質問主意書

第112回国会(常会)

答弁書


答弁書第一五号

内閣参質一一二第一五号

  昭和六十三年六月二十八日

内閣総理大臣 竹下 登   


       参議院議長 藤田 正明 殿

参議院議員稲村稔夫君提出不可解な三件の大韓航空機事件の真相解明に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員稲村稔夫君提出不可解な三件の大韓航空機事件の真相解明に関する質問に対する答弁書

一の1から3までについて

 これらの諸点については、韓国政府が昭和五十三年四月に設置した事故調査委員会の検討結果がいまだ公表されるに至つていないこともあり、政府として見解を表明する立場にない。

一の4について

 大韓航空及び事故機乗務員に対して刑事上、行政上の処分はなされていないが、乗務員については資格証の取消しがなされ地上勤務に移されたと承知している。

一の5について

 当該大韓航空機の乗員は十三名であり、その職、氏名、年令(当時)は、次の表のとおりであると承知している。

図 表

一の6について

 日本人乗客四十九人中、死亡者一名、負傷者六名であり、その氏名、性別、年令(当時)及び被害内容は、次の表のとおりである。

図 表

一の7について

(1) 被害者に対する補償の問題については、被害者又はその遺族と大韓航空との間の民事上の問題であるが、政府としても可能の範囲内で最大限の側面的援助を行うとの方針から、大韓航空に対しては補償問題についての誠意ある対応を、また、韓国政府に対しては補償問題の円満な解決のための協力を、事故直後から数次にわたりそれぞれ要請した。
(2) 六名の邦人負傷者については、慰謝料三十万円及び治療費金額を支払うこと並びに被害者及びその他家族に対し東京-ソウル間の航空券を支給することで昭和五十三年中に大韓航空と合意が成立し、邦人死亡者一名の遺族については、昭和五十四年四月に大韓航空を相手どり東京地裁に損害賠償請求訴訟(請求額一億八千万円)を提起したが、その後昭和五十九年十二月に大韓航空との間で和解が成立したものと承知している。
 なお、和解の内容については、不公表とされているので承知していない。

二の1について

 我が国が航空交通業務を実施することとしている空域は、東京飛行情報区及び那覇飛行情報区内であるが、当該大韓航空機は、これらの飛行情報区外でソ連機のミサイル攻撃を受けたと判断される。

二の2について

 個人の見解に関しては、政府は答える立場にない。

二の3について

 交信テープの解析結果については、衆議院予算委員会理事会の要請に基づき昭和六十年十月三十一日に、及び参議院決算委員会理事会の要請に基づき同年十二月十九日にそれぞれ開かれた大韓航空機交信記録説明会等で既に公表しているところである。
 なお、通信者については、組織の一員として業務を実施したものであり、氏名等を公表することは差し控えたい。

三の1について

 事件の直接の被害国である韓国は、シカゴ条約(国際民間航空条約(昭和二十八年条約第二十一号))第十三附属書に基づき、当該大韓航空機の登録国として事故に関する調査を実施しており、国際民間航空機関(ICAO)に対して調査の要請を行つておらず、我が国としてもその必要性を認めていない。

三の2について

 当該大韓航空機が計画していた飛行経路上の航行を援助するためのビルマ及びタイ両国内の航空保安無線施設及び管制用レーダーは、両国の関係当局によれば、次の表のとおりであつたと承知している。

図 表 1/2

図 表 2/2

三の3について

 ビルマ及びタイ両国の関係当局によれば、バンコクNDB事故当時休止していたが、その他のものは正常に作動していたと承知している。

三の4について

 本件に関するビルマ政府の報告書はKE八五八便が〇五〇一UTC(協定世界時)にURDISを通過した旨ラングーン航空管制センターに無線連絡を行つたとしている。

三の5について

 事件当時KE八五八便をレーダーが捕捉していたとの情報は承知していない。

三の6について

 「真由美」の旅券が偽造と判明した後、我が国大使館は、両名の動向を鋭意フォローしていたが、我が国大使館員がホテルで「蜂谷真一」と会つたという事実はない。

三の7について

 事柄の性質上内容に触れることは差し控えたいが、「蜂谷真一」の日本語に特に日本人であることを疑わせる特徴があつたとは承知していない。

三の8について

 「蜂谷真一」名義の旅券については、男性死亡後国内での調査の結果、初めて偽造であることが判明したものであり、バハレーン空港におけるやりとりの時点では偽造とは判明していなかつた。

三の9について

 「蜂谷真一」名義の偽造旅券については、北朝鮮工作員が関与しており、「蜂谷真由美」名義の偽造旅券については、北朝鮮において、旅券用の写真が撮影され、成田出国、バンコク入出国のスタンプが押されていた偽造旅券に署名したと金賢姫が供述していることから、北朝鮮において偽造されたものと判断している。
 なお、当該偽造旅券は現在韓国にあり、我が国関係当局専門家の鑑定により、偽造されたものであることが判明している。

三の10について

 身柄の引渡しについては、すべての条件、事情を総合し慎重に判断すべきものであるとの観点より事態の推移を見守つていたところ、バハレーン政府が同女を韓国に引き渡すとの決定を行つたので、同女の身柄に関する措置は基本的にバハレーン政府が決定することであり、我が国としてもこれを尊重したものである。

三の11ついて

 在外公館を通じ、消息不明になつた当該大韓航空機の邦人乗客の有無は照会した。しかし、御指摘のような全乗客の氏名、年令等を調べるという形の調査は通常政府としては行つておらず、今回も特にその必要は認められないことから行つていない。

三の12について

 政府としては、去る昭和六十三年一月二十六日の内閣官房長官談話等で明らかにしたとおり、大韓航空機八五八便事件について、その真相究明のため韓国を始め関係各国政府と緊密な協力を行うとともに、情報の収集に努め、その結果、本事件は北朝鮮の組織的テロ行為によるものであると確信するに至つている。さらに、新たな情報もあり得べく、今後とも情報収集努力を継続してまいりたい。