質問主意書

第104回国会(常会)

質問主意書


質問第四七号

水田利用再編次期対策(ポストIII期)等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和六十一年五月十五日

小笠原 貞子   


       参議院議長 木村 睦男 殿


   水田利用再編次期対策(ポストIII期)等に関する質問主意書

 北海道の稲作と稲作経営は、昭和四十五年以降十五年以上も続けられた「減反」政策のもとで深刻な危機に直面し、水田利用再編次期対策(以下、ポストIII期という。)に強い関心と不安感をいだいている。
 私は昨年六月、北海道の稲作問題をとりあげた質問主意書を提出したが、今回、ポストIII期にあたり、厳しい本道稲作と稲作経営を守るという立場から、以下具体的に質問する。

一 北海道農業の危機とその政治責任

 今日、北海道農業は全体として深刻な危機においこまれている。
 第一に、都府県の二・四倍、北海道の水田面積の実に四十四%におよぶ「減反」の傾斜配分を受けてきた結果、作付面積は昭和三年の状態にまで後退させられ、農産物の輸入拡大とも関連して、他の畑作や酪農部門を圧迫し、ついに昨年から、豆類やビート等「作付指標」ということで「自主的な」作付制限を余儀なくされている。
 第二に、政府がおしすすめてきた「近代化・規模拡大」、生産者価格の抑制の結果、負債問題が重大化し、特に、専業農家層や農協経営の破綻状況がひきおこされている。

(1) 「減反」政策の抜本的な見直しについて

 政府は、農畜産物の輸入拡大政策を強めて国内の農業生産の条件を次々にせばめ、他方では、総合的な農業への展望を示さず、単に「米べらし」のみを目的とした「減反」政策を十五年にわたつて取り続けた。
 その結果、「水田利用再編対策」にかかげた「安定的に対応しうる農業生産構造の確立」どころか、国内の主な農産物の大半に「過剰」と「生産制限」を拡大し、転作はもとより安心してつくれるものはないという状況さえ生み出した。
 政府は、こうした状況についてどう認識しているのか。水田利用再編第三期対策終了という時点にあたつて、この十五年に及ぶ「減反」政策をどのように考えているか、伺いたい。
 また、ポストIII期ではそれらを見直し、「減反」の大幅緩和をおこなうべきであると考えるがどうか。

(2) 北海道に対する「減反」傾斜配分の是正について

 この間北海道稲作に対してとられてきた措置は、意図的な道産米への攻撃も含め「米べらし」のための地域選別・差別の犠牲にされてきた感を禁じえない。とりわけ、北海道に、政策的展望を示さぬままに極端な「減反」の傾斜配分をおしつけてきたことはその典型である。
 私は、昨年も言及したがポストIII期にあたつてあらためて政府に北海道稲作の位置づけを明確にするとともに、本道に対する極端な「傾斜配分」の是正を求めるが、政府の見解は、どうか。また、北海道に対して全国の二十%以上の「減反」配分をしてきた理由を示されたい。

二 水田利用再編次期対策(ポストIII期)について

 政府及び農林水産省は、ポストIII期対策についてすでにその大枠を固め、その骨子も報道されている。それらについて真意を伺いたい。

(1) 減反面積について

 政府は来年度以降「減反」面積をさらに大幅に拡大し(十万ヘクタール)、あたかもそれは変更の許されない既定の方針であるかのように報じられている。
 しかし、その算出の根拠はあくまでも昭和五十九年に顕在化した米不足という危険性さえはらんでいる「単年度需給均衡」の立場に立つている。
 政府はこうした危険な「単年度需給均衡」主義をあらため、自然条件に左右される特殊性を考慮し、通常考えられる不作時の平均収量等を基礎として、減反面積を大幅に緩和し、「ゆとりある米需給計画」を確立すべきと考えるがどうか。

(2) 転作の配分方法及び奨励金について

 転作の配分方法について、まず国がその「ガイドライン」を示し、その受入れを集落の判断に任せるとしたうえ、奨励金については、個人にではなく、集落単位として土地流動化等の「構造政策」にあてる、という報道が流れている。
 これはあきらかに、国の責任を放棄してそれを農協や集落等におしつけ、同時に農民自身の手によつて二種兼農家等を米生産からしめ出すことをねらつたものである。
 これらの点について政府はどう考えているのか、その真意を伺いたい。

(3) 生産者米価について

 ある報道によると、農林水産省は生産者米価の引下げについて大胆にとりくみ、しかも、「基準米価」と中核農家への「交付金」という「二重構造」にする方向を検討しているとのことである。
 これは生産者と消費者との対立をあおり、「専業・中核農家」と兼業農家を対立させる分断政策であつて容認できない。
 政府は、その真意を明らかにするとともに六十一年産米価についての基本的考えを示されたい。

(4) 他用途利用米について

 私は昨年の質問主意書において、生産費を大幅に下回る「他用途利用米制度」の廃止を求め、「ゆとりある米需給計画」の中で加工用等を処理するよう提案したが、政府はそれとは逆に、さらに清酒やアルコール用、海外援助米にまで拡大し、しかもその価格を大幅に引き下げる意向を強めているかに聞く。その真意を明らかにされたい。

(5) 米の輸入について

 折から、私的諮問機関である「経済構造調整研究会」の答申をたずさえて訪米した中曽根首相は、レーガン大統領との首脳会談で「米の輸入自由化」問題についても話し合われたかのように報じられている。政府は将来にわたつて「米の輸入自由化」を絶対にしないと明言できるかどうかお伺いしたい。

三 北海道稲作農家の経営再建について

 北信連の調査では、昨年末の農家一戸当たりの負債は、水田地帯で二・四%前年より増加し千百四万円となつており、米の主産物である空知管内で三十二万円、上川管内で十六万円それぞれ増加している。
 また、短期貸付金が空知管内で二十五億円増加し、証書貸付も十三億円増加するなど、稲作経営の危機の深まりを浮きぼりにしている。しかも、一昨年、昨年と豊作の中での増加だけに事態は一層深刻である。

(1) 緊急の負債対策の実施について

 市場開放、生産者価格の抑制、近代化・規模拡大という政府の政策展開によつて生まれた負債については、政府自身の責任において解決すべきであると考える。
 しかも、今日における北海道の実態は、「自作農維持(再建整備)資金」だけではすでに解決のできないところにまでおいこまれており、しかも「特例自創資金」の貸付条件等によつて十分に負債整理に活用できない面をもつている。
 政府は、そうした事態に対して、制度資金の償還の棚上げを含む緊急対策を実施すべきではないかと考えるがどうか。
 また、「特例自創資金」について、その枠を拡大するとともに貸付条件を大幅に緩和し、いつまでも誰もが負債整理し経営再建に活用できるようにすべきであると考えるがどうか。

(2) 転作奨励金の削減等について

 北海道農務部のまとめた「転作経営実態調査結果の概要」によれば、北海道の転作作物の反収は、どれもが全道平均を下回つており、低い価格水準等もあり、反当たりの所得も米に対して、例えば、小麦で六十四%、ビートで七十三%、大豆で三十三%にすぎず、かろうじて転作奨励金で支えられているのが実態である。
 ところが、この奨励金が毎年減らされ、その削減額は昭和五十六年に比べると全道で三分の一減の二百六十八億円にもなつている。
 政府は「行革審」のいう「奨励金依存からの脱却」を基本方針として、さらにこの削減をおこなうつもりなのかどうか。

(3) 生産資材費の引下げについて

 農林水産省の生産費調査によれば、農機具や肥料等の生産資材価格の上昇が著しく、中でも経費に占める農機具費等の増加は経営を大きく圧迫している。
 私は、すでに配合飼料価格の引下げを求めてきたが、政府は円高・原料安をふまえ、輸入品または輸入原料に依存する生産資材の徹底した引下げを指導すべきではないか。
 特に、輸入リン鉱石、カリ等を原料とする化学肥料は為替差益が生じているが、政府はどのぐらいと試算しているのか。肥料メーカーや全農を指導して期中(七~六月)にも農家に還元させるべきと思うがどうか。
 また尿素の場合は、国内価格がトン当たり七万円であるのに、輸出価格は五万円と三割もの差がある。政府はこの実態をどう考えているのか。大手肥料メーカー等に対して国内価格の値下げを直ちに指導すべきではないか。

(4) 土地改良について

 農林水産省の「土地利用基盤整備基本調査」によると、北海道は排水不良田が七割を占め、グライ土、泥炭土等の、畑作裁培に不向きな水田が多い。そうした条件を無視した過度の転作がおしつけられ、経営を困難にした。
 食糧生産の土台である農地造成や土地改良等は、農民の意見を基本とし、国の責任において実施すべきものである。ところが、現在進行中の国営等の事業が「臨調」行革等によつて大幅に遅れ、その間に転作もすすんで、事実上、土地改良による利益が期待できない状況になつているにもかかわらず、事業のみがひとり歩きし国庫補助率がカットされ、地元負担が増大し、農家に堪えがたい重圧となつている。
 政府は、農家負担のともなわない、あるいは国庫補助率を引き上げて農家の堪えうる範囲の最小限の負担による水田汎用化などの基盤整備等をおこなうべきではないか。

(5) 税制上の弾力的運用について

 無理な規模拡大や設備投資で生じた農家負債整理のため、やむなく農地等の一部を売却して経営再建にとりくむ農家に対し、政府は、資力喪失の場合の譲渡所得の非課税について定める所得税法第九条第十号の適用ができるよう運用の改善をはかるべきだと考えるがどうか。

  右質問する。