質問主意書

第103回国会(臨時会)

質問主意書


質問第二二号

衆議院解散権の帰属に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和六十年十二月二十日

飯田 忠雄   


       参議院議長 木村 睦男 殿


   衆議院解散権の帰属に関する質問主意書

 衆議院解散権の帰属に関し、次の諸点について政府の見解を伺いたい。

一 主権者たる国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動するものであることは、憲法前文に明記されている。
 このことは、主権者たる日本国民の意志決定、権限行為は、国会によりなされることを示すのではないか。

二 憲法第七条は、国家の重大事項を十項目掲げ、これについては、日本国民統合の象徴である天皇が行うものとしているが、その実体的決定については、日本国民の代表である国会を通じて行うのが、国民主権制の根本原則であり、このことは、憲法の前文に明らかであるが、政府はどう考えているか。
 要するに、主権者たる日本国民に帰属する政治的重大事項は、主権者の代表である国会が決定し、主権者の象徴である天皇がこれを認証もしくは宣言、公布することとしたのが、憲法の根本法理であり、憲法に明記するところであると理解すべきではないか。

三 憲法第十五条は、公務員の選定、罷免は国民固有の権利であるとし、公務員の選定方法として選挙を規定している。
 選挙によらない選定方法については、憲法又は法律に基づいて行うべきものとしている。
 罷免についても、憲法の明文又は明記する法理に基づいて行うべきものである。
 国会議員の罷免は、憲法の明文の規定により又は主権者たる国民の代表である国会の議決によるべきものではないか。

四 衆議院の解散は、衆議院の組織を消滅させ、衆議院の組織者である衆議院議員全員を罷免することに該当する。
 衆議院議員は公務員であるから、その罷免が主権者たる国民の固有の権利であることは、憲法第十五条第一項の明記するところである。
 従つて、衆議院議員の罷免となる衆議院の解散は、主権者たる国民の代表者で組織する国会の議決を要することではないか。

五 憲法第七条の規定する「衆議院を解散すること」は、象徴天皇が主権者国民のために行う国事行為であるから、国会において衆議院解散の議決があつた後に、内閣の助言に基づいて行うものであることは、憲法第十五条および憲法の前文に明記するところからの法的帰結であるというべきであるが、政府の見解はどうか。

六 憲法第六十九条を曲解して、内閣に総辞職か衆議院の解散かの選択権があるという説をなすものがあるが、この条項は条文の文言からみて、そのような選択権について規定したものではないことは、憲法学者の指摘するところである。
 これについての政府の見解を問う。

七 憲法第七条にいう内閣の助言とは、国事行為についての助言であり、そのことから衆議院解散という重大な国政行為の決定を主権者の直接の代表である国会をさしおいて、内閣に付与したものと解することは法理論上も、憲法の前文からも、誤つた飛躍論法であつて違憲の疑いが濃いものである。
 かかる説を信奉して衆議院解散決定権が内閣にあるとすることは、権限逸脱も甚だしいものと思われるがどうか。

八 衆議院解散は内閣総理大臣の専管事項であるという憲法無視の俗説が、マスコミその他政治家の口から強弁せられており、ある政治家の中には、慣習法として成立していると思い違いをしている向きもある。
 憲法の根本原則に違反することは、憲法違反そのものであり、憲法第九十八条第一項により無効である。
 この点政府はどう解しているか。

  右質問する。