質問主意書

第114回国会(常会)

質問主意書


質問第四号

日米防衛特許協定等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成元年三月三日

丸谷 金保   


       参議院議長 土屋 義彦 殿


   日米防衛特許協定等に関する質問主意書

 本来、特許制度は公開を原則とし、新しい発明に対して権利を与え、発明者の利益を守ることによって技術水準を高め、産業の発展に役立たせることが目的である。
 しかるに、「日米防衛特許協定」の活性化と新しい「日米科学技術協力協定」の締結によって、特許制度に軍事秘密保護の強化が導入され、制度の目的が空洞化されるばかりか、世界の緊張緩和の方向とは逆の方向に進もうとしている。
 よって、以下の諸点について政府の見解を伺いたい。

一 「防衛目的のためにする特許権及び技術上の知識の交流を容易にするための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定」について

(一) 同協定第三条に関する議定書第三項を実施するための「手続き細目」が公表されているにもかかわらず、それを両国政府が受け入れたことを表明した「口上書」を公表できない理由を明確にされたい。
(二) 山本防衛庁装備局長と、コステロ米国防次官が署名した「了解覚書」を公表できない理由は何か。

(三) 秘密保護問題

1 同協定第三条に関する議定書第三項を実施するための「手続き細目」に基づく協定出願のうち、日本政府が防衛目的に限って使用を許される「技術上の知識」については「日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法」(以下「MDA秘密保護法」という)が適用されることは、特許庁長官の八十八年四月十四日の国会答弁からも明らかである。しかし、それは協定出願の一部分にすぎない。他の協定出願についてはどのような秘密保護法規が適用されるのか。
2 千九百五十六年五月十六日の衆議院外務委員会における政府答弁によれば、協定出願と無関係に日本で発明した技術の出願であるかどうかを認定するのは、「犯罪の構成要件の問題であるから、MDA秘密保護法漏洩罪に該当するかどうかという前提のもとに、第一次的には捜査当局、検察当局、最終的には裁判所が決定することになる」と述べている。
 米国の協定出願の内容は、日本の発明者には分からなく、特許庁、捜査当局ですら分からないのが実情である。逆に、もし捜査当局がその内容を知り得るならば、当局自体が秘密保護規制の対象になるのではないのか。さらに、米国からの協定出願に関連して日本人の発明がいちいち犯罪の容疑をかけられるのであれば安心して研究、発明に従事することができず、甚だ不穏当ではないのか。
3 この協定は既に実施されており、協定出願も既に出されている。それに対応して、警察、検察当局はどのような体制を整備して臨んでいるのか。
 特許権や科学技術について専問的な知識を持たなければならない捜査員の人材をどのように養成・配置し、また特許庁との協力関係はどうなっているのか。
4 日本政府が使用を許されない「技術上の知識」にかかわる協定出願は、MDA秘密保護法の規制対象になり得ないが、その場合に、日本人の発明がそのことと無関係なものであるかどうかを捜査するのは、どのような法的根拠に基づいて行うのか。

(四) FSXの共同開発問題

 「MDA協定に基づく日本国に対する一定の防衛分野における技術上の知識の供与に関する交換公文」に基づき、F16のブラック・ボックスを米国政府は日本政府に供与することになった。その結果、八十八年十一月二十九日にFSXの共同開発についての政府間取極が締結された(「日本国とアメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定に基づく、次期支援戦闘機システムの共同開発に関する交換公文」及び「了解覚書」)。これらの交換公文は、今後次々に登場が予想される共同開発のモデルケースとして重大な意味を持っている。にもかかわらず、国会で十分に審議を尽すために必要なこれらの資料を提供しないのは極めて遺憾である。よって、以下の諸点につき政府の見解を明らかにされたい。

1 「FSX共同開発に関する了解覚書」は極めて簡単な「概要」と称する文書しか公表されていない。
 同「覚書」を全文公表しなければ、まともな国会審議はできないのではないか。
2 「交換公文」によると、開発経費は全額を日本の負担となっている。したがって、開発による知的所有権は、当然すべて日本政府が所有することになると考えるがどうなのか。
3 「了解覚書」の「概要」5によれば、「日本側は開発の成果として得られた技術情報を適切に米側に供与する」となっている。この「適切に」の意味を具体的かつ明確にされたい。
4 「対米武器技術供与に関する交換公文」によると、「アメリカ合衆国の防衛能力を向上させるために必要な武器技術」として、米国側が要求する技術は、すべて対米供与しなければならないことになるのではないのか。それが日本側が供与する場合の「適切に」の意味ではないのか。
5 「了解覚書」の「概要」5によると、「米国側はF16に関する技術情報を適切に日本側に供与する」となっている。この場合の「適切に」の意味は、日本側が要求するものすべてと解釈してよいのか。
6 FSX共同開発に限っていえば、米国側がブラック・ボックスを供与すれば、日本側が要求する技術はすべて供与したことになるであろうが、一般的にいえば「MDA協定」によって、米国側が対日供与する武器技術を決定する場合は、「千九百四十九年相互防衛援助法、千九百五十一年相互安全保障法、この二法律を修正し又は補足する法律及びこれらの法律に基ぐ歳出予算法の当該援助に関する規定並びに当該援助の条件及び終了に関する規定」などの米国国内法に従うことを条件としている。しかし、日本の場合には、対米武器技術供与は米国のように、自国の利益を判断する基準となる国内法の整備がなされていないのではないのか。
7 「研究交流促進法」第七条によれば、例えばFSX共同開発の場合に、対米供与する武器技術は「無償」または「時価よりも低い」価格で米国に実施権を与えることになっているが、逆に米国が日本に武器技術の実施権を与える場合には、「無償」または「時価よりも低い」価格で供与されることになっているのか。
8 「武器技術供与に関する細目取極」の「二・二」によると、対米武器技術供与の際に、日本政府が負担するのは「研究開発分担金」であって「全額負担」ではない。しかるにFSX共同開発の場合には、日本政府が全額負担となっているのは理解に苦しむのである。そこで、米国政府が分担金を負担せずに日本から技術供与を受けられる合理的な理由はどこにあるのか。
9 「MDA協定」によると、米国が対日武器技術供与を行う際には、同協定の「附属書下」によって、その援助の進捗状況を観察するため、米国から日本に外交特権を持った職員を駐在させることができるだけでなく、その職員の活動に対して日本が随時円資金を負担することになっている。逆に日本が対米武器技術供与を行う際には、日本が米国において米国と同様の措置が実施される取極があるのか。

二 「日米科学技術協力協定」に関連して

(一) この協定に附属する二通のサイド・レターが公表されたが、それによると共同研究の過程で創出されたものについて、米国が「国防」の指定を行った後に、そのものがこの協定による協力活動から除外となった場合に、そのものの取扱いほどうなるのか。その際に武器技術協力に変更されるのか。又は、日本は協力関係から手を引くのか。さらに、その場合の知的所有権の配分はどうなるのか。また、それが日本で行われる共同研究であった場合には、どのような秘密保護措置をとるのか。それが米国で行われている共同研究であった場合、米国はそれを秘密特許とすることができるのか。
(二) 八十八年十月の第一回日米合同高級委員会において、情報アクセス小委員会が設置された。米国側はこの小委員会でグレイゾーンの情報提供を要求したが、その要求にどのような項目があるのかを明らかにするとともに、日本がグレイゾーン情報を提供しなければならない法的根拠についても明確にされたい。さらに、米国と西独とのSDI協定には、西独がグレイゾーン情報を対米供与しなければならないことが明記されているが、「日米科学技術協力協定」には、本文、附属書以外にそのような取極が存在するのか。

三 「日米欧加宇宙基地協力協定」に関連して

(一) この協定の本文、附属文書は国会に提出する方針なのか。また、この協定に関係する「サイド・レター、交換公文、了解覚書」などの資料は、すべて国会に提出して審議・採決に臨むのか。
 もしこれらの関係資料を国会に提出しないとするならば、その理由を明らかにされたい。
(二) この協定のサイド・レターによって、共同基地において米国の軍事利用を容認することは、宇宙平和利用の国会決議に違反するのではないのか。
(三) 日本実験棟の四十六%は米国に使用権がある。米国がこの施設を軍事研究に利用することを、日本政府は拒否することができるのか。
(四) 日本実験棟の我が国使用部分で行われる日本の研究活動に対し、米国側から軍事研究の協力要請があった場合に、日本政府はこの要請を拒否することができるのか。
(五) サイド・レターによると、日本政府は米国棟での軍事利用を米国の正当な権利として認めなければならないが、この宇宙基地の居住棟は米国棟であって、参加する各国の飛行士は米国棟で共同生活を行う結果、米国棟での軍事研究を知り得る立場に置かれることになる。したがって、その場合に米国の秘密保護法規が他国の飛行士にまで適用されることになるのではないのか。そうだとすると、日本政府は日本の飛行士に対する刑事裁判権を放棄することになるのではないのか。また飛行士が日本に帰国した後に、どのような秘密保護法の適用を受けることになるのか。

  右質問する。