質問主意書

第112回国会(常会)

質問主意書


質問第一五号

不可解な三件の大韓航空機事件の真相解明に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和六十三年五月二十四日

稲村 稔夫   


       参議院議長 藤田 正明 殿


   不可解な三件の大韓航空機事件の真相解明に関する質問主意書

 昨年十一月二十九日、ビルマ沖で消息を断つた大韓航空機の事件は朝鮮半島を巡る国際政治に大きな影響を与え、事件に対するわが国の国民の関心も極めて大きいが、今日に至るも事件の核心は極めて不明確なままである。
 また、同じ大韓航空が昭和五十三年にソ連のムルマンスク付近で起こした事件や昭和五十八年にカムチャッカ半島からサハリンにかけて起こした事件に関しても政府が国民を十分納得させるに足る説明をしたとは言い難いので、ここに不可解な三件の大韓航空機事件の真相の解明を求め、以下質問する。

一 昭和五十三年に大韓航空機がソ連軍の大陸間弾道弾発射原子力潜水艦基地として知られるムルマンスク付近のソ連領空を長時間にわたつて侵犯しソ連軍戦闘機の攻撃を受け、日本人乗客にも死者一名、負傷者多数を出す事件が発生しているがこの事件に関し、政府が本日までの間に実施した調査の結果に基づき、次の各項目について具体的に答弁されたい。

1 大韓航空機はソ連戦闘機のミサイルを被弾したのか、それとも機関銃弾を被弾したのか。
 いずれであるかを判断の根拠を示して明らかにされたい。
2 なぜ、ソ連機は大韓機を攻撃するに至つたのか、その因果関係および責任の所在について政府の見解を明らかにされたい。
3 大韓航空機の大幅な航路逸脱の原因はムルマンスク付近のソ連軍の防衛体制を探知する目的で大韓航空機が某国情報機関と連携の上で、故意にコース変更をしたものであるとする見解が今日では支配的になつているが、右見解に対する日本政府の判断を明らかにされたい。
4 大韓航空機の乗員らおよび大韓航空に対し、大韓民国政府当局が事件後とつた刑事上又は行政上の処分の内容と、大韓航空(会社)が前項の乗員らに対し、おこなつた処分の内容をそれぞれ明らかにされたい。
5 大韓航空機の乗員の職・氏名・年齢(当時)を明らかにされたい。
6 日本人乗客の氏名・年齢(当時)およびその被害の内容をそれぞれ明らかにされたい。
7 大韓航空機の大幅な航路逸脱(ソ連領空侵犯)の結果日本国政府が発行した旅券を所持していた乗客の受けたその被害を救済することは政府の義務でもあると考えるが、政府は乗客保護の立場から、大韓民国政府および大韓航空(会社)に対し、いかなる要求をし、その結果、被害者に対し、どのような補償がなされたか、各人別に明らかにされたい。

二 昭和五十八年にまたしても大韓航空機がソ連領空(カムチャッカ半島およびサハリン島など)を大幅に侵犯し、ソ連軍の大陸間弾道弾発射原子力潜水艦基地として知られる、ペトロパブロフスク・カムチャッキーなど、ソ連の軍事的要衝付近を飛行した結果、ソ連軍戦闘機のミサイル攻撃を受け、乗客・乗員二百六十九名が死亡するという事件が発生しているが、この事件に関し、日本政府が本日までの間に実施した調査の結果に基づき、次の各項目について答弁されたい。

1 大韓航空機がソ連軍のミサイル攻撃を受けた際、国際法上、同機に対する航空管制の権限を有していた日本政府の主務大臣の職・氏名を明らかにされたい。
2 現在の運輸大臣石原慎太郎君は右事件当時から今日に至る間、衆議院議員として、事件の真相を明らかにすることの必要性等を認める趣旨の積極的な発言を再三公的に明らかにし、「新潮」(昭和六十一年八月号)、月刊「ダン」(昭和六十一年十一月号)の誌上においても右撃墜された大韓航空機が東京国際対空通信局(成田)と交わした「ワン・ゼロ・ワン・デルタ」という最後の通信は、大韓航空機とアメリカ側の情報機関との間で、あらかじめ決められていた暗号であり、そのことは「アメリカ側も認めた事実」であると公言されているが、右の石原慎太郎君の見解は運輸大臣に就任された今日においても変更はないか。
3 石原運輸大臣は、真相の解明を求めた昭和五十八年九月の国会決議に応え、日本の運輸省が主務官庁として保管中の、大韓航空機と航空管制当局との間の交信テープを解析させ、各通信ごとに、大韓航空側と、航空管制当局側の通信者を特定し、国会および遺族、研究者らに、真相解明の基礎資料として公開すべきと考えるがどうか。

三 昭和六十二年十一月二十九日、またまた大韓航空機が奇怪な事件を起こした。すなわち、ビルマ沖で行方不明になつた大韓航空機の機体、乗客、手荷物などが何ひとつ発見されないまま今日に至つているという事件である。
 大韓航空機には「蜂谷真一」「蜂谷真由美」なる名義の、日本国政府の偽造パスポートを所持していた一組の男女が途中まで搭乗していた趣旨の報道がなされ、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)政府機関による「爆破説」や逆に大韓民国政府機関による「謀略説」が連日のようにマスコミをにぎわし、国民の関心も高いので、この事件に関し、日本政府が本日までの間に実施した調査の結果に基づき、次の各項目について具体的に答弁されたい。

1 政府はICAO(国際民間航空機関)に対し、この事件の真相解明のための調査を要求した事実があるか。あるとすれば、その結果、ICAOはどのような行動を開始しているか。
 ないとすれば、何故、政府はICAOに調査を求めないのか、その理由を明らかにされたい。
2 大韓航空機の飛行ルート上で利用可能であつたビルマおよびタイ両国の地上航行援助施設((イ)空港監視レーダー、(ロ)航空路監視レーダー、(ハ)無指向性無線標識、(ニ)全方向式無線標識、(ホ)距離測定装置、(ヘ)タカンおよびタカンとの組合わせ施設)をすべてあげ、その地上航行援助施設の各所在位置の緯度、経度を明らかにされたい。
3 前項の地上航行援助施設中、事件当時故障していた施設があつたか。
4 大韓航空機と最後の交信をした通信局名およびその交信時刻(何時何分何秒と正確に)を明らかにされたい。
5 大韓航空機を最後に捕捉したレーダーの名称およびそのレーダーから大韓機が消失した時刻(何時何分何秒と正確に)を明らかにされたい。
6 「蜂谷真一」を名乗つた男性が死亡する前に、バーレーンのホテルで「蜂谷真一」に会つた日本政府職員の職・氏名を明らかにされたい。また、その職員はいかなる動機・目的から、バーレーンのホテルにいる「蜂谷真一」を訪問したのか。
7 「蜂谷真一」を名乗つた男性が死亡する前に日本政府関係者に語つた言葉の内容は何か。またその際、「蜂谷真一」の日本語には日本人であることを疑わせる特徴が何かあつたか。
8 日本政府関係者はバーレーン空港において、いかなる根拠に基づいて、「蜂谷真一」が所持していた旅券を偽造旅券と判断することができたのか。
9 警察庁は「蜂谷真一」「蜂谷真由美」両名の偽造旅券は北朝鮮で作られたものであると断定し、その旨公表しているが、当該偽造旅券を日本の警察が捜査資料として入手した事実があるのか。またどのような鑑定手段を用いた結果、それが北朝鮮で作られたものであることがわかつたのか。警察庁発表の確実な根拠を示されたい。
10 政府は日本国の偽造旅券を所持している旨、バーレーン政府が公表した男女一組の者の身柄の引き渡しを請求した事実があるか。
 あるとすれば、その請求はいかなる理由によつて拒絶されたのか。
 ないとすれば、なぜ、右の男女の身柄の引き渡しを請求しなかつたのか。
 また、将来においても、右の男女の身柄の引き渡しを請求する考えはないのか。さらに、右の男女を日本国の刑法犯として起訴する方針はないのか。
11 大韓航空機の乗員・乗客の各氏名・年齢等を(1)バグダード空港離陸時および(2)アブダビ空港離陸特に分けて、明らかにされたい。仮に、今日においても、政府に右調査資料が存在しない場合、政府が右調査をしない理由を明らかにされたい。
12 政府は大韓航空機の機体、乗客、手荷物など何ひとつ発見されないまま今日に至つている事実に対し、国際民間航路の安全確保の見地に立つて、今後いかなる真相解明の努力をする決意であるか。具体的な方法、手段を明らかにされたい。

  右質問する。