質問主意書

第108回国会(常会)

答弁書


答弁書第八号

内閣参質一〇八第八号

  昭和六十二年四月三日

内閣総理大臣 中曽根 康弘   


       参議院議長 藤田 正明 殿

参議院議員木本平八郎君提出税制改革に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員木本平八郎君提出税制改革に関する質問に対する答弁書

一について

 税制改革が家計の負担に与える影響については、今回の改革の趣旨からみて、サラリーマンの就職、結婚から退職までの生涯の各段階ごとの収入や支出の態様に応じて家計のゆとりが変化するという点に着目して、税負担の変化を考えることが重要である。
 なお、その際には、いかなる税も究極的には個人に帰着するものとされており、法人減税の影響も考慮に入れる必要がある。
 このような観点から検討すると、今回の税制改革により、働き盛りで収入が比較的高いものの教育、住宅等の支出がかさみ、あまりゆとりのない中堅層を中心に負担が軽減されるものと考える。

二について

 今回の税制改革では、税負担についての給与所得者の不公平感に対処するため、みなし法人課税を選択した場合の事業主報酬の額について実質的な限度額を設けるほか、所得税について十五万円、個人住民税について十二万円の配偶者特別控除を創設する等の措置を講ずることとしている。
 給与所得控除については、マクロ的にみて給与の収入金額に対する給与所得控除額の割合が三十パーセントに達し、既に相当の水準となつていることもあり、今回の税制改革では、その控除額の引上げを行わないこととしたものである。

三について

 今回の税制改革において創設することとしている特定支出控除制度は、給与所得者が通常その勤務する過程において支出を余儀なくされる支出項目のうち、その額が相当程度となると認められる単身赴任者の往復旅費等の特定支出について、そのような支出による給与所得者の負担をしん酌するという趣旨から、その額が給与所得控除額を超える場合には、申告により、その超える部分を控除することができることとするものである。これにより、給与所得者についても申告納税の途がひらかれることとなり、公平感の維持、納税意識の形成の上で意義のあることと考える。

四について

 単身赴任手当は、扶養手当、僻地勤務手当等と同様に給与の一部であり、税制上非課税とすることは適当でない。

五について

 売上税においては、飲食料品、社会保険診療、学校教育、住宅、一般の旅客輸送など国民生活に密接に関連する分野の多くを非課税にするといつた配慮が払われており、いわゆる逆進性は大幅に緩和されている。
 また、所得税の税率構造については、大半のサラリーマンが包摂される収入階層に対して適用される税率を十パーセント一本又は十パーセントと十五パーセントの二本とし、全体としての税率の刻みも六段階に削減するなど、大幅な累進緩和を図ることとしている。最低税率の十パーセントは、先進諸国の中ではかなり低い水準であり、課税最低限が国際的に既に高い水準にあることからすれば、実際上考えられ得る最低の率である。所得税の最高税率は、その水準が高すぎる場合には、勤労意欲、事業意欲等に好ましくない影響を与えることが懸念されることから、社会の活力を維持増大する見地に立ち、今回の税制改革では、全体の累進構造をなだらかにし、最高税率を引き下げることとしたものである。なお、改革後においても、我が国の所得税と個人住民税を合わせた最高税率は、先進諸国の中で最も高い水準にあること、また、課税最低限の水準も既に高いことなどから、我が国の所得課税は、国際的にみても下に軽く上に重いものとなつている。
 なお、今回の税制改革に当たつては、真に手をさしのべるべき人々に対しては所要の配慮を払うこととしている。例えば、老年者控除を二倍に引き上げるとともに、利子課税につき老人、母子家庭、身体障害者等に対し現行の少額貯蓄非課税制度及び郵便貯金非課税制度を維持するなど、適切な措置を講ずることとしている。
 今回の税制改革は、全体としてみると、働き盛りで収入が比較的高いものの教育、住宅等の支出がかさみ、あまりゆとりのない中堅層を中心に負担が軽減されるものと考える。
 以上のように、今回の税制改革は、低所得のサラリーマンに負担増を強いるものではない。

六について

 非課税貯蓄制度の見直しは、現行制度の下で多額の利子が課税ベースから外れて所得種類間の税負担の不公平をもたらしているほか、高額所得者ほどより多くその恩典を受けているという現状にあること等に顧み、税負担の実質的な公平を図る見地から行うこととしたものであり、老人、母子家庭、身体障害者等真に手をさしのべるべき人々に対しては現行の少額貯蓄非課税制度及び郵便貯金非課税制度を維持することとしている。
 今回導入しようとする利子課税制度については、昭和六十二年十月一日以後の利子等に対して適用することとしており、同日前に預入等された預貯金等については、国民の金融資産の選好に不測の影響を与えることのないように配慮する趣旨から、同日以後の期間に対応する利子等の部分につき適用し、その課税額の算出に当たつては期間按分の方法によることとしているところであつて、御指摘の不利益処分の法律不遡及に反するものではない。

七について

 年齢六十五歳以上の者について所得制限を付さないで改革後の少額貯蓄非課税制度及び郵便貯金非課税制度の適用対象者としたのは、預貯金等の元本の継続的な管理が必要とされるといつた事情、国の老人福祉に係る諸制度の適用年齢等を勘案したものである。
 また、その他の適用対象者である母子家庭、寡婦、身体障害者等の具体的な範囲は、遺族基礎年金受給者である被保険者の妻、寡婦年金受給者、身体障害者手帳の交付を受けている者等である。

八について

 今回の税制改革では、現行の非課税貯蓄制度について、多額の利子が課税ベースから外れて所得種類間の税負担の不公平をもたらしているほか、高額所得者ほどより多くその恩典を受けているという現状にあること等に顧み、少額貯蓄非課税制度及び郵便貯金非課税制度を老人等所得の稼得能力の減退した者に対する利子非課税制度に改組した上、それ以外の利子所得については一定の税率による源泉徴収により他の所得と分離して課税することとしたものであり、これにより実質的な公平が図られるものと考える。
 また、利子所得について一定の税率による源泉徴収により他の所得と分離して課税する方式は、利子所得の発生の大量性、その元本である金融商品の多様性、浮動性といつた特異性に適合した課税方式であり、かつ、簡素、中立、効率といつた要請にも応える適切な課税方式であると考える。
 なお、今回の税制改革においては、勤労者の財産形成住宅(年金)貯蓄については十パーセントの税率による源泉分離課税を適用することとしている。この結果、利子課税全体としては、老人等真に手をさしのべるべき人々についての非課税制度、勤労者の財産形成住宅(年金)貯蓄についての十パーセントの税率による源泉分離課税、その他の貯蓄一般についての二十パーセントの税率による源泉分離課税の三段階に区分して対処されることになる。