質問主意書

第104回国会(常会)

質問主意書


質問第一六号

アイヌの民族的権利の保障等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和六十一年三月十二日

小笠原 貞子   


       参議院議長 木村 睦男 殿


   アイヌの民族的権利の保障等に関する質問主意書

 今日、北海道内に住むアイヌの数は数万人、道外には数千人といわれている。
 その多くは、明治以来の、民族的権利を無視した同化政策により、不当な差別を押しつけられ、生業は不安定で収入も低く、就職・結婚などで特別の困難を余儀なくされている。
 私は、今日まで、政府の責任でアイヌの民族的権利を保障し、一切の差別の一掃及び生活安定のための特別の対策をとるべきであると主張し、その立場から、いくつかの問題について質問してきた。
 わが党は、昨年の第十七回党大会においての綱領改正で「党は、わが国における少数民族というべきアイヌの生活と権利の保障、文化の保護などを要求してたたかう」ことを新たに明記した。
 これは、アイヌの生活と権利の保障を、政策上にとどまらず、わが国の民主主義的変革の重要な一環として綱領上でも位置づけたものであり、歴史的意義をもつものである。
 今回改めて、以下の点について質問するので、明確な答弁を求める。

一 「旧土人保護法」にかわる新しい法律の制定について

(1) アイヌに対する歴代政府の過酷な支配と抑圧について、深く反省し、アイヌを「旧土人」と蔑称する「旧土人保護法」を一日も早く廃止し、それにかわる新しい法律をつくることは、政府の当然の責任と思うがどうか。
(2) 次に政府は、一九八三年十一月十四日、私が「旧土人保護法」を廃止し、新しい法律をつくるべくその検討に着手すべきであると質問したのに対し、旧土人保護法の存廃については「北海道庁を始めとする地元関係者において検討が行われていることから、その結果等も尊重しつつ検討していくことが必要である」(内閣参質一〇〇第一八号)と答弁している。
 しかし、国の法律の存廃にかかわるこの問題について、政府のどの機関が責任をもつて“検討”するのか、また、地元関係者との間で、どのような意見交換が行われているのかを、それぞれ明らかにされたい。
 日本共産党は、かねてから、一日も早く政府部内に、アイヌ問題を総合的・民主的に検討する「審議会」を設置し、「旧土人保護法」にかわる「新法」について検討すべきであると主張してきたが、北海道ウタリ協会も「旧土人保護法」の廃止と新法制定を決議している。
 政府も当然、政府部内に「審議会」を設置し、検討に着手すべきであると思うが、どうか。

二 アイヌの民族的文化の保護について

(1) アイヌには、世界的叙事詩といわれるユーカラをはじめ、すぐれた独自の民族的・文化的伝統がある。
 ところが、それが歴史的に、政府によつて禁止・制限されたこともあつて、今日滅亡の危機にさらされている。
 政府は、昭和四十九年三月「(アイヌ)の文化遺産を一つ残さず保存することは、われわれ和人の重大な責任である」とのべている。
 また、昭和五十年の文化財保護法の改正案の審議の際、わが党の小巻敏雄参議院議員(当時)が、アイヌ文化の保存に触れ、「ユーカラなどは語録保存にとどめるばかりでなく、国が責任をもつてもつと積極的な保護策をとるべき」だと主張した結果、附帯決議として「民話、……及びアイヌの民俗文化の保護については、記録的保存にとどめることなく、特別の措置を講ずること。」の一項が加えられたのである。
 政府は、この国会の附帯決議を、当然誠意をもつて実行しなければならないと考えるが、どうか。
(2) ユーカラは、口頭伝承であるが、高度に練磨されたものであり、語れる人が極めて少ない事実をみた時、その保存のために特別の対策が必要である。現在、芸術的な伝統技法の保存のために行つている「人間国宝」に、早急に指定する措置を講ずべきであると思うがどうか。

三 アイヌについての正しい教育について

 学校教育等で、アイヌについての正しい歴史や誇れる民族的文化などが、正しく教えられなければならないことは当然である。
 しかし、高校の社会科教科書におけるアイヌに関する記述は、検定のたびに書き換えられ、ゆがめられた記述になつている。
 この点については、北海道ウタリ協会も昭和五十七年八月、文部大臣あてに抗議書を手渡しているほどである。
 このウタリ協会の抗議行動に関連して、北海道教育長は北海道議会で、「文部省や、教科書会社等において、今後適切に対処されることを期待している。」とのべている。
 政府は、このような道教育長の答弁等について、承知しているかどうか。また、これをただすために、どのような対策をとつているのか明らかにされたい。

四 当面する生活上の対策について

(1) 子弟教育の振興のため、当面、小・中学校における入学支度金の給付制度の創設が求められている。
 現在、北海道が独自に実施している、専修学校に対する入学支度金及び修学資金の給付制度を創設することについて、政府はどう考えるか。
 また、大学進学者に対する資金貸付けを「給付」に改善すると同時に、各種進学奨励資金の単価を現状にあうように改善することについて、政府はどう考えるか。
(2) アイヌの衣服、衣装、民芸具などの伝統工芸品類の製作に携わる技能者の養成を強化するため、現在実施している機動職業訓練制度の訓練期間を延長することについては、どうか。
(3) アイヌの圧倒的多数は、季節労働者である。したがつて北海道の冬期間における厳しい労働条件下で、生活苦に追いやられている現状をふまえ、雇用保険制度の九十日復活を実現することについては、どうか。

  右質問する。