質問主意書

第104回国会(常会)

質問主意書


質問第二六号

畜産物の価格安定等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和六十一年三月二十四日

藤原 房雄   


       参議院議長 木村 睦男 殿


   畜産物の価格安定等に関する質問主意書

 我が国の農業・食料政策を確立する上で、畜産・酪農の健全な発展を図ることが重要な意味を持つものであることは論を待たない。しかしながら、現下の畜産情勢には、各部門を通じ、全般的に厳しいものがある。
 すなわち、畜産の多くが生産調整を強いられているなかで、その需要は停滞ないし減少傾向を示しているが、またその一方では、海外からの輸入攻勢は衰えをみせていない。
 このような事態をこのまま放置すれば、我が国における酪農をはじめとする畜産は、縮小再生産の方向に向かわざるを得ない厳しい情況にある。
 従つて、こうした現状を踏まえ、我が国畜産の健全な発展を確保するため、昭和六十一年度における畜産物価格と政策のあり方に関し、以下の諸点につき政府の見解を質したい。

一 酪農について

 現在、乳製品の在庫量が増加し、酪農生産の圧迫材料となつている。このため、六十一年度の生乳計画生産目標は、史上はじめて前年度目標を下回り、減産計画を実施せざるを得ないという事態に遭遇している。
 しかしながら、その一方で、乳製品の輸入は、生乳換算で、加工原料乳限度数量(二百三十万トン)を大きく上回る二百六十四万トンとなつている。
 政府は、農政の基本として、国際化への対応から、足腰の強い農業の育成を緊要の課題としている。しかし、畜産物の多くは、大量輸入によつて国内需給に混乱を来し、国内の経営は圧迫されている。特に、輸入割当制度の下にある乳製品の輸入によつて、生乳需給が混乱し、長年にわたつて計画生産を余儀なくされてきた酪農についても、政府が、未だに過剰基調を前提に、計画生産を推進する必要性があるとの認識をもつていることに、疑念を抱かざるを得ない。

(一) 牛乳・乳製品の国内生産が事実上過剰といえるのか。また、国内生産可能なものは自給を原則とするとの政府の方針に照らして、今日の事態は問題がないのか。特に、偽装乳製品についての輸入抑制措置を一層強力に行い、国内需給の改善を図る必要はないのか。これらの点についての政府の認識と見解を明らかにされたい。
(二) 現下の酪農経営は、五十四年以降、自らの努力によつて長期にわたる生産抑制を実施してきたにもかかわらず、大幅な減産を強いられる事態に直面しており、今後一層、経営環境の悪化と生産意欲の低下が懸念されるところである。このような事態をどのように認識しているのか。また、このような環境の下で、足腰の強い経営の育成が早急に可能といえるのか、その展望と目標を明らかにされたい。
(三) 加工原料乳保証価格は、先の計画生産下においても、長期間にわたつて実質的に据え置かれてきた。その結果、将来の需要の伸びを期待して行われた設備投資が、多額の固定化負債となつて経営を圧迫している例も少なくない。このような現下の厳しい経営環境を克服し、酪農経営の安定を図るには、生乳生産量の三分の一を占める加工原料乳の保証価格を引き上げ、飲用乳を含めた乳価の適正化を実現するとともに、需要を拡大し、加工原料乳限度数量の拡大を実現すべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。
(四) 実質的に規模拡大が阻害されている酪農経営にあつては、負債が経営圧迫の大きな要因となつている。現行の経営負債整理資金制度は、六十年度を最終年度としているが、次年度以降においても負債整理対策を継続実施すべきではないか。
 今後の対応と現行制度の効果をどのように認識しているのか。また、債務超過農家の現状と対策についても明らかにされたい。
(五) 北海道の酪農にあつては、既に、いわゆるEC並み水準の経営を実現した農家も多いとされているが、この際、EC並みとされる根拠は何か。具体的な経営内容の比較において明らかにされたい。

二 肉用牛生産について

 牛肉の需給は比較的安定しており、その需要も他の食肉に比べて高い伸びを示している。しかし、近年その伸びも鈍化傾向を示しており、近い将来において、先の牛肉輸入枠拡大等が国内需給に与える影響も懸念されるところである。また、和子牛価格が五十七年から五十九年にかけて低迷したことから雌和牛の屠殺が急増し、その資源維持の問題も憂慮されるところである。

(一) 日米・日豪牛肉交渉において、牛肉の輸入総枠は六十二年度を目標に十七万七千トン(部分肉ベース)とされた。この数値は、六十五年を目標年度とする需給の長期見通しの上限数値を前提にした輸入枠拡大可能の限界とも思われる数値である。しかし、近年、牛肉需要の伸びに鈍化傾向がみられ、また、昨年秋以降の円高によてつ、肉牛の生体輸入が急増するなど、牛肉の需給が混乱しかねない情況にあると思われる。今後の需給事情によつては、輸入割当数量の削減もあり得るのか。また、肉牛の生体輸入が無制限に増加し、国内需給に混乱を来すような事態が生じた場合、どのような対応策をとるのか明らかにされたい。
(二) 近年の牛肉生産は、牛肉の輸入自由化問題に伴う子牛価格の低迷等によつて、雌和牛の屠殺頭数が大幅に増加し、肉用種雌牛の飼養頭数が減少している。また同時に、生乳の計画生産によつて、その淘汰が一巡し、国内牛肉資源の大宗を占めている乳用種にも、今後の大きな伸びは期待できず、将来の国内生産に不安を残している。
 我が国の国土資源を有効活用でき、数少ない生産拡大可能な産品とされる国内牛肉資源の維持を図る観点から、少なくとも肉用牛農家が生産意欲を持ち得る所得の確保を図る必要があると考えるが、以上の点についての政府の認識と見解を明らかにされたい。
 また、肉資源維持のための具体的な対応策についても明らかにされたい。

三 中小家畜生産について

 養豚、養鶏の事情も厳しく、養豚にあつては、豚肉の国内生産量が大幅に増加し、豚肉の卸売価格が安定基準価格を大幅に下回り、子取り用(繁殖)雌豚の淘汰や畜産振興事業団の助成による調整保管が実施されている。
 また、養鶏にあつては、四十九年以降生産調整が実施されている鶏卵は未だ需給と価格が不安定であり、鶏肉も輸入関税の引下げ等によつて一層の経営体質強化が必要となつている。

(一) 近年の豚肉生産は、飼料価格の値下がり等を反映し、大幅に増加している。また、その需要は伸び悩みの状態にあり、価格は異常な低落を見せている。このような中にあつて、豚肉の輸入は増加基調を示しており、生産者の努力による生産抑制や調整保管の効果も失われかねない。
 一方、鶏卵・鶏肉にあつても、国内需給は必ずしも安定的にあるとはいえず、輸入の増加が国内需給に混乱を与えることは明らかである。
 国内における豚肉・鶏肉等の需給事情を踏まえ、輸入抑制のための施策を実施すべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。
(二) 近年、養豚経営の環境悪化の下で、生産農家は、繁殖雌豚の調整を行うなど、価格安定のための努力を自ら行つているが、国の助成等によつて強力な調整保管を実施するとともに、生産者の努力に報いるため、再生産と所得の確保が可能となる安定価格の決定を行うべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。