保育所措置費の国庫負担率を八割に戻し、父母の労働・通勤実態に見合う保育時間の保障、産休明けの零歳児保育、乳児保育、延長保育、夜間保育など、公的保育を充実し改善すべきだと考えるが、どうか。
(二) 政府は、学童保育を拡充するため、現在行われている都市児童健全育成事業については、一クラブ当たりの補助額を大幅に増額するとともに、「人口三万人以上の市町」となっている補助基準を需要増に対応して改め、事業の拡充を図るべきだと考えるが、どうか。また、学童保育を法制化すべきだと考えるが、どうか。

三 働く婦人の中途退職及び年次休暇取得の第一の理由は、「家族の看護のため」であり、特に年老いた両親の看護は、働き続ける上で、大きな障害となっている。こうした中で、看護休暇制度は、個々の企業、自治体に任されており、その普及率は従業員三十人以上の事業所で十一・四%にすぎず、国として何らの施策も講じていない。そこで、

(一) 政府は、直ちに「看護休暇」制度の法制化のため、調査・研究に着手すべきだと考えるが、どうか。
(二) 京都府では、千九百八十八年四月から、府費職員に対して、最長百八十日の看護休暇を保障するとともに、代替要員を確保し、有給保障(賃金の六割)、休暇後の現職復帰などを内容とした「看護欠勤休暇」制度を採り入れている。
 政府は、家族の看護のための必要な期間の看護休暇を保障するため、「看護休暇」を制度化すべきだと考えるが、どうか。
(三) 寝たきり・在宅老人のために、ホームヘルパー制度や訪問看護、給食・入浴サービスなど、老人福祉の充実を図るとともに、老人ホームや短期利用施設などの施設整備を進めるべきだと考えるが、どうか。

四 働く婦人の賃金は、男子の二分の一という低賃金であり、定年制においても依然として男女差別は解消されていない実態の中で、政府は、今国会に保険料の大幅引上げや年金支給開始年令の六十五歳への引延ばしなどを内容とした、「国民年金・厚生年金法」の改悪案(以下、「案」という)を提出した。そこで、

(一) 案によれば、厚生年金の保険料率について、女性の場合、千九百八十九年十月から現行保険料率十一・七五%を十四・一%に、二・三五%引き上げ、更に翌年度から毎年〇・一五%ずつ引き上げ、千九百九十三年十月から男子と同じ保険料率十四・六%にするとなっているが、圧倒的に低賃金の多い女子労働者にとって、急激でしかも大幅な料率の引上げは、過酷な負担であり、厚生年金の保険料率の引上げはすべきでないと考えるが、どうか。
(二) 案によれば、厚生年金の支給開始年令について、女子の場合、二千三年から六十一歳支給とし、その後三年ごとに一歳ずつ引き延ばし、二千十五年から六十五歳支給としているが、女性は定年において大きな差別を受けており、六十歳定年さえもまだ不十分なものとなっている。したがって、厚生年金の支給開始年令六十五歳への引延ばしはすべきでないと考えるが、どうか。

  右質問する。