質問主意書

第107回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一九号

土地改良事業の農家負担軽減措置に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和六十一年十二月二十日

下田 京子   


       参議院議長 藤田 正明 殿


   土地改良事業の農家負担軽減措置に関する質問主意書

 土地改良事業の事業費の上昇にともなつて農家の負担額が年々増大している。
 とりわけ、近年、農産物価格の抑制、米作減反の大幅拡大とおしつけ、農産物輸入の拡大など自民党政府の農業縮小路線がもたらした農家の経営悪化ともあいまつて、事業の償還金が払えない、土地改良や営農への意欲を失いせつかく造成した農地が放置されるなど各地で深刻な事態を生み出している。
 農業の生産性を向上させ、国民食糧を量的にも価格の面でも安定して供給させるという土地改良事業の積極的役割を真に発揮させるため、また、困難に陥つている農家経営を改善するうえでも、いま各地で進行している土地改良事業の農家負担増を回避し、軽減させる措置をとることが、最低限の緊急課題となつている。
 土地改良事業の農家負担増は、臨調「行革」路線のもとで、事業予算を厳しく抑制してきたことや農家の実態を無視した大規模区画・施設のおしつけなど政府の施策を大きな要因としており、負担軽減のために政府がとるべき責任は大きいといわねばならない。
 よつて、具体的事例に即しながら、土地改良事業の農家負担の軽減措置について、以下政府に質問する。

一 福島県会津地域でおこなわれている国営雄国山麓総合農地開発事業は、農地造成(当初は開田、その後開畑に変更)五百十一ヘクタール、区画整理六百一ヘクタールなどを目的として、昭和四十五年総事業費三十五億円の予定で始まつた。ところがその後、工期の長期化などによつて事業費が増加し、完成までに要する総事業費は、当初の五・四倍、百八十九億五千万円に達すると見込まれている(昭和六十一年現在)。
 そして、それに対応する農家負担は、現地の工事事務所の試算によれば、農地(畑)造成の場合、十アール当たり平均の年償還額が二万二千二百十円に、水田の区画整理については十アール当たり年償還額が五万三千五百五十円にもなる。
 一方、造成畑に作付けした加工トマト、グリーンアスパラ等が病気の発生、連作障害などで収穫皆無のところが生じている。このように畑作物の収益性が低下し、米価の抑制、減反の大幅拡大が続いているもとで、十アール当たり年間二万円とか五万円を上回る農家の負担は限度を超えるものといわざるをえない。
 こうした状況のもとで工事の未着工地区の農家からは地区除外を求める動きも強まつており、それがまた事業参加農民の負担を高めるという悪循環を生み出している。現状のままで事業費の償還が開始されることになれば、農家の経営危機はいつそう深まり償還金の支払いの滞る農家が続出することは十分予想される。そこで伺いたい。

(1) 雄国山麓のような事態は全国各地でみられる。このような土地改良事業をめぐる矛盾と困難を打開し、農業の生産性向上に資するという土地改良事業そのものの役割を積極的に果たさせていくためには、農家負担の軽減策を何らかの形でとることが不可欠の課題であると考える。この点での政府の認識はどうか。
(2) 国営土地改良事業の地元負担金の償還金利(現行五%)を、他の制度金融の金利が下がつていることを考慮し、引き下げるべきと考えるが、政府にその用意はあるか。
(3) また、償還期間(農地造成の場合三年据置き十二年償還)についても思い切つて延長することが必要と考える。この点で政府はどのように対応をするつもりか。
(4) ダムなど公共性が高い基幹施設及び農林水産省の出先の工事事務所の建設費や人件費などは全額国の負担とし、農家に対しては転嫁すべきでないと考えるが、この点についての政府の見解を問う。
(5) 水田に対するかんがい排水事業は、米作減反が強化されるもとで事業効果の発現が狭められており、それだけ農家負担が高まるという状況に直面している。米作減反の強化によつて、水田への用排水事業が不必要になる部分については、農家の受益が減少しているという事実をふまえ、負担軽減措置を検討すべきと思うが、政府にその用意はあるか。

二 都道府県や地元負担分をとりあえず財政投融資資金の借入れでまかなうという従来の特別会計方式による国営土地改良事業の場合、地元や農家の負担は事業費に建設利息も加わつていつそう過大となつている。今年三月、参議院農林水産委員会で私が指摘した福島県の国営会津北部かんがい排水事業の例はその典型である。
 ここでは、事業の途中から特別会計方式を導入したため、地元受益者の負担額の合計が当初予定の七倍にアップし、総償還額も約二倍にはね上がつている。しかも、総償還額百六十億五千四百万円のうち実際の工事費は六十億七千九百万円で約六割が金利負担という状況である。
 また、宮崎県の一ッ瀬川農業水利事業も特別会計方式でおこなわれ、最終的な地元負担額二十三億九千八百万円のうち三割は建設利息となつている。この地域では、国営事業にあわせて県営の圃場整備などを総合的にすすめており、土地改良区の試算によれば、水田の圃場整備、かんがい排水の両方おこなつた場合、十アール当たり最高時一万九千円の償還額となり、ここでも本格的な償還が始まれば払いきれない人が続出するのではないかと関係者は心配している。
 以上のように、特別会計方式は財投資金の借入れで工期の短縮をはかつたものの、予算抑制のためその効果があらわれず、むしろ工期の長期化から農家に多額の利子負担を強いる結果となつている。

(1) したがつて、当面少なくとも受益者負担にかかる部分についての建設利息をとる特別会計方式は見直すべきと考えるが、政府の見解を問う。
(2) 建設利息の利率に連動している財投資金の借入金利は現在六・〇五%であるが、公定歩合が三・〇%と低下し、超低金利時代をむかえている中で、財投資金の金利の引下げも政府として検討すべきと考えるが、その用意はあるか。
(3) また、高金利のときに借り入れた資金を現行の低金利水準の資金に借換えをすすめることも実施すべきと考えるが、この点についての政府の対応策を問う。

三 中曽根内閣がスタートした昭和五十七年の農業基盤整備事業の予算は八千九百九十六億六千八百万円であつたが、昭和六十一年には八千六百七十九億五千三百万円と四年間で三百十七億一千五百万円の削減となつている。逆にこの間、軍事費は、二兆五千八百六十一億円から三兆三千四百三十五億円へと実に七千五百七十四億円も増えている。
 土地改良事業における農家負担の軽減策を本格的に講ずるためには、これまでのような予算の組み方を抜本的にあらため、軍事費を削つて農業、国民生活関連予算の拡充にまわし、土地改良のための国の予算を思い切つて増やすことが必要である。この点についての政府の見解を問う。

  右質問する。