質問主意書

第110回国会(臨時会)

質問主意書


質問第七号

国営中海・宍道湖干拓淡水化事業に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和六十二年十一月十一日

吉岡 吉典   


       参議院議長 藤田 正明 殿


   国営中海・宍道湖干拓淡水化事業に関する質問主意書

 国営中海干拓事業に着手して以来、二十四年が経過した。この事業は、当初、戦後日本の深刻な食糧不足を解決するための国策事業として始められたもので、すでに七百億円以上の巨費が投じられ、完工までには千億円以上を要する大事業計画である。
 しかし今日、日本の農業・食糧問題をめぐる情勢には大きな変化があり、この事業計画そのものが破たんするとともに、この計画をめぐつて多くの問題点が生じている。特に中海・宍道湖淡水化をめぐつて、県民の間に全国のシジミ生産の六五%を占めるヤマトシジミの絶滅や水質・環境悪化の不安が広がつている。このため、中海・宍道湖周辺市町の人口の過半数を大きく上回る約三十二万人もの「淡水化反対」署名が集まるなど、淡水化反対運動が大きく盛り上がつている。
 このことは、竹下総理もよくよくご承知のはずである。
 こうして、この中海干拓事業そのものの根本的な再検討が求められている。
 しかるに、中海・宍道湖干拓淡水化事業は、島根県の「宍道湖中海水質管理委員会」が十月二十七日、農林水産省から提示されていた「限定的淡水化試行計画」の受入れを決めたことにより新たな局面を迎えている。
 こうした一連の経過を踏まえ、政府の責任で「限定的淡水化試行計画」の強行を中止することとこの事業の全面的再検討を求める立場から、農林水産省の提示した「限定的淡水化試行計画」並びに中海・宍道湖干拓淡水化事業に関して以下質問する。

一 「限定的淡水化試行計画」について

 第一は、県民の強い不安と反対を押し切つて「限定的淡水化試行計画」をあくまで強行するのかという問題である。
 そもそも農林水産省は、三年前の昭和五十九年八月に、「淡水湖化は湖の現状程度の水質をほぼ維持しながら進めていくことが可能であろう」との「中間報告」とそれに基づく「淡水化試行計画」を島根、鳥取両県へ提示し、試行への同意を求めていたが、両県から「中間報告」の検討の委託を受けた科学者で組織する助言者会議は、昨年二月に「淡水化すればアオコが発生し、水質汚濁は避けられない」との結論を出した。さらに、周辺住民の反対運動の大きな広がりなどから、「淡水化試行計画」への両県の同意が得られないまま、この事業は行き詰まつていた。
 この事態を打開すべく、窮余の一策として出されてきたのが、本年九月に示された中浦水門十門のうち一門を開放して試行を行うという「限定的淡水化試行計画」であつた。しかし、この「限定的試行計画」は(1)助言者会議から多くの問題点が指摘されていた「中間報告」を前提とした計画である、(2)本格淡水化の予測をするには塩分濃度が余りにかけ離れすぎており、淡水化後の水質予測には役に立たない、(3)水質の変化予測や生態系の変化予測が十分に解明されていない、など大きな問題をかかえた内容となつており、その強行は周辺住民の不安を一層増大させることになる。そこで尋ねるが、

1 政府は、周辺住民の過半数を超える「淡水化反対」署名、県民の強い不安や反対をどう考えるのか。
 周辺住民の合意もないもとでの「限定的試行計画」を撤回する考えはないか。
2 あくまで「限定的試行」を強行するというのであれば次の点について質問する。

(1) 「限定的試行」で、本格淡水化の場合の実証的な水質予測が可能か。また、「限定的試行」の結果、顕著な水質悪化や環境悪化がみられなかつた場合、それをもつて本格淡水化の場合も水質や環境に悪影響を及ぼさないと判断することができるのか。
(2) 「限定的試行」の結果、水質悪化が明らかになれば淡水化計画を見直すのかどうか。

二 中海干拓事業について

 第二は、中海干拓事業そのものについてである。
 この事業はもともと米づくりを目的とし、十年間で中海に二、五四二ヘクタールの干拓地を造成しようというものであつた。しかし、昭和四十五年に米の過剰による減反政策がはじまり、米の増産という干拓事業の前提がくずれた。
 当然、この時点でこの計画は再検討されるべきであつた。にもかかわらず、政府は、畑作、酪農が目的だなどとして、営農計画もないままに今日まで事業を続けてきた。そのため十年計画は二十六年計画に延ばされ、総事業費も百二十億円から八百八十億円に膨れあがつている。さらに、干拓地の分譲価格は、他の干拓地よりはるかに高い10アール当たり百六十万円(昭和六十三年度完成見込みの試算)といわれてきたが、工期がさらに延びるところから三百万円に達するとの試算も行われている。
 この事業は、計画どおり農地造成をしても全く売れる見込みがなく、失政の責任を免れない計画である。しかも、すでに問題にしたように淡水化すれば、アオコの発生など水質悪化は避けられず、“シジミを守れ”と運動が起こるなど住民の大多数が反対している。国会でも、これ以上の投資は、国費の無駄使いであると中止を求める論議がしばしば行われてきた。
 そこで政府に尋ねる。

1 直ちに、法的手続に基づく計画変更を行い、本庄地区の干陸と淡水化事業を中止すべきではないか。
2 事業をあくまで継続するというのなら、

(1) 総事業費がいくらになるのかを含めた今後の計画と見通しを示されたい。
(2) 造成農地が売れる見込みが確実にあるかどうかその具体的見通しを明らかにされたい。
(3) 造成農地の分譲価格の見込みを具体的に示されたい。

3 揖屋地区などの既干陸地については、部分完工をして分譲してほしいとの要求がある。
部分完工を認めるべきだと考えるがどうか。

  右質問する。