質問主意書

第107回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第一一号

内閣参質一〇七第一一号

  昭和六十一年十二月九日

内閣総理大臣 中曽根 康弘   


       参議院議長 藤田 正明 殿

参議院議員木本平八郎君提出コメの小売販売許可制に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員木本平八郎君提出コメの小売販売許可制に関する質問に対する答弁書

一の(一)について

 国民の主食である米については、販売業者の責任ある適正かつ活発な活動を通じて、消費者の信頼を得つつ、その需要動向に即応した供給を行つていく必要がある。このため、販売業者については許可制の下に米の適正な流通が確保されるよう指導・監督を行つているところであり、ことに品質面では販売業者に対して袋詰精米の品質等を表示させることとしている。
 また、その表示の適正を期するため、袋詰精米の六割近くを生産している大型集中精米工場については食糧庁長官の指定する検定機関が精米の品位、原料玄米の類別構成等を検定するとともに、小売業者については食糧事務所職員及び都道府県職員が随時巡回し、品質区分等の必要的表示事項につき、表示とその内容を照合する等の措置を講じているところであり、今後ともこのような措置を通じて米流通の適正を期していくこととしている。

一の(二)について

 一般に米の食味に関係のある要因としては、品種、気候、土壌のほか、栽培、収穫、乾燥及び炊飯の方法等が挙げられるが、これらの中では品種による影響が最も大きいといわれている。
 しかしながら、品種については、精米ではとう精過程において粒形等その特性が消滅するため、外観上は判定が困難である。
 したがつて、精米の食味の評価については、炊飯して食味する方法を採つている。
 なお、米以外の食品においても、消費者が実際に食味することで初めてその品質評価がなされ、そのような品質評価に応じて価格が形成されていくものが多い。米については、国民の主食であるとの重要な位置付けにかんがみ、消費者の選択に資するよう一の(一)についてにおいて述べたような表示の適正化措置等を通じ品質と価格の適合性を保つているところである。

二の(一)について

 米の品質確保については、小売業者数が多ければ多いほどいいというわけではなく、過当競争が行われた場合には品質面を含めた適正かつ安定的な供給が阻害されるおそれがある。
 このため、消費者に信頼を与え得る適正流通を確保するには、一定の要件を備え小売業者として有効な機能を果たし得る者に小売業の許可を与え、国及び都道府県の指導・監督を行うことが必要であると考えており、この小売業者の許可制により消費者の選択の範囲が制限され品質確保上問題が生じているとは考えていない。

二の(二)について

 小売業者間の適正な競争を促し、より一層の消費者利便を図るため、昭和五十六年の食糧管理法(昭和十七年法律第四十号)の改正及び関係政省令の改正により、小売業者に係る新規参入に関する規定の整備、販売所制度の新設等を行い、消費者の需要に即応した多様な店舗展開を進めてきており、昭和五十六年に約六万五千軒であつた小売業者の店舗数は、昭和六十一年には約七万八千軒に増加している。
 また、昭和六十年には、卸・小売間の結び付きを複数化し、袋詰精米について小売業者は登録卸以外の卸売業者からも仕入れを行うことができることとし、卸売業者間における適正な競争を促すとともに、小売業者の品ぞろえの要請等にこたえ販売活動の活性化を図つている。

二の(三)及び(四)について

 自由競争の下でも消費者がその価格に応じた品質の商品を入手できないことはあり得るところであるが、主食である米については、販売業者の許可制により業者の責任を明確化しつつ品質表示の適正化のための措置を採ること等を通じ、品質の確保と品質に応じた適正な価格の形成を図るとの国民の要請にこたえることとしているところである。
 ことに、昭和四十四年以降自主流通制度を発足させ政府を通じない米の流通により消費者の選好に応じた品質の米の提供が行われていること等にかんがみれば、消費者が自分の好みに応じた品質の米を選択することは十分可能であると考えている。

二の(五)及び(六)について

 米については、他の多くの食品と同様、食味に応じてその価格が形成されるものであるが、米については特に、一の(一)についてにおいて述べたとおり、販売業者に対して袋詰精米の品質等を表示させることとするとともに品質表示と異なる内容の米を販売することのないよう指導・監督を行つているところであり、また、仮に品質表示義務に違反し、不当な表示が行われている場合には、業務改善命令を発する等食糧管理法に基づき厳正な処分を行つている。これらを通じ、販売業者の許可制の下において、品質が保証された米の流通が確保されているものと考えている。
 したがつて、食糧管理法に基づく適正な米の流通は、不公正取引に類するものではなく、また、消費者に不公正取引に近い負担を負わせているものとは考えていない。

三の(一)について

 米の流通に関しては、食糧管理制度の下で、国民の主食である米を政府が責任をもつて管理し、流通業者の適正な活動を通じて、国民に安定的に供給していくとの観点から、販売業者について適正な競争を促すよう新規参入及び販売所設置の促進、複数卸制の導入等により適正な競争条件を整備してきたところであり、今後とも競争条件の一層の整備を図つていく考えである。
 したがつて、米の流通に関しては、現行制度の下においても、供給者側が有利になつているとは考えていない。

三の(二)について

 国民の主食である米については、自由流通の下にある他の食品と異なり、特に食糧管理制度の下において、御指摘のような不正行為が行われないよう品質表示義務を課し、指導・監督を行う等の品質の適正化が図られるような措置を採つているものである。

三の(三)、(四)及び(五)について

 小売業の許可については、都道府県知事が、消費者に対する米穀の適正かつ円滑な供給を確保することを旨として、一定の許可要件及び選定の基準に従つて許可を与えることとしており、その実施に当たつては、各都道府県段階で消費者代表も構成員に含む米穀流通適正化協議会等の意見を聴き、米の消費者の利便が図られるよう配慮しつつ適正に対処しているところである。
 なお、小売業者について新規参入を図つてきたこと等により、小売業者の店舗数は、二の(二)についてにおいて述べたように一貫して増加しており、この事実からも、販売業者許可制度が既存小売業者の利益擁護であるとの見方は当たらないものと考えている。

四の(一)について

 米は、作況変動及び商品特性から、自由市場の下では投機の対象となりやすく、価格変動が避けられないものである。こうした事情から、米については、食糧管理制度により、国が責任をもつて管理し、国民の必要とする米の安定供給を図つているところである。
 この場合、生産者から消費者までの流通を実際に担うのは、集荷業者及び卸・小売の販売業者であるが、品質面も含めた必要量の確保、価格の安定、流通の円滑化等による国民に対する米の安定供給及び国民経済の安定を図る上で、これら流通業者の適正な活動を確保することが重要である。
 このため、流通ルートを特定し、これを国及び地方公共団体の指導・監督の下に置く必要があるとの観点から、集荷業者については農林水産大臣による指定制、販売業者については都道府県知事による許可制を採つているところである。

四の(二)について

 小売業者の許可制を廃止したとすれば、需給事情が作況により変動する中で、国民の主食である米が投機や買い占め・売り惜しみの対象となり、需給及び価格の安定を図ることができず、ひいては国民生活の安定を確保することが困難となる事態が考えられる。

四の(三)について

 食糧管理制度は、国民の主食である米を政府が責任をもつて管理することにより、生産者に対してはその再生産を確保し、また、消費者に対しては安定的にその供給責任を果たし、国民食糧の確保及び国民経済の安定を図るという重要な役割を果たしており、その役割を十全に果たす一環として小売業者の許可制を採つているものである。

四の(四)について

 生産、輸出入及び卸売段階までの管理を行つたとしても、誰でも自由に小売業を営むことができることとした場合には、四の(一)についてにおいて述べたような米の商品特性からみて、米が投機や買い占め・売り惜しみの対象となつたり、価格が乱高下することは避けられず、卸売段階までの流通の規制を行うことが無意味となると考えている。
 したがつて、国民への米の安定供給を図るためには、米の流通の最末端において消費者に直接米を供給する立場にある小売業者が、価格、数量の両面で適正な販売活動を行うことが極めて重要であると考えている。

四の(五)について

 平常時において米の流通の規制を行わず全く自由な流通にゆだね、非常事態が発生した場合に初めて流通を規制することとした場合、四の(四)についてにおいて述べたように平常時においても米の安定供給上支障が生ずると考えており、いわんや非常事態が発生すれば流通規制を実施するまでの間の米の流通に重大な混乱が生じ、国民食糧の確保及び国民経済の安定に深刻な打撃を与えることとなると考えられる。

四の(六)について

 米は国民の主食という重要な地位を占めているものであり、先に述べたように作況変動及び商品特性から投機の対象となりやすく、小売段階の流通を自由化した場合、価格変動が避けられないものであるので、他の消費物資と同列に論ずることは適当でないと考えている。
 これは、食糧管理法制定前は米が投機の対象となり大幅な価格の変動をみたことからも明らかである。
 また、昭和四十八年及び四十九年の第一次石油ショックの際には諸物価が高騰し一部に物不足による混乱が生じたが、米については国民に何ら不安を生じさせなかつたことや、昭和五十五年以降の四年続きの不作という明治以来経験したことのなかつた事態の下でも米の流通・価格面で国民に何らの混乱も生じなかつたことからも食糧管理制度による米の流通規制は有効に機能していると言えると考えている。

五について

 小売業者の許可制を廃止したとすれば、小売段階における米の価格の乱高下等の流通の混乱が米全体の流通及び需給調整に混乱をもたらし、ひいては米の安定的な生産に支障を来すおそれがあると考えている。