質問主意書

第107回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一〇号

アイヌ民族問題に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和六十一年十一月十二日

猪熊 重二   


       参議院議長 藤田 正明 殿


   アイヌ民族問題に関する質問主意書

 アイヌ民族が国から無償下付を受けた土地及びその他の共有資産の保有に関し、現在、「北海道旧土人保護法」が適用されているが、右法律は、現行憲法上問題があると思料する。
 また、政府の国連事務総長に対する市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)第二十七条に関する報告(昭和五十五年十月)に「本規約に規定する意味での少数民族はわが国に存在しない」旨の記述があるが、右報告内容については疑義なしとしない。
 よつて、右の見解のもとに、以下の諸点について質問する。

一 「北海道旧土人保護法」について

1 右法律にいう「北海道旧土人」とは、何人を指称するのか。アイヌ民族を指称するものと理解してよいか。
2 右法律を適用するためには、当然に、「北海道旧土人」すなわちアイヌ民族とそれ以外の日本国民とを識別することが前提となるが、この識別の法的基準はどのようなものか。
3 アイヌ民族を「北海道旧土人」と呼称することは、アイヌ民族を侮蔑的・差別的に取り扱うものであり、「人種により差別されない」という憲法第十四条の精神に照らして疑義あるものと思料するが、政府の見解はどうか。
4 アイヌ民族が土地を取得し、所有・占有して以来、すでに五十年以上(最長期間では八十年以上)経過しているにもかかわらず、なお、右のような土地所有権に対する制限を付することは、合理的な差別とは考えられず、法の下の平等を定めた憲法第十四条の精神に照らして疑義あるものと思料するが、政府の見解はどうか。
5 右法律第十条によるアイヌ民族の共有財産に対する北海道知事の管理・処分権に関し、

(イ) 法律制定当時の、右知事の権限の根拠(理由)はいかなるものか。
(ロ) 右の根拠(理由)は、現在においても妥当するものと思料しているのか。
(ハ) 現在、右制定当時の根拠(理由)以外に、右法条の妥当性を認めるに足る他の根拠(理由)が存在するのか。

6 行政機関が、アイヌ民族の固有の共有財産を管理・処分する権限を保有することは、憲法第十四条の精神に照らし疑義あるものと思料するが政府の見解はどうか。

二 政府の国連に対する前記報告について

1 一般論として、アイヌ民族は日本民族と「種族的、宗教的又は言語的」に異なる民族であるといわれるが、政府の見解はどうか。
2 政府が国連に対し、アイヌ民族がB規約第二十七条にいう「種族的、宗教的又は言語的少数民族」に該当しない趣旨の報告をした根拠を明らかにされたい。
3 仮に、政府の国連に対する右報告の根拠が、B規約草案を審議した国連第三委員会において採択された「同規約第二十七条にいう“少数民族”の意義に関する注釈(合意事項)」によるものであるとすれば、右注釈(合意事項)の国内法規としての適用根拠を明らかにされたい。
4 右報告に関連して、中曽根総理大臣の昭和六十一年十月六日の参議院予算委員会における「日本は単一民族という非常にいい誇るべき長所がある」旨の発言及び遠藤法務大臣の昭和六十一年十月二十三日の参議院法務委員会における「日本国には国籍を有する国民に少数民族はない」旨の発言の両発言は、いずれも、アイヌ民族が日本における少数民族ではないとしたものだが、政府として、現在においても、右発言の趣旨を維持するものであるか否か。
5 中曽根総理大臣及び遠藤法務大臣の右発言について

(イ) 両発言は、アイヌ民族の意見を、何らかの形で、事前調査した上でなされたものなのかどうか。
(ロ) 多数者が少数者の存否を判断する場合、少数者の意向と全く無関係に、多数者の独自の判断に基づいて結論を導くという方法は、独善的判断方法と批判する見解があるが、政府の見解はどうか。

  右質問する。