質問主意書

第108回国会(常会)

質問主意書


質問第八号

税制改革に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和六十二年三月十日

木本 平八郎   


       参議院議長 藤田 正明 殿


   税制改革に関する質問主意書

 本国会に提出されている税制改革関連法案は、これまでの租税体系を大きく改編しようとするものであり、国民生活にも重大な影響を及ぼすものである。よつて、参議院での審議に先立ち、基本的な問題のいくつかを質しておきたい。

一 今回の税制改革は、全体として税収中立とするとしても、直接税(個人、法人の所得課税)を減税し、間接税を増税(売上税を導入)することとなるため、各分野別及び所得階層別の税負担分布は大きく変化することとなる。
 政府は先に、所得階層別の税負担の変化についての試算を発表しているが、民間研究機関による試算とはかなりの食い違いが見られる。その食い違いの原因は、政府の試算では法人税減税の一部を個人に割り振るという非現実的な手法を用いていることによるが、ここに改めて所得階層別並びに法人・家計別の税負担の変化を明示されたい。

二 政府は、税制改革の目的は「税制のゆがみ・ひずみを是正し、税の重圧感を除去すること」であり、そのための税体系のあり方として、「サラリーマンの税の不公平を除去し、中堅以上のサラリーマンの税負担軽減」を行うことを強調している。
 そうであるならば、当然の方策として、みなし法人等に係る所得分割制を廃止するとともに、給与所得控除額を引き上げるべきだと考えるが、改革案においてはこれらの点において全く措置されていない。その理由を明らかにされたい。

三 政府税制調査会の基本答申においては、現行の給与所得控除を、「勤務費用の概算控除」と「他の所得との負担調整のための特別控除」に二分できるものであるとし、新たに、勤務に伴う実額控除を認め、「勤務費用の概算控除」との選択制を導入すべきであることが明記されている。
 然るに、改革案においては、実額控除(特定支出控除)を、給与所得控除の半額に相当する「概算控除」ではなく、給与所得控除全体との選択に変更しているのはいかなる理由によるのか。
 また、特定支出適用の範囲を極端に圧縮し、常識的に当然視される背広、ワイシャツ、ネクタイ、靴等の勤務のための衣服費や職場の交際費等を一切認めず、結果的に実額控除制度の実効を無に帰せしめようとしている意図は何かを明らかにされたい。

四 単身赴任手当は、社命による単身赴任の結果生ずる新たな費用の一部を会社が負担するものであり、本来、出張手当と同様に非課税対象とされるべきものである。
 今回の改革案においても、引き続いて課税対象とされているが、本手当はその性格上、当然非課税扱いとすべきだと思うが政府の見解を問う。

五 売上税は、食料や医療費等を非課税としても逆進性は依然として強く、家計支出の二~三パーセント程度の負担増は免れることはできない。そしてこの負担増は、課税最低限以下の低所得層においても回避することは不可能である。
 さらに、所得税の税率改正において、最高税率は七〇パーセントから五〇パーセントへと二〇パーセント・ポイント引き下げるのに対し、最低税率は一〇・五パーセントから一〇パーセントへと、〇・五パーセント・ポイントしか引き下げないこととしている。
 このように、今回の税制改革では、とくに低所得サラリーマンに負担増を強いることとしているが、その理由を明らかにされたい。

六 マル優等の少額貯蓄非課税制度の沿革は古く、その限度額は個人金融資産の状況に応じて増額され、国民の財産形成のテコとしての役割を果たし、また、定年退職者や国民一般の、老後・病気への備えあるいは住宅建設のための蓄積の支えとして定着している制度である。
 これを一挙に廃止することについての国民生活に及ぼす影響を、政府はどのようにとらえているのかを明らかにされたい。
 また、廃止するとしても、すでに金融機関等に預託している分については、預託者は少なくとも満期到来時までは利子非課税を前提として生涯の生活設計を組み込んでいるはずである。
 今回の改革案では、既存の預託に係る分についても、法律施行日を基準として期間対応課税によることとしているが、これは不利益処分の法律不遡及の原則に反するのではないか。
 従つて、課税に当たつては、少なくとも改正法施行の日以後に預け入れる分についてこれを適用すべきではないか。政府の見解を明らかにされたい。

七 マル優等の限定適用対象の一つに六十五歳以上の老人が挙げられている。しかし、サラリーマンの六十歳定年制の普及度もなお低きに止まつているのが現状であり、再就職の状況は厳しく、就職できても低水準の収入に甘んじなければならないのが現実である。このように、六十歳未満で退職を余儀なくされる一方において、六十五歳を過ぎてもなお高所得を維持し、資産を有する人も存在する。
 従つて、年齢制限による少額貯蓄非課税制度の限定適用に当たつては、その年齢を五十五歳以上とし、所得制限を設けるべきだと考えるがどうか。
 また、その他の適用対象である母子家庭、寡婦、身体障害者等の定義並びに適用範囲を明確にされたい。

八 利子課税の改革において、現行の課税貯蓄の利子に係る三五パーセントの源泉分離選択課税の税率までも一律二〇パーセントの分離課税とすることは、高額の貯蓄を有する資産家階層にとつては大幅な税負担軽減となる一方で、低所得者にとつては確定申告による二〇パーセントの源泉徴収分の過払い税金還付の道をも閉ざすことになるなど、資産家優遇、低所得者冷遇の、きわめて妥当性を欠く結果となる。
 従つて、現行の課税貯蓄の利子に係る三五パーセントの源泉分離選択課税制度はそのまま残し、二〇パーセントの源泉課税分については総合課税すべきだと考えるが、政府の見解を伺いたい。

  右質問する。