質問主意書

第114回国会(常会)

質問主意書


質問第一四号

障害児教育に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成元年五月十九日

佐藤 昭夫   
下田 京子   


       参議院議長 土屋 義彦 殿


   障害児教育に関する質問主意書

 障害児教育は、障害のある子どもにも、その子の発達段階に適した教育を保障するために行われる。子どもの発達の遅れ等について、障害がどこにあり、発達課題は何かを科学的に把握し、その障害・発達・生活実態にふさわしい教育の場を保障することは、障害児が人間として豊かに成長・発達するためにも、障害児を平和と民主主義の社会の主権者として育むためにも必要である。また、それは憲法及び教育基本法がうたう「教育を受ける権利」「教育の機会均等」を保障する教育の具体化でもある。
 千九百七十九年度から養護学校が義務教育化され、就学指導体制の整備充実や障害児学級等の定数もある程度改善されてきたとはいえ、いまだ、障害児の発達を保障するための教育条件の整備は不十分であり、多くの改善すべき点が残されている。
 特に政府に対して、緊急に対策を求めたい(1)障害児学級(「特殊学級」)の定数改善、(2)就学指導委員会の充実、(3)養護学校の高等部増設、(4)訪問教育の充実、(5)養護学校教職員の健康問題等について、以下、質問する。

一 障害児学級の定数改善について

 障害児学級の学級定数は、義務教育諸学校の学級編成及び教職員定数の標準に関する法律(以下「定数法」という。)によって九十一年度には十名になると規定されている。しかし、八十九年度は、定数改善の十二年計画(第五次学級編成・教職員定数改善計画)が実施されてから十年目になるが、達成率は八十八年度で四十七・八%と極めて遅れている。
 竹下総理は、十二年計画について「昭和六十六年度(千九百九十一年度)にはきちんと対応できる」と答弁している(八十八年五月二十四日 参議院文教委員会)。
 以上の点を踏まえ、以下の点について、政府の見解を明らかにされたい。

(一) 障害児学級の定数改善についても、九十一年度には、法律の規定どおりきちんと達成されると理解してよいか。
(二) 現在、障害児学級では一年生から六年生まで、つまり低学年から高学年までが含まれる一学級を一担任でみるという実態がかなり見られる。このため障害児学級では、児童一人一人に見合った指導や学級経営を行う上で、多くの困難があると担任教員からも訴えられている。例えば、六才と十二才では生活年令のみならず、肉体的にも幼児と思春期の子どもの違いがあるなど、異なった教育課程が子どもの発達保障のために求められているのにそれができないということがある。
 かつて、文部省の諮問に対する特殊教育総合研究調査協力者会議の報告『特殊教育の基本的な施策のあり方について』(昭和四十四年三月二十八日)は「特殊学級の設置促進」をうたい、その設置に当たっては「対象とする心身障害児の能力・適性等に応じた適切な学級編成ができるようにするため、可能なかぎり同一の学校に二以上の特殊学級の設置を奨励すること」と述べ、それは「一校に一学級ずつの設置を進める方向だけでなく、能力別、類型別、程度別の学級編成が可能なこと」「二以上の特殊学級の設置とは、同種の障害についての特殊学級を二以上ということと、異種の障害についての特殊学級を二種以上という二つの意味を持っている」と説明していた。また、『軽度心身障害児に対する学校教育の在り方』(特殊教育に関する調査研究会報告 昭和五十三年九月)は、「現在、特殊学級においては年令差が著しいなど児童・生徒の心身の発達段階は様々であることを考慮して、今後は、可能な限り、学級編成について複数設置を図るなどの配慮を行うことが望まれる」とちえおくれ児の障害児学級の整備をうたっていたところでもある。
 既に東京都では、都の負担で複数担任制を実施し、滋賀県では五~六名でも二種の学級設置によって二名の教員を配置している例にみられるように、自治体では障害児教育の充実の立場から、このような障害児学級での担任「複数配置」等を実施している。
 しかし、現行制度(定数法施行令第二条)では、発達段階の異なった一年生から六年生までの子どもが十名いても、すべて複式学級で一人の教員が担当することになっている。制度を改善し、教育的配慮から例えば低学年、高学年などの学級編成がとれるようにすべきではないのか。
(三) 国の法律等には、障害児学級に関して開級、閉級の規定、つまり障害児学級を何人から開級する、何人になれば閉級するという法令上の定めはない。
 したがって、一人でも障害児学級対象の子どもがいれば、定数法上は開設できると理解してよいのか。
 それは、高知県の事例が示すように、障害児がたとえ一人しかいなくても、障害児学級で健常児と異なった教育が必要であると教育委員会の就学指導委員会等が判定した場合は、障害児学級を設けるべきであると理解するが、そのとおりか。
(四) 文部省の「特殊教育に関する研究調査会」報告(昭和五十三年八月十二日)及び特殊教育研究調査協力者会議報告(昭和五十七年十月七日)では、難聴・言語障害児教育について強調している。また、「固定方式」に加えて「通級指導」「巡回指導」を積極的に導入することも提言している。実際の問題として、ことばを豊かにすることは、子どもの発達にとって極めて大切である。子どもの聴覚・言語に異常を見つけた場合、特別な指導が必要であり、今日、聴覚・言語障害学級である「きこえ・ことば」教室と呼ばれる障害児学級が設置され、聴覚・言語障害児の発達に関して父母の相談に答え、援助している。
 この「きこえ・ことば」教室の意義をどう考えるのか。また、より一層充実させるべきだと思うが、どうか。
(五) 現在、児童数の減少傾向ともあいまって「きこえ・ことば」教室を設置する学校に在籍する児童・生徒数が減少している。当該教室を設置していない学校の聴覚・言語障害児は、普通学級に在籍しながら「きこえ・ことば」教室を持つ学校に通級して教育を受けているが、一方、設置している学校では、その教室(学級)に在籍する子どもがいなくなると、教室を閉鎖してしまうため、他校から通級していた子どもは「きこえ・ことば」の教育の場を失って、言語指導、聴覚指導を受けられなくなる状況が生まれている。
 当該学校に障害児がいなくなり、他校から通級している子どもがいるだけの場合でも、「きこえ・ことば」教室に教員を配置できるようにすべきではないのか。文部省はどのように指導しているのか。
(六) 通級制度とともに、巡回指導の制度化も期待されている。これらの制度化について、どのような対策を考えているのか。
(七) 病院等に長期に渡り入院している子どもに対する教育保障も重要な課題である。文部省関係の国立大学医学部付属病院において、三十六病院、千三百四十小児病床のうち院内に学校又は学級があるのは四病院、四十九人(十一・一%)、訪問教育を実施しているのが五病院、五十八人(十三・九%)と文部省は報告(千九百七十九年七月一日現在)している。当時、衆・参両文教委員会での我が党の質問に対して、学校と医療機関とが相互に密接な連絡を保つことによって、教育を保障するよう指導を強めると答弁している。しかし、京都大学付属病院を始め、いまだ、病院内学級もなく、長期に入院している子どもに対する教育が、ほとんどなされていないところが多い。
 例えば、国立系の病院について、病院内学級なり訪問教育なり、何らかの教育の制度的保障がどれだけされているのか。その後の実態を把握していれば示されたい。
(八) 病院に入院し長期欠席の子どもに義務教育等を保障するため、教育委員会に対してどのように指導をしているのか。また、今後の施策も示されたい。

二 就学指導委員会の充実について

 障害児が学校教育で、豊かに成長・発達するためには、その子どもに最も良い教育環境を与える必要がある。就学先が普通学級か、障害児学級か、また養護学校であるかの的確な判定は、真に子どもの教育を受ける権利を保障するための適正な就学指導によってこそ保たれる。しかし、都道府県及び市町村の教育委員会等に組織されている「就学指導委員会」について、その設置が形式的で専門の心理判定委員がいないとか、子どもの発達の段階、障害・生活の実態などを軽視し、心理発達検査を優先して子どもの就学先が、機械的に振り分けられているなどの批判がしばしば聞かれる実態がある。
 そのような就学指導委員会の判定の結果、現在の教育条件・体制の中で養護学校の教育を受けた方が良いと思われる障害の重度な子どもが、障害児学級で教育を受けているため、担任教員や学校は、その努力にもかかわらず、大変困難な教育活動を強いられている例も見られる。
 よって、以下の点について、政府の見解を明らかにされたい。

(一) 都道府県及び市町村等の「就学指導委員会」における心理判定委員等の専門家は、どの程度充足されているのか。
(二) 障害を持つ子どもたちに真に適正な就学を指導し、障害児の発達診断などを専門的に担当するとともに、子どもの今後の成長・発達を展望して援助できる専門家を配置し、日常的かつ継続的に指導・援助できる体制を充実する必要があると思うが、どうか。専門分野の委員を充実させるべきではないのか。
(三) 「校内適正就学委員会」は、障害や疾病、発達の遅れなどを持つ子どもの実態を正しく把握し、必要な教育的配慮や指導方法を学校全体で考えていく組織として、極めて大切と考える。「校内適正就学指導委員会」の体制を充実させる指導を強化すべきではないのか。

三 養護学校の高等部増設について

 養護学校教育の義務制が実施され、十年たった今日、障害児の後期中等教育の保障が重要な課題となっている。中学生全体としての高校進学率は九十四%(千九百八十八年度)であるが、養護学校中学部卒業生の進学率は六十五・九%、障害児学級卒業生の進学率は五十四・一%であり、年々増加しているとはいえ、極めて低い状況にある。しかし、全国的にみると広島、京都、千葉、大阪、東京などのように九十%を超える進学率の都府県もあれば、福島、北海道のように二十%台の進学率のところもある。特に養護学校の中でも、病弱養護学校の高等部の設置が全国的に遅れている。この進学率を低くしている最大の原因は、養護学校高等部の不足にある。
 文部省は、最近の国会答弁で「希望する者はできるだけ高等部に進める措置を講ずるべきではないか、というようなことで各県にも指導している」(八十八年四月二十一日参議院文教委員会)と答え、申請があれば「優先的に対応する」(同委員会)とも答えている。以上の点を踏まえ、以下の点につき、政府の見解を明らかにされたい。

(一) 養護学校中学部卒業生の高等部への進学率が極めて低い福島県や北海道を始めとする各自治体に対しては、どのような指導をしているのか。
(二) 養護学校高等部の新増設を促進するためには、国庫補助率の引き上げ、高等部設置計画を立案する必要があるのではないのか。
(三) 希望するすべての障害児に後期中等教育を保障するためには、高等部の重度重複障害児学級の増設が必要である。その設置促進のため、各県に対してどのような指導をしているのか。
(四) 病弱養護学校の中学部で学んでいる喘息、腎炎、ネフローゼ等の慢性疾患児は、養護学校内に、高等部が設置されていないため、病状の再発・悪化の不安を抱きながら地元の高校に通学するなどしており、休学や中途退学も多くでている状況にある。病気等によって長期に渡り入院しなければならないため、学校を欠席する児童・生徒に対して、義務教育を保障する体制の充実(例えば、国立大学付属病院に障害児学級を設置する)を図るとともに、病弱養護学校の高等部の設置についても、希望する者であれば、重度の者も含めてほとんど受け入れられるように、高等部をつくる方向で指導すべきと思うが、どうか。
(五) 病弱養護学校を含めた養護学校の高等部の設置に関し、都道府県からの助成の申請があれば優先的に対応して、高等部の設置促進に努力するのか。
(六) 過大規模の養護学校では行き届いた教育活動を行うことは困難であり、そのことは繰り返し国会審議でも指摘されてきた。文部省はその解消を「優先的に対応する」としているが、過大規模校の分離を促進するため、国庫補助率の優遇措置をとる考えはないのか。

四 訪問教育の充実について

 障害が重度・重複しているため、通学が困難な児童・生徒に対する訪問教育が、学校教育の一環として制度化されていることは、就学猶予・免除をなくする点で望ましいことである。しかし、現在は、養護学校を始め、その分校・分教室等の施設などの通学条件が未整備のため、通学可能な子どももかなり多く訪問教育を受けているのが実状である。訪問教育の一層の充実のために、教員の配置のあり方についても改善が望まれている。また、在宅障害児への訪問教育を担当する教員は、自動車を必要とする場合、公用車が配置されていないため、やむを得ず自家用車を使用し、その際、事故が発生すると、事故処理のための負担は、個人責任となってしまうという状況にある。
 よって、以下の点につき、政府の見解を明らかにされたい。

(一) 障害児学校の訪問教育の対象児が通学可能な症状の場合、都道府県は通学条件を整備し、通学させる手立てを講ずるべきではないのか。
(二) 第五次学級編成・教職員定数改善計画では、文部省は、重複障害児童・生徒で学級を編成する場合に準じて、児童・生徒の数三人に付き一人の教員を配置し、授業回数週三回程度、一回当たり二時間、したがって計六時間を原則とする旨の答弁をしている(昭和五十八年五月十八日 衆議院文教委員会)。しかし現状は週二回、各二時間のところがほとんどである。週三回、計六時間の授業を早急に実施すべきだと考えるがどうか。また、対象児童・生徒の中には訪問回数、指導時間をもっと増やすことが必要である子どももいる。このような場合に柔軟に対応できる教員配置をすべきと思うが、どうか。
(三) 盲・聾・養護学校高等部の訪問教育を実施すべきではないのか。
(四) 障害児学校の訪問教育で自家用自動車の使用中の事故については、公用車に準じて扱えるようにすべきではないのか。
 また、訪問教育に車が必要な場合は、原則として公用車を配置すべきと思うが、どうか。

五 養護学校教職員の健康問題について

 養護学校教育の義務制が実施されてから、就学猶予・免除が激減するとともに、重度重複障害児生徒数の入学が著しく増加している。しかし、それに伴ない講ぜられるべき劣悪な施設・設備の改善や教職員定数の充実が極めて不十分なために、教職員の腰痛、頸肩腕症候群、妊娠障害等の疾病や健康破壊が進行してきた。文部省の千九百七十九年度調査「養護学校教職員の腰痛等の疾病異常調査」では、腰痛症の発生率が四・七%、頸肩腕症候群一・〇%であったものが、五年後の八十四年度の「養護学校教職員の疾病、異常に関する調査」では、腰痛症が十六・二%で、頸肩腕症候群は四・八%と著しく増加し、妊娠障害に至っては、寮母が三十七・〇%、教員は三十九・六%に至っている。
 この問題を解決するには、(イ)教職員定数の抜本的な改善、(ロ)施設・設備の改善、(ハ)勤務条件の改善、(ニ)健康管理等の実施とそのための財政的補助の強化が必要である。
 最近では、教員、寮母、介助職員の増員、施設・設備の改善はもとより、(イ)毎年、定期又は臨時に教職員の健康診断を行うなどに加えて、県の施策として腰痛、頸肩腕症候群の専門医による特別検診の実施など早期発見・早期治療体制の確立、(ロ)婦人教職員の妊娠中の勤務軽減及び代替職員の配置を県教育委員会の施策として、実施している自治体が増えてきている。
 とりわけ婦人教職員の妊娠中の勤務軽減及び代替職員の配置については、「介助を必要とする児童・生徒がいる障害児学校、寄宿舎、障害児学級等担任の教員、寮母」「障害児学級の教員」「体育担当教員の体育実技免除」等を対象にするなど、自治体によってその具体的施策の内容は様々であるが、必要な措置として実施されている。
 そこで、以下の点につき、政府の見解を明らかにされたい。

(一) 学校保健法、労働安全衛生法に基づいて安全衛生委員会の設置と産業医の配置、教職員の定期及び臨時の健康診断に加え、専門医の特別検診を制度化するよう、各県教育委員会を指導し、また国も予算上の助成を行うようにすべきではないのか。
(二) 非災害性公務災害認定について早急に対応し、腰痛、頸肩腕症候群も公務災害として認めるべきと思うが、どうか。
(三) 婦人教職員の妊娠中の勤務軽減及び代替職員の配置、寄宿舎の寮母の深夜の宿直勤務の免除と代替職員の配置の速やかな制度化が望まれる。その施策の促進を図るため自治体を指導し、国も助成を行うべきと考えるが、どうか。

  右質問する。