質問主意書

第104回国会(常会)

質問主意書


質問第四九号

国民への治療内容と診療報酬に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和六十一年五月十六日

上田 耕一郎   


       参議院議長 木村 睦男 殿


   国民への治療内容と診療報酬に関する質問主意書

 有病率が戦後最高に達している現在、国民の健康にたいする不安と関心が高まつており、国民はよりよき医療を求めようとしている。また、医療の担い手である医師・医療機関は国民要求に沿つて治療内容の向上をめざそうとしている。しかるに、最近、中曽根内閣のもとで進行している事態はこうした願望にことごとく逆行することばかりであり、国民・医師の双方ともが、政府の施策にきびしい批判の声を集中させているのである。例えば、大気汚染の下で多発しているぜんそくに関する治療法(テオフィリン系薬剤の内服量)には問題があるといわれているし、また老人保健法案や一般医療にたいする改悪など、国民の間に大きな不安を呼んでいる。そして、これらは厚生省の原案の下に中医協で審議されて設定されている診療報酬と密接な関係をもつているといわなければならない。
 以下、国民のための医療の向上をめざす立場から、国民への治療内容と診療報酬に関して、具体的に質問をする。

一 テオフィリン系薬剤の内服量と血中濃度測定料について

(1) 医薬品の用法を示す添付書類は、厚生省の承認に基づいて作成され、これに即して治療をおこなうことが当然に求められている。ところが、ネオフィリンの添付書類では、一回一〇〇ミリグラム服用することとなつており、これを添付書類の「体内薬物動態」にあるグラフに基づき計算すると血中濃度は、四・四マイクログラムということになり、同添付書類に掲載されている表「テオフィリンの血中濃度と効果及び副作用の関係」では五マイクログラム以下は「非有効域」となつているので、これでは適切な治療はおこなわれないおそれがあると考えられるが、どうか。
(2) ネオフィリンの添付書類掲載の「主要文献」には、臨床の項目として国立医療センター臨床薬理室の石崎室長の論文が紹介されているので、同論文の原文に当たつて、内服量の求め方に従つて計算をしてみると、その用量は添付書類掲載の用量の約二倍になつたが、この食い違いについての見解はどうか。添付書類に誤りがある場合には、用法・用量の再々評価をおこなつたうえで、添付書類の訂正を至急おこなうべきと考えるが、どうか。
(3) 現在の用量では、テオフィリン系薬剤(たとえばネオフィリン)は無効であり、ぜん息の発作をおさえることはできないし、発作を防ごうとして、医師からわたされている交感神経刺激剤の吸入薬を指示より頻繁に用いることによつて、薬害をひきおこす原因にもなる。これは、管理体制のない自宅療養の場合に多く、問題はきわめて重大であるので、外来の場合でもテオフィリン系薬剤の治療が適切におこなわれるようにすべきであると考えるが、どうか。
(4) 今回の診療報酬の改定では、テオフィリン系薬剤の適量投与を可能にする血中濃度の測定料が、入院時のみ認められたが、外来では認められなかつた。これでは、前記医療事故を未然に防止することができず、至急に改善すべく措置をとるべきではないか。

二 老人病院と診療報酬について

(1) 元厚生省老人保健部長の吉原健二氏が、特例許可外老人病院について「特例許可を受けないまま七〇歳以上の老人を六割以上常時収容している病院」(「老人保健法の解説」中央法規発行)と説明しているのは、「毎年一月から三月までの間の老人収容比率の平均値が六割以上である一般病院」としている現行法とは明らかに食い違つているが、「一月から三月まで」をして「常時」と表現するのは妥当ではなく誤解を与えるものと考えるが、どうか。
(2) 「一月から三月まで」の期間は、脳卒中、心筋梗塞、肺炎など老人の健康状態にとつては最悪であり、この時期に老人の入院が困難になることは、適切ではないと思うが、どうか。
(3) 老人医療に関する診療報酬の低さが目立つており、これが治療にどのような影響を及ぼしたかを調査する必要があると思うが、どうか。その場合、特例許可外老人病院を調査することで結果がでるとおもわれるので、特例許可外老人病院の名称、所在地を明らかにされたい。もし、明らかにできないというのであれば、その理由を説明されたい。

三 一般医療と診療報酬について

(1) 病院の給食については、「入院患者の夕食時刻が早すぎる」などの問題を主な理由として、厚生省「通知」が出され、病院の施設を用いれば外注に出してもよい、ということになつたが、病院の給食というのは、本来、治療の一環であり営利会社にゆだねることは妥当ではない。給食に関する診療報酬を引き上げることによつて、給食関係の人員を増加させ、夕食時刻を遅くするなど適正な措置が可能だと考えるが、どうか。
(2) 日本人の平均寿命は世界最高に達しているが、その反面、有病率は戦後最高に達しているのが現状である。長寿を保つことと、健康を維持しつづけること、の両面があいまつていなくてはならないことは自明であるが、自己負担を増加させることによつて受診を抑制しようとする政府の方針は正しくないと考えるが、どうか。
(3) 日本人の平均寿命が諸外国に比べて長いのは、重病の際、国民の全てが入院できるという点と関係が深いと考えられる。例えば、米国では入院費が高く、一般の人が入院するのは困難であるという現状が伝えられている。米国と比べてべット数が多いというだけでべット数の削減が図られたのでは、平均寿命が短くなるのではないか。また、老人の入院に関する診療報酬が、特に低いのは、経済的に病院をしめつけることによつて、老人の入院を困難にさせている、ということになるのではないか。

  右質問する。